全てを知っているスズカの元『同期』のウマ娘 作:一般通過どうした急に
私はウマ娘がちょっと苦手だ、元々ウマ娘と触れ合う機会が少ないとも言えるが。そこはそれ、嫌悪感は抱かないだろうと思っていた。
だからなんとかなると思っていた。でもあの赤栗毛…サイレンススズカはそうじゃなかった。距離が近い、というよりは口下手で言いたいことをちゃんと言えないというか。なんというか、色々と癪に障る人ではあった。一言でいうと言葉が足りない?
だけど、脚は速かった。とても速かった、ウマ娘の本能として、憧れを抱くには十分すぎるやつだった。そんな人がよく話す元同室の人ことは気にならないわけがなかった
その人の名前はセルメントさん、スズカさんとは何かがあって同室ではなくなったらしい。スズカさんが言うには、セルメントさんが何故か部屋を別にしてくれと言われたそうで。
出会ったのは屋上だった。セルメントさんは基本単独行動するタイプみたいで。なかなか誰かと一緒にいるということが無いタイプの珍しい人ではあると聞いていた。
『………』
ウマ娘用のヘッドホン?っていうのかわからないけど、それをつけて周りの音を遮断していた。煩いのが嫌いなのかな?なんて思いつつ、一定の距離を離れておく
『………………』
そこから数十分ほど無言の時間が続く、私かセルメントさんどちらもアプローチをしかけないまなに。そうしてセルメントさんが先に何処かへ行くのだ。
そんな日々が数日続いた頃である。
「……スペシャルウィーク」
「!?……は、はい」
唐突に声をかけられてびっくりしてしまう、この人こんな声なんだ…なんて思いながら、なんとか返事をする
「お前、もう少し周りと絡んでおけ」
どこか投げやりな助言に思わずびっくする。それは貴方もそうなんじゃないですか?と思うんだけれど、なんて考えていれば。
「私が言うのもお門違いだがな」
って言うとさっさと屋上から退散してしまう。私は同期と一緒にいるのも、先輩方ともあんまり関わりに行かない、何となく疲れるからだ。スズカさんはまあ、疲れるけどマシぐらいには思う。疲れるけど
その後から、ちょくちょくセルメントさんから声をかけてくれるようにはなった。私から声をかけに行くことが多くなったからなんだろうけど。
この人、多分別に人嫌いとかそういうんじゃないと思うようになる、意図的に人と関わらないようにしているだけというか。そんな感じがする
しばらくたってセルメントさん達がデビュー時期になる。セルメントさん以外にも速い人は多かった。名家?らしいメジロ家の二人、カウボーイ風の外国から来た人、よくわからない人とよくわからないほうが良さそうな人。あとスズカさん。全員がジュニア期に入ってからは、タイミングはバラバラだけどOPを勝ち上がっていった。中にはG1を勝ち上がる人も居たりした。
そんなある日のこと。今日は珍しくスズカさんと一緒だ、なにやら同期の人とはタイミングが合わなかったらしいので声をかけてくれたようだ
「スペちゃん、ごめんね?付き合ってもらって」
「…いえ、大丈夫ですよ。スズカさん誘ったんですから謝らないでください」
「ご、ごめんなさい…?」
「はぁ……」
この人、押しが弱いというか。なんというか、人付き合いがあんまり上手ではないのかもしれない。というよりは私に変に遠慮している可能性が有るという方が正しいのかもしれないけど。
「今年のジュニア期、結構すごいよね」
「そうね、そう思うわ」
「分かる」
ふと会話が別のところから聞こえてきたりする。先輩方だろうか、まあ。確かにスズカさんの世代はそうなりそうな気がする。贔屓目なしになんとなくだけど。過ごそうっていうのが
「でもさ」
ただ、この後聞かなきゃよかったと思うことになる
「あの赤栗毛の子と、青鹿毛色の子?はなんかちょっとねぇ?」
赤栗毛はスズカさんで、青鹿毛はセルメントさんだろう。言い方に若干の不快感が出たりする。なんかってなんですかなんかって
「あー。サイレンススズカ?確かに異質って言えば異質かも?」
「まあ、そうかも。だけどそれなりに速いでしょ?」
「いや、速いんだけどさ」
正直、食って掛からなかった自分を褒めても良いんじゃないかと思うことにもなる
