クリスマスパーティーの翌日。体調に関してはほぼベスト。
ウォームアップを兼ねた朝の自主トレもしっかり行い、制服を着て校舎に向かうところで轟君に会った。
「上鳴、何かあったのか?」
「おはよう、轟君。インターンがらみで先生と面談。大したことじゃないよ」
軽く挨拶を済ませて進路指導室に向かおうと思ったら、珍しくまだ話があるようで呼び止められた。
「インターン、親父のところはどうだ?俺からも話をするし、ほかにも爆豪と緑谷にも声をかけてる」
メンバーが豪華すぎて、そこに加わるのは躊躇するね。お誘い自体は嬉しいけど。
「とりあえず先生との話次第かな。気を使ってもらってありがと」
「あぁ」
さて、どうなることやら。正直、ろくなことが起きない気がするのだけど。
進路指導室にいったん集まった後、あいさつもそこそこに、窓ひとつない会議室に移動になった。
通常は生徒が立ち入ることはない、盗聴対策がかなり高いレベルの部屋らしい。
この場にいるのは、オールマイト先生とサー・ナイトアイに緑谷君が依頼者の立場として。そして依頼を受けた側としてイレイザーヘッドと
そしてさらにもう2人。お一人はグラントリノなので、やっぱり緑谷君絡みで確定だろう。
「面倒をかけるね、
「いえ、お気になさらず」
「先日のニュースは見たよ、ブルーアンバー。大した練度だ」
「それで、俊……オールマイト。わざわざ儂まで呼び出して、ブルーアンバーの嬢ちゃんに何をさせる気だ」
心配してのセリフとわかるので、素直にありがたい。
ただ本題に入るに確認したいことが。
「本題に入る前に、私からもお伺いしたいのですが、なぜここに爆豪君が?」
「俺が知るか!デク絡みだろうが、テメェ、何やらかした!」
「もちろん説明するよ、爆豪少年、茉芭少女。緑谷少年が、爆豪少年にも事情を知ってもらいとのことでね。私もそれに同意した」
緑谷君の個人的な事情?幼馴染と言う割には入学当初は凄かったから、根の深い確執があるのだろうとはわかるけど。
「……それはつまり、コイツの個性がオールマイト、元はアンタのモンだったってことか?」
「気づいていたのかね!?」
「確信したのは、たった今だ。前にデクの野郎が、授かりモンとか抜かしてやがったからな。アンタの露骨な贔屓っぷりに加えて、神野のアレと今日の招集。他人の個性にちょっかい出せるチビまでいたら、馬鹿でも想像つくわ」
だとすると私は大馬鹿になるのだけどね。二人を”見て”、親子関係を疑う程度に似た印象を受けたことはあるけど、個性の受け渡しなんて想像したこともなかった。物間君のコピーとか見てるのにね。
「黙っていてくれたことには礼を言うよ」
「言ったところで、そんな胡散臭い話、誰が信じるかよ。リスクと見合わねぇってだけだ」
爆豪君が悪態をつくが、確かに簡単に信じられる話ではないね。でも個性って遺伝するし、脳無のことを考えれば、ありえないことはないのかも。
「あの、我々は事情がまったく分からないので、まずは事情の説明を頂いても?爆豪が言う、個性の譲渡、ですか?そんな出鱈目な個性があるというのはともかく、わざわざ、情報を開示する意味は?しかも本来は無関係の上鳴や私まで関与させてまで。その緑谷に譲渡されたとか言う個性と接触して何をしようと?」
「わかっている。すべてを話すよ。信じられないかもしれないがね」
そこから語られたのは、ワン・フォー・オールと言う特殊な個性の成り立ちに関する話。黎明期から続く戦いと、オールマイトから緑谷君への継承へと話が続く。
爆豪君にとってはいい思い出ではないだろうが、ヘドロ事件で見出された緑谷君。
9代目となる緑谷君は生まれたときは無個性で、入学前にワン・フォー・オールを継承した。それに振り回されて大怪我してるあたりは、オールマイト先生の不手際としても、何とも物語の主人公みたいな生き方だなぁ
緑谷君のヒーローになろうという意思は間違いなく本物。クラスのだれよりも強いあこがれを持っていると思う。
でも正直、その後の生き方は狂気そのものだと思う。
そりゃ、誰かを救うヒーローを夢見ながら道がない無個性の人に、
そして、神野事件で逮捕されたヴィラン、そのヴィラン名がオール・フォー・ワンなのだという。
「都市伝説だと思ってましたよ。実在したんですね」
