隻腕の狼、玄界に降り立つ   作:丸米

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剣聖×狼×鬼

「.....」

「どうした、ヴィザ」

 

 ――剣聖。そう称されるものは、葦名より遠く離れた異界にもまた居る。

 名は、ヴィザ。

 若き頃より、戦い続けた。戦い続け、屍を積んできた。屍の上を、ひたすらに歩き続けた。

 その果て。屍とならず、屍にならぬ方法を知った。

 国宝を賜り。老境を過ぎ。それでも尚――剣聖は、その名と共に最強であり続けた。

 

「....胸騒ぎがするのです、隊長殿」

「エネドラか」

「はい。――私は、あの目を見た事があります」

 

 軍事国家、アフトクラトルが剣聖は。葦名のそれとは少々趣が違う。

 凪の如く穏やかな好々爺。己が蛮性を内に飼いならし、静謐さすら纏っているように思える。

 故に。剣聖は知っている。

 人を斬り、殺める。その内に潜む――どうしようもない程の、甘味を。

 

「人を殺める事に耐えられぬ者がいるように。――どうしようもなく、人を殺める事に悦楽を見出してしまう者がいます」

「.....」

「あの、澱みを宿した水を受け入れてから。エネドラ殿の目は変わりました。目の色もそうですが.....人を殺め、斬る喜びを見出してしまった」

 

 剣聖は、首を横に振った。

 

「――あのトリオンとは異なる力は魅力的です。もし、あの力を用いて”死なず”の者を作り出しマザートリガーの贄とすれば、安泰を得られるやしれません」

 

 しかし、と。ヴィザは呟き。

 

「あの力には――こちらの理を覆す程の、歪みを内包しているように思えるのです」

 

 そして、と続け。

 

「そして。我々はその歪みの全貌を、まだ知れていない」

 剣聖は。あの力を恐ろしいと感じていた。

 一目見た瞬間より。本能で、この力は制御できる類のものではないと。そう実感していた。

 

「何も起こらぬことを、祈っています」

 

 

 

 

 不死斬りの一撃を受け、エネドラの首は斬り落とされる。

 

 ――マジかよ、こいつ。

 トリオン体を破壊した先に見えたのは、生身のまま剣を振るう男の姿であった。

 

 ――間違いなく生身だ。今俺は、どういう道理で攻撃を受けたんだ。

 

 トリオン体にて戦う者にとって、絶対にありえざる状況。生身のまま、トリオンに干渉できる方法を持つ者が眼前にいる。

 何故、と思う。

 だが――エネドラは戦士であった。戦士ゆえに、思惟を後回しにし、現状を一旦受け入れる癖が根付いた。

 

 ――この最悪の初見殺しを、こっちのタネが割れる前に切らせておいてよかった。

 

 エネドラ自身でずっと布石を打ち続けていた、「首が弱点と相手に思わせる」策が功を奏し。狼の不死斬りの一撃を、この布石にて使わせた。

 

 されど。狼自身も、首を斬って終わりではないであろうと、そう想定していた。エネドラの行動の裏にある思惟を、本能の部分で勘付いていた。

 

 故に。追撃を行う。

 首を断ち切られて尚、液状トリオンにて身体を再構築するエネドラの肉体に、刃を突き込む。

 

 ――狼は、この泥の王の性質を見て。一つ、試してみたい術があった。

 

 いつもの通り。ただ液体を潜るだけの手応えのない感覚が走る。だが、その感覚の中――狼は不死斬りを通し、意識を集中させる。

 トリオンを原理とした力ではなく。狼自身の期待に宿る力をもって行使される忍術を。

 

 ――血刀の術。

 

 本来、その術は――忍殺により殺めた相手の血を己が刀に纏わせ。斬撃の間合いを拡げ、その威力を増やす術である。

 対象となる相手の命の根源たる血を、術により己が制御下に置く。

 狼は――エネドラの泥の王により纏っているこのトリオンもまた、その術の効果範囲であるだろうと狼は推測していた。

 

「.....!」

 