「なんていうか、
「っ!」
ビクッとスズカさんの肩が跳ねる。確かに、スズカさんはとにかく先頭を突っ走って極論を言えば駆け引きもなにもない純粋な速さ比べかもしれない
「あー…かけっこと同じって感じの?」
「そうそう…あとセルメントとかも?」
しょぼんと耳を垂らすスズカさんを尻目に、やり場のない怒りがふつふつとこみ上げてくる。相手は上級生、しかも多分もうデビューしている相手だ。だけど私はまだデビュー前、実力は劣ってるっだろうし、多分返り討ちにあって笑われるのが関の山だろう。だから我慢しないと
そう思いつつ我慢していれば
「逆に、セルメントの方は。なんかこう…怖いよね」
「怖い?」
「あー、それはある。なんていうか、必死すぎっていうの?見てて引くわ」
フォークを握る手に力が入る、思いっきり握ってるせいで。ちょっと形が変わってるんじゃないかっていうぐらいには力が入ってる。あの人のことなんにも知らないくせして…っ!スズカさんのことだってそうだ、速さはウマ娘の力量を測る上で一番大事なポイントの筈なのに。
チラッとスズカさんのほうを見ると先程よりも明らかに元気がない
「スズカさん、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫…でも、セルメントも一緒に言われるのは。ちょっと……」
そう言うと、より項垂れてしまう。元同室っていうのもあって、それなりに世話になったのと。セルメントさん自身のことも、良いライバルって思ってるらしいのもあって、より辛いんじゃないかなって
そう思ってしまうと、そろそろ限界に近づいてくる。上級生だろうと、やるしか無いかも。なんて思いつつ椅子を蹴り上げて食ってかかろうかと思っていれば
「煩い、ここは井戸端会議する場所じゃない」
ぎょっとして声のする方向を見れば、ちょうど斜向かいの方にセルメントさんが居たようだ。今の今まで黙って聞いてたらしいんだけれど。相変わらず抑揚がなかった。
「げっ……本人居るじゃん」
上級生の人達が少し焦っていれば、セルメントさんのほうが。立ち上がってその人たちの方に向く。チラッと此方を見ると。怒っている私と、項垂れているスズカさんを見てため息をつく
「私の方はどうぞご自由におっしゃって頂いて結構です、ですが。もう少し場所を考えたほうが良いかと、もうひとりの当事者がいる場合もありますし。それを聞いてる後輩が居るかも知れません」
そう言うと上級生の中のひとりがスズカさんを見つけてぎょっとする
「まあ、
思わず吹き出しそうになったけど。確かにそう思わなくもない、もっと言ってもいいと思いますよ。お二方をけなしたんですから
「流石にそれは──「でしたら」──な、何よ」
上級生の言葉を遮るようにセルメントさんが一層トーンを下げて
「まず、謝罪をしては?私ではなくスズカに、速さを愚弄することはウマ娘として。どうかと思いますので」
その後、スズカさんに謝った上級生たちはそそくさと退散していく。後で聞いた話によるとどうやら、クラシック級でOP勝って以降勝てない人達だったみたい。生徒会に話が行って、呼び出しされたらしい
「…ふん、諦念して動きを止めた分際で。人を見下すな愚か者共」
そそくさと退散していく上級生たちを見つつ、セルメントさんはそう吐き捨てる。しょぼくれてるスズカさんを見ると。軽くおでこを小突いて意識を復帰させる
「起きろ阿呆、スペシャルウィークが困ってるぞ」
「あいてっ……あっ……セルメント。その、さっきのは……」
「気にしてない。それよりお前は自分のことを気にしろ」
「うん………」
ため息混じりに若干呆れるセルメントさんの視線が此方を向くと、またため息をつく。多分握りしめたフォークを見てのことだと思うけれど。思わず視線をそらしたくなってしまう
「迷惑をかけたな、スペシャルウィーク」
「あ、いえ」
どうやら違ったのかな?と思うけどやっぱり違わないかもしれないって思う。
「…………」
フォークを渡しつつ、此方のことを見てくるセルメントさんに思わず身動ぎしてしまう。
「よく我慢したな」
「えっ…あ……」
多分、気づいていたんだろう。気配というかそう言うので、あるいは最初に話し声が聞こえていたのかもしれなかった。
