隻腕の狼、玄界に降り立つ   作:丸米

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近接戦×東春秋×ダミービーコン

「――おっさんはマップの西側か」

「....ああ。お主は、南側か」

 

 落水隊の二人は、それぞれ西方と南方に飛ばされた。

 ――このマップでは、マップからやや東側に寄った中央付近の工業プラント地帯で交戦が行われる事が多い。

 というのも。この場所が最も、『周囲の建造物により狙撃手の射線が切れ』それでいて『開かれた空間が多く、銃撃戦が行いやすい』という性質を持っているから。

 

 だが。これは部隊に銃手や射手がいる部隊の強みだ。

 漆間がこのマップを選んだ理由も、それだろう。

 突撃銃が唯一の武装である漆間にとって利を生める場所である。

 

 ....だが。

 

「どうするかね。初手であの場所まで行くか?」

「....我等で先導するのはあまり得ではなかろう。背後に狙撃手の脅威があるのならば、猶更」

「――だな」

 

 まずは、このマップ上で浮きやすい狙撃手の居所を暴かねばならない。

 漆間もソロ隊員であり。動き出すのは確実に点が取れる状況になってからであろう。

 

「気候も暴風雨だ。建造物が集まっている関係上、主戦場になる可能性が高い開けた場所も水嵩が増しやすい。――攻撃手が動きにくく更に狙撃手が近づかなければならない。狙撃手に怯えながらあの場所で交戦はしたくねぇ」

「――恐らく。東隊の刀使い二人も、水が流る傾斜を取りたい所だろうな」

 

 マップの状況は、夜の暴風雨。

 暗がりで動ける上に、暴風雨で足音が消せる。隠密する上では利がある条件であるが――狙撃手にとっては最悪の状況が重なり切っている。

 だが。降りしきる雨で、プラント内に軽い水嵩が出来ており。足が取られ少々動きにくい。

 プラント内には水はけの為の流れは出来ており。それは西側から東側へと流れていっている。

 そうなると――攻撃手は西側からプラント内に入る方が、有利を得られる。

 

「――おっさんはプラント地帯周辺の狙撃地点の索敵を頼む。ミコ、ポイントのマーキングを頼む」

『承知いたしました』

 

 この四部隊での戦いが決まった瞬間から。落水隊は、漆間が選ぶであろうマップを市街地Dか、工業地区の二つまで絞っていた。

 そのうち――工業地帯の場合、狙撃ポイントを暴くことが何より肝要であると考え。エネドラ主導にて射線が通る位置の確認を行っていた。

 

 まずはそのポイントを順繰りに回りつつ。エネドラは狼との合流を果たす。

 方針は定まり、二人は動き出す。

 

「お」

 

 そして。

 目付していた場所から人影が垣間見えた瞬間――エネドラは、その口元に笑みを浮かべ。

 バッグワームを装着したまま。バイパーを

 

 

 

 

「――ち。やりにくいったらありゃしねぇ」

 

 荒船隊はマップ中央の工業プラントの西側から半崎・穂刈を展開させ。攻撃手の動きも出来る荒船が中に入り込んでいく。

 西から東へ。水が流れていく方向から。

 

「雨で暴風雨の環境だから。撃った後に逃げやすいのが救いっすね」

「とはいえ。大変だ、撃つまでが」

 

 ――さて。東さんは何処にいるかね。

 

 こちらが気にしなければならないのは。東春秋が何処で陣取っているかだ。

 恐らくは――奥寺・小荒井が引き上げた敵を射殺せる位置に付いているのであろうが。

 

 ――ならば。まずは誰かが、奥寺・小荒井の二名と交戦しなければ始まらない訳だが。

 

「.....!」

 

 雨風に紛れ、夜を裂くような、直角に曲がり来る弾丸が荒船に走っていく。

 

「――早速か!」

 

