―――Side:デク
「ブルーアンバー!」
初めて見た「
けれど、分断されてしまったのは痛い。無事でいてくれ!
「おいおいおいおい、本部長ぉ、空から国家権力がーってか?」
おどけた口調のヴィラン、確かコイツは
「よっぽど全面戦争したいらしいな。流石にそろそろプロの力――」
「その”プロ”の力は目的のために……!こんな時間稼ぎ要員、俺一人で十分だ」
侮っていたつもりはない。けど、僕はこの時、サンイーターの静かな言葉にものすごい凄味を感じた。
「窃野相手に銃は出せん!ヒーロー!頼む!!」
「バレてんのか。まぁ、いいや。暴れやすくなるだけだ!」
「ならないぞ!刀捨てろ!!」
イレイザーヘッドが捕縛布に手をかけながら抹消を使う。
一緒に落ちてきた刑事さんと警官が銃を構えるより早く、サンイーターの腕が蛸に変化して3人を拘束する。
「こいつらは俺が相手します。ファット事務所でタコ焼き三昧だったから、蛸の熟練度は極まってるし……一度撃たれたことでこういうものには敏感になっている」
左手の蛸の足、右手の蟹バサミで3人の持っていた銃と日本刀がばらばらになった。食べた物を再現して自在に操る。凄い個性だ。
「スピード勝負でしょう?プロの個性はこの先に取っておくべきだ。蠢く地下を突破する1年2人のパワーも!拳銃を持つ警察も!
ファットガム!行ってください。俺なら1人で3人完封できる!」
「……行くぞ、あの扉や」
「ファット!」
ファットガムは任せる判断をした。3人相手なのに任せる!?
「3人を見ておいた。効果がある間に動きを止めろ」
イレイザーヘッドまで!
「皆さん!ミリオを頼むよ。あいつは絶対無理するから助けてやってくれ」
「行くぞ!デク!」
「は、はいっ!!」
結局、3人組はサンイーター、天喰先輩が一人で引き受けてくれた。雄英ビックスリーの1人、サンイーター。プロ並みの実力があってそれはファットガムもイレイザーヘッドも認めている。
信じて任せる。普段なら、訓練なら簡単に決断できたのに!最初の戦闘訓練だって、かっちゃんを自分に引き付けて、麗日さんに「行って」って言えた。
今までの訓練でも仮免試験でも、何の不安もなかったのに。サンイーターを先輩を信じてないわけじゃない、けど、見捨てることになるのではないかって思うと不安になる。
「先輩、大丈夫かな……やっぱ、気になっちまう」
「うん……」
「背中預けたら信じて任すのが漢のスジやで!!」
「先輩なら大丈夫だぜ!!」
「ものすごい流されやすい人っぽい!」
言ってることは正しいし、今から戻るわけにもいかないけど!無事でいてください!先輩、それにブルーアンバー!
「そう言えば……なんでブルーアンバーだけを分断したんでしょう?」
「さっきのを見ただろう。一瞬だが視界に関係なく個性を止めたんだ。脅威に感じて当然だ」
イレイザーヘッドの声には苦いものが混ざっている。
確かにそうだ。接触が必要みたいだけど、イレイザーヘッドが増えたようなものだし、警戒するのはわかる。でもそれなら、次に狙ってくるのは―――
「イレイザー!」
考えが読まれたかのように壁が伸びてイレイザーヘッドを反対側へと落とそうとする。
咄嗟に動けたのはファットガムと切島君!
「きり……烈怒頼雄斗!」
二人が壁に飲み込まれていくのを僕はただ見てることしかできなかった。なにがナンバーワンになるだ!こんなことで仲間をどんどんと分断されていいようにされて!