 狼の不死斬りに纏わりつく泥の王を見て――エネドラの表情に焦燥の色が見える。

 エネドラ側からすれば、これは――まるで狼の刀に、泥の王が取り込まれているかの如く見えてしまっているからでもあるが。

 

 再構築する肉体が、吸い取られていく。

 

「.....これか」

 

 狼は――纏わせたトリオンに巻き付くような、硬質化した殻を見つけた。

 それに刃を叩きつけんと振りかぶった瞬間、

 

「――これ以上好き勝手にはさせねぇぞ」

 

 膨張したかのように液状トリオンを膨らますと、エネドラは周囲一帯をブレードで埋め尽くす大技をここで解禁させた。

 爆発したかのような音が響くと共に、狼はバックステップによりその技の範囲外へと逃げる。

 

 ――クソ。予想外にトリオンが削れてしまった。

 

 あの黒い剣。全くと言っていい程トリオン反応が見られないのに。何故だかトリオンに干渉する能力を持っている。

 その上。液状化したトリオンに対しても斬撃により連続性を断ち切る機能があるようで。――首を斬られた時点で、肉体の再構築に係るコストが大幅に増えていた。

 

 その上で。再構築の為に作り出した新たな液状トリオンも、あの刀に纏わされた。

 

 大技を避けた後、斬撃が襲い来る。

 泥の王を纏った狼の斬撃は、長く重い。エネドラの体内に巡る殻を狙い、振るわれる。

 

「――御子殿」

『はい。――あの殻のようなものは、目印をつけております』

「他の者にも、情報の共有を頼む」

『委細承知しました』

 恐らくは、弱点である供給器官を硬質化により覆っているのであろう。

 あの殻ごと中身を断ち切れば――あの者は、倒せる。

 

 ブレードの射出と、泥の王を纏った不死斬りによる斬撃。双方が攻勢をかける中。

 その横合いから狼に殴りかからんと疾走するラービットの姿があった。

 

 しかし――疾走の軌道上から直角に曲がりくる弾丸がラービットの急所に走る。

 弾丸はラービットの防御を生み出させ、足を止める。

 

「――私も援護するわ」

 

 その弾丸は、那須玲により放たれたものであった。

 その声は――己が部隊員に狙いをつけ、罠に嵌めた敵への怒りが滲み出ている。

 

 足を止め、顔を両椀にて覆ったラービットの腹先に。

 鞭の如くしなる光の刃が抉り込まれ――そのまま切腹の要領で横に撫で斬られる。

 

「――こいつが、大暴れしている黒トリガー野郎か」

 

 ボサボサの癖毛の下、笑みを浮かべた男が――倒れ伏すラービットを見下げる。

 付近でトリオン兵狩りを行っていた影浦雅人が、現着。

 

「....くく」

 

 次第に悪くなる状況の中。

 エネドラは、笑った。

 

 那須・影浦・狼の三者に囲まれたエネドラは、視線を下げる。

 その視線には――狼との斬り合いの最中、大きく斬り裂かれたコンクリがある。

 

 その狭間に――気化した己を潜り込ませ、ブレードの射出によりコンクリを破砕する。

 

「――逃げたか!」

 

 道路の下を通る下水道へと潜り込んだのだろう。

 狼はたった今砕かれた地下へ潜り込み、後を追わんとするが――。

 

「――御子殿。敵の所在は解るか」

『複数個所にトリオン反応があり、どれが正解か判断がつきません....!』

 

 地下に潜りこみし後。複数のトリオン反応が生まれ、それが動き回っている。

 ――下水道に潜り込んだ狼が手頃な反応先を追い、目にしたのは。下水に潜り込ませ流れていく硬質化した殻であった。

 

 殻の中にトリオンを封じ込め。流れる下水に流し込む。

 そうする事で――己が所在を隠している。

 

 エネドラにとって幸運だったのが。市街地にほど近い場所まで移動した事により、警戒区域であれど下水が生きていた事。

 流れる下水にそれを放るだけで――勝手にばら撒いたトリオンが移動してくれる。

 

 己が所在を覆い隠し、エネドラは――。

 

「これは....!」

 

