隻腕の狼、玄界に降り立つ   作:丸米

33 / 54
どうしてもこのサブタイにしたかった....。
許して


最悪×の×泥仕合

「――ここまで、かなり速い展開の連続でしたが。ここに来て一転、膠着状態となっています」

 玉狛第二による市街地Cの選択から始まった、ランク戦第二ラウンド。

 村上と狼の交戦から目まぐるしく変わっていった状況の中。生き残りは各部隊一名ずつとなった。

 その瞬間より――ピタリ、と状況が動かなくなった。

 

 村上、空閑、そして狼。三人の攻撃手のみが残された戦場の中――それぞれ交戦を嫌うように隠密に徹している。

 

「完全な三竦みですね。今居所が割れている村上を最初に襲い掛かった者が損をする。そういう形になっています」

「....だが。このままの状況が進めば、鈴鳴と落水隊は敗北が決まるが....」

「玉狛も、たった2得点で満足は出来ないでしょう。――誰かが仕掛けなければなりませんが。仕掛ける側が損をする仕組み故に、膠着している」

「だが――この三者の中。薄井だけが、隠密をしながらも、動き回っている」

 

 不意打ちに備え意識を集中させている村上と。居所を割られぬため隠密に徹する空閑。

 対照的に――狼は建造物の陰に隠れながらも、周囲を動き回っている。

 

「――恐らく空閑が動き回らずいるのは、雪の影響も多くあるだろうな。足跡が残る」

「対して薄井は、それほど足跡を恐れていませんね。雪は降り続くものですから、時間が経てば消えます。所々建物の中を辿って足跡を途切れさせているのも上手いですね」

 

 元々、狼がいた葦名は雪深い山岳地帯にあった。

 降雪地帯における隠密も、狼は重々に承知しており。雪地での足跡を使い敢えて別役を釣り出す等、環境をしっかりと利用できている。

 

 ――タイムアップまで、残り8分を切る。

 

 村上も空閑も、双方ともに焦りの表情が見え始める。

 

「.....」

 

 この時間を迎えた所から――狼は索敵を止め、動きを止める。

 

「....恐らく、隠密している空閑の居所を割ったのでしょうね」

 

 索敵の最中。恐らく狼は空閑を視界に収めた訳ではない。

 ただ視界に映らなかった場所を記憶し――どの陰に空閑が潜んでいるのかの目星をつけた。

 

 ――タイムアップまで、残り5分。

 

 ここで――動き出す影があった。

 

 

 ――隠密の能力にて、この場で勝利を収める。

 その判断を下し。

 

 狼は――バッグワームを解除すると共に、旋空を放つ。

 

 この場にて。狼は空閑が持っていない情報を持っている。

 それは空閑の位置を狼が暴いているという、情報である。

 この情報をどう使うかによって、己が勝利は左右される。

 

 隠密状態で周囲を警戒している空閑に忍殺は通り辛いであろう。そこまで甘い手合いとは思えぬ。

 この状況。先に仕掛けるは、不利。

 されど、この状況のまま動かぬは敗北。

 残る二名が自ずから仕掛けるのを待ちはしたが――残り五分を切ったこの状況下。ただ動くのを待つだけではどうにもならぬ。

 

 だから、仕掛ける。仕掛ける、が。

 ――動かざるを得ない状況に持ち込むよう、仕掛ける。

 

 よって。狼は旋空を放った。

 最大射程は二十メートル程。この斬撃により空閑の位置に攻撃を放つと共に、即座に韋駄天をセット。空閑の位置取りから、大きく離れる。

 

「....いつの間にか、バレていたか」

 

 こうして――空閑は居所が割れた上。狼との距離が離れる状況下に陥った。

 タイムアップまでの刻限は、残り四分。

 韋駄天の発動により距離が離れ。また再度バッグワームをつけた狼を追い、索敵し、戦う余裕は一切ない。

 それは――村上とて同じ事。

 

 狼の一撃にバッグワームを解いた空閑に向け――村上は襲い掛かる。

 

 互いに時間がない。

 それ故に――後退することなく、空閑は応戦する必要に迫られる。

 

 空閑のスコーピオンの二刀と、村上の剣が交差し。攻防が開始される。

 

 ――残り、二分を切る。

 

