雷速少女のヒーローアカデミア   作:K鶏

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第60話 反吐が出る話

 消滅したマウスに黙祷をささげる。

 しかし、探求心というのは無情なもので、私の個性で与えた命令によってそうなったのかを検証するということで、ドラギッツ先生の血液を同様の状態にして別のマウスに投与することになった。

 

 結果は何も起きず。これはエリという少女の個性による現象と確定した。巻き戻す個性、何とも強力で恐ろしい。

 

 正しく使えば、どんな瀕死の人間でも救える凄い個性だけど、個性を壊すため、なんて使われ方は哀しすぎる。

 

 その後は薬剤をいくつか分けて、さらに数度、いくつかの命令をセット。

 

 後はそれらの「動作確認」と組み合わせで効果の調整を試すとのことで、私はいったん、休憩となった。正直、助かった。初めてのことと心理的な負担もセットで頭痛と吐き気がひどいので、実験区画から出て最初にしたのはトイレに駆け込むことだった。

 数時間ほど仮眠を取らせてもらい、お腹が大きくなっているドールマウスさんに起こされた。

 

「ふぁ、お久ぶり……です……それと、おめでとうございます」

「うふふ、ありがとう。顔を洗ってきなさい。ちょっとやってもらう事が出来たわ」

 

 また面倒事かと思ったが、その予想はとても正しかった。

 新しい素材を前にヒートアップしまくってるお二人に代わり、サー・ナイトアイ事務所で行われる会議に出向いてほしいとのこと。

 いや、あの、アクスレピオスのサイドキックに採用された覚えはないんですけど?

 

「はい、委任状。それと雄英にはもちろん報告をしておくから」

「その受け方はちょっと拙いんで、こちらからもイレイザーヘッドに連絡します」

 

 時計を見ればまだ6時。今から戻れば授業に間に合うんだけども……無理か。イレイザーヘッドはすでに起きていた。

 

「おう、おはよう。業務終了で戻れそうか?」

 

「おはようございます。それが、ナイトアイ事務所への報告代行を依頼されまして。とりあえず保留していますが。それと、別途、直接報告したいことが」

 

「……わかった。勝手に受けなかったのは上出来だ。今日は公欠にしておく。現地には俺も行くからそこで聞く」

「わかりました」

 

 簡潔な指示だが、時間の手間を省くつもりだろう。正直、あまり休みが増えるのは嬉しくないんだけど、まぁ、仕方ない。

 

 仕事ということで、学校からコスチュームで来ている。

 目覚ましを兼ねてシャワーを借りてから、タクシーに揺られる羽目になった。移動中に食べられる簡単な食事の差し入れがあるのはありがたかったけど。

 

 打ち合わせ会場につくと、そこには既に多くのヒーローたちの姿と、見慣れた数人の姿も。

 

「サー・ナイトアイ。先日はどうも。本日はアクスレピオスの代理として参りました」

「ブルーアンバー?確かあそこはサイドキックに高校生は受け付けないはずだが」

「学校経由で協力要請を受けました。今現在、手が離せないと代理を押し付けられまして」

 

 委任状を渡すと、流石に少々困った顔になる。

 

「……仕方ないか。出席を認めよう」

「ありがとうございます」

 

 サーの了解を得てそのまま会議室の末席、イレイザーヘッドの隣に座る。緑谷君やお茶子ちゃん、梅雨ちゃん、切島君が私を見て驚いていた。

 ……インターン組が全員いるね。偶然にしてもすごい。

 イレイザーヘッドを挟んでグラントリノさんがいて、少し驚かれたが、何かを話す前に会議が始まってしまった。

 

「さて、時間になりましたので始めます。まず、あなた方に提供いただいた情報で、調査が大きく進みましたこと、感謝します。

 死穢八斎會という小さな組織が何を考えているのか、知り得た情報の共有と共に、協議を進めさせていただきます」

 

 大きな会議室にテーブルが出されて、サー・ナイトアイの挨拶からバブルガールさんの議事進行で会議が始まった。

 

「えー、はじめさせて、いただきます。我々ナイトアイ事務所は、2週間ほど前から死穢八斎會と言う指定ヴィラン団体について独自の調査を行っております」

 

