隻腕の狼、玄界に降り立つ   作:丸米

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嵐山隊×エネドラ×修羅

「嵐山隊、現着した。そして」

 赤き隊服を着込みし、三人が現れる。

 彼等は、A級部隊であると同時に。ボーダーの顔役の一つ。

 ――A級5位、嵐山隊であった。

 

 端正かつ精悍。強い意思を感じさせる真っすぐな視線を向けながら――隊長の嵐山は、それを視界に入れる。

 

「――”角付き”の人型近界民を確認。これより迎撃に入ります」

 

 廃ビルが立ち並ぶ、市街の跡地。

 その屋上より現れた者共を。エネドラは――赤い目で、見やる。

 

「流石。玄界は情報の伝達が速い」

 

 己が役割は、精鋭を引きつける事。

 ラービットを拡散させる事で玄界の兵を四散させ。

 そして己とランバネインが、精鋭を引き付ける。

 目論見通り。己の存在は――きっちり、精鋭を引き付ける事に成功したようであった。

 

 ラービットも、そして自分も。”玄界に攻め込む”という見せかけの状況の裏側に隠した目的の為の囮でしかない。

 

 銃を構えこちらに照準を定める相手を目視し――エネドラもまた走り出した。

 

 

 嵐山隊。

 万能手三人と、狙撃手。それが彼等の部隊員の構成である。

 如何なる距離でも戦える。如何なる状況でも戦える。それが強みとなる部隊。

 現在、狙撃手である佐鳥賢は狙撃手合同部隊に組み込まれこの場にいないが。この混沌とした状況下において。如何様にも戦えるこの部隊は、最も頼りになる存在の一つであろう。

 

「――充、合わせるぞ」

「了解」

 

 突撃銃を構えた二人――嵐山准と、時枝充が廃ビルよりエネドラに銃口を向ける。

 同時。小柄な女性の隊員がビルの裏手より飛び降り、エネドラの背後へと回り込む。

 

 火を噴く弾丸に。

 エネドラは――何もしない。

 ただ、そこに佇み。己が肉体に弾丸が沈んでいく様を見ていただけであった。

 

 沈む。

 弾が、沈む。

 底なし沼に沈みゆくように――無為に、弾丸は消えた。

 人型近界民のその身体は、実体としての形を成していない。

 泥の如き液を纏いた、不定形の代物であった。

 

「――俺に弾丸は効かねぇぜ」

 

 弾丸を受ける最中。

 エネドラは足元の地面を通し、己がトリガーを流し込んでいた。

 それは地中を潜り。嵐山隊の足場となっているビルへと流れゆく。

 

 カッ、カッ。

 何かが切断される音が聞こえ来る。

 

「――跳べ!」

 

 エネドラは。

 地中より潜らせた液状の何かを、硬質化させる。

 

 それは地中にあるビルの支えを切り離し。内部へと潜り込むと――弾け飛んだ。

 液体が吹き飛ぶようなそれは、硬質化した物量を撒き散らし。ビルを崩壊させる。

 

 ビルに何かを仕込んでいる――それを理解した嵐山と時枝は、即座に飛び降りる。

 

 が。

 

 二人の足下には――黒い淀みが生まれ来る。

 

「――隊長!」

 

 瞬間。時枝は嵐山を突き飛ばしその場より離すと共に。

 

「....!」

 残る時枝は――身体に巻きつけられたワイヤーに引っ張り込まれ、淀みより逃れる。

 ワイヤーは、先んじてビルの裏手を通っていた小柄な女性――木虎が持つ拳銃より放たれたもの。

 

 何とか二人が逃れた黒い淀みの上。――液状化したトリオンから生え出る刃が突き出される。

 あのまま着地していれば、串刺しとなっていたであろう。

 

「――あの近界民。黒トリガー使いか....!」

「角の色は赤いですが、そうみたいですね。――データの転送をお願いします、綾辻さん」

 

 事前に与えられた情報によれば。角付きの人型近界民がいる可能性があり――その中でも、黒い角を有していれば、黒トリガー使いであると聞いていた。

 だが。この男の角の色は、燃えるような赤色。であるが、持っている得物は――間違いなく黒トリガーである。

 

 エネドラの肉体より、黒々とした液状トリオンが硬質化し、ブレードとなり襲い来る。

 目に見える刃を放つと共に、エネドラは足元からトリオンを流していく。

 

「恐らく――足元からも来ています」

「了解」

 

