死穢八斎會の強制捜査が終わって、壊理ちゃんを救出。それでハイ、めでたし、とならないのが世の常。
指定ヴィラン団体として全国に拠点を広げており、そちらの捜索などでサー・ナイトアイ事務所は仕事に忙殺されている。
本部である組長宅を捜索し、主犯の治崎を逮捕して終わり、と言うわけにはいかない。
下部組織である企業が保有する資産などの差し押さえや証拠の確保など、やるべきことは多い。それらは敷地外にも広がっていた地下通路の後処理や影響を受ける民家への補填に回される。
そんな中でも通常業務はこなさなければならないし、当日、屋敷にいなかった末端構成員が自棄を起こしての犯行なども多く、油断できないらしい。
緑谷君、通形先輩は交代でインターンに向かっては担当地域のパトロールに精を出しているが人手が足らないから、手伝わないか?という誘いまでしてくるくらいだし。
イレイザーヘッドにも相談してみたが、とりあえず保留。壊理ちゃん関連で私と言うリソースは温存しておきたいらしい。
救出の時に使った
インターン契約、まだ切れてないんで、その命令を断れないんだよねぇ
どちらにしても接触が必要と言うのは使い勝手の部分では微妙だし、操作する命令ももう少し精査が必要なので言われなくてもやるのだけど。
代わりに誰かを推薦するとして、サー・ナイトアイが重視するユーモアがある人材となると……電気……は流石に身内だからちょっと憚られるし、アレはどっちかと言えば、ユーモアがあるというより軽いほうだし。
シンプルに考えればクラスからなら三奈ちゃんかな。B組なら一佳はアリかもしれないけど。次点で瀬呂君、響香かな?後で話を振ってみてもいいかも。
「アマリ美シイ問イデハナイガ、コノ定積分ヲ計算セヨ」
おっと、思考を授業に戻さないと。
「正解ノ解ル者ハ挙手ヲ」
「う、うぇぇ……わ、わからねぇぇ~」
あ、電気が煙吹いた。授業終わりの趣味出題だから、無理に解く必要はないけど、チャレンジするのは良いね。
「はい!」
余計なことを考えていたら、緑谷君に先を越された。
「緑谷」
「14分の107!」
「不正解」
遅れて解けたのはいいけど、僅かに百ちゃんのほうが早かった。
「僅カニ早カッタナ、八百万!」
「28分の107ですわ」
「正解……フム、上鳴
「は、はいっ」
授業中で全周囲視界は切っているから、ちょっとビクッとした。
教壇を動かずに分身を出して確認させるのは便利すぎる。個性伸ばしの訓練の時にでも、コツのようなものを聞いてみようかな?そんな簡単なものでもないとは思うけど。
夜。個性伸ばしと言うか、遠隔での電子操作を練習するついでで、配信サイトで「モーレツ!プリエア」シリーズを見ている。もちろん訓練です。誰が何といっても訓練だと言ったら訓練です。
サー・ナイトアイ事務所で、証拠固めの一環で買ったおもちゃを見て、小さいころに見られなかったことを思い出したのもあるけど、どうせやるなら楽しく訓練しようと、テレビとそのリモコンには一切触れていない。
私自身はソファーに腰掛けて、リモコンも電池を抜いてある。そのうえで、テレビからオンライン配信サイトへのログインから再生までちゃんと操作できたらご褒美代わりに1話視聴して寝る。と言う風に自主トレをしている。
最初の内はページにたどり着く前に頭痛でダウンしてたのだけど。
電気とやる合体技、サンダーブレイカーで離れた場所に電子を誘導していたのだから容易だろうと思っていた。
楽観的な予想と違い、空間に放出されて動かしやすい電子を操作するのと、その場で何かしらの作用をさせるのではまったく勝手が違って、苦戦していた。
新しい試みは負荷がかかるし、寝て回復できるタイミングと言う意味で夜、自室でやっている。ほら、訓練じゃないか。
とはいえ、すでに深夜。流石に寝ないと明日に響く。
手を触れずにテレビの電源を落として、そろそろ寝ようとベッドにもぐりこんだのだけど、男子部屋の方で外壁辺りに人が動いているのが知覚に引っかかった。
「……?青山君、かな?ええっと、そういう趣味なのかなぁ?……寝よ」
何をやっていたかまでは分からないけど、痴情のもつれなら口を出したくないし、そうでないなら緑谷君が対応するだろう。照明が消えたのを確認して気にせず眠ることにした。
……そろそろ、次のメニューを考えるか、距離を延ばさねば。
翌日の昼休み。午後からのヒーロー基礎学に向けて移動する前の空き時間に、常闇君と電気と峰田、響香が最新ニュースについての話をしていた。
「おい、峰田。これ知ってる?」
「Rは?」
「全年齢対象!
