雷速少女のヒーローアカデミア   作:K鶏

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仮免試験の裏側を少々。


第51話 仮免試験(3)

―――Side:観客席

「お、イレイザー、アンタんとこの生徒が1人抜けたね」

「あぁ、上鳴か。意外に早いが、まぁ、妥当か」

 

 個性伸ばしの結果、通常なら視界が塞がれて突入をためらう状況でも、上鳴茉芭(まつは)にとってはさほど苦労がない。妥当と言えるので、イレイザーヘッドの声に驚きの色はない。

 

「うっわ、アレわざとかよ。何人か1個だけマーカー残してるね、ウケるー」

「逃げた緑谷への支援だろ。残り1となれば嫌でも慎重になって、突っ込んでいきにくい」

 

 入学当初なら自分の分だけ取ってさっさと合格を確保していただろう。自分の利益だけでなく、周辺への支援をしっかりこなしているのは確かな成長と言えた。

 残った生徒たちのうち、何人かは正直、実力的に不安がある。イレイザーヘッドとしては、そちらの支援も期待したかったが、流石にそこは望みすぎだろう。

 ともあれ、青山の思わぬ活躍もあり一次試験は無事全員が通過できた。

 

 二次試験に入り、救助訓練となるとイレイザーヘッドの心配は上鳴茉芭よりも爆豪に移る。

 何しろ、その言動がとにかく荒い。矯正は試みているが、「最低限の礼儀を見せる」や「機嫌を取る」という行為を「負け」と言う風に認識しているようなのだ。

 子供じみた負けん気をどうにかしないと、爆豪はここで脱落だろうと予想していた。

 

「ほぅ……いい判断だ」

「あー、あの暴れん坊。なんか怒鳴ってるけど、救助自体はやってんじゃん」

 

 これなら爆豪も受かるかと思った矢先にヴィランの襲来が発生する。

 

「ち、救助と並行してヴィランだと。仮免でそこまでやるのか」

「今年は異常に厳しいね。ったく、オールマイト不在だからってハードル上げすぎで笑えん。結婚しよう」

「しない」

「しないかー、ちぇー」

 

 Ms.(ミス)ジョークのボヤキももっともだと思う。狙いは象徴不在を補うためだとわかるが、それは現役トップヒーローに求められるもの。有精卵でしかない学生たちにいきなり求めるのは酷な話だ。

 そうは思っても試験は進む。

 轟が落ちたのは予想外だが、補習で免許取得の道が残された。ひとまず最低限の目標は達成できたと、一息ついたイレイザーヘッドだった。

 

 

―――Side:ギャングオルカ

 ナンバー10ヒーローにして「ヴィランっぽい見た目のヒーローランキング3位」のギャングオルカは不機嫌だった。

 

「まったく面倒な」

 

 個性の影響もあって乾燥に弱いのだが、こうしてまだ残暑が残る中での屋外待機は中々に堪えるものがある。

 

「社長、そうはいっても仕方ないじゃないですか」

「そうそう、広域探知持ちが居るんだから、こうしなきゃ後半試験の仕込みがばれちまう」

 

 屋外に設置されたターフの下で、優雅に飲み物を、という訳ではなく水を浴びているギャングオルカに、自らのサイドキックたちが窮屈な拘束用プロテクターに辟易しながら上司であるギャングオルカに苦言を呈している。

 

「その当人からは襲撃を予想する発言があったな」

「雄英の報告した探知距離の1.5倍取ってます。感知したというより単純な予想でしょう」

「あぁ、体育祭優勝者の1人に付近に留まるように言ってましたね」

 

 現場の様子を写すモニターと別に、爆豪勝己のプロフィールが表示される。

 

「爆豪勝己。個性”爆破”。性格は短絡的かつ戦闘的。ベストジーニストですら匙を投げたって噂の我の持ち主か」

「正直、ヴィランやってないのが不思議ですよ」

「イレイザーヘッドは擁護してたけどな。若いから仕方ない」

「まて、足から爆破など、情報に無かったな?」

 

 見れば足からの爆破を推力に、ビル屋上に取り残されてた要救助者を救出している。その言動で減点は食らっているものの、手の空いているヒーローに素早く預け、次へ向かう姿は若きヒーローらしい必死さも垣間見えた。

 

「なかなか、興味深い小僧だ。優先順位はちゃんと付けられるなら、受かるだろうさ」

 

 職場体験でギャングオルカが面倒を見た耳郎響香の方は、広域探索持ちの相方と無難に動いている。アレならば安心と内心で胸をなでおろしている。そんな心情はサイドキック連中には実はバレバレで、拘束用プロテクターの下でニヤニヤと上司の視線の動きを追っていたりする。