 三者は飛び上がりつつ、眼前の攻撃からも地中からの攻撃からも避ける。

 その様を見つつ。エネドラは変わらず地中に、攻撃を仕込んでいく。

 

 ――さあ、どうする。

 

 液状トリオンを敢えて、地上で見せつつ。時間差で地中にも攻撃を仕込む。

 

「....ぐっ!」

「充!」

 

 目に見える液状トリオンにて行動を制限し、足元への意識を薄めていく。

 時間差で放たれる足元からの攻撃に――時枝充は、腹部を貫かれていた。

 

「――あの黒トリガーの性質は『液状化』だ。あれで、自由に地中に攻撃を仕込み、ブレードによる攻撃の起点とさせている」

「”風刃”に似ていますけど。液状化トリオンを硬質化させる、という手続きを踏んでいる分。防御能力は桁違いですが、攻撃そのものの速度は大したことはありませんね」

「ああ!足元への注意を怠るな!――たとえ液状化しようとも、急所である供給器官と伝達脳はあるはずだ!」

 

 液状化。

 使用者のトリオン体を含め――トリオンを液状化させ、それを硬質化させる事で攻撃に転ずる。そういう類の能力を持っているのだろう。

 

 そう嵐山隊は判断し。

 そう相手が判断したものである、と、エネドラは判断する。

 

 交戦が続く。

 機動力の高い女隊員がエネドラのブレード攻撃をいなしつつ。その間隙に、残る二人が斬り込んでくる。

 エネドラは、――意識的に、首を守り、庇う行動をとる。

 恐らくは供給器官と伝達脳を繋ぐ首部分を断ち切れば倒しきれる、という想定で動いているのだろう。

 その想定は、正しくない。

 たとえ首を斬られようとも、”泥の王”の防御性能はそれすらもカバーする。首も、急所ではないのだ。

 だが何故、わざわざ首を守るような行動をとっているのか。

 そこに、罠を仕掛けているからである。

 

 

 ――タネ明かしは、一度までだぜ。

 

 

 風が流れ出る。

 足元からの攻撃を嫌い、エネドラを包囲する動きを仕掛けてきた嵐山隊に対し。

 エネドラは、背後のビルを見つつ、後退。

 

 三人で囲む動きを嫌い、背後を取られぬようにビルを背後にした、と。

 そう思わせる。

 

 

 だが、エネドラが見ているのは三人――ではなく。

 

 己が眼前に吹き抜ける、風であった。

 己は風下にいる。

 だが――風は、ビル群を吹き抜け、己が背後の壁へと当たる。

 

 

「あ....が...!」

 

 風がビルに当たり、跳ね返る。

 その僅かな風が吹いた瞬間。

 

 エネドラの首先を斬り裂かんと、スコーピオンを手に飛び込んだ――嵐山及び、時枝の肉体の()()より、刃が生まれ落ちる。

 それは彼等の供給器官ごと肉体を貫き、戦闘体の崩壊へと向かわせる。

 

 ――これが、狙いであった。

 首を守る行動をとっていれば。相手はそこが急所であるという前提で動いてくれる。

 相手が持つ近接の得物は、全て刀身が短い軽めの刃。首を斬り落とすには、相当に肉薄する必要が生じる。

 泥の王の地中からの攻撃に意識を割きつつ。同時にエネドラが正面より放つ攻撃を避けつつ....と。相手に制限を加えれば加える程。首を狙う行動や、その機を読むのは容易くなる。

 

 肉薄したい、と相手に思わせ。

 肉薄させた先にて、罠を張る。

 罠にかかり――嵐山と時枝を仕掛けたのだ。

 

 ――泥の王の本領は、意識の外にあり。

 目に見えるものと見えぬものを使い分け。相手の視野を奪い、仕留める。

 目に見えぬ沼底より引きずり込む。それが、泥の王。

 

「隊長!時枝先輩!」

「....流石。一人は生き残ったか」

 

 恐らくは。男二人が先行した上で、遅れて女がとどめを刺す連携だったのだろう。

 三者ともに襲い来れば、まとめて仕留め切れたものの。さすがにそこまで甘い相手ではなかったか。

 だが。三人が一人になったならば。もう仕留めるは容易い。

 このまま撤退を選ばねば。

 

「....ッ」

 

 部隊員二人を失った木虎は。次なる攻撃をエネドラが仕掛けるよりも前に、撤退する。

 気の強そうな顔面を、思い切り悔し気に歪めながら。

 

「ここでしっかり撤退できる辺りも、しっかり訓練されてんだな。さあて」

 