 建物から飛び出て曲がり来るそれを一瞥し、仕方なしに荒船はバッグワームを解きシールドを張る。

 正面から素直にやって来る軌道のものと。正面から足元へ向かうもの。

 双方を防護する為にシールドを拡張させ、足を止める。

 

「やってくれるじゃねーか、ルーキーめ」

 

 一射すると、すぐさま攻撃が止む。

 この一撃の意図は実に単純である。

 ――荒船のバッグワームを解かせる事。ただそれのみ。

 

 皆が皆隠密する中。レーダーを解いたものが一人。

 その位置が暴かれれば――来る。

 

「――荒船先輩を捕捉しました」

「――このまま、やります!」

 

 眼前に、東隊の二人――奥寺・小荒井のコンビが、荒船の頭上より斬りかかる。

 

「――俺はこのまま交戦に入る。射線に入ったら撃て」

 

 荒船もまた弧月を抜き、二人との交戦に入った――。

 

 

 

 

 荒船と奥寺・小荒井の二人組との交戦が始まると共に。

 エネドラもまた動き出す。

 

 バッグワームで姿をくらましながら、バイパーを撃っていく。

 

「おっさん。西側からの狙撃に気を付けとけ。――アラフネの援護に狙撃が飛んで来たらさっさと仕留めにいくぞ」

「....承知」

 

 エネドラは建造物の陰から。もしくはその中に入り込み。交戦区域に弾丸を放っていく。

 

「くそ....邪魔してくんなぁ!」

「落水隊の新入り.....噂通り、バイパー使うのか」

 

 それは、奥寺と小荒井の連携を途切れさすために放つ弾丸。

 ――奥寺と小荒井は、攻撃手同士の連携能力に関して定評のある二人組である。

 

 連携は、距離が近くなればなるほど組みにくい。

 視野や意識が狭まりやすい攻撃手ともなれば、猶更である。

 近い距離の中。互いの行動を阻むことなく己が手を選択する。相当な修練を積まねば、難しい芸当であろう。

 

 それを難なく行える二人は。両者揃いし時、その本領を発揮する。

 

 弧月のマスターランクである荒船を相手に、――反撃を許さぬ程の連携で追い詰めている。

 

 だが――エネドラのバイパーが、連携の所々で挟み込まれ、邪魔される。

 恐らく。この状況を続けさせたいのだろう。

 三者が入り乱れている最中――援護を行うべく、いずれかの狙撃手がしびれを切らし引金に指をかけるまで。

 

「――押し込んでいくぞ!」

 

 現在――奥寺・小荒井の二人組は、荒船と戦いながら幾つかの要素に意識を割いている。

 ① 荒船隊による援護。

 荒船の存在の背後には、確実に穂刈・半崎がいる。

 交戦しながらも、この両者からの狙撃を常に警戒しながらの立ち回り。特に射線が通る場所に入った時は、深くは追えない。

 

 ② 漆間の横からの急襲。

 交戦の状況が長くなれば、この場で唯一の突撃銃を持つ漆間が横合いから撃ってくる可能性。こういった交戦状況を好んで撃ってくる為、あまり長く時間をかけたくない。

 

 ③ 狼による急襲。

 現在、落水隊の狼は息を潜めているが、エネドラがバイパーで状況を固めている中。いつ襲って来るかの判別がつかない。

 

 このうち――荒船隊の援護だけでも、意識から消したい。

 だから――二人は荒船をプラント内に押し込んでいく。

 

 荒船隊の狙撃手二人の射線を切り――この三つの要因のうち、①を消す為。

 

「....」

 

 荒船はその意図を読んだ上で。踏ん張っている。

 ――次で。賭けに出る。

 

 二対一の攻防の最中。暴風雨の夜で視界も危うい状況下――荒船はバイパーの光を見る。

 

 意識が上に向かう中、荒船は肩口から、小荒井の斬撃を一太刀受ける。

 刃を振り抜いた瞬間から、荒船は己が両足に力を籠める。

 受ける中――荒船に一歩遅れて、バイパーに気付いた奥寺がシールドを展開すると共に。

 