 話は終わりと、空になったペットボトルをテーブルに置き、新しいものを懐に忍ばせる。

 

「往くぞ。蹂躙せよ」

「「「はっ!」」」

 

 そして爆豪がギリギリのところで合格したのは、ギャングオルカが見たがった、爆豪が戦闘における優先順位をしっかり守れたが故のことだった。

 逆にまさか突っかかってくると思わなかった耳郎響香と上鳴茉芭については、万が一にも調子に乗らせまいと、キツメの説教をする羽目になった。

 その陰で微妙に落ち込む羽目になるのだけども。

 

「……むぅ、言い過ぎただろうか。しかしイヤホン=ジャックはまだ稚魚。相方のブルーアンバー共々、稚魚にしては上々の練度とは言え、甘やかしてはいかんな、うん」

 

 実際のところ、躊躇なく最大の攻撃をしてきたことは褒めてよいと思っていた。

 練度についてもまだまだ改良の余地は多い物の、並のヴィランになら通じるだろう水準だった。しかし、大魚へと成長してもらうには、小魚で満足されてはいけないと、アレで正しいと言い聞かせている。

 

「シャチョー、もうちょっと素直にデレましょうよぉ、そんなんだからショー以外で子供に泣かれんすよ」

「補講の講師依頼、受けときました。冬まで忙しいっスよ、シャチョー」

 

 余計なことを言った上に、インターン生を受け入れる余裕を奪ったサイドキック達は見事に宙を舞うことになった。

 

 

―――Side:夜嵐イナサ

 夜嵐イナサはヒーローに憧れ、国内最高峰の養成校である雄英に強い憧れを持っていた。

 同時に、大嫌いなものがあった。暖かさのかけらもない冷たい目を持つヒーロー、エンデヴァー。幼い日にサインを求め、邪険にあしらわれた結果、憧れがそのまま反転した嫌悪感。

 ああなりたくないと、エンデヴァーの息子である轟焦凍を見て、雄英を辞退して士傑を選んだ。だが、その判断を今は後悔していた。

 

「俺は……何を!」

 

 ギャングオルカの超音波攻撃とセメント弾に固められ、なすすべなく堕ちた。落下の衝撃もあり体が動かない。それでも言葉は届く。

 「何をやっている」「邪魔をするな」当然のことだ。嫌いな相手だからと、ヴィランへの攻撃を邪魔するようなことをした。

 

「敵は誰だよ!轟焦凍!夜嵐イナサ!!」

 

 何よりも心を揺さぶられたのは、あの雄英体育祭、大嫌いなエンデヴァーの息子をも揺り動かした熱い声。エンデヴァーは今も好きになれない。そっくりな目をした息子も嫌いだ。

 だが、二人ともヒーローで、自分も今はそのヒーローの一人で、嫌いであっても敵ではない。

 おそらく今の自分はステインが言う偽物、その中でも最も醜悪な部類だったのだろうと理解する。

 

 

 ただ、最後に取り繕ったところで時すでに遅く、二次試験不合格の結果が突き付けられた。

 轟には誠心誠意謝った。反応を見る限り、そう悪い奴と思えない。好きになれるかどうかは別だとも考えているが。

 ともあれ、最低限の筋は通した。そう思ったところで、雄英でもう一人、ぜひ話をしておきたい人を見つけた。

 

「あの、上鳴さん、合格、おめでとうッス」

「夜嵐君、ありがとう。その、追試、頑張って」

「はい!頑張ります!……それで、その、一つ、教えてほしいんスが」

 

 取られようによっては試しているようにも思われる。そんな風に思われたくないという心が自然と彼を饒舌にしていた。

 

「ええっとスね、あの熱い言葉、感激したっス。俺は自分の嫌いをそのまま敵と思って、とんでもない間違いをしていました……それで、失礼にもほどがあるんですが、聞きたいことがあって。上鳴さん、ものすごい嫌いなヒーローとか居ます?いたら、そんな奴と一緒に戦えます?」

 

 その問いにちょっと考えた様子を見せるが、苦笑と共に答えてはくれた。

 

「現役ヒーローじゃないけど、峰田(アレ)は正直、死んでほしいかなー。私自身はアレのストライクゾーンの外だから安心だけど、いつもスケベなことばかり考えて視線も言動も全部エロばっかの下衆だし。信じられる?合宿で個性まで使って覗きしようとしたんだよ。ほとんどヴィランと変わらないじゃん」

 