 ――狼との交戦地域に向かわんと走っていた烏丸京介の足下が、大きく砕けていく。

 地下へ引きずり込まれた烏丸は。下水より現れたエネドラのブレードに貫かれ、緊急脱出。

 

 烏丸を仕留めると共に、エネドラは地上に出る。

 

「まずは浮いた駒を殺していく」

 

 地上へ現れた瞬間より――全方位からの弾丸がエネドラへ振り落ちていく。

 

「――そこか」

 

 その弾丸を硬質化により防ぎながら。エネドラはレーダーに反応する新たなトリオン反応が生み出された場所へ向かう。

 今まさに、弾丸を放つためにバッグワームを解いた敵兵の一人で在ろう、と推測を立てたが故に。

 廃ビルの中階層。その中に入り込み攻撃を仕掛けようとしたが。

 

 そこには――ただ宙に浮かぶ球形の機械があるのみ。

 

 ダミービーコン。

 

 偽造されたトリオン反応を生み出すそのトリガーは――戦況を見守っていた漆間恒により設置されたもの。

 出水公平によるハウンドの射出位置を誤魔化し、そして。

 

 エネドラが廃ビルの外へ視線を移した瞬間。

 義手に仕込んだ鈎縄をもって空中を移動してきた狼の姿が見えた。

 義手の掌を、エネドラに翳しながら。

 

 義手忍具、火吹き筒。

 その機能は実に単純。義手より火を噴く。機能は、ただそれのみである。

 

 ビルの外側より火を放ちエネドラの視界を塞ぐと共に、狼はエネドラへ肉薄する。

 

 エネドラの肉体の内側に不死斬りを放ち、――殻を打ち砕く。

 

「....やはり。本物ではないか」

 

 ――エネドラの弱点部位である、トリオン供給器官。それは、泥の王の機能により硬い外殻に覆われていた。

 それ目掛け斬撃を通したが、ダミーであった。

 先程、下水に流したダミーと同じ理屈である。同じ外殻。同じトリオンを内包したダミーを肉体に仕込ませ。そして己が肉体に巡回させて本物を覆い隠している。

 つくづく、よく出来た得物である。

 

「お前もしつこいな、得体のしれない化物め....!」

 

 もはや、エネドラには眼前の狼は物の怪に映っている。

 生身のままトリオン体に比肩しうる身のこなしを行使し、トリオンを宿さずトリオンを斬る異形の剣を振るうこの男を。

 

 捨て台詞と共に、廃ビルの配管に潜り込み。エネドラは上階へと潜り込んでいく。

 トリオン反応を追い、上階へやって来た狼は。エネドラのいる場所が、密閉された個室である事に凄まじいまでの危機を感じ取った。

 

 不死斬りを納刀し、眼前の壁に向け”竜閃”を放つ。

 斬撃に崩壊する壁からは、黒色の煙が漏れ出していた。

 ――敢えて俺に追わせ。密室に罠を仕掛けていたか。

 

 もしあのまま扉を開け部屋に入れば。気化した泥の王の煙を吸い、一度目の死を味わわされる事になっていたであろう。

 

 

 罠が不発である事を悟ると、エネドラはビルを抜け外に出る。

 

 

「――それじゃあ、ゾエさん。頼むぜ」

「うん。了解~」

 

 

 その瞬間より。

 エネドラの頭上には――円弧を描き降り注ぐ弾頭と、直角に曲がり襲い来る弾丸の二つが見えた。

 

 弾頭はビルを打ち砕き。

 弾丸はエネドラの周囲に振り落ちる。

 

 それは、影浦隊の北添尋によるメテオラ榴弾砲と。

 ――出水公平による、合成弾であった。

 

 崩れ落ちるビルの質量と衝撃。その周囲に振り落ちる弾丸は――爆風を巻き上げる。

 出水公平のバイパーとメテオラ。その二つの性質を掛け合わせたその弾丸は、曲がりながら地面へ着弾し。爆風を生み出す。

 

 視界は塞がり。

 風圧により、泥の王が纏う気化トリオンも吹き飛ばし。

 

 

