雷速少女のヒーローアカデミア   作:K鶏

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第86話 冬のインターン(1)

「ようこそ、エンデヴァーの下へ!……などと言う気分ではないな」

 

 極上の笑みを浮かべて歓迎、と言うのは期待してないが、いきなり露骨に嫌そうな顔をされても。流石、ヒーロー科の女子みんなに「あの親とうまくやれる気がしない」と対象外にされる原因だけはある……そう思うと、私って、かなり無謀なことした気がする。

 

「焦凍の頼みだから渋々受け入れたが、正直、焦凍だけで、よかった……」

「一度受け入れておいて文句言うなよ」

「……焦凍」

 

 焦……おっと、人前なんで轟君!に言われて情けない声を出すあたり、仲は悪くないようで何より。意識して切り替えないと、絶対ポロッと出る。

 あとは、余計な口を滑らさないことを祈る。自分も気を付けよう。

 不承不承と言う感じのエンデヴァーの出迎えを受けたけど、私を見ると、ほんのり顔が緩んだ気がした。なぜに?むしろ体育祭のことで睨まれてもおかしくない。

 

「君は……久しいな」

「はい。お久しぶりです。インターンの受入、感謝します」

「よろしくお願いします!ナンバーワンヒーローの活動、しっかり学ばせていただきます!」

 

 少し気負い気味なのが緑谷君。ワン・フォー・オールの件があるから、わからないでもない。面白くなさそうに歩き始めたエンデヴァーの後ろをついていく。

 そのまま徒歩で事務所かと思ったけど、突然、車道に飛び出して駆け出すエンデヴァー

 

 その直後、前方に爆発のような音。

 

「すまんが焦凍以外に構うつもりはない……が、学びたいなら後ろで見ていろ!」

 

 駆け出したエンデヴァーに、ヴィラン犯罪と言うことで個性を全開にする。

 おおよそ800mほど先に、空中に浮く人の姿。探知系個性もないのに、あの距離での異変に気付くの!?

 

「指示をお願いします!!」

「聞いてなかったのか!後ろで見ていろ!!」

「追って!活性化(アクティベート)!」

 

 轟君、爆豪君、緑谷君の神経に干渉して瞬間的に体をほぐす。特に爆豪君には念入りに。これで瞬間で体温が上がり、爆破の効率が上がるだろう。

 ……咄嗟にやったけど、複数同時干渉、前よりだいぶ楽だった。なるほどこういう感じか。イイね、思いつきに体がついてくる。

 

「礼は言わねぇぞ!」

「ありがとう!」

「助かる!ま……ブルー!」

 

 うん、ちょっと危うかったね。てか、隠そうとするだけ無理かなぁ?覚悟はしておくとして、最低限、TPOの範囲で自重はしてほしいけど。

 それぞれ最小限の装備をカバンから取り出し、駆け出していく。さて、エンデヴァーと爆豪君の荷物を回収してから追いかけますか。

 

「こっちで保管しておくから、君も追って」

「わかりました、お願いします」

 

 少し離れたところに居たエンデヴァーのサイドキック、確かオニマーさんとキドウさんに荷物を任せ、私もガンベルトとバイザーだけを身に着けると後を追って駆けだした。イオノクラフト効果で体を軽くして、包帯を使って街灯からビルの壁を蹴り上げて追いかける。

 寒いんでストッキングはいていてまだよかった。若干恥ずかしいものはあるけど。

 大通りではエンデヴァーがヴィランと接触したけど、即捕獲とは行かず、通りからは逃げられた。

 

「上空にもう1人……羽根?ホークス?」

 

 他いくつか、微妙な動きを見せる人が居るけど、今回の事件とは無関係なヴィランかその予備軍だろう。距離を取る様なので今は無視。

 ホークスはなんでこんなところに居るのかわからないけど、介入しないなら放置。少なくともヴィランではないわけだし。

 さて出遅れた現状だと、逃走経路を予想して回りこむのがいいかな。最短ルートを選びながら進むと、大通りから1本外れた裏路地に、鉄パイプで武装している男が3人。トラップのつもりか、電柱にワイヤーをかけている。

 

 正直、この程度の武装でエンデヴァーをどうにかかできると思わないけど。待ち伏せしていた3人に轟君達が接触する方が早い。

 万が一はないと思うけど、念のため合流だけは急ごう。

 

「いまじゃ!」

「「「はい!マスター!!」」」

 