「あぁ、そしてワン・フォー・オールの中には歴代継承者の方々の意志が宿る。その意思と緑谷少年は夢を介してコンタクトができる。私にも出来なかったことだ。その意思が、私や茉芭少女との接触を求めているそうでね」
「はい?」
いや、それは正直、訳が分かりませんが。
緑谷君の個性、超パワーではなく、ワン・フォー・オールと言うソレに触れて、人を感じたことは2回。緑谷君を除く歴代8人のうち何代目か知らないけど、そんな気にいられる要素はないと思う。
「お前、フルフォルムに道筋をつけたんだろう?同じことをもう一度やれ、と言う事か?例えばその意志?を現実に引き出すとかか?緑谷、お前聞いているか?」
「いえ、僕も詳しくは。ただフルフォルムを導いた個性の持ち主やオールマイトと会話したい、とのことで。
それとは別にオール・フォー・ワンに対して別のアプローチをとも言っていたので、オール・フォー・ワンに関係することなのは間違いがないと思います」
緑谷君も知らないのでは仕方ない。ともあれ、向こうから用事があるというのなら、やるだけなのだけど、この状況が面白くないのが1人。
「なら、俺はもう関係ねぇな?帰る」
「爆豪少年!」
「事情は聞いた。そんで俺は呼ばれてねぇんだろ。安心しろよオールマイト。言いふらしたりしねぇ……だが一つだけ聞かせろ。なんで、デクなんだ?」
経緯を聞く限り、緑谷君のヒーローになりたいという意志にオールマイトが応えた、ってことだとは思う。でも確かに、はっきりと聞きたいことではある。
「あの事件の時……個性も持たないのに飛び出せた彼は、非力でも……誰よりもヒーローだった。既に土俵に立つ君や轟少年、通形少年じゃなく、彼を土俵に立たせたい……あの時の彼に、私は惚れこんでしまったのさ」
困っている人を見て、思わず体が動く。まったくないとは言わないけど、多分、報道や動画で見たヘドロ事件のシチュエーションなら私は動けないだろう。今ならともかく、入学前の私はモバイルバッテリー1個分の電撃が精いっぱいだった。無力感に唇をかむのが精々だ。
「……そうかよ。ムカつく話だが、俺のやることは変わらねぇな」
「うん。私やエンデヴァーを超えて、さらに先を目指すのだろう?」
その目標は爆豪君らしいと思う。
「ただ、今までとは違ぇ……デク」
「な、なに!?」
「授かりモンだろうが、オールマイトの力だろうが、何だろうが俺には関係ねぇ、テメェやあのキザヤロー、そこのチビにも完膚なきまでに勝って、ナンバーワンになるのは、この俺だ」
「うん。でも、僕も負けない。きっと、かっちゃんより先に行く」
「……ケッ!だからそのテメェを超えていくってんだ」
「いやだから、その更に上を目指さないと。僕は、色々と出遅れているし……それに」
「あ゛?」
「色々な人に助けてもらってここに居るのに、それを忘れて……色々間違えて、心配させてきた。それでも諦めたくないんだ。僕は、誰にも心配させず、必ず助けて、必ず笑顔で帰ってくる。そんなヒーローになりたい」
「……そうかよ」
それだけ言うと、爆豪君は出て行った。
情報量が多すぎて、感情を整理する時間は必要だろう。爆豪君、緑谷君の異常な気質はわかっているみたいだし。
今のセリフを聞く限り、いくらか安心とは思うけど。いつか、心底から和解できる日が来るといいな、と思う。
爆豪君と緑谷君の友情の問題は後に回すとして、後はやるだけとなったが、イレイザーヘッドはこの接続に参加する気はないという。
「一応、危険と判断したら上鳴を止めるのに同席はしますけどね。もとより、そのつもりだったんでしょう?オールマイト?」
「すまないね、相澤君」
何とも微妙な感じだが、とりあえず相澤先生を除くメンバーでワン・フォー・オールへの接触を試みることになった。
「とりあえずどうしようか考えたんですが、一番楽と思える方法を取らせてください」
つまり有線接続。正直適当なLANケーブル使おうか?とか、ブルーアンバーにちなんで琥珀でも用意しようかと悩んだけれど、緑谷君の個性と繋ぐのあれば、もっと確実な方法がある。
「緑谷君、全員に黒鞭をお願い」
「……うん、わかった」
要するに糸電話の糸代わりに接触対象である緑谷君の個性そのものを使う。
「では、ダメだったら諦めてくださいね……Hello, "One For ALL".
