隻腕の狼、玄界に降り立つ   作:丸米

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Q 葦名一心って誰?
A SEKIROのヴィザ枠


葦名流×狼×影浦

「.....!」

 

 火花が散るような感覚と共に――太刀川慶の意識が戻る。

 何処へ向かっていたか。その記憶ははっきりと覚えている。

 

「あ、太刀川さん。何やってんすか?」

 

 仏の前で座り込み、合掌をし、瞑想。――この状態のまま、太刀川は暫しの間の間意識を失っていた。

 最初は一人だった作戦室に、続々と隊員が帰ってきたが。そこで目にした隊長は、そんな状態だった。

 

 ――え?太刀川さん遂に単位落としすぎて瞑想モードに入っちゃった?

 ――単位如きでそんな事するタマじゃないでしょ太刀川さん。マジで何か変なもん食べたんかな?

 ――ちょ、隊長。隊長。どうしたんですか。

 

 声をかけようとも全く反応することなく、ひたすらに仏の前で瞑想し続けている隊長を不思議がり、最終的には不審がっていた太刀川隊の面々であったが――最終的に「まあいいか」と放置を続けていた。

 そして。

 ――暫しの後。ようやく太刀川の意識が戻った時。その様を最初に気づいたのは、出水公平であった。

 

「.....」

 太刀川は意識が戻って尚――暫しの後、放心し。

 状況の整理を終わらせると。「くっそー」と呟き、そのまま床に寝転んだ。

 

「負けた―!」

 

 悔し気にそう呟き両手を上げていた。

 その様を不思議そうに出水が見つめていると――寝転んだ瞬間から、太刀川の黒コートの懐より、何かが零れ落ちる。

 それは、古ぼけた巻物であった。

 

「とはいえ――戦ってよかった。久々に、熱が入った」

 

 そう呟き――太刀川は満足気に笑った。

 

 

 ――初太刀は、凄まじいまでの斬撃であった。

 墨で空間を描くような、凄まじい範囲の回転斬り。それが一陣過ぎた後、振ってもいないのに第二陣が襲い来る。

 己が本能に従い一陣の回転斬りを避けたものの――唐突に訪れた二陣目の回転斬りを避けきる事叶わず、弧月で何とか受け事なきを得る。

 

「――初手で不死斬りを避けきるとは、見事じゃ!よい才気をもっているようだの、太刀川ぁ!」

 

 回転斬りの勢いで後方へ飛びずさる太刀川の前に見えたのは。すぅ、と――風に舞う木の葉の如き静かな足取りで、こちらとの間合いを詰める一心の姿であった。

 体勢を整える間もなき、二連斬り。一太刀避けきる事叶わず、己が脇腹を斬り裂かれる。

 

「ぐ……!いっ………!」

 

 肉を裂かれる激痛に、太刀川は思わず表情を歪める。

 トリオン体同士での戦いではあり得ぬ、痛覚からの刺激。それが走り、全身がぶるり震える。

 だが。

 太刀川慶は――痛みを無視し、己が技も差し込む。

 

 一刀にて一心の剣戟を流し、バックステップ。

 距離を開けると共に――すかさず、旋空弧月。

 

「――刀身が伸びる得物か。面白い!」

 

 が。一心はその足捌きのみで旋空を避けきる。

 体勢が崩された状態からのバックステップ。着地の瞬間、太刀川は大きな隙を晒していた。このまま間合いを詰めれば太刀川を仕留める事も出来ただろうが――剣聖は、敢えてその機を見逃す。

 

「――おいおい。余裕だな」

「かかか。なに、ここで終わらすには惜しいと思っただけよ」

 

 それに、と。一心は続ける。

 

「刃の外より斬撃を届かせるは――お主だけの力ではない」

 

 一心は得物を納刀すると――体軸を下げ、居合の構え。

 その体勢を太刀川は覚えている。

 葦名の地にて、狼も使用していた技。

 

 ――竜閃。

 

 斬撃が風を纏い、暴風の如く飛ぶ。

 地を割るかの如き力が、二連。

 狼のそれとは威力も、鋭さも段違いであった。

 

