雷速少女のヒーローアカデミア   作:K鶏

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雄英白書も読みましたが、本作でのバレンタインイベントは捏造です。


第94話 バレンタイン(1)

 雄英とエンデヴァー事務所での二重生活も一カ月もたてばだいぶ慣れる。

 

「ふぁ……朝……」

 

 目覚まし時計が遠慮なく朝を告げてくる。季節柄、日の出はもう少し後だけど。二度寝の誘惑を振り切って起床して、風呂場に直行。

 雄英の寮と違って各部屋にはきちんと風呂場が完備されている。異形型で通常サイズの風呂を使えない人はその分、大型のトイレスペースになっていて、風呂は共同浴場を使う。

 

 どうせこの後でトレーニングで汗を流すわけだけど、面倒でもこの作業は欠かせない。こればっかりはなぁ、とぼやきと幸せ半々の脳内を宥めつつ、髪を乾かしてトレーニングウェアに着替えていると、シーツの山がもぞりと動いた。

 

「おはよう、焦凍。トレーニング行くならシャワーはしてね」

「……あぁ、先、行っててくれ」

 

 我がことながら爛れているなぁと思うけど、息子への誕生日プレゼントと称して宿舎を思いきり改装するのは流石にどうなのかと。

 息子に甘いというか、よほど暴発を恐れているのか。

 寝起きが悪いのは加減を覚えない自分が悪いので、焦凍は放って訓練室に向かうことにした。

 

 

「おはよう!ブルーアンバー。昨日はお楽しみでしたね?」

「バーニン、おはようございます。ええ、ほどほどに」

「ちっ、つまんないの。すっかりスレちゃって」

「あはは、毎度のこと何でつい」

 

 バーニンとは、今ではすっかり打ち解けて頼れる姉代わりだ。女性ヒーローの先輩としてのアレコレはもちろん、クラスメイトには今は相談できないアレな分野でもいろいろ相談に乗って貰ったりしている。

 

「まー、ショート君も落ち着いたみたいだし……落ち着いた?」

「……勉強とか睡眠に支障がない程度には」

 

 うん、ちょっと目が泳いだ。流される私も悪いのだけど。

 

「そーゆー似ないでいいところ、加齢臭(エンデヴァー)に似ちゃったかぁ」

 

 サイドキッカーズからは割と散々な呼ばれかたをしている。「あのオッサン」はまだ大人しいほうで「加齢臭(エンデヴァー)」とか「腋臭」とか。バリエーションの出どころは主にバーニンらしいけど。

 執着云々はほかならぬエンデヴァーも心配するほどではあったけど、幸い、インターンや勉強に支障が出るような事態にはならずに済んでいるのでよしとしてください。

 

「さて、そろそろ始めようか」

「はい」

 

 軽い掛け合いを切り上げ、私はいつものストレッチからトレーニングを始める。今日は内勤の予定だから、少しメニューの密度を上げる。

 ストレッチを終えて、ランニングマシンでバーニンと走りながら軽くまた話す。

 

「今日は事務だったね?その後の予定は?」

「夕方には雄英に戻って、次はまた4日後です」

「雄英も狙って日付調整してきたね。ウチは何もないからいいけど」

 

 学校に戻ってのタイミングでちょうどバレンタイン。確かに雄英も狙って日程調整していそう。

 

「バーニン、ブルーアンバー、おはようございます」

「おはよう、ショート」

「おはよう!ショート君。君もさっさとノルマをこなしな」

「はい」

 

 別に事務所としてトレーニングにノルマがあるわけではない。基本自己責任で必要な能力を保持していれば許される。ただそのためにはトレーニングは必須になるわけで、サイドキッカーズはこれをノルマと呼んでいる。

 ちなみに朝の挨拶をやり直しているのは、ほぼ意味のないポーズのような物。だって、部屋がどうこうの部分はバレバレだし。建前って大事だよね。

 なお、焦凍が遅いというわけではない。むしろ爆豪君やデクよりトレーニングに来る時間は早い。要はバーニンと私が朝型と言うか、起きるのが早いだけ。

 一通り汗を流したら、再びシャワーを使って今度はヒーローコスチュームに着替え。食事の後に8時から17時まで就業。

 

