雷速少女のヒーローアカデミア   作:K鶏

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第66話 ちょっと嬉しい日

 一晩入院、翌朝退院して即警察に出向いての事情聴取と各種書類手続きと、ヒーロー活動と言うものの裏側が地味で面倒な書類作業で埋め尽くされていることを嫌と言うほど体験させられ、寮に戻れたのは夜になってからだった。

 単なる偶然か、タイミングを狙って送り返したのか、寮の手前で全員が顔を合わせることになった。

 

「上鳴さん」

「や。緑谷君、お疲れ様。大活躍だったね」

「あ、ありがとう。そう言ってもらえると、嬉しいよ」

 

 そういうはにかんだ顔はちゃんと意中の子に見せるように。近づいてきたお茶子ちゃんの方にゴメンネとジェスチャーをすると、拳が握られたから意味が分かったらしい。ちっ、手ごわい。

 

「デク君、スゴカッタヨネー」

「ものすごい棒読み!」

「「「スゴカッタヨネー」」」

「二度言った!しかも蛙吹(あすい)さんと上鳴さんまで!」

 

 それでみんな声に出して笑えた。そこに切島君も合流してきた。

 

「緑谷、お疲れ。通形先輩とボス倒したんだって?スゲェじゃん」

「切島君。切島君も大変だったね」

「おう。ファットガムに助けられたわ。サンキューな」

 

 さて、寮の方で皆が心配して待ち構えているのは個性を使わなくてもわかるから、あまり油を売ってるのも良くないだろう。

 

「そろそろ寮に戻ろう。みんな待ってるよ」

「そうだね。なんだか久しぶりに帰ってきた、って感じ」

「ええ」

「……行こうぜ」

 

 うん、プレッシャーから解放されて、今日はよく眠れそうだ。

 

「ヤツラが帰ってきたぁ~~」

 

 真っ先に出迎えるのが峰田と言うのは個人的には微妙だけど。それでも、みんなの顔を見ると帰ってきたなぁという感じはする。

 

「なんかお前ら、エライことになって帰ってきたな!見ろよ!これ!!」

 

 電気をヘタレと笑い飛ばすべきかは悩む。こんな大事件、滅多にあるもんじゃないしね。

 携帯の画面にはルミリオンとデクがオーバーホールに最後の一撃を加える瞬間がしっかり映っていた。記事には「期待の新人!ヒーロー・デク!鮮烈デビュー!」なんて文字が躍ってる。

 そりゃ撮影されてるよね。どれ、私も見てみよう。

 

「おぉ!デク君凄い!」

「あ、ありがとう……なんか、照れくさいね」

 

 夕方まで書類仕事に追われてて、記事を見てなかったけど、かなり大きく取り上げられていた。

 と言っても、記事の中心は緑谷君と通形先輩、それに地上で制圧戦で活躍したリューキュウとお茶子ちゃん、梅雨ちゃん、波動先輩だけど。

 切島君も私と同じく写真無し。かなりひどい怪我だったから、映らなくてよかったと思う。

 そして私だけど……うん、イレイザーヘッドの一般の知名度の低さ、舐めてたわ。ヒーロー業界内での知名度は反比例して高いみたいなのに。ホント不思議。

 トガ逮捕の記事にすら、辛うじて地の文で名前が出てる程度。載っただけいいか。

 

「何はともあれ、無事で何より」

「無事……なのかな?無事……かなぁ?」

 

 障子君に突っ込むべきか悩んでる響香だけど、誰も死んだり後に残る怪我もせず、救助すべき壊理ちゃんも保護ができたんで、無事でまったく問題ないと思うよ。

 

「お茶子ちゃん、梅雨ちゃん、茉芭(まつは)ちゃん、無事でよかったよー」

「ぁう、ありがとぅ」

「ケロ」

「あ、ありがと、でも、苦し……」

 

 皆それぞれに話しかけてくれる。さすがに大事件に発展したから心配をかけたようだ。

 そんな状態を締めてくれたのは、百ちゃんと飯田君の委員長コンビだった。

 

「はい、皆さん、それくらいで。私も心配でしたが、何よりお疲れでしょう?」

「うむ!その通りだ。心身ともに消耗したはず!級友ならば今日はゆっくり休ませてあげよう!」

 

 その言葉はありがたくもあるけど、と思ったら緑谷君が何やら目配せをしている。

 了解の意味を込めて軽く頷くと、みんな同じ気持ちの様だ。

 

「八百万さん、飯田君、ありがとう。でも、大丈夫」

 

「じゃあ……いいかい」

 