「――茜ちゃんを怖がらせた報い、受けてもらうわ」

 

 塞がれた視界の奥。那須玲のバイパーのフルアタックが行使される。

 

 エネドラは凄まじく嫌な予感が脳内に巡り。その弾丸の軌道上に、硬質化させた泥の王によるシールドを置く。

 

 那須玲のフルアタックは二射に分かれていた。

 一射目にてシールドを展開させ。

 二射目は――視界に隠れるよう、地面に這うような軌道のもの。

 

 地面より回旋するように現れたそれは――エネドラの足下より、螺旋となって襲い来る。

 細かな散弾のようなそれが、回線しながらエネドラの肉体を貫いていく。

 それは――エネドラの内部にあるダミーの幾つかを打ち砕いていた。

 

「やってくれたな....!」

 

 その弾道の先にエネドラはブレードの射出を行い、那須玲にブレードを射出し、その肩口を斬り裂く。

 

 那須の顔は――笑みの形を象る。

 ここで己に視線を向ける所までが、策であった。

 

 煙の中より、二者が現る。

 

 

 

「――ここで仕留めるぜ。息を合わせろ、狼」

「....御意」

 

 二刀と、一刀。

 エネドラを挟み込むように現れた二人は、共に抜刀を行う。

 

 太刀川が旋空の射程内にて抜刀の為腰を下ろすと共に。

 狼が、エネドラへ肉薄する。

 

「――ここに来て、詰めが甘くなったな」

 

 エネドラは知っている。

 ここの兵が、生身である狼を見捨てるわけがないのだと。

 ここで狼に攻撃を仕掛ければ、太刀川は間違いなくそのカバーに入る。

 生身の狼を、ここで前に出す判断は、間違いなく誤りだ。

 

 エネドラは、迷いなく狼にブレードを射出する。

 

 ――が。

 

 太刀川は――そのエネドラの攻撃に微塵たりとも反応しない。

 狼の肉体はブレードに貫かれ――致命に十分な傷を負う。

 

「な」

 

 旋空が走る。

 それは――生身の狼すらも巻き込む斬撃であった。

 

 ブレードに貫かれ、旋空すらもその脇腹に食らいし狼は――死へ、至る。

 首と胴を斬り裂いた旋空と共に。

 エネドラは、またしてもありうべかざる光景を目にする。

 

 回生。

 

 抜刀の体勢のまま死に、そのまま――また息を吹き返す。

 不死斬り、『開門』。竜胤を代償に得た不死の肉体が、死から生へ回帰する。

 

 

「――秘伝、一心」

 

 一つ、抜刀すると共に。

 エネドラの肉体には――幾重もの斬撃が降り注ぐ。

 仏の最中。修羅となった己と向き合い手に入れた――老境の一心の技である。

 

 太刀川の抜刀により両断された肉体に降り注ぐその斬撃は――ダミーごと、エネドラの供給器官を貫いていた。

 トリオン体が崩壊し、生身の肉体が投げ出されるその瞬間までも。エネドラは己の身に何が降りかかったのか、認識する事すら叶わなかった――。

 

 

「そうか.....」

 

 エネドラは。

 空を見上げ、一つ息を吐いた。

 

「敗けたのか」

 

 ただ、そう呟いて。

 

「.....」

 それから空を見上げれば。

 聞こえてくる。

 

 ――この地に宿る、怨嗟の声が。

 

 

 

「――異界の尖兵よ。同行願おう」

 

 生身となったエネドラを前に、狼が近づく。

 

「....畜生。生身になっちまったら、より鮮明に聞こえてくるなぁ....」

 

 そうぶつぶつと呟くエネドラに、狼は凄まじく嫌な予感がして。

 早急にその身柄を確保せんと手を伸ばすと。

 

「.....!」

「が...は....」

 

 

 エネドラは、――突如として現れた、空間上の穴から。その身が貫かれていた。

 腹部を貫かれ、血が流れる様すらも。エネドラは他人事のように見ていた。

 

「....ミラ、か」

「....」

 