瞬間、私の意識は闇に呑まれた。
気が付くと、荒れ果てたコンクリート造りの部屋の残骸と、場に不釣り合いな玉座に座った8人の人物。うち2名は見覚えがあった。
「……志村!」
「グラントリノ……」
グラントリノが駆け寄ろうとするが、体を動かす事が出来ないのは、他人の個性の中ゆえか、私の力不足か。
自分の姿はどうなっているのか……よかった。コスチューム姿だ。どういう理屈か知らないけど。
「むぅ、アレは私か」
唯一、顔などがわからない金色の人物像を見て、オールマイト先生が自身であると告げる。それに頷く金色の存在がオールマイト先生に手をかざすと、久しぶりに見るマッスルフォームの姿に。
「来たね。緑谷出久に八木君。それと特異点……いや、上鳴茉芭さん。僕はワン・フォー・オール、その初代だ」
「はぁ、初めまして。早速ですがご用件を……と言いたいですが、その前に」
この未知の空間でも私の個性は有効で、この場で話をすること自体が何かの詐術と思えてしまう。
「なにかな?」
「こんな薄っぺらい
「え?上鳴さん!?書き割りって何の―――」
言い終わるより早く、パリンと空間が割れる音がしたと思ったら、崩れ落ちた先に広がるのは同じような風景。ただ違うのは、宙に浮いたゆりかごとその中で、蒼く光り眠る赤ん坊。その赤ん坊は目が覚めたのか、あたりを見渡すと、ゆりかごをすり抜けて私めがけて飛んできた。
「まーは!」
「わっ!」
ずり落ちないように慌てて抱える。確かな重さを感じる。オールマイト先生の話にもいなかった継承者?でも赤ん坊だし、なんなんだろう?
「あっ!その声!」
緑谷君は何か心当たりがあるらしい。オールマイト先生もわずかに記憶を探る様子を見せたけど、ポンと手を打った。
「あぁ、最初にワン・フォー・オールの夢を見たときに聞いたとか言う声だね」
「はい。まさか赤ん坊だったなんて……」
当事者がわからないんじゃ、この現れた人たちが説明してくれるのかな?
なんか、髪の色と言い、赤ん坊の私みたい。いや、まさか、ね。
「……えっと、はい?なんで、個性の中に、赤ん坊??」
流石に訳が分からない。そう思っていたのだが、歴代継承者の中で唯一の女性である、志村さんと言う方が、私にしがみつく赤子を抱き上げてくれた。
「あー!」
「ほら、だから言ったんだ初代。緑谷の目で見たこの子はこんなまやかし見破るって。アンタの事はオールマイト、俊典を介して聞いたよ。私なんかのことを好いてくれて、ありがとうね」
あ、そうか。見覚えがあると思ったら、あの動画。
小さいころに、1日だけ、動画サイトにあったあのヒーロー……
「……はい。お会いできて、うれ、しい、です。でも、前に……頭、撫でて、貰いました」
「はは、意外に泣き虫だよね。イイ女はね、好いた男の前以外じゃ泣かないもんだよ。覚えときな」
「はい……覚えて、おきます」
妙に生々しいアドバイスだけど、覚えておこう。そして冷静になったと同時に、涙も引いた。この辺は精神世界と言う事かな?