 荒船は、奥寺側へステップを踏み――展開したシールドの上から、弧月の一撃を見舞う。

 

「ぐ.....!」

 

 シールドが砕かれる音と共に、奥寺の左腕が飛ぶ。

 首を狙った一撃であったが――シールド上からの斬撃故に、剣速が乗り切れなかったか。

 

「奥寺!」

 

 荒船が返しの刃で奥寺の首を刈り取る前。

 小荒井は刃を差し込み、奥寺を防護せんとする。

 

 その時の荒船の目線は――小荒井を見ていなかった。

 そして。その視線で、小荒井は「あ」と心中呟いた。

 しまった。

 奥寺への反射的な防護行動で、意識が埋められてしまった。

 

 ――ようやく、意識が逸れたな。

 

 荒船がそう心中で唱えると共に。

 暴風雨に紛れた弾丸が、小荒井に放たれた。

 

 

 咄嗟に身を翻した小荒井の右手と、右手に握られた弧月が吹き飛ばされ、カランカランと金属が地面に転がる音が水音と共に

 

「――クソ!」

 

 一連の攻防の最中。

 荒船・奥寺・小荒井の三者の視界の外側を綺麗に通り抜けたエネドラのバイパーが――奥寺の足を削る。

 奥寺・小荒井双方とも――大ダメージを受け。奥寺に関しては逃げる為の足まで削られた。

 

「これで――おおまかに盤面が揃ってきたな」

 

 バッグワームを解き。エネドラは両の手にトリオンキューブを展開する。

 東隊の攻撃手二枚の危機が訪れた。

 ここが、撃ち所だろう。

 

「後は――」

 

 バイパーとハウンド。双方を展開し、フルアタックにて弾丸を放たんとした瞬間。

 エネドラの頭上に――光線の如き弾丸が迫って来る。

 

「あの厄介なおっさんだけだ」

 

 その頭上からの弾丸を。

 エネドラの眼前に現れた影が――バッグワームを解き、割り込む。

 

 レイガストを展開し、――狙撃銃トリガー、アイビスの弾丸を防いだ狼の姿がある。

 

 

 

「.....!」

 

 ――東春秋は少々目を見開くと。即座に狙撃地点であった建造物から飛び降りる。

 

「逃がさねぇぞ....!」

 

 エネドラは、両手に展開した弾丸全てを――先程、東がいた地点へと撃ち放つ。

 ハウンドによる面攻撃と併せ。東の逃走経路を先回りした軌道で放つバイパーの弾丸。

 それを放った瞬間から――トリオン反応が、一つ生まれる。

 

「――シールドを使ったな」

 

 エネドラは――東がバイパーから身を守る為にシールドを展開したと判断し。そのまま。トリオン反応の先へと向かっていく。

 すぐさまトリオン反応は消えるが、関係ない。後は追えば間に合うはずだ。

 

 バイパーのキューブを身に纏わせ。右手にスコーピオンを手に、トリオン反応がある位置まで建物を蹴りながら進んでいく。

 そこには――。

 

「あ?」

 

 電池切れの機械が一つ。

 ころころと転がる、球形の機械がある。

 

 ――ダミービーコン。

 

 それは、偽のトリオン反応を作り出すトリガーである。

 

 エネドラがその地点に入り込んだ瞬間より――エネドラの周囲に、ぽつぽつと。凄まじい数のトリオン反応が浮かんでくる。

 

「.....」

 

 ――成程な。

 

「逃げられたか」

 

 ――こういうタイプか。

 

 策が失敗した後の策をしっかり考えているタイプの、策士。

 ピ、ピ、と――続々と増えていくビーコンに囲まれながら。エネドラは舌打ちする。

 

 何となく。

 何となくだ。

 