 穴より、女が現れる。

 肩口位の髪の、黒服の女。開かれた穴から――彼女はただジッと、エネドラを見ていた。

 

「....黒トリガーで、ノーマルトリガーに敗れた俺への、粛清か」

「....いいえ」

「なら――この異形の力を得た俺をここで棄てるため、か.....」

「.....」

「そうか....」

 

 ミラの表情には――惜しむような色がある。

 その顔を見て。エネドラは微笑みと共に、――泥の王が付着した左腕を差し出す。

 

「ごめんなさい、エネドラ。貴方は――本当に、素晴らしい戦士だったわ」

 

 そうして。

 その左腕に己が刃を落とすと。

 

 

 

 

「――え?」

 

 その刃は、通らなかった。

 手首を落とすつもりで振るった、女の刃。

 それは――変貌するエネドラの肉体に弾き返される。

 

 見目が変わっていく。

 肌は、泥色に変わり。角が隆起し、その顔形はひび割れ、その狭間より溶岩の如き炎が生まれ行く。

 そして。

 ――炎が、怨嗟と共に。泥の王を纏った左腕より吹き上がる。

 

 気が付けば。

 泥色となったエネドラの左腕が――ミラの腹部を、貫いていた。

 

「ぐ....!」

 

 

 生身のはずであったエネドラの左腕。それは火を噴きながら、トリオン体であるはずの女の肉体を、貫いていた。

 

「あつ...あつ、い....あ.....あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼‼」

 

 ミラは、その炎の熱が身体の内側より燃えていく感覚を受け取り、悲鳴と共に、反射的に穴の中へ逃げ込んだ。

 

 

 

「やはり、お主が――」

 

 

 泥色の皮膚と炎を纏ったその男は、――燃え滾るような怨嗟の声と共に、その左腕を振るった。

 それだけで、辺り一帯に泥土の如き炎が降り落ち。ビル群を灰燼と化す炎を振りまいていた――。

 

 

☆彡

 

 

 

「――生きておりますかな、玄界の戦士よ」

 

 爆風に巻き込まれ、意識を失った狼の傍。

 そこには、一人の老人がいた。

 声と共に覚醒し、上体を起こすと――燃え盛る炎に巻かれた警戒区域があった。

 

 恐らく、また一度死んでしまったのであろうか。

 

「....お主は」

「ヴィザ、と申します。アフトクラトルの将を務めております」

 

 そう言うと。老人は狼を一瞥し。また、炎の中を見た。

 

 

「――アレは、エネドラ殿なのですね」

「.....」

「そう、ですか」

 

 無言のまま、首肯する狼に、老人は少しだけ目を伏せる。

 ヴィザは細めた目をゆっくりと開け――狼に語り掛ける。

 

 

「玄界の戦士殿。――まだ、アレと戦う意気はお持ちですかな」

「.....ああ」

「我々の本来の作戦は、もう終わりです。ミラ殿がああなってしまっては、金の雛鳥を追うだけの余力はもうない」

 

 ですが、とヴィザは続ける。

 

「我々は。泥の王を回収しなければなりませぬ」

「そうか」

「よって。――私はあの炎に挑みますが。貴方はどうなさいますかな?」

 

 

 狼は。

 ヴィザの目を見た。

 

「――あれは、怨嗟の鬼だ」

「ほう。怨嗟でございますか」

「かつて、俺は――あれと同じ者を斬った」

 

 故に。

 

「次は――怨嗟の中より。あの者を救い出すと、決めていた」

 

 その言葉を聞くと。

 老人は、ただ静かに頷いた。

 

「これも、巡り合わせというものでしょう」

 

 剣聖。

 そう呼ばれた者が、異界にもいる。

 

「玄界の戦士よ。ならば共に――鬼狩りと参りましょうか」

 

 

 カツカツ、と。

 剣聖は――その表情から笑みを消し、炎の中を歩んでいく。

 

「....ああ」

 その歩みに、狼もまた応える。

 

 炎の最中。――忍びと剣士が、ゆっくりと影となり、消えていった。

 




ヴィザ、まさかの共闘。
次の話で諸々どうなったのか示そうと思います。
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