 ワイヤートラップと鉄パイプで殴りかかろうとした3人の手下に対して、轟君、緑谷君、爆豪君がそれぞれ攻撃を加えるより一瞬早く、ホークスの羽根が3人を叩きのめしていた。

 手出しは無理と思ってた。流石はナンバーツー。速すぎる男の異名は伊達じゃなかった。

 

 

「あれ?あぁ、インターンか」

「ホークス!?」

「悪かったね。俺のほうがちょーっと、速かった。いやぁ、エンデヴァーさんがピンチかと思って」

 

 轟君の隣で逃走ルートを塞ぐ。一般人が入りこんだら誘導しないといけないし。

 

「この俺が、苦戦しているように見えたか?」

「見えたよね?焦凍君、それとそっちの雄英の子?」

「はぁ」

 

 轟君のことは覚えてて、私は制服だけで判断された。体育祭、ホークスの記憶に残るほどでは無かったってことか。

 

「……来るときは連絡をよこせ」

「いやぁ、マジ、フラッと寄っただけなんで」

 

 程なくして到着した警察に今回の騒ぎを起こしたヴィランとその手下3人を引き渡して事態は収束。

 エンデヴァーに対して、強すぎる光がどうとか叫んでる。オールマイト先生の時代にしても、トップの光は強かった。その意味じゃなにを今更なんだけど。電子の状態からブースト薬キメてるのはわかるけど、他に変なクスリでもやってんじゃないの?

 

 警察とのやり取りを終えたエンデヴァーに、ホークスが近づく……いや、あの、その状態、何だろう、この人?

 

「あのっ!始めまして!雄英高校ヒーロー科1年A組、緑谷出久です!」

「知ってる。なんかすごいパワーある子でしょ。ツクヨミ君に聞いてる」

 

 そのツクヨミ、常闇君はホークスの本拠地、九州でお留守番と言うか、サイドキックの方と活動中だとか。

 

「それで、なんの用だ、ホークス」

「用ってほどじゃないんですけど、エンデヴァーさん、この本、読みました?」

 

 ポケットから取り出したのは異能解放戦線と言う1冊の本。確か、デトネラットの関連会社が少し前に出した本だったはず。アレで投資を切ったからよく覚えてる。黎明期のヴィランの手記をナンバーツーが?

 

「……それが何だ?」

「いやね、知ってます?最近急に伸びてるんですよ。昔の手記ですが、今を予見してるんです」

 

 曰く、一部の限られた者に自由を与えれば、しわ寄せは与えられなかった者に行く、と。それは別に予言でも何でもないと思うけども。多分、個性行使が比較的自由なヒーローに対して、一般人は抑圧されているって言いたいのだろう。

 専門職なら個性ありきの職も多いんだし、そちらを選べばいいだけだと思う。もちろん選べなかった事情も人それぞれあるだろうけど、それは個性の有無に関係なくあり得る話。

 

「時間なければ、俺、マーカー引いておいたんで、そこだけでも。異能解放軍の指導者、デストロが目指したのはあれですよ、自己責任で完結する世界。時代に合ってる!」

 

「何を言っている」

「そうなれば、エンデヴァーさん。俺たちも暇になるでしょ?」

 

 うん、胡散臭い。私が見える限りで推測すれば、裏があるんだろう。ともあれ、ホークスはエンデヴァーに本を手渡すことに成功していた。

 

「読んどいてくださいね」

「ナンバーツーが推す本。僕も読んでみようかな。あの速さの秘訣とか書かれてるかも」

 

 いや、あの、さすがにそれはない。ホークスの話しぶりからして、書いてあるのって、精々が時代遅れの無政府主義(アナキズム)を異能、今でいう個性で装飾しただけでしょ、多分。

 

「そんな君に持ってきてました!」

「用意がすごい!」

「そうそう!時代はナンバーツーですから!」

 

 そう言って、本を手渡してくる。うん、何とも胡散臭い本だなぁ

 テロ系のヴィランの思考を理解するという意味では有益かもしれないけど。予想通りの内容か確認してみる程度には読んでみよう。

 

「この本が大好きなんですね。こんなに持っているなんて」

「布教用だと思うよ」

 

 流石オタ。オタの事がよくわかっていらっしゃる。

 

「そうそう。全国の知り合いとかに勧めてるんですよ。これからは少なくとも解放思想が下敷きになっていくと思うんで。マーカー部分だけでも読んでくださいね。2番目のおすすめ、なんスから。じゃあ、雄英生、インターン頑張ってね」

 

 それだけ言い残して、ホークスはどこかへ飛び去った。

 

