「今回、ぼくたちは――市街地Cを選ぶ。その上で、天候を”雪”とする」
「ふむん」
玉狛第二、三雲修は――ここ三日間。常に籠りきりで作戦を考え続けていた。
相手は鈴鳴第一と落水隊。
下位を退け中位まで一気に順位を跳ね上げたものの――ここに来て、玉狛の目的とあまりにも噛み合わない部隊が出現してしまった。
落水隊である。
「ぼくらは、最終的にA級に上がる事を目的にしていて、貪欲に点を狙わなければいけない立場。でも、ソロ部隊である落水隊と相手をするという事は、生存点を確保しなければ大量得点は望めない。そうなると必然的に――隠密を主体として動く薄井さんを見つけ出して、仕留めなければいけない」
「だから――上を取りさえすれば下への視界が拡がる市街地Cを選択するんだね」
「そうです」
玉狛第二の隊長である三雲修に、メガネの女性――宇佐美栞が朗らかに言葉を挟む。
「ただ。薄井さんはこの盤上で、正面からの戦闘においても一番強いと空閑が見立てている。――見つけ出すのも大変で、いざ探し出せたとしてもこっちが単独だと確実に返り討ちにあう」
「見つけ出せたのがおれだったら、防御主体で戦えば時間稼ぎは出来ると思う。でも仕留めるのはちょっと厳しい」
「ぼくたちの負け筋として――序盤で薄井さんにメンバーが落とされる事。特に空閑が落とされたら、もうこの試合で勝ち切る事は不可能に近いと思う」
敵部隊に、空閑を打倒しうる攻撃手が二枚存在している。
この二枚を抑えるための鍵である空閑を落とされれば。それだけで、もう勝利は絶望的になる。
それがこの部隊――玉狛第二の致命的な弱味である。
「逆にぼくたちの勝ち筋は二つ。鈴鳴の横槍が入らない状況で、フルメンバーで薄井さんを見つけ出し戦うか。もしくは、薄井さんと鈴鳴をぶつけるか」
「生存点が欲しいのはあっちも同じだから。薄井さんを見つけたら戦ってくれそうではあるよね」
「その点で言えば。薄井さんは敵が六人いるから、無理に生存点を狙いに行かなくてもいいという強みがある。――序盤で三点以上取られて、本気で隠密されたら。こっちは絶対に見つけ出せない」
現状救いなのは、落水隊もまた点を取らなければならない事。
あちらも攻めてこなければ点は取れない訳で。隠密をするにしても、必ず暗殺の為に近付いてきてくれる。
「攻撃手の隠密だから、狙撃手のように射線を気にせず動ける反面。必ず近くに寄らなければならない弱味もある。それをカバーできる機動力や戦闘能力もあるから厄介ではあるけど、完璧ではない」
だから、と。三雲は続ける。
「市街地Cを取り上の視界を確保した上で、雪を積もらせて薄井さんの機動力を削る。まずは、薄井さんが動き回る上での負荷をかける」
●
「.....」
積雪は非常に激しい。場所によっては、脛が埋まるくらいの積雪量がある。
狼の走りをもってしても、やはり機動力は削られてしまう。
残る足跡も深い。降雪でいつか消えるであろうが、直近の足跡は隠しきれぬ。
そして、下に転送されてしまったが故に。上へと登る経路の中、何の障害物もない道路を渡らなければならない。
序盤の内に上を渡るのは厳しいだろう。確実に、見られてしまう。
ならば――下に転送されてきた者を、まずは仕留める。
●
「転送位置は、このようになっております」
スクリーンに、各部隊の転送位置が示される。
上を取れたのは、三雲・太一・遊真
下は、狼・村上・来馬・雨取 となっている。
全員、狼を警戒してか。バッグワームを着込みながらの移動となっている。
「どの部隊も、かなり歯がゆい転送となっていますね。ただ....純粋に不利を背負っているのは薄井でしょうね」
「玉狛は上に二人いる分、人数的には有利を取れているが、下にいるのが狙撃手の雨取。逆に、鈴鳴は狙撃手が上にいるという最高の状況を手に入れられたが、他の仲間と離れている。....この二部隊は序盤の判断が命取りになる」