 攻防の最中。互いにタイムアップを意識し眼前の得点源への集中を高めた瞬間を見計らい。

 遊真と村上の横手から――突如湧いて出たトリオン反応に、意識が分断されてしまう。

 

「――ッ!」

 

 ――残り、一分を切る。

 バッグワームを解き、両者の横合いから現れた狼は。空閑・村上双方共に――旋空が届く位置取りをしていた。

 よって。双方ともが、狼の攻撃に意識を割かざるを得ない状況下となる。

 

 その狼が選ぶは、空閑であった。

 旋空の一撃を見舞い、大きく体勢を逸らした空閑は――村上の剣戟に重ねられ。大きく腹部を斬られた。

 

「....上手い、ね」

 

 空閑が緊急脱出すると共に。

 空閑に斬撃を振るった村上の頭上に韋駄天で移動した狼は、首投げにて体勢を崩させ、その首に弧月を捻じ込む。

 

 ――試合終了の刻限間近。

 狼は村上鋼を仕留め――生存点を確保。

 

 

『――試合終了!生存点含め4点を獲得した落水隊が、勝利しました!』

 

 

「――成程....」

 

 決着の瞬間を見届けた風間は、感心したようにそう呟いた。

 

「改めまして。結果は4ー2ー2となり、落水隊の勝利となりました。それぞれの部隊が稼いだ得点は等しく2点ずつですが。最終的には生存点で薄井隊が上回る形となりました。――それでは、総評と参ります。お二方、よろしくお願いします」

 

「生存点が決め手となり勝利するのが、らしいですね。今回の戦い、落水隊の”生き残る為の戦略”が大きく見られました」

「特に。得点機を逸してでも、退却する判断が見られた二つの場面。序盤の村上との交戦と、三雲が見せた釣りを無視した所。あれは、見事だった」

 

 狼は、得点機を二回。己が意思によって逃している。

 村上鋼との交戦時。追い詰めた村上を、別役の狙撃によって逃し、そこから退却した場面。

 雨取千佳を獲り、ポイントを獲得した時。三雲が見せた逃亡時の挙動から”釣り”の意図を看破し、無視した場面。

 

「目先の得点よりも、最終的に生存点を稼ぐ方を選択できる部分に落水隊の特性があるように思えますね。これもまた、ソロ部隊故でしょう」

「玉狛第二の市街地Cのマップ選択はどうだったでしょう?」

「市街地Cの選択そのものは悪くなかったと思います。あの雨取の砲撃で上を取れれば、相当な有利を取れていたはずです。――ですが、雨取隊員が下に転送されてしまい、孤立する形になったのが不運でしたね」

「雪を降らす選択も、薄井の機動力を削って隠密をしにくくする為の判断だろうが....。あまりにも雪道への対処が完璧すぎた分、むしろ落水隊は相対的に得をした結果となったな。まあ、これは責められない」

 

 マップ選択は。狼が下方に転送されたのは良かったが、雨取が完全に二人と離れた位置に転送されたのが玉狛第二にとっては痛く。

 雪を降らした選択は――雪に慣れていた狼にとっては相対的に有利となり。終盤の空閑との隠密戦において大きなアドバンテージを与える結果となった。

 

「鈴鳴第一ですが。――やはり村上が強力ですね。狼相手に背後から襲われて対応できる隊員は数少ない。来馬と即座に合流を目指したのも、正しい判断だったと思います。薄井・空閑の高機動力のエースに対しては、固まって動くことが何より重要になりますから」

「窮地に陥っていた村上を援護した別役の狙撃も良かった。――あそこで村上が落とされていたら、来馬含めて落水隊が2点を取っていただろう。だが、早々に別役が落とされてしまい、玉狛と落水隊の仕掛けに対して受け身にならざるを得なかったのが少し惜しかった」

 

「――最後。村上・空閑・薄井隊員の三竦みとなったあの場面。最終的に薄井隊員が盤石の立ち回りで制した結果になりましたが」

「薄井の隠密戦の慣れを感じますね。タイムアップ間近の動きまで合わせて、ほぼ完璧だったと思います」

「あの場面こそ。薄井の雪道での隠密慣れが感じられる部分だったな....」

 

 隠密戦術を主とする風間も――最後の狼の立ち回りには、深く感じいるものがあったらしい。少しだけ、言葉尻が強くなっている。

 

