午前中の座学が終わり、午後はヒーロー基礎学。
いよいよ本格的にヒーローへの第一歩を進むとあって、クラスメートの雰囲気はどこか浮ついている。
まぁ、こればかりは仕方がない。
「わーたーしーがーー!普通にドアから来たぁー!」
オールマイトが先生として登場したことに皆の表情に喜びが混ざる。
ナンバー1ヒーローの教えを受けるのだ。当然だろう。私だって嬉しい。
ただ実は結構緊張しているのではないだろうか、教壇に向かう足取りがぎこちなかった。
「私の担当はヒーロー基礎学。ヒーローの素地を作るために様々な訓練を行う科目だ。単位数も最も多いぞ。そして今日はこれ!」
そしてその大きな手には『BATTLE』の文字が書かれたカード。
「戦闘訓練!」
「戦闘!?」
何やらものすごく嬉しそうな爆豪君。戦闘狂なんだなぁ、きっと。
「そしてこれ!入学時に提出してもらった個性届と要望を受けてあしらったコスチューム!着替えたら順次、グラウンドβに集まるんだ!」
「「「「はーーい!」」」
まるで子供のように声が揃ったが、やっぱり楽しみなのだから許してほしいです。
更衣室での着替えこそ大急ぎとなったけど、グラウンドβまでの移動は合流した男子を含めたコスチューム品評会のようだった。
「八百万さんのコスチュームはずいぶん大胆だけど、いいの?」
「これでも布面積は要望よりも増えているんです」
あー、一部お色気系ヒーローがどうとかあったなぁ
具体的にはミッドナイトとか、ミッドナイトとか。
「麗日さんのコスチュームは格好いいね。宇宙服みたい」
「そ、そうなんやけど、もっとしっかり要望を書くんやった……」
「あら、ヒーローは人気も重要ですわよ?」
「えっと……葉隠さんの、コスチュームって、もしかして……」
「そ、これだけー」
グローブとブーツだけって、個性を活かすという意味では分かるが、女としてどうなのだろう。見えないからいいと考えている?規制は?でも学校側は合法と思ってるんだよねぇ、コレ。
何にしても、将来がいろんな意味で心配だなぁ
「
「ズボンとジャケットってところは同じだね」
「うん。偶然って怖いね」
ズボンに皮系素材のジャケットと言う点は共有している。
もっとも違いは色々とある。
響香のはどちらかと言えばロックシンガー風にまとめたスタイルでジャケットの下はTシャツ風のものになっている。
私のは全体的には麗日さんのと響香の中間ぐらいかな?
下から鉄板入りの編み上げブーツ。
蹴りも使うつもりだから脛あて入りのズボンを指定していたのだけど、デザイナーの趣味が入ったらしくローライズになっている。
憎たらしいことに、ぴったりフィットしてるのに動きを阻害せず、しかも膝までしっかりガードが入っているのに足のラインが変わっていないって、技術が無駄にすごすぎる。
上は防刃性のあるシャツと指定したら、何故かぴっちりレオタードに脳内変換されたらしい。ローライズで動き回ると見えるから、その防止と言うのは判るけど。
そのうえ、ローライズとレオタードの組み合わせだから腰回りだけ肌が出ている。
『
とか、わざわざ手書きで取説に書きこんでるあたり、喧嘩売っているのかな?とか思う。
ホント、サポート会社ってHENTAIしかいないんじゃないだろうか?
上腕部には静電気や周辺の電子を集めるコンデンサの役割を果たす特殊素材のバンド。
さらに数か所に同様の素材を埋め込んだ、防刃、防弾性を求めた合皮のジャケット。
重さで負担にならない程度に静電気集めの特殊素材も編み込まれている。
ジャケットを脱ぐとノースリーブなので、冬仕様は後日申請しよう。静電気は私の友達だ。
ズボンの太もものポケットと腰のガンベルトにはバッテリーをストック。
こういうものが必要な時点で、自前で大電流を持ち歩ける電気との差を感じてしまう。
それと両手には殴る前提での保護剤入りグローブ。
拳を握りこめば表面は固くなるので、殴られたほうはただで済まないと思う。
それと目を保護するためのバイザー。
通信機能や網膜投影のあるヘッドギアがあればなおベターだったんだけど、予算の都合か技術的な問題か、『そこまでは学生には過剰性能ってことでストップかかりました』と。
楽はさせないという、雄英教師陣の悪意を感じる結果になったよ、うん。
「うん、でもジャケットという以外では、結構違う気がしてきた」
「うんうん、どっちも格好いいよ!」
さっきまで恥ずかしがってた麗日さんはやっと開き直ったらしい。
デザインでも蛙っぽさがにじみ出る梅雨ちゃんとか、ギャルっぽいレオタードをベースに健康的なお色気がまぶしい三奈ちゃんとか、まさに十人十色。
色々話していると、着替えが終わった男子が合流してきた。
趣味に走りまくってる騎士風コスチュームの青山君に、同じく全身装甲だがこちらはSFっぽい印象の飯田君。上半身がほぼ裸の切島君は葉隠さん並みに冬がきつそう。肌を露出しても平気ってことは、肉体変化でもするかな?