 あ、なんかヤな予感。

 

「とっても心配だったんだぞ!俺はもう!君達がもう!」

 

 肩を掴んで激しくシェイクする。感情表現が激しいなぁ

 そして切島君は瀬呂君につかまっていた。

 

「何で黙ってたんだよ。俺たちも仰天だったんだぞ」

「ワリィ、緘口令が敷かれてたんだよ」

「切島ぁ、大丈夫?」

「……まだまだだわ」

「そっか」

 

 よくわからない三奈ちゃんとの会話だけど、そういえば同郷だっけ。まぁ、つつくのも野暮だね。三奈ちゃん自身、そういう感じじゃないし。人のことはすぐ恋愛に繋げるのに、自分はさっぱりなんだよなぁ、この子。

 それこそスタイルも性格も非の打ちどころないくらいなのにね。

 

「うわ、ウサギ、カワイイ」

「口田から借りたの。梅雨ちゃんも抱っこしてみる?」

「次ワタシ―!」

 

 なにやらウサギに癒されているね。見るとアレキサンダー君もいるな。おくつろぎの様だから構うのはやめておこう。

 

「オメェもだよ、マッハ!どこの事務所か知らねーけど、水くせぇ」

「ごめんね、電気。最初は別件だったんだよね。色々関連して繋がっちゃって」

 

 個性が特殊すぎる成長して、結果的に保険として参加したわけだけど、コレ、話せないこと多すぎるなぁ

 

「うん?上鳴君、この関連記事に目を通していないのか?」

「これについては、詳しい事情をお伺いしたいですわ」

 

 この辺は流石と言うか、委員長コンビはしっかり全部記事読んだのか。

 

「そういえば、上鳴さんの所属って僕も聞いてないや」

「ワタシも」

「ケロ」

「君達……いや……それもまた、余裕のなさの表れと言う事か」

 

 これは、黙っておくのは難しいかなぁ、申し訳ないです、相澤先生。

 

「んー、言いふらすなとは言われてたんだけど……書類上は、雄英に雇用された形でイレイザーヘッドのサイドキック」

「「「はぁっ!?」」

 

 いやそうなるよねぇ、はっきり言ってグレーだもん、これ。

 

「アクスレピオスは高校生のサイドキックを取ってないけど、私の個性だけ使いたいって雄英に要請があって、例外中の例外。ボランティア活動で同じ扱いになるわけじゃないから、あまり言うなってことで……その、黙っててごめんなさい」

 

「そんなこともあるのだな。先生方へ希望が殺到しても確かに迷惑だろうから、黙っていたのはわかる!」

「医療資格とヒーロー免許、両方ないと困る規制とかもあるみたいね」

「あぁ、確かに。ヒーロー法律学だと2年以降の内容ですわね」

 

 主に税制面らしいけど。

 そして百ちゃんはそこまで学習が進んでいると。やっぱり現場に出てると勉強疎かになるなぁ

 

「ワリィ、みんな。話は聞きたいが、今日はもう寝る」

「うぇ?轟、寝るの早くね?老人かよ」

「……俺も寝る」

「うぉい、かっちゃんもかよ。心配して待ってたんだろ、照れんなよ、素直になろうぜ」

 

 なんか電気が轟君と爆豪君にウザがらみし始めてる。爆豪君も振り払ってはいないから、放っておこう。

 

「るっせ。おい、デク」

「な、なに?かっちゃん!」

「ちゃんと助けられたんかよ……テメェ自身も」

「……うん!」

「なら、いい。寝るわ」

 

 素直じゃないなぁ

 ともあれ、爆豪君は爆豪君で、緑谷君の異常な部分、わかってるんだなぁ、やっぱり、緑谷君にとっても爆豪君にとってもお互い、必要な存在だね。絶対、本人は認めないと思うけど。

 

「轟君も爆豪君も、お休み。轟君は明日も仮免講習だっけ?」

「あぁ……詳しいな?」

 

 あぁ、ここ暫く放課後は研究施設に入り浸りで、朝帰りが多かったから不思議に思っても仕方ないか。日程自体は別に秘密ではないらしいけど、当事者以外に知らせる必要ないしね。

 

「夜嵐君がしょっちゅう連絡くれるから」

「……あぁ……仲、いいのか?」

「え?いや、私からは特に何か連絡したりは。いろいろ忙しかったし」

 

 他所のカリキュラムは気になるし、情報交換できるならそれで、ぐらいのつもりだったんだよね。それ以上の好意を感じなくもないけど、恋愛感情と言うより何故か憧れのヒーロー扱いされてる気がする。

 