「あまり熱くなるな、デク」
「おそらく、あの先には残った幹部がいるでしょう。今は彼らを信頼し、任せるのがベストです」
イレイザーヘッドに頭を軽く叩かれた。痛くはないけれど、状況に混乱していた頭がは少し落ち着いた。けど「不要なモノは躊躇なく切り捨てる」なんて言われたのが今も耳から離れない。
今は違うだろ!緑谷出久!!ヴィランにしてやられた。それを認めて、目的を達成する、エリちゃんを助けるために何をするべきか考えろ!
サーやファットガムが言う通り、仲間を信じろ!みんな強い!その強さを今まで見てきた、信じろ、緑谷出久!!
頬をたたいて気合を入れる。きっと大丈夫。
「はい。急ぎましょう!」
しばらく駆けると、十字路で分断されていた警察の皆さんと合流できた。
そして再び揺れる廊下と思ったら、少し広い空間が現れ、そこにはリストにはなかったヴィランともう一人……確かコイツは、ヴィラン連合のトゥワイス!
「わっくわくが止まんねーよ、コノヤロー!しっかしどんなヒーローが来るのかと思ったら、リーマンじゃねーか!ヤクザなめんなコノヤロー!やっちゃってくださいよ!乱破の兄貴ー」
無言でサー・ナイトアイに襲い掛かってきたパワー系らしいヴィランの攻撃をかわす。サーが腕を振るうと、相手は壁を粉砕する勢いで吹き飛ばされた。
「な、なにが!」
「戦闘用サポートアイテム。超質量印。重さ約5キロの押印です。サラリーマンの風体に、このアイテムはユーモアが効いていると思わないか?デク」
「は、はいっ!素晴らしいと思います!サー!」
だってそう言うしかないじゃないか!強すぎて笑えません!なんてとても言えない!
「しかしこれは予想外だった。天下のヴィラン連合が一介のヤクザに与するとは」
話している間に倒れていたヴィランが溶けるように消えた。と言うことは複製!?
「ヤクザ使えねぇな!」
言葉と同時に投げつけた押印は頭部に当たったけど、マスクを破るだけだった。あのコスチューム、見た目以上の防御力があるようだ。
「いってぇ、コノヤロー!」
「待て!デク!!」
躊躇なく逃げだしたトゥワイスを追いかけたけど、入中が下した壁が行く手を阻んだ。
「道を開きます!!」
「どのみち通路は塞がれているか、仕方ない」
フルフォルムと合わせて鍛え続けて、今はフルカウルでも無理せず40%は出せるのは、夢で初代ワン・フォー・オールが言ってくれた。
ギリギリなら50%もいけるだろう。壁を蹴り破るのはさほどの負担にならない。
「待て!……え?」
てっきり別の場所に逃げ延びているかと思ったが、その場にうずくまって何か「裂けちまう」とか「包まないと」とうわ言の様に呟くトゥワイスの姿があった。
何か視界の隅をよぎったと思ったら、サー・ナイトアイの超質量印が今度こそ直撃し、トゥワイスは気絶してしまった。
「何があったかわかりませんが。好都合。確保を」
「あ、ついでにコレもお願いします」
サー・ナイトアイの指示で倒れたトゥワイスに手錠が掛けられたのと、ミノムシ状態のトガヒミコを担いだブルーアンバーが現れたのは同時だった。
よかった。ほんの少しだけど、信じていても心配、という母さんの気持ちが分かった気がした。
―――Side:ブルーアンバー
合流してまずはお互いの情報交換を簡単に。