「はい。こちらエンデヴァー事務所です……はい、担当に変わりますので少々お待ちください」

 

 エンデヴァー事務所の場合、警察などのヴィラン犯罪の警報は専門のオペレータが居る。インターン組は自分たちの報告書作成や一般の電話対応などが主になる。

 イベント出演の依頼連絡だったので、エンデヴァーのスケジュール管理をしている秘書さんに振って私の対応は終わり。報告書の一次チェック作業に戻った。

 これ、面倒だけど管轄内で発生する事件の詳細と対応のノウハウもわかるので、地味に勉強になる。もちろん本格的な分析をするのは別のデータがあるけど、読まないとわからないことも多い。

 

「報告書の確認と仕分け作業終わりました。3件ほど、詳細が不鮮明なものがありましたので別フォルダに退避しています」

「お疲れ様、ブルーアンバー。あー……うん、コレは、私の方で言っておく」

「お願いいたします」

 

 人数が多いと、いくらナンバーワンのサイドキックと言っても能力にばらつきは出る。数人、報告書と言うものをまともに書こうとしない人がいるのは困りもの。

 もっともそういう人ほど早い時期で独立し、後はパッとしないらしい。

 

 私たちの中では爆豪君の報告書が一番簡潔にまとまっていて、デクと私の分がやや情報過多。ショートが微妙に言葉足らずという塩梅。

 その辺もこの1カ月でだいぶ平均化されてきたけど。

 バカは要約できねぇ、とは爆豪君のセリフだけど、うん、言い方は悪いが参考にはなった。

 

 そんな風に感心しながら自分の報告書を仕上げにかかっていたら、聞きなれた罵声が聞こえてきた。

 

「んだとゴラァ!名乗れっつってんだよ!テメェ!あぁん?文句あるんか、今すぐぶちのめしてやっから、居場所言えやテメェ!」

 

 うん、さすが爆豪君。流れるように挑発して同レベルで喧嘩してるよ。と言うか、今日は電話番中心だったはずだけど、やっぱりやらせるべきではなかったのでは。

 

「……アレでちゃんと相手から情報を引き出してるのがすごいね、彼」

「あははは……アレはちょーっと真似できませんね」

「真似されたらエンデヴァー(あのオッサン)とショート君が怖いからやめて……考えるだけで頭痛い。マッサージ、頼んでいい?」

「はい」

 

 軽くマッサージをかけるとだいぶ楽になったようで、今にも飛び出して行きそうな爆豪君を止めるため、席に向かっていった。

 夕方までの事務作業が終わり、この日は予定通り、制服に着替え雄英に戻る。

 翌日非番で暇だからと、バーニンが車で送ってくれることに。

 

 

「いやー、爆豪、君、電話対応下手すぎ!」

「るっせぇ!だったらやらすな」

「いや、かっちゃん、それはちょっと……」

 

 助手席に私。後部座席に爆豪君、焦凍、緑谷君の順で座ってる。

 

「緑谷は傑作だったねー、なんで批判電話かけてきた相手と、エンデヴァーの活躍談議で盛り上がれるのさ」

「あ、あははは、その、つい……」

 

「最後は相手も詫びてくれたからいいけどね。ショート君はもうちょっと感情出そうか。冷静なのはいいけど、まさか機械音声と間違われると思わなかったよ、お姉さんは」

 

「すいません」

 

 雑談半分ではあるが、一応、移動しながらの反省会。私は今日は報告書の整理を中心にやってたので、電話対応はまたの機会。

 電話番は何度かやっていて、評価としては可もなく不可もなく。

 強いて欠点を上げればマニュアル的過ぎると言われるけど。

 爆豪君は相手次第という感じ。ビジネスライクな普通の電話については卒なくこなす。多少荒いが敬語もきちんと使って対応する。

 なのに、ちょっとでも批判的なニュアンスが含む電話だったり悪戯だと語彙力が極端に低下する。

 緑谷君は普段は私と同じで可もなく不可もなく。ただ、女性の電話だと緊張するのはもう少しどうにかしないと。

 焦凍は……うん、抑揚がなさ過ぎて機械的なのが何より問題、と。

 ヒーロー基礎学に電話対応とか、盛り込まれたら凄い混沌とした授業になりそうだ。

 