「そ、そっスか」

 思っていた以上に辛辣な発言に思わずたじろぐ。言われた当事者は落ちた轟に免許を自慢げに見せている。いい気味だ、もっとやれとも思ってしまった。

 

「ただ、それでもヒーローになろうって意思は本物で、困ったことに能力はあるんだよねぇ、正直、何度も助かってるし、今日も助けられた。嫌いだけど、いなくなったら困るぐらいには大事な仲間かな。嫌いだけど」

 

「二度言ったッス!」

 

 そう困ったように笑う笑みは、何とも言えず美しいと、不意に心臓が高鳴るのを感じた。

 そして言わなきゃいいことまで口に出してしまうのが、夜嵐イナサの悪い癖だ。

 

「じゃ、じゃあ、あのエンデヴァーの息子、も……?」

「あー、轟君かぁ、いつも冷静だし強いし頼りになるよ。その割に熱くなるところもあるし、ちょっと抜けてたりするところもあるけど。できれば、その『エンデヴァーの息子』っていう色眼鏡無しで見てあげてほしいかな」

 

 などと言ってやわらかく笑う。その視線は自然と轟の方に向いており、その表情を見るだけで本人が実際にどう思っているかはともかく、少なからず想いがあることを察してしまった。

 だからこそ、帰り際に彼は轟に言葉を投げかける事が出来た。

 

「轟!講習で会おうな!で、やっぱり俺は好かん!そんでもって負けんし渡さん!先に謝っとく!ごめん!」

 

 少なくとも、”エンデヴァーの息子”とは二度と呼ぶまいと決意する。本人を見て、それをしっかり超える。話はそれからだ。

 そしてそのまま去るつもりだったのだが、もう一つだけ、とても大事な用事を思い出していた。

 

「上鳴さん!ID交換してください!!」

 

 幸い、断られずに済んだ。

 

 

―――Side:目良善見

「あぁ、やっと終わった、やっと眠れる……」

「いえ、目良さん。これから報告会議が」

「代わりに出ておいてください。いいじゃないですか。特別育成対象のうち2名が追試になったけど、他は受かった。十分でしょう?」

「いやいや、一応は責任者なんですから、上への報告はやってくださいよ」

 

 部下に文字通り引きずられて、競技場内に用意された会議室へ。移動中の数分だけ眠っていた。当然だが寝足りない目良としては、さっさとつまらない会議を終わらせたかった。

 

『多古場会場の特別育成対象は4名合格、2名追試。とりあえず最低ノルマは通ったか』

『しかしエンデヴァーのご子息が追試と言うのは……スペックは高くとも精神的に未熟と言う事か』

『良くも悪くも親子だ。悪いところも似ているのだろう』

 

 士傑の夜嵐イナサ、雄英の轟焦凍は次世代のトップヒーローとして今回の仮免試験における期待の星だった。当然、なんとしてでも受かってほしい相手で、一次試験こそ余裕で突破したが、二次試験は精神的な未熟さが出た格好だった。

 

『まぁ、それは想定のうちでしょう?1年なんだし。むしろ爆豪君が受かったことが意外ですよ』

 

「態度の悪さで大幅減点を受けてますがぁ、ヴィランの襲来を予想したクラスメイト……あぁ、彼女も特別枠の1人でしたね。その発言を受け入れ、誰よりも早く防衛行動。ギャングオルカに突撃でもしようものなら問答無用で失格でしたが、ヴィラン役の足止めをしっかりこなした。彼については十分でしょう。人気は出なそうですけど」

 

 評価レポートに軽く目を通しながらの目良の発言に、モニターの先に居るお偉方は苦笑を浮かべていた。

 

『エンデヴァーガチ勢にはウケるだろうさ』

『ははは、確かに。戦闘力の面では、オールマイトが目をかけているとか言う緑谷君が素晴らしかったね』

『成長著しいとの報告はあったが、こうして映像を見ると体育祭とはまるで別人だな』

「ええ、まぁ、まだ経験不足による粗は目立ちますが、彼はこのままでよいでしょう。なにせ仮免前にマスキュラーを単独撃破できているわけですし」

 

 林間合宿の襲撃事件において、マスキュラー逮捕の詳細は一般には報道されていない。ただ雄英もプッシーキャッツも虚偽を報告するわけにいかないため、公安上層部は正確な情報を掴んでいる。

 

『残る2名、八百万家のご令嬢は無理をしなければそれでいいとして……』

 

『厚労省が嘴を突っ込んできた、この上鳴茉芭と言うのは、本当にそこまでの価値はあるのかね?体育祭の映像も見たし、その後の報告も目を通した。サポート要員としては優秀だが、ひいき目に見ても八百万家のお嬢さんの護衛が精々だろうに』

