隻腕の狼、玄界に降り立つ   作:丸米

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ちょっと今回は短めです


お蝶×梟×遊真

 平田屋敷の本殿を抜けていくと、地下へと続く道があった。

 元々は隠し通路だったのだろうか。畳の床面が開かれた先に階段があり、そこから地下へと続く階段が存在していた。

 

「.....」

 

 長く歩いた先。

 そこには、火の手に沈んだ仏殿がある。

 

 倒れ伏した大仏。燃え盛る大柱。

 その最中――遊真の目には、火の内に沈み行く何者かを幻視した。

 

 ――腕を上げたねぇ、おお....かみ....。

 

 老婆のくノ一が一人。

 隻腕の忍びにその首を貫かれ、そう満足気に言葉を零しながら死に行く様が。

 

 ――倅に敗れるか。

 

 大柄な老忍びが、一人。

 かつて戦場で拾った倅より、己が背から心の臓を貫かれ、言葉を零す。

 

 ――存外に、心地よいものだ...。

 

 燃え盛りし平田屋敷。その地下にある隠し仏殿。

 そこには、二つの死闘があった。

 

 それは――かつて御子の忍びであった狼が挑みし、戦いの記憶。その残滓。

 幾度となき死を乗り越え。己が全霊をかけて戦い抜いた、歴戦の忍び、その二人。

 

 血肉を削るその凄まじいまでの死闘の様までも己が脳内に叩きつけられ――幻は、更なる場面へと移り変わる。

 

 

 

 

 

 そこは、森であった。

 淡い白色を纏ったような蒼き生物が漂う、月光に照らされた森が。

 それは、まぼろしの森。

 月光に命が宿ったような淡く曖昧な命の山々。現世と幽世。生と死。その境界線が曖昧に感ぜられる。

 その木々の、土くれの、その全てが――命なのか、霊なのか。解らぬままに存在していた。

 

 

「――薄井の森に迷い込んだか、(わっぱ)

 

 まぼろしの生物が漂う森の最中。

 女が一人現れる。

 その女は、先程幻視した姿形をしていた。されど――その見目は、明らかに若くなっている。

 

 

「――ふぅむ。何故、貴様も儂も黄泉返りする羽目になったかは解らぬが」

 

 

 遅れるように、今度は男が一人。

 羽根で拵えた外套を着込んだ、大木のように編み込んだ白髪を下げた忍びが一人。

 こちらは、先程幻視した通りの姿である。

 

 二人は、ジッと遊真の姿を見る。

 その佇まいを互いに観察し――遊真は背筋に冷たいものを感じ。対峙する二人は、ただ目を細めた。

 

 

 遊真は、理解できた。

 強い。

 年輪を積み重ねてきた樹木のように。今の己よりも、遥かに長い年月を戦いに費やしてきた者の強靭さが、見えてくる。

 己が積み上げてきたものより、遥かに長く、分厚い。経験の層が、立ちはだかっている。

 

 

「――貴様の倅の差し金かの、梟よ」

「そうであろうな。(わっぱ)、名乗れ」

 

「....空閑遊真だ」

「ふうむ。では――やろうかの、空閑とやら。お主もただ漫然と戦いに来たわけではあるまい」

 

 

 女は、その両手に苦無を手にし。

 男は、その背より大太刀を引き抜く。

 

 

「薄井の忍びが一人、お蝶。――空閑とやら。精々、我がまぼろしに惑わぬ事だな」

「我、薄井右近左衛門なり。さて――我が梟を引き出せるかの。空閑よ」

 

 

 

 かつて。狼には二人の師がいた。

 

 戦場にて狼を拾い、忍びの道を定めし大忍び、梟。

 その梟によりあてがわれ、師となったくノ一、まぼろしお蝶。

 

 

 二人は師であり。そして、身寄りのなかった狼にとっての、親であった。

 今、彼等は忍びとしてではなく。ただ遊真の行く道を阻む反り立つ壁として、そこにいた。

 

 

「――やるしかないか」

 

 その異様を前にして。引き攣った笑みを浮かべながら――遊真もまた、構えた。

 

 

 

 

 薄暗い、まぼろしが蠢く森の最中。

 三者の動きは、恐ろしい程に速かった。

 

 森の木々に張り巡らされた糸の間を走り抜けながら苦無を投げるお蝶と、大太刀を横薙ぎに振りかぶりながら肉薄する梟。

 その両者の動きを見ながら――遊真は苦無の軌道から逸れる体捌きにて、梟の斬撃に拳を合わせる。

 