「――おいおい。ハイレイン(あの野郎)そっくりな手合いが、こっちにも居やがるのか....!」

 

 最善に次ぐ次善を、抜け目なく用意する手合い。

 恐らくこのビーコンの反応は。己が狙撃が失敗した際の保険であろう。

 寄らば死ぬ狙撃手が死なぬ為に。

 狙撃手にとって最悪の「姿を見られたうえで狙撃を失敗する」という状況下においても。逃げ切れるように――。

 

 

「.....」

 

 純粋に――策に嵌った悔しさと、何処か楽しさを覚えながら。エネドラは走り出していった。

 

 

 

 

「.....そうか。策は、破られたか」

 

 エネドラの身柄を釣りとし東の狙撃を誘い出し、即座に撃破しに行く策は破られた。

 策そのものは順調に進んだが。東がかけた保険により、最終的に追い詰める算段になった際に逃れられた。

 

 狼はその報告を聞きながら、ならば一点でも多くとらんと、駆けていく。

 荒船・奥寺・小荒井の三者により争っていた地点へと向かう。

 

 瞬間。

 

 マップ中央のプラント地帯からも――ピ、ピ、と音を立て。ダミービーコンの反応が点滅していく。

 

 ――これは、東のものではない。

 

 

 一つ、二つ。二つが、四つ。

 徐々に増えていく反応に紛れ。

 

 

 ――荒船と奥寺・小荒井が争っていた地点より右手側

 トリオン反応が生まれる。

 生まれたトリオン反応の先には、ただ物影だけがある。

 その反応は、少しだけ物陰から動くと。

 

 ――透明化を解除した少年が、突撃銃を構えていた。

 

「ポイント、貰い」

 

 激戦の中弧月を失った小荒井の横合いから銃撃を叩き込む。

 弾丸は小荒井の全身を貫き、――致命傷へと至る。

 

 

「あ、漆間!クッソ――!」

 

 絶対に横取りされねぇぞ!と意識していたはずであるのに。

 漆間恒は――実に鮮やかな手並みで小荒井を仕留めた。

 

 すぐさま迎撃を仕掛けんとする荒船には突撃銃の掃射で押さえつつ。己は――ビーコンを撒いたプラント側へ逃げ込んでいく。

 

 

 その瞬時の油断を突き。奥寺は削れた足のままグラスホッパーを展開しその場より脱出し。

 漆間の掃射によりシールドを展開していた荒船は。

 

「....まあ、しゃーないか」

 

 狼の旋空の一撃を背中より受け、こちらも緊急脱出。

 

 

「.....」

 

 ――漆間は、あのダミービーコンに紛れて逃げ込んだか。

 

 恐らく漆間は。ダミービーコン・バッグワーム・カメレオンの三つを使い分け、横合いの位置を取った。

 ダミービーコンは、射手トリガーと同じ性質を持っている。設置し、発動し、効果を発する。設置から効果が発動するまでに「発動する」という過程を挟まねばならぬ。

 

 故に。事前に設置したダミービーコンが「発動する」。その過程の中で、己のバッグワームを解く。

 すると。そこで生まれたトリオン反応が「ダミービーコン」なのか「バッグワームを解いた戦闘員」なのか。判別がつかなくなる。

 ダミービーコンに紛れバッグワームを解く。同時にカメレオンを発動。物陰より己の姿を消し、射線上に敵を入れ、撃つ。

 

 敵の視界を欺き、混乱に乗じ、意識の外より殺める。

 これは――まさしく。忍びの理念の片鱗を感じさせる戦いであった。

 

「.....エネドラ。次の指示を頼む」

「.....了解」

 

 

 一点を取ったものの。夜の暴風雨の最中、戦場は更なる混迷に落とされる。

 東と漆間。それぞれ異なる勢力のダミービーコンが光る最中。狼は息を吐いた。

 

 

 

 




何度書いても思うんですけど、ダミービーコン.....めんど....楽しいですね....。
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