 横手に地面を蹴り避けると。一心は太刀川の右手側に移動し、瞬時の突き込み。

 

「ぐ………おお……!」

 

 肩口を斬り裂かれ、血飛沫が舞う。

 たまらず後退した太刀川が見るは――再び納刀し、太刀川と相対する剣聖の姿。

 

 今まで――攻撃を挟み込む隙すら見せなかった剣聖の、明らかな機先。

 居合が放たれる前に、旋空を――と思考が巡るが。

 

 この化物が、わざわざこちらが攻撃を仕掛ける隙など与えてくれる訳があるのか――と。

 そう、脳ではなく身体が――前進するのを、拒絶してしまった。

 

「――迷ったな、太刀川よ」

 

 その瞬時の隙を見出した一心は。凄まじい速度で間合いを詰めながらの、居合二連。

 これもまた、狼が己に振るった技。葦名十文字。

 防護の弧月の刀身を一の太刀で弾き飛ばし。瞬時の縦斬りにてその肉体を斬り裂く。

 

 胸元から腹先まで斬り裂きしそれは――あまりに速く、鋭かった。

 倒れ伏す太刀川へ――剣聖は納刀し、腕を組む。

 

「お主の直感は正しい。あのまま前進すれば十文字ではなく斬り下げによる脛斬りで足を飛ばしていた。――されど迷いがお主の本能を鈍らせ、身体を固まらせた」

 

 よいか、と。剣聖は言う。

 

「迷えば、敗れる。――未知へ踏み込むならば、迷いを振り切れ。さすれば自ずと最良が得られよう」

「………忠告、ありがとよ」

 

 己が迷いが、致命となり敗れた。――まさしく、己が敗北の理由がその一言に詰まっていた。

 

「だが。お主はよい。確かな人斬りの才がある。――また次に立ち会うが楽しみよ」

「………」

「餞別だ。お主には、これを授けよう」

 

 そうして。

 剣聖は――太刀川の懐に、巻物を一つ捩じり込んだ。

 

「………これは?」

「葦名流、その伝書よ。小難しい事はあらず。ただ戦に勝つために編み出せし、技の諸々よ。太刀川よ――次に儂と立ち会うまでに、極めよ」

「………極める、か」

「そうじゃ。極めたくば――斬って参れ、太刀川!」

 

 一心は――決着と共に、その姿が次第に風景に溶けるように、消えていく。

 本来在る場所に。黄泉へと、帰るのだろうか。

 

「………なあ、爺さん」

「なんじゃ?」

「どうして――わざわざあの世からこんな所まで来てくれたんだ?」

 

 そう太刀川が尋ねると。

 一心は「簡単な事よ」と言う。

 

「ただ儂自身が死闘を求めているが故。そして――儂が、葦名の民が一人であるが故よ」

「.....」

「心残りよな。葦名が敗れども………九郎と、隻狼は、異端の呪いを振り払い。その歪みを取り去った。あ奴等は、間違いなくこの戦の勝者であった」

 

 一心は――目を細め。彼方の音に耳を澄ませる。

 己が兵が。民が。叫び、死に、末魔に沈む声が響き続けている。

 人生の最後。己が戦の敗北の末期。その姿に――。

 

「………死なずも。異端の力も。その理を取り込めば、歪みをもたらす。国盗りを果たそうとも、その力を排除すること叶わなかった。して、最後は――儂もまた異端の力の一つとなった」

 己が手にある得物――不死斬りを、一心は見やる。

 

「我が孫、弦一郎が………異端の力に手を伸ばし。その様を、止める事もしなかった。儂もまた、迷いの最中にあった」

 

 故に――と。一心は太刀川に笑いかける。

 

「お主を通し、あ奴………隻狼の一助と、ひいてはこの葦名の地に再び巡った異端を取り払う一助となるならば。――これもまた、心残りし冥府からの手助けよ」

 

 一心の姿が完全に透明と化し。光の泡沫となって消えゆく。

 太刀川の意識もまた――朦朧となっていく。

 

「ではな、太刀川。――隻狼に伝えよ。此度の戦も勝利せよとな」

 