 

 上が知らないモノを現場が知るはずがないだろうと思うが、目良はそんなことをわざわざ言葉にしない。何より眠いのでそんな気力がない。

 

『あちらさんも念のため程度らしい。ホワイトマウスの論文、アレの協力者らしいからぜひ最短で免許を取らせて、自分たちの方に来て欲しいという話だ。万が一の備えをしただけで連中に貸しを作れた。悪い話じゃない』

 

『希少な医療系ヒーローをこちらの都合で動かしやすくなるのはありがたいね』

 

「まー、その備え自体は特別枠だった夜嵐君がやりすぎて全員落としたので、彼らの合格は間違いなく実力なのが救いですねぇ」

 

 受験者数1540名。実際のところ、会場に居た受験者はそれより多い。

 

 どうしても合格させておきたい者、本人の背景に対する忖度で合格してほしい人物、と言うのは一定数存在する。彼らのために、合格が厳しい状況なら本人に気付かれない程度に交戦して合格させる、所謂サクラが用意されていた。

 そもそも実力で落ちるようなら所詮はその程度の人材でしかないのだが、それで済まないのが大人の世界である。

 

 幸いと言えるのは、仕込みが台無しになっても自力で合格できる人材がそろっていたことだろう。

 今回の試験で対象になっていたのは夜嵐イナサ、轟焦凍、爆豪勝己、緑谷出久、八百万百、上鳴茉芭の6名だった。

 

 夜嵐、轟は純粋に戦闘能力の評価、もちろん、轟はエンデヴァーの息子と言うブランド価値がある。

 爆豪も同様だがその精神面が危険視されていて、仮にここで挫折したらどう転ぶかわからないという風に見られていた。ヒーローへの強い憧れは間違いないので、さっさとヒーローと言う檻に放り込んでしまえと言う扱いだった。

 緑谷については、マスキュラー単独撃破と言う実績と、オールマイトが目をかけているという情報が上がっており、それを受けての扱いだ。事実、その実力は高く評価されている。

 

 八百万は実力は一定の評価はあるが、実家への配慮が大きかった。公安上層部の本音としては、その個性が悪用されないため、自衛のための資格取得と言う意味では後押しはしても、それ以上の期待はしていない。彼女が拉致、洗脳でもされて違法薬物を製造するマシーンになる、そんな未来を避けられれば後は自由にしてくれて構わない、と思っていた。

 

 最後の上鳴は、ホワイトマウスが初代インゲニウム・飯田天晴の下半身不随を治療した際のデータを論文として発表したことによる余波だ。彼のチームはもちろん、アクスレピオス事務所に透視系や個性の発現を観測できるような個性持ちはいない。

 治療に前後する時期に職場体験でチームに加わっていた上鳴に、青田買い的に厚労省が手を出してきたという状況だ。

 脳筋が幅を利かすヒーロー業界で、医療の道に進むヒーローと言うのは希少なので、ダメ元で囲い込みたいのだろう。

 

「まぁ~、ともあれ、無事試験は終了。終わりでいいですよね?では、私は寝ます。おやすみなさ~~い、zzzzzz」

『『『…………』』』

『やれやれ。帰って布団で寝ればいいものを。仕事熱心なのは感心だがね』

 

 お偉方の呆れの声を最後に、すべての通話が切られ、そのまま薄暗い会議室に目良一人残された。




裏側と言うか観戦側のイレイザーとジョークの会話で1話書こうと思ったら、改変部分だけでは2人の掛け合いで書けることが少なく、泥縄式に視点を変えて書く羽目になりました。
ギャングオルカはともかく、夜嵐はちょっとやりすぎたかも。まぁ、逆ハー展開を含め、このルートはありませんと断言しておきます。

最後の公安側の話ですが、当然、特別枠とかサクラの仕込みは捏造です。
ただ、あってもおかしくはないという程度で捏造しましたw
自分が公安側なら、八百万は何を差し置いてもヒーローとして管理しやすい環境に置きたいです。個性を悪用させたらトゥワイス並みかそれ以上に世の中に混乱を起こせます。
A組メンバーの中ではぶっちぎりで野放しにするには危険な存在だと思ってます。

それならなおさら実力で通せ、と言う意見もあると思います。ただ、ヒーローという枠組みに組み込んでしまったほうが管理しやすいという腹黒い思惑があるものとしています。
一番怖いのは「半端に実力のあるオンリーワンな個性持ちが、ドロップアウトして闇に消える」ことなので。具体例はそれこそヴィラン連合。
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