「
何やらおびえた様子の峰田。つくづく、良い仕事をしてくれたと思うけど、エロ方面まで矯正できなかったのが惜しい。
「チーム・ラーカーズだよね。前々から噂はあったよ」
「最近、チームアップ多いよなぁ」
「レディの躍進スゲェ」
それは確かに。仮免が少数選抜主義に切り替わったみたいに、単体での活動から群に変えていきたいんだろうけど……
「ねー、アタシたちも卒業したらチーム組もー、麗日がねー、私を浮かせてー、酸の雨降らすー」
「それ、エグない?」
「そんで、瀬呂のテープで私を操作するの!」
「はぁ!?何の話してんの?」
「私たちのチームアップ!口田と響香と障子が偵察ね。そんでマッハに全体のサポートと指揮をしてもらう!名付けてチーム・レイニーディ!」
ものすごい大所帯のチームだなぁ、在学中にチームを組むというのも悪くはないみたいだけど。たしかプッシーキャッツがそんな風に結成したはず。
「「おー」」
微妙にやる気なさげな響香の返事に合わせておく。
「「俺たちは!?」」
「いらない!」
おぉ、即答。という事は割と真剣に考えてるのかも。クラスの偵察要員を根こそぎするチームアップは恨まれそうだけどね。
なんでか激しく落ち込む電気と峰田。まぁ、三奈ちゃん可愛いからね。
実は狙っていたとかありそうだけど。
「チームアップは個性だけじゃなく、性格の相性も重要ですわ」
「ヤオモモ、それ追い打ち」
「百ちゃん、グッジョブ」
三奈ちゃんの構想には合わないみたいだけど、スタンガンヒーロー・チャージズマは能力的なバランスはさほど悪くない。むしろ良い部類だろう。
目立った欠点は継戦ぐらいで、指向性の問題もクリアしたから、誰とでも組みやすい。
後はそのまま総合力を上げていくことと、不得手分野を潰す事。特に索敵と言うやれば伸ばせる分野が弱すぎる事だろう。
「電気ー、弱放電でのレーダーとか、最近使ってないでしょ。そういう小技も伸ばしていかないと行き詰まるよ?」
「……おぅ」
こういう風に甘やかすのがいけないかなぁ?電気に手ごろな修羅場、どっかに転がってないだろうか?
「俺はぁ!?」
「……十分応用できてるでしょ。単に三奈ちゃんの構想に合わないだけだよ」
峰田は人格を無視すれば、能力は高い。正確にはやれることが限られてる分、本人が工夫の重要性を理解している。
そんなことを考えていたら、響香も三奈ちゃんの話が引っかかったようだった。
「……行き詰まるかぁ、三奈からも索敵って、戦闘も結構イケると思ってんだけどね」
「響香の必殺技はどれも強いと思うよ。気になるなら、音域を変えてみたら?」
「……音域?」
「ほら、仮免試験の時のギャングオルカ。職場体験でも見てない?ああいう風に人間の耳に聞き取れない周波数で、昏倒とか。装備ありきがイマイチなら、ジャックを刺す方の速度アップとかも」
「……いいね、ソレ。そーだよねー、なんのために社長のところ行ったんだか。思い出させてくれてサンキュ。風呂上がりのジュースでいい?」
「気にしないでいいけど、貰っとく。ありがと」
さて、今日はグラウンドγ、TDLでの必殺技訓練だっけ。
エクトプラズム先生いるといいけど。
「さて、今日も必殺技の向上に努めていきましょう。仮免試験前に課した最低2つの必殺技。できていない人は開発を。できている人はさらなる向上、発展を!」
「「「はい!」」」
今日はセメントス先生だけか。そうすると
「
「おっし、いい度胸だ。ハウザー撃たせろ!」
「おう、爆豪か!ドンと来いやぁ!!」
あぁ、硬度アップ狙いか。じゃあ、邪魔しちゃ悪いし。距離を取っておこう。
とりあえず全周囲視界に切り替えて、みんなの訓練の様子を伺う。直接の実験ができないなら、この距離で個性因子側の電子と神経網の電子を分離して視認できるかを試していこう。
元々、日常生活に支障がないように無意識下のフィルタが無機物の電子を見ないようにしていた。
個性伸ばし訓練で視覚外の電子の存在を認識できるようになって、全周囲視界を得る事が出来た。
今回の事件に関連して、個性因子に紐づく電子と人体の神経を伝わる信号としての電子が区別された。ただ、今この二つは同時に見えている。
個別に見る事が出来れば、きっと、遠隔操作もできるようになっていくだろう……たぶん。
「理屈は……そうなん、だけど、ねぇ……」
今の時点では限界越えになるため、とたんに襲い掛かる頭痛をこらえながら、出来る限りの集中を保つようにした。
数日後、心当たりがないままに生徒指導室に呼び出されると、意外な人がいた。
「来たか。上鳴茉芭。呼び出してすまない」