何処もジレンマが残る転送となった。
玉狛は上を二人で取れている、という優位点があるが。狙撃手の雨取が下にいる為、誰かが上に引き上げる為に、下に向かわなければならない。
鈴鳴は狙撃手の太一が上を取っている最高の状態であるが。狙撃手が孤立している状態の為、優位点を生かす前に仕留められる可能性がある。
そして、ソロ部隊の狼は下に転送され。純粋に不利を背負わされている。
「鈴鳴は、いちはやく別役との合流を果たす事。玉狛は雨取を上に引き上げ、別役を排除する事。やることが多い分、玉狛の方が大変だな」
「薄井は、一旦上へ来るのを諦めて下の駒を排除する事に集中しているようですね。――敵を捕捉するのも時間の問題でしょう」
狼は建造物の間を抜けながら、周囲の索敵を行っている。
市街地Cは、基本的に下から上へと向かうルートを選択する為。索敵しなければならない範囲は限られている。
「――薄井が、村上を捕捉しましたね」
●
「....村上か」
狼は軽くそう呟き――村上の姿を捉える。
マップ西側に向け走る姿を背後より見咎め、一瞬の合間に思案する。
「恐らく、来馬との合流を目指しているのだろう」
狼は、この場で村上と戦闘を仕掛けるか。村上を泳がせ来馬の位置を確認するか。どちらが己が勝率を上げるかを考え――目を細め、刀を構える。
無音にて弧月を引き抜き、肩口にて剣先を揃える。
足音なく、村上の背に向け疾走すると――。
ギィン、と。
刀身同士がぶつかり合う音が響く。
狼が突き込みし弧月を、振り向きざまに斬り上げる村上の防護。
「....やはりか」
バッグワームを解除し、狼は鍔競る刀身を跳ね返し村上へ足下への脛斬りを行使。
一つバックステップすると共に、村上もまたバッグワームを解き。レイガストを装着する。
「――俺に暗殺は効きませんよ、狼さん」
「....」
無言のまま、狼は刀を構える。
この状況も予想は付いていたのだろう。
「――ここで仕留めさせてもらいます」
〇
狼の斬撃が、頭上より走ると共に。
レイガストがその軌道に挟まる。
異音と共に、狼の斬撃は弾かれる。
――これが、村上鋼の戦い。
弧月と、レイガスト。
鋭い剣戟と堅牢な盾。硬い防御能力を前提とした、堅い立ち回り。
初撃を弾き返したところを、村上の返す刃が襲い来る。
横薙ぎに放たれる一撃は――狼の横合いへ走ると共に、即座に弾き返される。
狼の防護は、村上のそれよりも遥かに単純である。
弾き。
刀身にて、斬る。刀身にて、弾く。
攻撃が己に到達する刹那にて、刀身を合わせ、弾く。
――村上の戦闘スタイルを、狼は弧月一本にて成立させている。
その凄まじさは、同じく防護主体の村上だからこそ如実に理解できる。
剣戟が、響き続ける。
初撃の応酬にて、火が付いたかのようであった。互いが振るう剣を互いが防護し。防護の刹那に攻撃を挟み込む。目まぐるしく切り替わり続ける。
さながら、殺陣のごと。剣先が触れあう金属音と盾で防ぐ鈍い音が響き渡る。
――防ぐ、では勝てない。
狼の袈裟斬りをレイガストにて防ぎ。
防ぐ予備動作と共に――縦振りの斬撃を狼の頭上に降らす。
――防ぐと、攻めるを両立させねば。
狼の刀身を押さえながらの、頭上からの一撃。
防ぐ事は叶わない、が。
狼は、バックステップにて己が身体を逃す。
――ようやく、大きな隙を見せてくれた。
バックステップの着地瞬間を狙い、旋空での追撃を叩き込まんとした村上の視界に。
トリオン光を満たした狼の姿が見えた。
「ぐ....!」
旋空での追撃を読んでの、韋駄天の発動。
それは村上に襲い来る蹴撃となる。
村上はレイガストにて狼の蹴りを防ぐものの。その身体は大きく後退する。
蹴られ、間を稼がれ、体勢を立て直す――その合間。
狼の弧月は、上段に大きく刃先が向かう。
大きな振りと、大きな踏み込み。上段からの鋭い斬撃が、村上の頭上に襲い来る。
――葦名流、一文字二連。