「わりぃ……そんなわけで、明日、早ぇから、寝る」

「あぁ、うん。頑張って来て」

「あぁ、サンキュ」

「おやすみ、轟君」

 

 ええと……いやいや、まさかね。うん、あまり自分に都合のいいことを考えるのやめて、お風呂して寝よう。作戦も上手く行って、今日はなんかいい夢見れそうだし。 

 なにやらニヤニヤしてる響香とか、三奈ちゃん、今日は流石にそういう話には付き合わないからねー

 

 

――Side:オールマイト

 仮免補講の引率にかこつけて、サー・ナイトアイからの連絡を断ってしまった。

 緑谷少年からも「是非、会って欲しい」と言われたのだけど……相澤君が八斎會がらみの事件で保護した少女の関係で忙しいからと、事実ではあるがこじつけて逃げてしまった。

 グラントリノから連絡があった、黒霧の件と歩く災厄と言う新たなヴィランの話も気になる。暫くは余裕のない生活になりそうだが、却ってありがたくもある。

 

「さぁ、遅刻厳禁。車にお乗り」

 

 そうして講習会場についてみれば、エンデヴァーの姿。轟少年の激励かな?

 

「おや、元ナンバーワンヒーローじゃないか。焦凍の引率、ご苦労」

「エンデヴァー……」

「ちょうどいい。貴様とは腰を据えて話してみたいと思っていた」

 

 それは私としても好都合。ぜひ、轟少年を育て上げた教育論など聞かせてほしい。私はそんなのんきなことを考えていた。

 だからいきなり轟少年への声援で、講習者の迷惑になるのはやめてくれないかな?ほら、彼らの注目が私に。

 講習のほうは、轟少年と士傑の夜嵐少年、現身(うつしみ)少女だけ別プログラム。問題児揃いの小学校低学年1クラス分と心を通わせろと言うもの。

 何とも意地が悪いことだ。理詰めでもダメ、暴力だけでもダメ。なにを以って心を通じあったとするかも含め、単純なようで実に難しい。

 マイク君は気を使ってくれたのか、缶コーヒーだけおいて下に降りてMCをはじめてしまったな。

 

「……で、話って?正直、今の私に何が言えるのか……」

 

 ワン・フォー・オールを受け渡したことで、緑谷少年を歪ませ、一日も早く後継者足る存在になろうと焦らせた……呪詛を受け継がせてしまったような私だ。いまさら人のためになることなど言えるだろうか。

 

「知っているか?ここ1カ月の犯罪件数、例年に比べて3%の増加だ。俺は今まで、誰よりも事件を解決してきた。だが、だからこそ聞こえてくるのだ。貴様が築き上げてきた、何かが崩れ落ちる音が。

 元ナンバーワンヒーローよ、平和の象徴とは……何だ」

 

 エンデヴァーの求めたものは、誰よりも強い、ナンバーワンヒーロー

 確かに長年、私がナンバーワンであり続け、彼は不動のナンバーツーだった。

 

「俺は頂点にはたどり着けないと悟り、焦凍にすべてを託した……だが、そのために成したすべてが今、俺を、焦凍の未来を、時代を足元から崩そうとしている。崩れ落ちるものが歯止めが……利かなくなる」

 

「……君は、何を?いや、まさか……」

 

 轟少年のプロフィールを見れば、多少なりとも思うところはある。右から氷、左からは炎を出す半冷半燃の個性。人から人へ受け継がれた願いと力、ワン・フォー・オールとは別の、血が紡いだにしては出来すぎな個性。

 

「そのまさかだ。貴様の教え子に指摘されバカなと笑ったが、最悪を想定すれば十分にあり得た。笑止だな、こんな矮小な男が次なるナンバーワンだそうだ。改めて問う。平和の象徴とは、何だ?」

 

 超人社会の闇。個性婚。もっとも、個性は体の一部と言うのが常識となった今、「体の相性」と言うのが卑猥な意味だけではなく、「個性同士の相性」として婚姻に影響を与えているのも事実。

 

「私の生徒、と言うのが気になるけど……」

「いいから答えろ!!そして焦凍!何を子供などに舐められている!!」

「いやいや、落ち着きなさい。補講の邪魔になる」

 

 やれやれ。君、轟少年よりも爆豪少年に似ているよ?