「若いのに見えてるものが全然違うね……確か、まだ22だよ」

「6歳しか違わねぇのか」

「ムカつくなぁ」

 

 爆豪君的には実戦の場を奪われたのが不満らしい。

 

「実戦経験で6年の差は大きいね。警戒してないのもあったけど、羽根の発射、タイミングすらつかめなかった」

「……そうなのか、スゲェな」

「ね。流石、プロって感じだった。と、ちょっと待ってね轟君」

 

 パラパラと本をめくっていたエンデヴァーがとりあえず興味を無くしたか、こちらに視線を向けていた。

 

「エンデヴァー、1つ報告が」

「なんだ?」

「ちょっと気になったことがありますが、街中ではちょっと」

「よし……事務所へ戻るぞ」

 

 事務所に戻るなり、気になった点を問いただしてくる。

 

「それで、気になったこととは?」

「ホークスですが、普段から微小な機械類を持ち歩く人ですか?」

「……なに?」

「本人に大量の電子の塊が見えました。サポートアイテムと言う可能性もありますが、少々不自然に感じたので」

「……よくわかった。このことは他言無用だ。お前たちも、いいな」

「「「はい」」」

 

 それだけを告げて執務室に籠ったエンデヴァー。放置された私たちはその間、サイドキックの皆さんが相手をしてくださることに。

 

「ようこそ!エンデヴァー事務所に!!」

「「「俺達、炎のサイドキッカーズ!」」」

 

「爆豪君とショート君は初めてのインターン、ってことでいいね?しかしウチは大手!サイドキックは30人以上!つまり……アンタたちの活躍する機会は、なぁい!」

 

 エンデヴァーのサイドキックとして知名度も高いバーニン。直接見るのはもちろん初めてだけど、煽ってくるなぁ

 緑谷君は有名サイドキックに目を輝かせてる。轟君は見慣れてるか。

 

「面白れぇ、プロのお株を奪えってことだな」

 

「そのとーり!まぁーしかし!エンデヴァーはショート君だけを所望していたのもあるしぃ、他の3人は私たちと活動、ってことになるかもね」

 

「ナンバーワンの仕事を直接、見られるからってんで来たんだが!?」

「かっちゃん!見られる!見られるから!!」

 

 私個人としては、エンデヴァー直属になる必要はない。実戦経験を積んで来いってのがお題だし。

 少々、離れがたいけど。

 だってねー、勢いで動いたけど、今の生活だとデートとかもできないし。放課後マックすら夢物語のヒーロー科だから仕方ないけど。

 暫く待つと、読み終えたのかエンデヴァーが執務室から出てきて、着替えて訓練室に集合するように指示を受けた。

 

 

「ショート、デク、爆豪、ブルーアンバー、お前たちは、俺が見る。だがその前に、デク、爆豪、ブルーアンバー、貴様らの事を教えろ。今、抱えている課題、出来るようになりたいことを言え」

 

 デクはもう後は100%の使いこなし、と思ったら本人的にはまだ更にあるようだった。

 

「力のコントロールをより細かく、効率的に最適なパワーを引き出すことと、最大値に耐えうる体作りです」

「確か、超パワー、だったか?」

 

「はい。入学当初は調整も難しくて、よく自滅していました。ですが体を壊さない制御を、色々助けてもらって身に着けて、違う形での発現も出てきて、そっちの習得もあって、100%の出力に耐えきるにはまだ時間がいるんですが、その最後の10%ちょっととさらに細かい制御が難しくて」

 

「見せろ」

 

 言われて出したのは黒鞭。そしてフルフォルム。

 

「このフルフォルム、上鳴さん……ブルーアンバーの協力で完成しました。僕自身が持つ個性のエネルギーで全身を守り、肉体許容限度以上のパワーでも怪我から守ってくれます。ただ、この形を維持するのに高い集中力が必要ですし、その状態で更に他の技を使うとなると難しく。さらに発現後に出力調整が難しいです。ただこれのおかげで体をより効率的に鍛える事が出来、フルフォルム無し、フルカウルと言う制御手法でも70%前後までは目途がつきました。ただこのフルカウルも原理は同じ技なので、制御に関しては同じ問題を抱えています。後は時間と経験が必要と言うのが、以前お世話になったサー・ナイトアイからのアドバイスです」

 

 うん、長い。バーニンさんが呆れてるけど、エンデヴァーは真剣に聞いている。

 努力(エンデヴァー)の人だからね。そういう頑張りは嫌いじゃないのだろう。

 