 ちょっと緊張気味だけど、市内で起きた強盗事件、死傷者無し、奪われたお金は忽然と消え、犯人たちは傷ひとつなく、むしろ健康になったと供述するようなありさまで逮捕。そこから死穢八斎會、若頭治崎の関与を疑って調査を進めたらしい。

 

「そして調査開始後、ヴィラン連合の一人、分倍河原仁、ヴィラン名トゥワイスと接触。尾行を警戒されて追跡は叶いませんでしたが警察の協力により、組織間で何らかの衝突があったことを確認しております」

「ヴィラン連合に関わってくるってんで、俺や塚内にも話がかかってな」

「その塚内氏はどちらに?」

「塚内は今、他の目撃証言があって、ここにはいない」

 

 グラントリノさんが発言とともに緑谷君を見る。

 

「小僧、まさかこうなるとはな。面倒なことに引き入れちまったな」

「いえ。面倒なんて思っていません」

 

 多分、エリと言う少女の事だろう。緑谷君の表情に険しさがある。

 話が途切れたところで、サー・ナイトアイが続きを促す。

 

「続けて」

「えーっ、このような経緯があり、HNで皆さんに協力を求めたわけでして」

「そこ、飛ばしていいよ」

「うん」

 

 ムカデ頭のサイドキック、センチピーダーさんがバブルガールさんに注意を促すと、聞きなれない単語にお茶子ちゃんが疑問を浮かべ、それを波動先輩がフォローするとほとんど雑談になってしまう。

 

「雄英生とは言え、ガキがこの場にいるのはどうなんだ。話が進まねぇ」

「ぬかせ!この二人はスーパー重要参考人やぞ!」

「俺、たち?」

「……重圧が辛い」

 

 褐色の男性ヒーローが苦言を呈するのを、ファットガムさんが突っ込みを入れる。

 とはいえ、切島君は状況が分かっておらず、天喰(あまじき)先輩は……今日も蚤の心臓っぷりは健在だからよくわからない。

 

「死穢八斎會は違法な薬物をシノギにしていた可能性が高い。そこでその道に詳しいヒーローに協力を仰ぎました」

 

「お初の方もいますので、念のため。ファットガムいいます。昔はそういうの、ゴリゴリに潰してましたわ。そんで先日の烈怒頼雄斗(レッドライオット)デビュー戦!今まで見たことないモンが、(たまき)、サンイーターに撃ち込まれた。それが個性を壊す薬!」

 

 その言葉に衝撃が走る。さすがに今の超人社会では無視できない存在だろう。

 

「ええっ!環!大丈夫なんだろ?」

「あぁ、一晩寝たら直った。見てくれ、この立派な蹄」

「朝食は牛丼かな?」

 

 確かに牛の蹄らしい。天喰先輩の個性は初めて見たけれど、食べた物を体に再現する個性なのか。使いこなせば強いけど、食事にいろいろ気を遣う個性で大変そうだ。

 

「回復するなら安心だな。致命傷にはならねぇ」

「いえ、その辺りは解析を依頼したアクスレピオスの代理人、ブルーアンバーから」

 

 呼ばれたら仕方ない。データを入れたタブレットとプロジェクターをリンクさせてスクリーンの前に立つ。

 

「ご紹介にあずかりましたブルーアンバーです。アクスレピオスの正式所属ではなく、雄英高校所属の仮免保持者です。今回、該当薬物の解析に協力をさせていただくのと合わせ、解析結果についての代行依頼を受けました」

 

「またガキかよ。アクスレピオスまで何考えてるんだ」

 

 正直なところ同感です。寝不足でタガが外れた研究者に新しい材料(オモチャ)を与えてはいけないですね。

 

「解析に全力を注ぎたいとのことです。まず、薬物の入手に関してドラギッツおよびホワイトマウスより、ファットガム氏および烈怒頼雄斗への感謝の言葉がありました。またサンイーターについては以降の個性行使に違和感を感じたら連絡が欲しいとの言伝です」

 

 本音としては連絡しない方がいいとは思うけど。だって「モルモットになって」って言ってるわけだし。

 

「おう!お嬢ちゃん、ありがとな。アメ喰うか?」

 

「頂きます。えー、今回の薬物ですが、粗悪な試作品、あるいは試供品としてあえて薬効を押さえた物だと思われます。内容物についてですが、抗凝固薬と糖分が主成分で、他は人の血液成分や細胞組織の断片が確認されています」

 