個性を消す、というのを何よりも脅威と見ているのか、イレイザーヘッドを狙い、結果としてそれをかばった烈怒頼雄斗とファットガムが分断されてしまったらしい。
知覚範囲を限界まで広げてみれば、ちょうどガチの戦闘中。ただルート的に救援は難しい。ボロボロになっているっぽいのは烈怒頼雄斗だろう。無事を祈るしかないというのは、神野もそうだけど、きつい。
そのことは一応、報告しておいた。結局、任せるしかないということで、先に進むのだが問題はヴィラン連合の2人。
ヴィラン連合が出てきたらそこまで、と方針を固めていたイレイザーヘッドとしては現状は苦々しいものがあると思う。捕縛したとはいえ、ほかのメンバーに奪回に動かれたら厄介だ。
しかしこの先を考えると、プロが地上で足止めされている中、イレイザーヘッドとサー・ナイトアイ、ロックロックだけで進むには人数的に厳しい。少なくともデクのパワーは手放しがたいと思うはず。
「……交戦したのか。怪我は?」
「分断された先で待ち伏せされ、トゥワイスの分身と本人に挟撃されました。怪我は……少なくとも行動に支障はありません」
剥ぎ取った装備と全身を包帯で巻かれたトガヒミコは警察に引き渡す。
不意打ちが得意みたいだけど、イレイザーヘッドのおかげで身に着けた全周囲視界の恩恵で、何とか勝てた。それでも少し危なかったから、まだまだ鍛えないと。
ともあれ、入中の妨害は厄介だけど、そろそろ動かせる幹部もいないはず。事前のリストにない雇われ鉄砲玉やヴィラン連合の関与があるから、少々怪しいけど。
サー・ナイトアイの号令で先へ、となった時に周囲に響く狂ったような叫び声。
「落ちた先の空間は開けています。人は確認できません!」
「ブーストの時間切れで焦ってるんだろう。デク!ブルーアンバー、下りたら奴を探せ!」
「「はい!!」」
落下が止まると、そこは洞窟のような場所だった。工事がそこまで進んでいないのか、天然の洞窟を流用したのかはわからないけど。
そして天井や床から襲い掛かる岩の波。必死の攻撃だけど、避けるだけなら難しくない。
流石に触れて
「デク、見つけた。斜め上の小さい穴部分!」
「はい!スマーーーシュ!」
正直、過剰威力じゃないかと思うが、シュートスタイルでのスマッシュを受けて気絶した入中をイレイザーヘッドが念のために個性を消しつつ、デクが回収した。
この先はヴィラン連合も待ち構えている可能性があるとなれば、デクと私はここから先は進めないと思っていたのだが、意外なことにロックロックさんが私たちの背を押してくれた。
「ヴィラン連合のことは警察と俺に任せろ。連中としてもここで2人も失いたくないはずだ。後送の途中で襲われる可能性があるから俺が護衛につく。あとちょっとなんだろ!目的を忘れるなよ!!」
入中もヴィラン連合の2人と共に、地上へ搬送することになった。念のため、ロックロックさんが個性で拘束しているから逃げることはほぼ不可能だろう。
「急ごう。4人ほどあっちにいる」
「わかりました!僕が道を開きます!」
そしてデクが壁を抜いて、ルミリオンに追いついたとき、ちょうど戦いは終盤を迎えていた。
「根本!撃てぇぇ!」
根本と呼ばれたヴィランが狙ったのはマントにくるまれた少女。アレがエリちゃんだろう。とっさの判断で、跳んで身を挺して守ろうとするルミリオンの姿。
流石に今の位置関係からでは止められない!