「それと…なんだ」
自分のトレーを持ちつつ、スズカさんをある程度元気づけた後。ふいに
「──ありがとう、スペシャルウィーク。スズカのために怒ってくれて」
そんな事を言いながら人混みの中に消えていった。
やっぱり、いい人なんだろうな……
そして私もデビューし。あの二人がクラシック級上がった年の秋頃、すっかりセルメントさんとはある程度だけれど打ち解けることができた。やっぱり、良い人だった。つっけんどんでは有るけど。ちゃんと教えてくれる優しい先輩、そんな感じの雰囲気があった。
そんな関係になってよかったと思うし。良くなかった、と後の私は思ってしまう
──天皇賞(秋)
スズカさんが出るレース、この時期のスズカさんはほんとに早くなってる。危なげなほどに、セルメントさんにも注意されてるけど。本人は首を傾げてた、ほんとそういうところですよスズカさん
『さあ、サイレンススズカ快調に飛ばしていきます。もはや独走状態!!大欅を超えるぞ!!』
初手のスタートさえミスしなければ負けないだろう、なんてことを思いつつセルメントさんと一緒に観戦してる。なんでかは分からないけど。菊花賞は出走回避したんんだよね…
なんて思っていれば
『サイレンススズカ、様子がおかしいぞ…!?このままでは、曲がりきれずに衝突するぞ!?』
不測の事態がスズカさんを襲う
「どうしましょう!?あの人が…!?」
思わず取り乱してしまう。私でも分かるぐらいにオーバースピード。これじゃあ曲がりきれないまま突っ込んできちゃう!そうすれば。最悪……っ!
なんて慌ててる私を尻目にセルメントさんはどこか悟ったような顔をしている。なんですか
何なんですかその顔は
「
なんで
「はい?」
なんで
「ちょっと、行ってくる」
「セルメントさぁん!!!」
思わず声を上げてしまう、どうして?どうして?
そんなこと分かりきってたはずだったのに。脳が理解を拒もうとしている、だってそんなこと分かってる。分かってるんだそんなことは
スズカさんを助けに行ったことなんて。
──聞きたくない音が現実世界に私を引き戻す。
「……っ!」
一も二もなく私もターフに飛び出る。これでも遅いほうだ、なんならセルメントさんと一緒に行くべきだったかもしれない。そう思いつつ倒れてる二人を見る
スズカさんは、多分大丈夫…だと思う。息はちゃんとしてるから
問題はセルメ───
「せるめんと……さん?」
セルメントさんだ、たしかにセルメントさんのはずなんだ。
だけど、どうして
どうして……
どうして……
「聞こえますか!?セルメントさん!?」
あれだけの大きな衝撃だ、もしかするとセルメントさんも大ダメージを受けてしまってるかもしれない、そう思うと
思わず声を上げて泣いてしまう
やだよ、死なないでよ。おかあちゃんみたいに置いてかないでよ
「………!!返事して!!」
いつまで立っても返事がないことに焦りが加速してしまう。今すぐにでも医務室に連れて行かないといけないのは分かっているけれど。それをしてしまうともう二度と言葉を描けられないような気がしてしまって。お別れになってしまうような気がして。ボロボロと泣いてセルメントさんのことを汚してしまって
そんなことを思っていれば、なんとか力を振り絞って。無理矢理体を動かして、私の涙をぎこちなく指で拭ってくれる、つっけんどんなふりした優しい貴方らしい行動では有る。けど今はそんなことよりも
そう思っていたが、セルメントさんのほうが早かった
「ごめんな、スペ」
辞めて
「ありがとう」
辞めて、辞めてってば……!そんな声出さないでください……っ!
「スズカのこと……よろしくな」
憑物が落ちたかのように優しい声でいう貴女の声が、耳に響くと同時に声を上げて大泣きした。みっともなく、ただひたすらに。泣きつかれて意識を失うまでずっとずっと
親を亡くした幼子のようにずっとずっと────
その日、流星は落ちた。暗い暗い闇の底に
とりあえずジャブを打っとくことで慣れさせるスタイル
これを3話続けて打ち切りエンドは無理と言う判断だったけど、かけという民意があったから仕方ないね。でもまだこれからだからね、うん