「サー・ナイトアイ。先日はお世話になりました。それで、通形先輩と緑谷君はサーのインターン生だからわかりますが、なぜ私を?」
生徒指導室にはオールマイト先生とサー・ナイトアイ、それに緑谷君と通形先輩。それに相澤先生までいた。
「やあ、上鳴さん。今日はね!サーとオールマイトの仲直り記念日、なんだよ!」
「いきなりぶっちゃけた!」
「はぁ、それは良いことですね。と言いますか、仲たがいされてたんですか」
サー・ナイトアイが独立したニュースって確か4、5年くらい前だっけ?あまり大きなニュースではなかったとは思ったけど。報道されていない裏事情に関心していると、オールマイト先生が気まずそうに口を開いた。
「あぁ、私がちょっと彼の忠告に耳を貸さなくてね……うん」
「もうそれは良いのです、オールマイト。私の予知は絶対的なものではなかった。それは緑谷とミリオが証明してくれた。そして貴方は生きるための努力をすると言ってくれた。私はそれで充分……報われた」
何というか、ラブシーンのように頬を染めたインテリヤクザの絵面は見ててキツイので、帰っていいですかね?ダメですかそうですか。
「それで、だ。私はその予知を歪めた要因を知りたいと思ったのだ」
「はぁ、それでそのお話に私が何の関係が?」
「上鳴。お前分かっててとぼけてないか?」
そう言われてしまうと、思い当たる節はなくはないですが、それって私が悪いんじゃない気がしますが。
「緑谷君のフルフォルムと通形先輩の”反射”技のことを言いたいのでしょうけど、要はサーの主観において未知のものがあると予知に揺らぎが出るとかじゃないですか?」
だから、それは私のせいじゃないですって。成長した二人に言ってください。
「それにレポートで読んでいたわけですから、通形先輩のほうは少なくとも知っていたはずです。なら、主観で望む、あるいは可能性が高い未来へと進む効率の良いルートを見ていた、と言う事では?より多数が望んだ未来へ補正がかかるとか、ファンタジーみたいな可能性もありますけど。
あ、私そもそもサーの個性の発現を”見た”ことはないので、観測に基づいて~、とかではないですよ。ただの屁理屈です」
何やら目配せを交わし合う、サーと、オールマイト先生、それに相澤先生。
緑谷君は緊張、そして通形先輩は何か興味深そうにしている。
「なるほど。わかった。話は変わるが茉芭少女。君、相澤君みたいに個性の動きを止められるようになったと聞いたけど、どの程度できる?」
「あぁ、
それでも十分使えるのは、入中と壊理ちゃんへの使用で証明できたけど、もう少し使い勝手は良くしたい。詳細を知る相澤先生が、状態と今後の目安を聞いてくる。
「距離を取っての使用は出来そうか?」
「まずは純粋に遠隔操作の向上。電気系個性の放電に干渉するより難易度が高いので。加えて、神経上の電子と個性に紐づく電子の流れ、神経網ならぬ個性網と言うべき不可視のそれに紐づく電子の識別精度を上げないと厳しいと思ってます」
「目途は?」
「通常電子なら部屋ぐらいの距離はどうにか。識別については必殺技訓練や空き時間で試しているところです」
言いながら、天井の電気をつけたり消したり。もしかしたら超常以前のポルターガイスト現象って、こういう個性の発現だったのかもしれない。
「なるほど。距離伸ばしと並行して進めろ。現状でも大丈夫そうだが、もう暫くは習熟にあたれ。オールマイトとサー・ナイトアイが連名で依頼したいことがあるそうだ。非公開のものになるがチームアップ要請のようなもんだ」
「つまりそれまでの間、イレイザーヘッドのサイドキック扱いのまま、と?」
「そう言うな。普段の就労はないに等しいから、ボランティアの方もやれるようにしておく。それと、成功報酬は弾むぞ。この二人が」
その言葉に頷くお二方。元ナンバーワンとそのサイドキックの依頼なんて断れないよねぇ
一体何がしたいのだろうと気になるが、どのみち自分にも必要なこと。精々期待に応えられるよう、頑張ろう。
サー・ナイトアイ事務所の人手不足に関しては、一応、三奈ちゃんと一佳は推薦しておいた。面談はしてくれるそうだけど、さて、どうなることやら。
ボランティアパトロールに関しては、どういう風にねじ込んだのか、イレイザーヘッドのサイドキック扱いで別枠になったのかあっさりと順番が回ってきた。
今日は珍しく、初代インゲニウム、飯田先生とインゲニウム、飯田君と3人で住宅街のパトロール。
「記事は見たし、HNに流れた報告も見た。大活躍だったみたいだね」
「ありがとうございます」