まぁ、それはこの後判るか。
「よぉ、マッハ。ずいぶんピンポイントで攻めたじゃん、似合うけど」
「デザイナーが勝手に変えてきたの!そっちは?」
「おう。注文通り。割とイケてね?」
「そーね。ちょっとチャラいけど、似合ってるね」
電気のコスチュームは本人の趣味もあって、動きやすいジャージをベースデザインにある程度の防刃性を持たせたシンプルなものだ。雷のラインは本人の希望。
そのまま普通に街に溶け込めるね。ちょっとチャラいけど。
通信用のヘッドフォンは電源自前だからなのか、「電波を電気に変換して個性で充電する」名目が通ったのか私と違ってしっかり実装されている。ちくせう。
「戦闘訓練、張り切りすぎて
「散々、マッハに蹴っ飛ばされたんだぜ。大丈夫だよ」
兄妹の掛け合いに興味を持ったか、響香が話に入ってきた。
「何?何?どゆこと?」
「電気ねー、高電圧の範囲攻撃が得意なんだけど、放出しすぎると一時的にアホになるのよねー」
「何それ!?」
「まぁ、強い能力には多少のデメリットがあるってこと」
欠点はあれど、個性「帯電」は羨ましいくらいの可能性を持っている。それこそ、私みたいにコスチュームに小細工しないでも一流のヒーローに成りえる、まさに強個性と呼べる素養を持っている。
コイツ一人でも大規模災害の場に送り込めば、どれだけの電気機器、医療機器が使えるか。多数のヴィランをその大電力で一気に無力化させることも自在にできる。
ないものねだり、ただの妬みとわかっていても、世の中は理不尽だと思わなくもない。
「お互い無いものねだりだよな。俺はマッハみたいな繊細な制御はできないし、応用だって全然だ。正直、頭だってそんな良くない。
お互い、持ってるもんしっかり使いこなして、格好いいヒーローになろうぜ」
同い年のくせに、こんな時ばかりは妙に年上ぶった態度をとる。
甘えとわかっていても、頭を撫でる手を撥ね退ける気にならなかった。
「……うん、そうだね」
「仲いいなぁ、ウチ、兄妹いないから羨ましいかも」
「それこそない物ねだりだよー。居たらきっと、一人っ子がうらやましくなるよー」
さて、グラウンドβが見えてきた。
気分を切り替えよう。
「恰好から入るってのも悪くないだろう?さぁ、自覚するんだ!今日から自分はヒーローなんだと!!」
グランドβで待ち構えていたオールマイト先生。
皆のコスチューム姿を見渡し、満足そうにうなづく。
「イイじゃないか。皆、格好いいぜ!さあ、始めようか。有精卵ども!!」
細かい説明はカンペ頼りだけど、変に暗記するより間違いがない。
2対2、一方のチームがヴィラン役として核兵器想定の張りぼてとともに立てこもる。
ヒーローはヴィランを制圧するか、核兵器の回収が目的。
即席チームアップと双方の
最初の1戦は麗日さん&緑谷君コンビがヒーロー役、爆豪君&飯田君がヴィラン役。
順番待ちのメンバーはモニタールームで見学。
役割がどちらかわからないと、打ち合わせしても難しいかな。
とりあえず目の前の対戦に意識を戻すと、爆豪君が突入したヒーロー、緑谷君に奇襲を仕掛けるところだった。
「いきなり奇襲かよ!」
「おいおい、これじゃ実戦だぜ」
ヴィラン役としての
少なくともターゲットは緑谷君だけで麗日さんには意識が向いてないようだから、隙を見て先行させるか、可能なら麗日さんと連携してここで1人を落としたいところ。
ヒーロー側は結局、分離策をとったらしい。
あの2人、昨日の様子から見ても入学前からの因縁があるみたいね。
内申にそういうのは……書くはずもないか。
どちらも格闘戦については専門のトレーニングをしている様子はないけど、センスの塊みたいな爆豪君に対して観察力で食らいつく感じか。