「――隠密は己が所在を隠す手段というだけではなく。隠しながら、情報を集める事まで含めての隠密です。狼は、自身の位置を暴かれる事を恐れず動き、空閑の位置に目星をつけた。それがあっての、勝利であったと思いますね」

 

 狼の戦略は。

 タイムアップ間近のギリギリまで情報を集め。空閑の位置に目星をつけた上で――村上と空閑を食い合わせる事にあった。

 

 その間に。空閑と村上が焦れて戦いを始めるならばよし。

 そうならないのならば――空閑へ、旋空の一撃を与えた上で、韋駄天で逃げの一手を打つ。

 

 タイムアップ間近のこの場面。空閑は韋駄天で逃げる狼を追う事は、時間の圧迫により不可能であった。この一撃で居所を割った村上と交戦する他、点を稼ぐ手段はなかった。

 もしも、時間が十分に確保できているのならば狼を追っていたかもしれない。

 だが――タイムアップ間近まで隠密で時間を潰した事が、巡り巡って己に不利を運び込んでいた。

 雪道での情報収集。タイムアップ間近での策。その全てが、狼の生存点確保に繋がった――。

 こうして。落水隊のはじめての中位戦も、無事勝利を収められた――。

 

 

 

 

「――さて。タイムアップによって終えたこの試合を以て。順位が確定しました」

 

 結果を受け、順位に変動が起こる。

 

「落水隊は8位までランクを上げ。――残念ながら。東さんが隊長を務める東隊は中位に落ちる事となりました」

「ありゃあ。――まあ仕方ない」

「この結果を受けまして....次の落水隊の試合が決まり、ましたが....」

 

 これまで、ずっと冷静沈着に実況を続けてきた橘高であったが。

 少しだけ――同情的な声音が漏れる。

 

「――どうした?」

「はい。失礼いたしました。次のランク戦中位戦昼の部は――落水隊・漆間隊・東隊・荒船隊の四つ巴戦に決まりました.....」

「.....」

「.....」

 

 東は「そうかぁ....」と。何だか噛めば味がしそうな笑みを浮かべ。

 風間は、隣の東に....何だか凄く気の毒そうな視線を向けていた。

 

 

「.....」

「.....」

 

 落水隊作戦室内。

 総評をしめやかに聞いていた狼と御子は――次の試合の組み合わせを聞いた瞬間。全てを悟ったように、沈黙を続けていた。

 

 ――漆間隊。落水隊と同じく、漆間恒隊長一人で構成されるソロ部隊。落水隊と同じく隠密主体の戦術を用いる部隊。

 ――東隊。かつてのA級1位部隊の隊長であり、狙撃の名手である東春秋と攻撃手である小荒井・奥寺で構成されている部隊。昨期のランク戦、東春秋は一度たりとも討たれていない。

 ――荒船隊。隊員全員がマスターランクの狙撃手で構成される異色部隊。隊長の荒船は攻撃手としてもマスターランクであり、その腕に衰え無し。

 

 隠密を主体とする部隊が二つ。生存能力が極めて高いベテラン狙撃手が組み込まれた部隊が一つ。

 奇しくも――B級部隊での隠密部隊が一堂に会したような。

 言ってしまえば――隠密合戦という、最悪の泥仕合が展開される事間違いなしの組み合わせの試合が決定されたのであった――。

 

「マップ選択権は....?」

「....漆間隊になりますね」

 

 ――せっかくの四つ巴戦であったが。次の戦いも、大量得点があまり望めぬ試合になりそうであった――。

 

 

「....ん?」

 

 狼の端末に、メッセージが一つ送られていた。

 

「どうしました、狼殿?」

「忍田本部長より、連絡が入っている」

 

 ――ランク戦終了直後に申し訳ない。落水隊長と共に、本部指令室に来て頂きたい。

 

「.....!」

 続く文面に――狼の表情は大きく変わる。

 

 ――捕らえていた人型近界民が意識を取り戻した。葦名の住人であった君にも、尋問に参加して頂きたい。

 

 大規模侵攻にて、”怨嗟の鬼”となり、捕らわれた人型近界民、エネドラ。

 鬼と化し、怨嗟の炎を撒き散らし暴れ回った後――彼は死んだように意識が途絶え続けていた。

 

 狼はすぐに了承の旨を返信し、御子を伴い本部指令室まで向かっていった――。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。