 マスク等で表情がわからない人も多いけど、大体の人が顔色が悪い。仕方ないことだけど。私だって自分で口にするのも悍ましい。緑谷君、通形先輩は特にひどい顔だ。

 

「つまりヒト由来。個性ってこと?個性による個性破壊」

「話の腰を折って悪いが、正直、話が見えない。それがどう、死穢八斎會につながるんだ?」

 

「件の薬を撃った男な。違法な個性増幅薬を捌いとったんやが、その幾層にも重なる流通経路に八斎會と交流のある組織が噛んどる」

「八斎會に無理やりこじつけようとしていないか?」

 

 違法薬物の話と直接つながらないと、そういう反応になるのはわかる。

 

「八斎會がブツ捌いとった証拠はないけど、中間売買組織の1つと八斎會は交流があって、今回、個性破壊弾を撃ったんは、その枝組織や……続き、頼むわ」

 

「はい。解析をした限りでは、該当の薬物は個性を壊す、と言うよりも超常以前の人類に退化を促すものと考えられます。

 現在、サンイーターが回復したのは、その退化具合が半端に終わったか、ヒト由来の異物でもある個性破壊薬に対し、人体の持つ免疫機能による防御と回復が間に合ったものと思われます。

 なお、ドラギッツの見解として、完全な個性破壊薬のほか、保険あるいは被害者をさらに貪るための血清の開発がされている可能性が高い、との意見がありました」

 

「辛い報告をありがとう、ブルーアンバー。治崎にはエリ、と言う娘がいる。ミリオと緑谷が遭遇した時には、手足におびただしい包帯がまかれていたそうです」

 

「まさか……そんな悍ましいこと」

「超人社会だ。やろうと思えば誰でも何でも出来ちまう。ブルーアンバー、お前さんにも辛いもの見せちまって悪かったな」

「お気遣い、感謝します。グラントリノ」

 

 流石に、ここで気を使われるとちょっと涙腺緩む。

 

「なに?どういう、ことっすか?」

 

 切島君は理解ができない、いや、理解を拒んでいるのだろう。

 

「やっぱガキは要らねえんじゃねえの?分かれよな。その治崎ってイカレ野郎は、年端も行かねぇ自分の子供を切り刻んで銃弾にして捌いてるってことだ」

 

「そ、そん、な……」

 

 そう思いたいのはよくわかる。正直、人がやる事とは到底思えない。

 

「実際に銃弾を売買しているかは判りません。現段階では性能としては余りに半端です。だがそれを仲間集め、資金集めのプレゼンに使っていたら?最終完成形が個性を完全に破壊することだとしたら。それだけで今の話以外にも、悪事のネタはいくらでも思いつきます」

「胸糞悪いわ!今すぐガサ入れじゃ!!」

 

 激昂するファットガムさん。お怒りはごもっともです。

 

「ケッ、こいつらがその子供を保護していれば一件落着だったんじゃねえの」

 

「すべて私の責任だ。二人を責めないでいただきたい。知らなかったこととはいえ、二人はその少女を助けようと行動したのです」

 

「今度こそ必ず、エリちゃんを「保護する!!」」

「そう。それが私たちの目的となります」

 

 後の細かい医学的な情報はこの場の議論には必要ないということで、私は席に戻った。

 少しばかりイレイザーヘッドの咎める視線が痛い。解析の主担当がむしろ自分だとか、因子に込められた命令というか、発現の書き替えをやっちゃったとかはこの場では言ってませんから勘弁してください。

 

「で、その子供は治崎にとっては計画の肝なわけだ。それが何らかのトラブルで逃げだして、ヒヨッコヒーローに見られちまった。そんなの素直に本拠地に置いとくか?俺なら置かない」

 

 言い方こそ皮肉交じりだけど、この人の指摘は正しい。どこに居るかわからないと救出もままならない。

 

「確かに、その辺りはどうなってるの?ナイトアイ」

「問題はそこです。相手の計画がわからない以上、1回でケリをつけねばならない。そこで皆さんの出番です」

 

 死穢八斎會と交友のある各地の指定ヴィラン団体、保有する土地、施設を洗い出して、それぞれの土地に根差しているヒーローたちに調査してもらう。確かにこれならある程度絞れるだろう。

 