 

 

「………マジで?」

「マジ」

 

 太刀川はその後。一連の出来事を出水に話した。

 仏への祈りを通して、――この黒の不死斬りの元の持ち主であった、葦名一心と立ち会ったと。

 その結果。一太刀も浴びせられず、敗北してしまった。

 

「いや………話す内容全部あり得ないんですけど。何より――太刀川さんが手も足も出なかったってのが………。どんな化物ですかい」

「マジモンの化物だった。――間違いなく忍田さんよりつえぇな。ありゃ」

「忍田さんより………」

 

 剣聖――そう呼ぶに相応しい程の手練れが、そこにいた。

 

「………もう一人、師匠が増えるたぁ、思ってもいなかったわ」

 

 そうして――太刀川は、一心より受け取りし巻物を手に取る。

 先程まで無かったはずの代物が何故かここにある所以も解らないが。もう「そういうものだろう」と受け入れる事にした。

 

「なあ出水?」

「なんですかぃ」

「なんか.....漢字読めないんだけど」

「知らないっす」

 

 葦名一心から受け取りし葦名流の伝書。

 意気揚々とその内容を読もうとしたはいいが――漢字ばかりで、読めぬ。

 

 太刀川慶は大学生である。

 されどただの大学生に非ず。

 学業を踏み潰し、単位取得の機会を投げ捨て、その全てを個人戦に費やす。卒業までの道があまりに不透明な、非業の大学生であった――。

 

 

 

 

 その後の事であるが――。

 

「これで。ようやく隊を設立する事が出来ましたね、狼殿」

「ああ………」

 

 必死の修練を得て。

 変若の御子は――正規のオペレーターとして採用される事となった。

 これにて。ようやく隊を作ることが可能となり、彼等の作戦室が用意される事となった。

 特段、何もない殺風景な空間であるが。部屋の模様をどのようにするか、御子は色々と楽しみにしているようだ。

 

 これにて。狼はB級の基本の戦闘員用のジャケットから、固有の隊服を作る事が出来るようになった。

 デザインは御子に一任した結果。――以前狼が着ていた、柿色の忍び装束に近い隊服となった。

 

「鈴鳴の方々にもお礼を言わねばなりませんね」

「そうだな………」

 

 狼もまた、悲願であった。

 これにて――昼夜を問わず、作戦室にて訓練に耽る事が出来る。

 狼は不死身である。

 寝ずとも死なぬ故。この作戦室に泊りがけ、ひたすらに修練を行う気であった。

 

「――これで。我々もランク戦に参加できるようになったわけですが」

「………うむ」

「最終的には――A級に上り詰め、遠征に向かい、葦名をあるべき姿に戻す手がかりを探す。これが我々の目的となるのですが。どうでしょう、狼殿?現時点で、望みはありそうですか?」

「………かなり、難しいと感じる」

「………そうですか」

 

 甘く見ていたわけではないが。

 ボーダー。この組織に属する戦闘員は、上に行けば行くほど――手練れとなっていく。

 彼等の強さは、葦名のそれとは全く異なる。

 個の強さと、個が集まった強さ。この二つが、まるで切り分けられている。

 

 部隊のレベルが上がれば上がるほど。隊として固有の戦術が生まれていく。個が交じり合い、役割を持ち、集団として一つに纏まる。

 それは、葦名の世には無かった力であった。

 あちらでは――あくまで強きを求める事は己が強さを探求する事にあった。

 だがこちらは。個の強さの探求とは別に、集団となっての強さもまた同時に研鑽を重ねている。

 個に役割を振り分け。効率を求め。より大いなる力と化し、敵を打ち滅ぼす。――あくまで個の強さのみを深めてきた狼には、存在しない強さ。

 

「………三つ巴、四つ巴の戦いが基本となるのが救いではあるな。こちらは、乱戦に乗じる事が基本の戦い方となるやもしれぬ」

 