 これで己の存在がしっかりと伝わるだろう。

 敵を倒しきれた法悦と、逃してしまった悔恨。二つの感情が瞬時に渦を巻き、エネドラの口元は笑みに歪む。

 ああ。

 まだ。まだまだ。まだまだまだまだ。戦いたい。

 渦巻くような感情を胸の内に押さえつけ。何とか――”兵士”としての己に立ち返る。

 

「ミラ」

 

 エネドラが呼びかけると。

 己が耳元に、黒い孔が空く。

 

「何かしら、エネドラ」

「金の雛鳥の所在はもう判明したか?」

「したわ。――ほら、あそこ」

 

 ミラが指差す先。

 そこには――遠目からも解る、大筒の如きトリオンエネルギーの奔流が、空に向かっていっている。

 同じ任にあたっているランバネインの”ケリードーン”の最大出力の大砲。たかだか、玄界製のノーマルトリガーであるというのに。あまりに異様な弾丸の軌跡

 

「――成程なァ。あれが、金の雛鳥の出力か。では、俺はここから逆方向の市街地方面に向かう」

「....下手に玄界の怒りを買うような行動は厳禁よ?」

「実際に手をかけるつもりはないぜ。だが――今、力を見せた俺が市民のいる方に向かっていったら、連中は無視できない。金の雛鳥を捕えたいなら....囮の俺は、出来るだけそこから遠くに行った方がいい」

 

 さあて、とエネドラは呟く。

 

「無視はさせねぇぜ」

 

 

 

 

『慶、聞こえているか』

「はいはい。どうしましたか忍田さん」

 

『嵐山隊が、黒トリガー使いの人型近界民と交戦した。――結果。嵐山と時枝が敗れた』

「....へぇ」

『かなり特殊なタイプの黒トリガーだ。....ある程度の性能は判明できたが。まだ情報が足りない』

 

 ――嵐山隊と、エネドラの交戦データは即座に本部に送り込まれた。

 現在、必死に解析を行っているが。まだまだ、データが足りない。

 

『その近界民は市街地へ向かっている。――恐らく、誘っているのだろう。情報が揃わないうちに精鋭を呼び込み、削ろうという魂胆だろう』

「成程。中々頭が回る奴ですね」

『これ以上A級を失う訳にはいかないが。無視も出来ない。――故に』

 

 狼君、漆間君。

 太刀川と共に新型を狩っていた二人に声がかかる。

 

『二人には、先行して人型近界民の下へ向かってほしい』

「....御意」

 

 狼は、忍田の言っている事が理解できた。

 ――情報が足りぬ、特殊な武装を持つ敵。

 そういった手合いに対し。間違いなく、狼は適任であろう。

 故に。まずは狼を先行させ、情報を収集させたいのだ。

 情報が足りないまま無為にこちらの精鋭を削りたくない。さりとて放置して市民へ被害を出す訳にもいかない。

 ならば。まずは情報を得るための戦いをし、相手の手札を暴いてからがスタートだ。

 

 それは――隠密行動に長けた漆間とて同じ。

 

「.....ちゃんと戦功下さいよ?」

『人型近界民との交戦によって有力な情報を得られたら、それだけでも最低一級戦功の付与を約束しよう』

「言質取りましたからね」

 

 漆間は――笑みを浮かべ、狼を見る。

 

「とはいえ。銃弾は効かない相手っぽいんで。前線で切った張ったするのは頼むぜ」

「....承知した」

 

 嵐山隊とエネドラとの交戦データが送られてくる。

 その攻撃の様をジッと見つめ。

 狼は――。

 

「....そうか」

 

 その姿。風貌。雰囲気。そして――その額に浮かぶ角と、目。

 見た瞬間に理解できた。

 

 この者が――。

 

「....修羅に堕ちかけ、鬼に成りかけている者か」

 

 その赤目は――間違いなく『変若水』を受け入れた者の、異形の者であり。

 赤く染まったその角は。かつて介錯した、鬼のようであった。

 そして。

 嵐山隊の二人を仕留めたその時に――浮かべた表情の機微も、また。

 己が心中にて向き合った――修羅となった己のものと、重なった。

 

 かつて――。

 狼は、一人の仏師と出会った。

 

 修羅となり損ない、鬼と成り果てた者を。

 

 狼は――仏師を、介錯という形でしか救う事が出来なかった。

 

 

 次があるのならば。

 その業から解き放ち――人へと、救ってやりたい。

 

「.....」

 

 狼は弧月を手に。――修羅の道へ足を踏み入れし、人型近界民の下へ向かっていく。

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