「オールマイトの元サイドキックにしては慎重やの。こうしてる間にも、そのエリちゃん言う子、泣いてるかもしれんのやで!」

「我々はオールマイトにはなれない。だからこそ分析と予測を重ね、確率を100%に近づけねば」

 

 そこに相澤先生、イレイザーヘッドからの質問が入った。

 

「あの、いいですか。どういった性能か存じませんが、予知ができるのならそれで未来を見ればいいのでは?今のままでは少々合理性に欠ける」

「それはできません」

 

 1日1時間、一度使用したら24時間のインターバルを要する。強力な効果だけど運用は難しい。どうも過去に色々あったらしく、未来を見ることに慎重になっているらしい。

 

 ともあれ、エリちゃんと言う子供の保護、死穢八斎會の摘発に向けての動くことが決定された。私はこの話をアクスレピオスに持ち帰ったらそこまでで、参加できないと思うけれど。

 

「サー・ナイトアイ、イレイザーヘッド。少しお話が」

 

 ともあれ、依頼としての報告はまだ終わっていないので、イレイザーヘッドにも立ち会ってもらってサーの執務室へ。

 

「それで、詳細の報告があると言ったが、何やらかした?」

「やらかすの前提ですか、いや、やらかしましたけど」

 

 本当にもう、この雇い主は。

 とりあえず紙媒体の報告書は手渡しておく。内容的に電子データは危険すぎて。

 

「個性破壊薬の個性因子ですが、解析のための培養はアクスレピオスのドラギッツにより成功。この複製薬に含まれる因子に対して、ですね、その、因子に与えられている「個性を無い状態に巻き戻す」と思われる効果の初期化と再命令に成功、してます」

 

「……なるほど。本気で口外できんな、それは」

「まったくです。そうなると、エリと言う娘の個性についても把握できているわけですか」

 

 巻き戻す個性であって、特に意図しなければ対象者の肉体年齢を巻き戻す。しかも際限なく。これを一定の命令を付与した状態で薬剤として成立させる、おそらく洗脳の類の処置がされている可能性が高かった。

 そう話すと、ますますサーの表情が険しくなる。

 

「辛い仕事に巻き込んだことは申し訳ない。だが、我々にとっては幸いだ。血清の開発は急いでほしい」

「わかりました。伝えます」

「はぁ……まぁ、止むを得んな。ブルーアンバー、この件はくれぐれも漏らすなよ?」

「はい」

 

 それはもちろん。自分の危険度を引き上げるつもりはないです。

 話が終わり、相澤先生の後に続いてロビーに降りた。

 緑谷君やお茶子ちゃんたちがものすごく沈み込んでいた。気持ちは分からなくもないけど。

 

「どうした。通夜でもしてんのか?」

「ケロ、先生、茉芭ちゃん」

「学外ではイレイザーヘッドで通せ。お前たちも学外でコスチュームを着てるときはヒーロー名で呼んでやれ」

「ウス」

 

 その後でイレイザーヘッドから出た言葉は意外と言えば意外だった。

 

「しかし、今日は君たちのインターン中止を提言するつもりだったんだがなぁ」

「えっ!なんでっすか!」

「ヴィラン連合がかかわってくる可能性があると言ったろ。話は変わってくる」

 

 ヴィラン連合は少なからず1-Aを目の敵にしてきた。確かに危険と言うことは否定できない。

 

「ただなぁ、USJや林間合宿でそうだったように、勝手に飛び出しかねないのがいるんだよ。緑谷に切島、それにブルー(上鳴)もな」

 

 林間合宿で轟君とマスク男、Mr.コンプレスを捕まえたときのことだろうか。動くなと言うなら、アレは気づけなかった先生方にも問題があると思うけど。

 

「俺が見ておく。やるなら正規の活躍をしろ。掴み損ねたその手は、エリちゃんと言う子にとって絶望だったと決まったわけじゃない」

 

 そこで小さい子供にするかのように、屈んで緑谷君と視線を合わせ、胸に軽く拳を当てる。

 

「前向いていこう」

 

 そして天喰先輩や波動先輩の後押しを受けて、通形先輩も気を取り直したようだ。

 

「緑谷君。今度こそ……」

「はい!今度こそ助けます!」

 

 それはいいのだけど、これ、私は参加できるのだろうか?




勿論参加させますがw

この個性破壊薬、設定は雑に捏造しています。正直、理屈が全く理解が……orz
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