そして響く銃声。おそらく個性破壊弾だと思うが、次に声を出したのは治崎だった。
「……な、に……?」
銃声が収まった時、理解できてない呟きが、治崎の口からこぼれた。
それはそうだろう。ルミリオンに命中したはずの弾丸が自分の体に当たっているのだから。
「キサマ!何をしたぁぁ!」
「流石ルミリオン先輩。あのトンデモ理論、成功するとは」
私がルミリオン、通形先輩の個性についてまとめたレポート。
要点を言ってしまえば、ルミリオンが地中などにいる場合、個性の解除により通常空間に跳ね飛ばされる。ならば逆に「ルミリオンの体内に異物がある状態で個性を解除したらどうなるのか」という疑問に対する考察を個性の性質共々つらつらと書いただけのものだ。
「弾き返したよね。正直、もう1回やれって言われても無理かもしれないけど。その無理を超えるのがヒーロー!ルミリオン!!」
ルミリオン先輩曰く「条件が悪いと真っ二つ」らしいが、重要なのは面ではなく点。
護衛任務などの際にどうしても自身を壁にしないといけない場合、透過は足かせにしかならない。そうならない条件があればそれを探したほうが良いと思ったのだ。
こういう事をするから「個性を観測してその効果を予測し調整可能」とか思われてたんだけど。実際そういう風になったので、相澤先生がすごいということにしておいてください。
そういう風になれる、と信じてなかったら、決してそうなれないのだから。
「あぁ、残念だよルミリオン。お前のような英雄症候群の病人共を救うための薬なのに……認めるよ、お前は確かに俺より強い。そして、
そう言って、懐から青いピルケースを取り出すと、そこにあった特殊弾頭の針を躊躇なく自分に撃ち込んだ。
「さぁ、続きをやろうか。正義かぶれの病人ども」
それを合図に皆が動き出す。
「ブルーアンバー、エリちゃんを保護!ナイトアイとデクは支援を!」
「「はい!」」
「ミリオ!」
本来で言えば、この場の全体指揮をイレイザーヘッドがとるのはおかしいが、自然と皆が従っていた。サー・ナイトアイとしても、ルミリオンの様子が気にかかったのだろう。
「エリちゃんだね?もう大丈夫」
「ブルーアンバー、エリちゃんを」
「はい、ルミリオン。サー、支援を頼みます」
「任せて。大丈夫だよ、エリちゃん。約束したよね。俺は君のヒーローになる」
「……うん」
私が”見る”エリちゃんと言う子は、少なくとも今現在は大きな怪我はない。個性に関する部分で言えば、額に出ている角に電子が集中している。
緑谷君の個性と似て非なる感じだが、何らかのエネルギーが蓄積されているのだろう。
戦闘能力や個性の面でルミリオンはフリーにしておくほうがいい。エリちゃんをルミリオンのマントごと抱きあげた。
「さあ、エリちゃん。もうちょっと頑張ろう」
「あ、で、でも」
「エリちゃん、少しだけ待っていてね。君に怖い思いをさせた悪い奴をやっつけてくるから」
ルミリオンの真剣な表情にエリちゃんは何といっていいかわからないみたいだ。
おそらく治崎に相当の恐怖を刷り込まれていて、勝てないと思ってるし怖いから止めたい。けれど、それでも止まらないことがわかっている。判ってしまっているから、止められない。
「あのね、エリちゃん。ヒーローにはね、どんな敵にも勝てるおまじないがあるんだよ」
「……おまじ、ない?」
「そう、ルミリオンに、それにデクに、”たすけて、がんばって”って言ってあげて」
「ルミリ、オン……デク…………た、たすけ、て……がん、ばって、がんばって!」
「任せてよ!さぁぁ!やるぞやるぞやるぞぉぉぉ!!」
「ふふふふ、いい。実にいいな、ブルーアンバー。君はヒーローをよく理解している。さぁ、行けっ!」
「はい!」
ソールに仕込んだコンデンサとバッテリーから電子を引き出す。
自分とエリちゃんの体重分を軽減させるだけのイオノクラフト効果の浮遊を発生させて速度を得る。とにかく優先するべきはこの子の安全。
主犯である治崎やルミリオンに倒されたヴィランの回収はサー・ナイトアイやイレイザーヘッドに任せよう。
トゥワイスはあっさり捕獲。5kgの超質量印、頭部に当たったらかなり拙い気はしますが、まぁ、とりあえず死んではいないということで。
ルミリオンの捏造新技(名前はないので仮に「反射」)
「透過を解除した際に物質は重ならない」という性質を防御に使ったカウンター技。体内からはじき出される方向と角度はその時の姿勢と部位次第で、治崎に当たったのはただのご都合主義と言う名の運。