 

 雄英に戻るともう時間は夜。時間的にもあまりハードな訓練は難しいね。

 

「ただいまー」

「おかえりー、茉芭ちゃん。今日は遅かったんね」

「夕方まで事務の日で、報告まとめるのと、ちょっと渋滞で。みんなは?」

「もう帰ってきてるよ。茉芭ちゃんが最後」

「おっけ。すぐ着替えてくる」

 

 私服は時間的に面倒なので、ジャージに着替えてロビーに戻る。

 

「お待ちしておりました、茉芭さん」

「うん、遅れてごめん」

 

 今日は2月12日。明後日は当然14日。バレンタインと言うことで、ヒーロー科の男子どもに女子からの義理チョコを振舞おうという企画だ。

 下心満載の電気とか峰田を中心に「チョコ欲しい」圧もあったし、これも娯楽と言うことで、みんなで色々作ろうと言うことになっている。

 義理チョコは大量生産し、後は各々で工夫を凝らした友チョコの交換会と言う楽しみもある。

 

 B組は最初はチョコが食いたきゃ自分で買って食え、ぐらいのノリだったらしい。けど私と焦凍の件が伝わると、何やら思うところがあったらしく、話に乗ってきた。

 

 女子が集まっているのを見て、男子陣は何か期待しつつロビーから去って今日は自室に籠っている。判り易くていいね。

 

「直前ではありますが、義理だけどギリじゃないかもしれないチョコ作成の会?ですか?をはじめましょう」

「うん、チャットで話し合っても結論微妙だったよね」

「共同購入が一番安全だったけどね、今からだと間に合わないけど」

 

 先生方向けのお礼チョコは共同購入で発注済み。というか、学校からあらかじめ通達があった。先生方はプロヒーローなので、何だかんだと外部のファンからのプレゼントもあるので、過度なものは控えるようにと。と言うか、むしろ何もするなと言うくらいの勢いだった。

 

 かと言ってそれだけでは味気ない。

 そんなわけで、自分達で交換する分のついでに、野郎どもにもチョコを恵んでやろうという何故か上から目線の企画となった。

 

「アレは?マッハがクリスマスで作ってたガトーショコラ」

「あぁ、炊飯器で作ったやつ」

「ケロ、そういえばそのレシピ欲しいわ。船の上でも使えそうだから、シリウスさんに教えてあげたいの」

「わかった。後で送っとくね」

 

 応用と言うか変わり種の利用法ではあるけど。すぐできる簡単調理法だと思う。

 

「ん」

 

 小大さんもレシピ希望と。難しい物じゃないからやってみてください。

 

「わかった。後で女子ルームの方に流しておく。検索すればすぐ見つかると思うけど。甘味だから砂藤君のフォローが欲しいけど、流石に悪いよねぇ?」

 

 バレンタインで動員したら気の毒な気がするけど、その辺はどーだろ?

 

「大丈夫だと思うよ。むしろ心配して手伝わせろって来そうだし。道具もあるし、話しとくよ」

「お願いします。なら、調理はB組寮のほうが良いですね」

 

 聞く限り、プロ級の腕前のようだから道具も充実してるだろうし、それは助かる。後は何を作るか。と言っても素人に作れるチョコ菓子だから極端に選択肢が多いわけではない。

 

「義理チョコ分はやはりシンプルにクッキーかチョコがよろしいかと」

「賛成ー」

「友チョコ分は、皆さんの創意に期待ですわね」

 

 材料は幸い、食事の仕出し業者の方からも買える。今から注文しても明日には届く。

 

「ちょっといい?インターン先の社長にも、持って行きたいんだけど。買うのも悪くないけど」

「そうですね……私もマジェスティックさんに感謝の気持ちを表したいですし」

「私も―、って言いたいけど、ヨロイムシャって結構お爺ちゃんだよね?」

「だねー?食べるかなぁ?」

「ラーカーズの皆さまからは持ち込まないでいいと……残念です」

 

 うん、マジェスティックはともかく、ヨロイムシャは確かに不安が。

 お茶子ちゃんと梅雨ちゃんはリューキュウの事務所だけど、事務所全体としては上げる側になるのかな?