「常時綱渡りか……難儀な個性を抱えたな。次、爆豪」

 

「俺は逆に、何が出来ねぇのか、知りに来た」

「アッハッハハハ、生っ意気ー!」

「うるせぇ!なんでさっきからテメェがいるんだ!仕事しろ!」

「アタシ、今、待機!」

 

 待機中の暇つぶしですか。とは言っても、半分ぐらいは一緒に動く際の情報収集かな。

 

「俺の個性「爆破」はやりてぇと思ったこと何でもできる。たった一つしかなくても最強になれる。だが、ただ強ぇだけじゃ足らねぇってのも嫌って程、知った。俺は、ナンバーワンを超えるために俺に足りねぇモン、見つけるためにここに来た」

 

 爆豪君の場合、愛想とヒーロー名じゃないかな?愛想はエンデヴァーにもないけど。それこそ、ホークスを見習うといいと思う。

 その才能を伸ばす努力に関しては、誰よりも真摯だしね、爆豪君の場合。

 

「……そうか。最後、ブルーアンバー。それとデクの技についての協力と言うのも話せ」

 

「私は、総合力の底上げと実戦経験を求めてここに来ました。

 私の個性「電子操作」は名の通り電子を操ります。正直、私自身も予想してなかった成長をして、他人の個性に対しての干渉能力を得るに至りました」

 

「まて、個性への干渉、だと?」

「試してみますか?」

「面白い、やって見せろ」

 

 クラス対抗戦では暴走した砂藤君にはじかれたから、ちゃんと集中して。

 

機能休眠(スリープ)!」

 

 お試し、と言うことで力を抜いてくれたのもあるだろうが、エンデヴァーが纏う炎が消えた。

 

「むぅ……む、確かに炎が出ないな。これはどの程度続く?」

 

「私自身と相手の精神力の綱引き、と言うか席取り合戦みたいなところがありますが、大体、今ぐらいのだと1分は持続します」

 

「うっそ、あれじゃまるでイレイザーヘッドじゃない……」

 

 イレイザーヘッドの模倣技ですから、間違ってません。

 

「電子と言うものを操作すると、そこまで出来るのもなのか?」

 

「できると信じて道を示してくれたホワイトマウス、イレイザーヘッドのおかげです。独力では無理でした」

 

「……どちらにしても、それを成した狂……あ、いや、努力には敬意を払う。貴様もデクと同じく、こちら側か。続きを頼む」

 

 今、さらっと狂気とか言いかけましたね。我がことながら同意しちゃいそうですけど。

 けどホワイトマウス先生も、相澤先生も、頑張れば乗り越えられる壁を作るんですよ。そんなの乗り越えるしかないじゃないですか。

 

「干渉系の技としては主に個性発動を止めるか、全身の神経ごと眠らせて無力化しています。後は先ほどのヴィランとの遭遇の際に体を一気に解して動きやすいようにしました。他、副産物としての知覚範囲、約1kmにおよぶ範囲と認識精度や干渉技の威力向上……同時処理数と知覚範囲拡大による負荷の軽減、元々の運用法だったイオノクラフト効果を使った浮遊などの応用技の向上、移動速度アップ等、課題はそれこそ無数にあります。

 デクの件は個性への干渉の一部、ですね。当時は個性の発動を今ほど明確に識別出来ませんでしたが、フルカウルの状況、それ以前の制御の状況を見て、体を壊さないために、個性のエネルギーを防御と体作りのための孵卵器にする技として提案しました」

 

 挙げてみると、デク並みかそれ以上に長かった。エンデヴァーは一応最後まで聞いてくれたけど、これと言ってコメントはなかった。

 

「……いいだろう。では早速―――」

「俺はいいのか?」

「焦凍は赫灼の習得だろう!!」

 

「……あぁ、そうだな。親父、いや、エンデヴァー。俺はお前を超えるぞ」

「ふん!若造が。やってみせろ」

 

 エンデヴァーの表情は険しいが、声には喜色が滲んでいる。

 真正面から親を超えると宣言する焦凍の姿。思わず見惚れてしまい、バーニンさんが遊び甲斐のあるオモチャを見つけた表情をしていたのを見落としてしまっていた。




まずはここで一区切り入れておきます。

本作時空では全面的に和解とはいかなくても、轟のエンデヴァーへの心象はだいぶ良化しています。
まぁ、父親へのこだわりは横に置いとけるぐらいには浮かれてる可能性もありますがw
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