隙が大きいものの、威力も大きく、相手の体幹を大きく削る高威力の縦斬撃の二連。
蹴りにより二連を受けた村上は。一撃はレイガストで受けるものの、受ける肩が下がり。二撃目は防ぎ切れず肩から胸元辺りを斬られる。
ぶしゅ、とトリオンが己が肉体より噴出する音を聞きながら。――狼の更なる猛攻が襲い来る。
このまま攻撃を受け続ければ、体幹が崩れ去り、一瞬の間に命を刈り取られるであろう。
幾度となく。狼との模擬戦ではそうして敗れてきた。
狼の斬撃に合わせ。村上はレイガストの盾部分の形状を変える。
弧月の刀身がレイガストの盾に絡めとられると共に。ならばと狼は村上に突きの一撃を見舞わんとする。
尋常ならば。レイガストに弧月を絡めとった瞬間。己が身体を回旋させてくるり弧月の刀身を回せば、相手は容易く体勢を崩す。
しかし――狼の体幹は、恐ろしく硬い。体幹を崩す戦いの達人は、己が体幹を持久させる術も当然心得ている。
よって。レイガストで得物を絡めとる以外の更なる一撃。それを、村上は用意していた。
――スラスターをセットし、突き込まれるよりも前に狼を押しだす。
スラスター。
それはレイガスト専用のサブトリガーである。
レイガストにトリオンによる推進機能を付ける。この機能を使う事で、レイガストを高速で飛ばす機構を追加させる事が可能となる。
これを用いて。レイガストを飛ばす。もしくはレイガストの使い手を高速移動させる――などという効果を発揮させるものであるが。
村上は、このトリオンによる推進力を、相対する相手を跳ね飛ばす――という使い方も行う。
強固な狼の体幹をもってしても――これを防ぐ事は叶わないだろう。
が。
スラスターの推進音が聞こえた瞬間より。狼もまた己が肉体を、トリオンの光で纏わせる。
「――韋駄天」
レイガストの押し出しに抵抗するように。
狼もまた韋駄天にて己が身体を押し出す。
互いの推進力がぶつかり合い、凄まじい衝撃音が響くと共に――狼が突き込んだ刀身は、村上の肩口を貫いていた。
「――これも読まれていたか....!」
突き込みの一撃より狼は即座にバックステップより距離を取る。
――今度は外さない。
韋駄天による光が見えない事を確認しつつ、再度の旋空の一撃。
狼は――今度は、村上と同じくレイガストを発動し、その刀身を防ぐ。
長く伸びた剣先の上を、狼は飛ぶ。
レイガストの重みを利用しぐるり己が肉体を回旋させ――村上の頭上に、剣戟を叩き込む。
寄鷹斬り。
生身であらば、義手の重みを支点として己が身体を回旋させ斬撃を見舞う技であるが。トリオン体であらば、レイガストの重みを用いて行使する。
「.....!」
村上の体幹は、限界を迎えようとしていた。
村上は何とか狼から逃れるように背後へ移動し。それでも逃げる事叶わずレイガストでの防護すると共に――狼の猛攻を前にして、膝が崩れる。
とどめの、忍殺の一撃を見舞わんと刀を振るおうとして――。
己が本能が、背後からの危険を察知させ。
村上を仕留める絶好機を逃す代償に、発動したレイガストにて己が頭部を守る。
それは――上層より放たれし、別役太一による狙撃であった。
「――うっそ、なんであれ防げるんすか⁉」
獲物を仕留めかける絶好機。最も意識が相手を殺す事に満たされる瞬間を狙っての、狙撃の一撃。
だが。狼はその狙撃を見咎め、防いだ。
「――鋼!」
その瞬間。合流を目指していた来馬もまた、ハウンド弾を放ちながらこちらに近付いてくる。
「.....潮時か」
狼は無理に交戦することなく。ハウンド弾の軌道から逃れるよう韋駄天を使用し、交戦区域から逃れるとバッグワームを羽織る。
村上も来馬も無理に追う事はせず。――互いに点を取ることが出来ぬまま、第一陣の戦闘は終わった。
「だが――これにて上層にいる狙撃手の位置は掴めた」
村上と交戦し仕留め切れなかったのは惜しいが。この交戦で、無傷にて敵狙撃手の位置を掴むことが出来た。
まだまだ――勝負は始まったばかり。