 

「リューキュウの所だとどうなんだろ?逆に貰う側?」

「そう!もう一杯届いて仕分けが大変!」

「お茶子ちゃん、大活躍だったワ」

「一般支持率の差がすごい……何もなかったよ、エンデヴァー事務所」

 

 今でも威圧的なのは変わらなくて、ファン層は圧倒的に男性が多いからね。あのストイックさがいいとか言う、ガチ勢中心に。

 冷さんがなにやらチョコを準備しているらしいと、冬美さんに聞いたけど。

 結局、手作りを受け取るかは各事務所ごとに違いがありそうなので、その分の材料は個別に追加注文、と言うことになった。

 

「ぬふふ、それで~、マッハは轟に手作りのチョコ?それとも、私をタ・ベ・テ?」

 

 何を言うかと思えば。すでに骨も残ってないんじゃないかな?

 

「市販のちょっといいのを手配済み。と言うか渡してある。事務所の分と一緒に」

 

 学校の分はみんなで作るしフライングで。

 エンデヴァー事務所は一般のファンからの贈り物も結構多い……と思えば、そもそもエンデヴァーなので、女性ウケは悪い。そういうイベントとはあまり縁がないという悲しい現実があり、結構喜ばれた。あとは精々が、デパートの警備依頼が増えるくらいか。

 

「えー?なんでー、乙女しながらチョコ渡すマッハが見たかった―」

「堂々と仲良くしたいとは言ったけど、見世物になる気はないかなぁ」

「ちぇっ、仕方ないかー」

 

 ここで皆の意識はお茶子ちゃんに集まっているけど、ここで弄ることはしない。だって、本命は2日後だし。ここで弄って意固地になられても困る。

 

 

 そしてバレンタイン前日。B組寮に集まって、ヒーロー科女子全員でチョコとクッキーづくりをする事になった。

 砂藤君が持ってる道具と、寮の調理器具、私の道具類も一応持ち込んだ。流石に物間君も貰えなくなるのは嫌らしく、ちょっかいを出しに来ることはない。

 

「こんなのやってると季節感あるけど、あと1か月ちょっとで2年生かぁ」

「あはは、響香、鍋パの時と同じこと言ってるよ」

「あぁ、そうだっけ。あんときは誰かさんの衝撃発言のインパクトが強くてさ」

 

 誰の事かなー?そんなすごいこと言った人いたんだー……はい、言った気もしますね。

 お菓子作りはレシピを守れば大きく失敗しないのがよい。ちょっとしたコツは砂藤君が工程ごとに教えてくれるし。流石シュガーマン。

 

 義理チョコ分はさっさと作り終えて、交換用の友チョコづくり。色々考えたけど、多少変わり種で、お茶子ちゃんお勧めのお餅チョコにすることにした。

 ちょっとアレンジというか、翌日渡すから切り餅ではなく米粉の方のレシピなんで、純粋なお餅とはちょっと違うけど。

 作業自体は砂藤君の的確な指導もあって滞りなく終わり、友チョコ交換は明日の放課後、みんなでくじ引き、と言うことになった。

 仕上がったチョコをみんなで手分けして運びながら寮に戻ったが、作業中に服についた匂いもあってロビーに甘い香りが広がる。

 

「お、なんか甘い匂いが」

「あー、ダメだよ切島!食べられるのは明日だからね!」

「おぉ!楽しみにしとくわ!!」

 

 何というか、割とお似合いに見えるのに一切そういう甘い雰囲気がないこの二人も不思議だよねぇ




思ったより長くなったのでここで一区切り。

冒頭はRが上がらない程度に。
小説版ガンダム(ファーストおよびべルチル)では思い切り最中とか事後のシーンがありますし、これぐらいならR-15タグの範囲で収まると思います。
エンデヴァーって、何だかんだと息子に甘いし、これぐらいするという謎の信頼w

なお、時期的に近い豆まきはスルー。内容的に弄りづらいのと、ガチの訓練に壊理ちゃんを出すとかありえんので、本作では無かったことにします。
書くとすれば、フツーに教員寮で豆まきさせますよw
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