 狼は、手練れの忍びである。 

 しかし――正面からの戦闘となると、基本は弾きを用いた防御の最中、一瞬の隙を突き仕留める戦いとなる。

 この戦いは如何なる強者であろうとも勝機を見出せる、という分には心強いのだが。何分、一人を仕留めるまでの時間が長くかかってしまう。

 

 敵が幾人も存在する事が前提となるランク戦においては。正面からの狼の戦いは微妙に噛み合わない。

 と、なれば。――如何にして忍殺を行えるのか、という部分に注力せねばならないのだろう。

 

「………とはいえ。上に向かわねば始まらぬ」

「ええ。――成すべき事を、成しましょう」

「ああ」

 

 そう。

 成すべき事を、成す。その為に――狼も、御子も、この玄界へ来たのだ。

 

「………まだまだ、探求すべき事は多い」

 

 まずは。A級への挑戦権を得るためにも――B級の上位に上がらねばならない。

 

「………」

 

 狼が持つ端末に、反応が一つ。

 鈴鳴第一の村上鋼からであった。

 

「………御子殿。個人戦ルームへ行ってくる」

「何かあったのですか?」

「――B級上位の者が、丁度個人戦ブースにいるという。少し見物してくる」

 

 

 

 

 個人戦ブースの中。

 つば付き帽を被りし男が、弧月を振るう。

 相対する男へ視線を送り、袈裟への一撃。

 

 されど――その攻撃は、ひらり空振る。

 

 視線を送り、刀を振り上げる瞬間から――男の肉体は、その斬撃の軌道より逃れている。

 眼前には、ボサボサ髪が特徴的な、黒ジャケットの男。

 歯を剥き出しに、笑みを浮かべ――避けた体勢から、掌よりスコーピオンを振るう。

 

 彼が振るうそれは、異様であった。

 光る刃を繋げ、鞭のようにしならせ斬撃と化す。伸び、しなり、互いの間合いを埋める。

 

 その刃が己が刃をすり抜け首を刎ねると共に――その個人戦を終えた。

 

 十本勝負。その全てを黒ジャケットの男が勝利していた――。

 

 

「――狙撃手に転向して腕落ちたんじゃねぇのか、荒船?」

「元からお前相手には勝率最悪だったろが」

 

 勝負を終えた二人が、ブースより退室してくる。

 二人は、共にB級部隊の隊長であった。

 

「――よう、荒船。カゲ」

「お、鋼か」

 

 つば付き帽の男――荒船哲次は、村上の姿を見かけ手を挙げ。

 ボサボサ髪の男――影浦雅人は、睨みつけるように視線を送った。

 

「なんだァ、鋼?個人戦しにきたのかァ?」

「いいや。知り会いに――カゲの試合を見せに来た」

「知り会い………?」

 

 村上鋼の背後。

 無表情なまま、ぽつねんと佇む――柿色の隊服を着込んだ男が、一人。

 

「誰だこのおっさん?」

「………今度新たに設立される部隊のメンバーだ」

「へぇ。そうか。――で、何で俺の戦いなんざ見せてんだ?」

「カゲの戦いに、興味を持ったからだとさ」

 

 ふぅん、と呟き――影浦は、狼に近付く。

 

「――俺に何か用か?」

「………用はない。ただ、見物しに来ただけだ」

「あァ?」

「お主は………明らかに、己に攻撃が繰り出される以前より、回避動作を取っている。その絡繰りが、映像越しでは暴けなかった」

 

 へぇ、と影浦は呟き。

 

「で。――直接見物して、解ったかよ?」

「解らぬ」

 

 そうか――と影浦は言う。

 

「知りてぇか?」

「………教えてくれるのか?」

「他の連中に聞けば簡単に教えてくれると思うぜ。俺の、このクソ副作用(サイドエフェクト)の事はよ」

 

 だが、と影浦は言う。

 

「――俺から直接聞きたきゃ、勝ってみな。ブースに入れ」

 

 そう言って。影浦は――ブース内に、再び戻っていった。

 

「.....」

 

 狼は黙したまま一つ頷き。彼もまたブース内に足を踏み入れていった――。

 

 B級2位、影浦隊隊長。影浦雅人。

 狼のA級昇格への道。その壁が、一つ。

 

 

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