 

「はぁ……やれやれ。それで、平和の象徴、だったね。

 私はこの国に象徴が必要だと思い走ってきた。今よりももっと犯罪が多い時代、平和の象徴、時代を照らす強い光、象徴であり警鐘となる存在が不可欠だと思った。街のみんなが不安な顔をしていた。どんなにヒーローが居ても犯罪は減らなかった。

 そのために、近くのやさしさを踏みにじり、多くの物を切り捨てて走ってきた……そのツケが、この姿だ」

 

 オール・フォー・ワンを殺しきれなかった。収監されたとはいえ、まだ死柄木弔がいる。お師匠のお孫さんだという彼は、私が残した負の遺産だ。

 その始末を緑谷少年に押し付けてしまった。

 彼が私と同じか、私以上に歪んでいたのを、力及ばずとも気付いた茉芭少女がどれほど辛かったかはかり知ることはできない。

 

「私にもね、子供こそいないが、大事な弟子がいる。ただ、私は彼に期待するばかりに、私が背負わせてしまった物で、彼が歪んだことに気が付けなかった情けない師匠だ。だがね、私のお師匠の志をだれよりも継いでくれた、少女のおかげで、彼も私も救われた。

 君が何をしたのかは想像がつく。軽々しく公開しろとは言えない。けれどね、清算したほうが良いと思うならそうすべきだ。

 君には君の理想となるヒーロー像があるだろう?それに向かって進んでいけば、いつしか、目指す光とひとつになって象徴として輝いて見えるものさ。自身からは決して届かぬ光であっても」

 

 私は理想そのものになろうとした。それは緑谷少年も同じだろう。

 だが、茉芭(まつは)少女は己を知り、足元を固めながら、道を誤らないための道標、灯台として理想を見上げる。それが普通でありそれでいい。

 理想はどこまで行っても理想。現実と折り合いをつけることが君たちの時代のヒーロー像だろう。

 

「さて、轟少年は……おぉ、これは」

 

 話しながら見ていたが、轟少年、夜嵐少年はそれぞれ少年たちに軽くあしらわれ、現身少女は女子生徒たちに嫌われた。

 どうにも軽く見られているところにエンデヴァーの激。

 見ててイライラするのはわかるんだけどね。それにしても今の世代の子供たちは、この歳でこれほどの個性を操るのか。

 ヒーロー候補の3人を甘く見て、クラス総出で打ちのめそうと画策したのだろう。様々な攻撃を一斉に放つが、それが転機になった。

 

 子供たちの個性と3人の個性を組み合わせて巨大な氷の滑り台を作り出し、現身少女の幻覚が演出を施す。結果的に子供たちは思わぬ遊具に夢中になっていて、1人、斜に構えていた子に轟少年が声をかけようとしている。

 エンデヴァーには悪いが、少しだけ、耳に力を込めて聞かせてもらおうかな。

 

「やらないのか?みんな楽しんでるぞ」

「はっ、僕はあの子達とは違うんですよ。何だって大人顔負けにやれる。ピアノだって大人より上手に弾ける。力だってダメな警察やヒーローなんかよりうまく扱えるんだ」

 

「なぁ、そうやって大人ぶって、余裕見せて楽しいか?必死にやれること全部やって、全力を絞りつくすのも、格好いいんだぜ……俺はアイツ(・・・)にそんな必死で格好いい自分を見せてぇ、半端に余裕見せて見下して……負けるのって、一番、だせぇぞ」

 

「……ふ、ふははははは。なんですかそれ!要するに自分が好きな子に格好つけたいから、僕に折れろと!?

 あはははは!それがヒーローの言うことですか!しかもそんな真顔で、ぷっ!あはははははっ!あぁ、面白い!!ええ、いいですよ。今日は僕の負けでしょう。なら、楽しませてくださいよ」

 

「あぁ」

 

 うん、もうちょっとわかりやすいほうが良いと思うけどね。幸い、その子には響いたようだから結果オーライだけど。そして、轟少年が誰のことを言っているのか、わかるよ。




死穢八斎會の事件終了後の帰寮からその翌日まで、ですね。
久しぶり?のほんのりフラグがw

補講についてオールマイト視点にしたのは、あまり深い意味はありません。まぁ、あの場にいるメンバーでは一番書きやすそうだったから、ですね。
補講の方は、まぁ、他に思いつかなかったので、同じものを作らせました。
一番苦労したのが中心になっていた子供を連れだす役目。夜嵐の方がメンタル爆豪近い気もしますが、轟に。そして小学生にあっさり見抜かれるチョロロキ君w

作るだけなら爆豪いなくても何とか。ただ接し方とかの部分では、要点を押さえているのと、残った3人だとウダウダ迷走して終わりそうなので、発破をかける役はエンデヴァーに代わってもらってます。そも精神年齢は同年代だよ、エンデヴァーw
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