「確保テープの使い方が上手い」
ただやはりそれだけでは届かないとみて、最終的には逃走。
ヴィラン1人を実質拘束しているし、相打ちと思えば状況はわるくない。
後は麗日さんが飯田君に対抗できるか。
核兵器を発見するまではよかった。
ただそこで飯田君の奇行……もとい、ヴィランとしての態度に吹いた麗日さんが発見されて状況は膠着状態。
武器になる瓦礫もない状況というのは圧倒的に不利だ。
「いかん!ストップだ!爆豪少年!殺す気か!!」
爆豪vs緑谷から意識を外していた間に、爆豪君がコスチュームのギミックを使用。
大規模な爆破がビル内部の内壁ごと緑谷君を吹き飛ばしたらしい。
それにしてもビルの壁を鉄筋含めて吹き飛ばしている。プロヒーローでも単独でこれだけの火力を出せるのは珍しいのではないだろうか。
「爆豪少年。次にそれを撃ったら強制終了で君らの負けとする。屋内戦で大規模な攻撃は守るべき牙城の損壊を招く。ヒーローとしてはもちろん、ヴィランとしても愚策だ、それは」
大幅減点の追い打ちをもらってどうするかと思ったら、次の選択は爆破を使っての突進。
接触寸前に爆破でブレーキと方向転換を同時に処理し、緑谷君を飛び越えると、反転し背中から爆破。
「見かけによらず器用だな。考えるタイプには見えねーが」
「左右の爆破力の繊細な調整が必要でしょうね」
「才能マンだ、才能マン。あぁ、やだやだ」
確かにすごい。
細かい爆発を繰り返し、その場で旋回しつつ緑谷君を投げ飛ばす。
そして電気。爆豪君を才能マンというけど、あんたも相当なんだけどね?
個性の制御もさることながら、その握力。
どれだけの努力があってのことか。
「リンチだよこれ!」
「緑谷もすげえけど、爆豪は格闘に関してはセンスの塊だぜ」
あぁ、もう。情けないというより、何を見ているんだとイライラしてきた。
「センスだけであそこまで出来ない。連続爆破をアレだけスムーズな推力に変える繊細かつ緻密な制御。禁止されたけどあの強力な爆破の反動に耐える強靭な肉体。片手で緑谷君、人を投げ飛ばせる握力と腕力。並大抵の努力ではああはできない。
センスは確かにあるけど、ここまで磨き上げた努力のほうが怖いわ」
爆豪君に対して白旗を上げそうな電気には、追い打ちかもしれないけど。
「ま、人格は褒められないけど。なまじハイスペックすぎて、周りも増長を止められなかったみたいだし」
付け加えると、何故かオールマイト先生までがうんうんと頷いていた。
雄英ヒーロー科に一般受験枠主席入学。努力を怠らず、誰もが認める成果を出しているのに余裕がなさすぎる。緑谷君の何を恐れ、怯えているんだろうか。
「おい、緑谷が逃げてるぞ。漢じゃねぇ、って言いたいが仕方ねぇか」
違う。アレは立ち位置を変えたんだ。
「いや、違うと思う……」
「おん?どった?マッハ」
「アレは逃げたんじゃないと思う」
最後のぶつかり合い、お互いストレートに個性を乗せての真っ向勝負かと思ったら、直前で緑谷君はアッパーに変えて、風圧でフロアの天井をまとめて吹き飛ばした。
「なんて出鱈目なパワー」
そしてその超パワーで壊された柱と瓦礫を武器に、麗日さんが核兵器を確保。
残り1秒でヒーローチームが勝利を収めた。
戦闘訓練回です。
こうして書いてみると、爆豪ってかなりの努力を積んでいるんですよね。
努力する天才とか、普通に主人公でしょ、この子。
ただ初期の彼は余裕のなさが玉に瑕ですが。
そしてオリ主のコスチューム。
描写で分かる人はいると思いますが、イメージとしては攻殻機動隊の草薙素子です。かといって電脳ダイブはしない……はずw