ちなみに飯田先生はヒーロー免許は返上はしていないがコスチュームではなく、普通のジャージ姿。雑談しながらではあるが、住宅地の見回りで注意すべきポイントなど、要所要所で説明をしてくれるので、とても助かる。
全周囲視界があっても漫然と見ていたのでは意味がないし。
インゲニウムもフェイスガードで表情はわからないけど、真剣に周囲に目を向けている。
「天哉もウチで、と思ってたんだけど、事務所の代表が変わったこともあって実績不足でね。マニュアルさんも今はまだ無理だし」
「そうなんですね」
「それについては深く反省しております。二度と、兄さん、いえ、インゲニウムの名を穢すような真似はしないと誓います」
何かあったとは思っていたけど、反省するようなことやったのか。ヒーロー殺しに襲われた、ではなくて、戦闘を仕掛けたんだろうなぁ、多分。
「硬いなぁ、天哉は。もう少し肩の力を抜かないと、いざと言うとき動けないぞ」
「はいっ!ご指導ありがとうございます!!」
「……これだよ。優秀なのはいいけど、融通が利かないのは困りもんだね」
「あははは」
パトロールである以上、話はしながらも個性は使いっぱなし。
死穢八斎會の事件で数値的にも伸びた、とホワイトマウス先生に太鼓判を押されたが実際に距離にしてみれば一気に500mを越えている。
その分の負荷は大きいが、学校内だと”見る”事に対する慣れも出やすいのでこうして外に出られるのはありがたい……それが狙いか。
相澤先生、やることがつくづく合理的だなぁ……そして、変についてると言うか、見逃せないから気付いてよかったんだけど。トラブル体質でも憑いてるかな?
「インゲニウム、飯田先生。ヴィラン、というか、コソ泥です」
「わかった。通報と案内を」
言いながらスマホを取り出し、110番通報。
『はい、警察です。事件ですか?事故ですか?』
「雄英高校地域ボランティアパトロール、仮免ヒーロー・ブルーアンバーです。○○町46番地で住居不法侵入。侵入先から出ていないため、サイレンを鳴らさずに急行願います」
『りょ、了解です!』
目当ての住居につくと、一見して普通の一軒家。ただ内部ではあちこちを物色している様子が伺える。
「裏手に回っておきます。正面はインゲニウム、お願い」
「うむ、分った。飯田先生は退避しつつ、住民の誘導を頼みます!」
「わかった」
包帯捕縛術を使って電柱から屋根伝いに反対側へ。パトカーが知覚圏内に入ったから、一安心だろう。
ざっと室内を漁ったらしいコソ泥が玄関から出てくると、そこには腕組みをして仁王立ちをするインゲニウムの姿。
「げぇっ!ヒーロー!!」
いつでも全開にできるよう、重低音を響かせるエンジン音も相まって、インゲニウムの姿を一回り大きく見せていた。
「大人しくお縄を頂戴しろ!犯罪者!!」
「るせぇ!ここで捕まってたまるか!」
足がバネの様にしなったと思ったら、そのまま跳躍してインゲニウムの上を飛んで逃げようとする。まぁ、相手が悪かったとしか。
「逃がさん!レシプロ・バーストォッ!!」
足をバネにして速度を出せるみたいだけど、鍛えてないのか高度は出ないし、速度も半端。あっという間にインゲニウムに取り押さえられた。
「くそぉっ!その格好と言いスピードと言い、インゲニウムもどきかよぉっ!」
「ふん!俺はインゲニウムの名を継いだ!インゲニウムは倒れない!何度でも立ち上がる!!」
どうもインゲニウムを知っているヴィランらしいけど、相手が悪かったね。お気の毒様。
「知ってるヴィランですか?」
「あー、何年か前に捕まえた覚えがあるよ。ヴィラン名バネ足ジャック。前科3、いや4犯の空巣狙いの窃盗犯。今度は長くなるだろうね。まったくちゃんと使えば活躍の場はいくらでもあるのに」
心底勿体なさそうに言う飯田先生が印象的だった。
そしてこの活躍、通りすがりの主婦によって撮影されて、「新たなインゲニウム!デビュー!」とちょっとしたニュースになった。
……もちろん、そのニュースに私の名前はないけど。いや、いいけどね。
ほぼ日常パートの回ですね。なんか地味に耳郎に強化フラグが立ちました。
本作の捏造エンドに向かっての種まき回でもあります。予定通りに指が動くといいけど。
次のイベントは文化祭。そこに向けて少しずつ伸びてますよー、とやろうとしたら何故かインゲニウムの方が目立ってしまったw
まぁ、本作では飯田は地味に割りを食うことが多いで、たまにはいい目を見てもらいましょう。
追記:感想でヴィラン名を頂いたので、折角だから採用しました。武良工事様、ありがとうございました。