「ええと、それでこれはどういう理由なのでしょう?茉芭少女とお師匠を会わせたかった、と言うだけならそれはそれで構いませんが」
オールマイト先生が話を元に戻そうと初代に話しかけている。確かに、いつまで維持できるかわからないから、話は早く済ませるに限る。
「もちろん違う。長時間の接続はまだ負担だろうし、外から干渉される前に本題に入ろう。もうすぐ奴が、オール・フォー・ワンが再び動き出す」
「……奴はオールマイトが倒し、タルタロスに収監されています。あの絶対の防御を誇る監獄から、奴が脱獄すると?」
「その可能性もある。それよりも死柄木弔。奴が問題だ」
サー・ナイトアイの指摘に死柄木弔の名を出してきた初代。ヴィラン連合がオール・フォー・ワンの影響下にあるとしても、最近はメンバーも減って活動も低調。
このまま自然消滅しそうだけど。
「八木君、君は投獄後の奴に会っただろう?君の中に残るワン・フォー・オールの残滓を介して、我々も見た。そして確信した。
あの用心深い男が、神野で、敗北濃厚な状況でオールマイトの前に立った。そこをおかしいと思わねばならなかった。
奴にオール・フォー・ワンが渡った可能性がある。オール・フォー・ワンは高齢だし、個性で寿命を伸ばしていても限界はある。何より、八木君との戦闘で傷つき、マスクがなければ生命維持もままならない。
その上で、奴はワン・フォー・オールを欲している。
そして個性にはこうして意志が宿る。奴はその宿った意志を使い、他人を、死柄木弔を乗っ取り、若い体でさらなる混乱と破壊を世にもたらすだろう。
奴が、真の魔王になってしまう」
魔王とはまた。でも確かにあの神野での戦闘力がさらに強化されたらまさに魔王と呼ぶにふさわしいかもしれない。というか、アレで弱体化してたってこと?オールマイト先生が戦っていたレベルが凄まじすぎませんか!?
「しかし、かの存在の個性は奪うか渡すか。自らのコピーを作るなどできなかったはず……いや、まさか!?」
「そう。脳無だ。アレは複数の個体が超再生というレアな個性を保有している。何らかの方法で個性をコピーして、他人へ移植する。そうした技術を確立している。
つまり、やろうと思えば自らを増やすことも出来る。仮に死柄木弔を殺しても、オリジナルは生きているし、両方を殺す前に最低限の因子を他人に移植していたら、また奴が復活する。
故に、僕たちは、オール・フォー・ワンを、僕の兄であった男や死柄木弔を殺すよりも、その根幹であるオール・フォー・ワンと言う個性を滅ぼすことが必要だと考えた」
いや、あの、基本的にその二つはイコールだと思うのだけど。
「最低限、死柄木弔に宿るオール・フォー・ワンの意思。これは倒さねば全てが滅びかねない」
それはつまるところ、そのオール・フォー・ワン、オールマイトと互角に殴り合う強力なヴィランに対して緑谷君が立ち向かう。しかも現実だけでなく、こうして個性の中で。その橋渡しをしろと言う事かな。正直、難易度ルナティック過ぎる。
「それはつまり、ワン・フォー・オールと何の関わりもなかった茉芭少女に、オール・フォー・ワンと対峙しろと?」
「申し訳ないがそうなる。それ以上に、僕が彼女に会って、お礼を言いたかったのだけど」
はて?面識もない人にお礼を言われるというのは、訳が分からないのだけど。
「ええと、すいません、理由がさっぱり見えないのですが」
「ワン・フォー・オールの成り立ちは聞いているね?
僕自身が持つ個性は「個性を与える個性」と言う単独では何の意味も持たない個性だった。そこにヤツに与えられた「力をストックする個性」。これが混ざり合って生まれたのが、ワン・フォー・オール。僕自身、ずっとそのことに違和感すら抱かなかった。
けれど君が緑谷君の体から
その表情だと、覚えてないね。緑谷君、フルフォルムを初めて発現した日のこと、思い出せる?」
「え?あ、はい。とてもよく覚えてます」
そんなことやったっけ?と思ったら、現在の継承者である緑谷君の視点で、フルフォルムを発現させた日の私の映像が浮かび上がる。ちょっと思い出したけど、集中するために目をつぶっていなかったっけ?
『……出ておいで。怖くないから』
……確かに言ったらしいけど、覚えてないよぉ!なに変なこと言ってるの、過去の私ぃ!?
「その結果、僕らがいるこの場に現れたのがその子だ。慌てたよ。緑谷君が夢でこちらに来たときは必死に隠してね、幸い、7代目が子育ての経験があったから……って、その辺はいいんだ。見栄だし」
死んでからの残留思念となってまで見栄を張らないでください。心なしか、サー・ナイトアイや緑谷君ですら呆れてる感じだ。
さてさて、このどうにも混沌とした話し合い、どうなるんだろう?
思ったより長くなったのでここで分割します。
こじつけ伏線は第28話、第52話をご覧ください。
コミックも買って読みましたけど、原作の決着を待たずに終わらせてしまおうと思い、原作をここから大きく捻じ曲げます。
これに関しては、好みが分かれるとは思いますけど、モノによっては神野でAFOがボコられて終わってる世界もあるし、二次ゆえのお遊びと笑ってやってください。