 叩きつけられる斬撃は、強靭であった。

 金切るようなけたたましい音と共に遊真の肉体は背後へ吹き飛ばされ、一瞬体勢が崩れる瞬間があった。

 

 ――あの大振りの斬撃は、一撃喰らったらもう耐えられなさそうだね。

 

 斬撃に後ずさる遊真の頭上。

 森を駆け抜け飛び上がった、お蝶の姿が見える。

 この動きに見覚えがある。

 

 以前のランク戦。狼が村上の頭上を韋駄天にて取った時と同じ動き。

 両足で対象の首を蟹挟みしての首投げだ。

 

「ほう。この技を知っておるようだな」

 

 首投げの直前。ステップを踏み避けた遊真に、少しばかり感心するような声をお蝶が上げる。

 

 着地の一瞬の間。その隙に拳を叩き込もうとした遊真へと――空気を裂くような手裏剣が死角より飛んでくる。

 一つ二つ。素早い動作から手裏剣を投げ込んだ梟は、空へ飛び上がり遊真へ全霊の斬撃を浴びせる。

 

 手裏剣を弾いた後。横手への体捌きで斬撃を回避すれば。

 

 首投げの着地体勢から体幹を回旋させての、お蝶の下段蹴りが叩き込まれる。

 

「ぐ....!」

 

 痛みと共に、遊真は膝から体勢を崩す。

 その一瞬の間――梟が遊真の肩口を蹴り飛ばし、その大太刀にて心の臓を突き上げんと振り上げる。

 

 

「『盾』」

 

「むぅ....!」

 

 その切っ先が遊真を貫くよりも前。

 遊真は――盾の印を作成し、己が肉体と刃の合間にトリオンで作った”盾”を作り出す。

 

 とどめを刺し損ねた梟は、無理をせず背後へと飛び去る。

 

「妙な術を使うようじゃの....」

 

 そう呟き。飛び去り、着地した次の瞬間より――梟は動き出す。

 

 遊真の左手側から、右手側。こちらの視界を飛び交うようなステップから、意識を散らさせての――飛び込むような下段斬り。

 

「まだまだなようだの」

 

 飛び上がり避けると共に。呼吸を合わせるように飛び上がったお蝶の蹴りが叩きつけられる。

 

 ――まずい。

 

 何がまずいと言えば。

 単一でもあまりに強力な二人だというのに。あまりにも連携が完璧すぎる。

 

 片方が大技を繰りだせば、片方がその隙を埋めるように攻撃を挟み込んでいく。

 易々と”印”を出す隙すら与えられない。

 両者の攻撃の狭間を見出せない。攻撃を挟み込むイメージが、全く構築できない....!

 

 お蝶により蹴り飛ばされた地点に飛び込む梟は、斬り込みと見せかけ。肩口から遊真の胸元に当身を繰り出す。

 大柄な肉体を叩きつけられた遊真は後ずさり――当身から、梟の左手から流れ出る黒煙を垣間見る。

 

 その動きも、見た。

 狼の、ランク戦で見せた技。メテオラを漂わせ弧月で斬りつけるあの技だ。

 

 

 爆竹斬り。

 爆撃を纏わせた斬撃を梟は、遊真へ浴びせる。

 

 狼は。

 メテオラの爆撃の最中から韋駄天を用いて、突きの一撃を間宮隊に浴びせていた。

 

 梟もまた――黒煙の最中を貫くような、大太刀の突きを遊真に浴びせる。

 

「それは、知っている....!」

 

 その突きを拳で受け、弾き返す。

 ようやく。ようやく――こちらが反撃できる糸口を、見つけた。

 返しの拳を叩き込まんと、踏み込みを行う。

 

「ほう。――ではここまで知っているかの」

 

 突きの一撃を防がれた梟は、遊真の拳の上をくるり飛び上がる。

 頭上を取り、着地しながらの――二撃を、遊真に浴びせる。

 

 

「.....ッ!」

 

 一撃。躱しきれず――遊真の肩口から胸元にかけて斬撃が刻み込まれる。

 

 

 ダメージを負うごとに、こちらの体勢が崩れていく。

 更なる追い打ちをかける梟へ、遊真は何とか拳を突き出すが――。

 

 その姿は――黒き羽を一つ残し、消えていく。

 

「な....」

 

 霧がらす。

 攻撃を受けようともその姿を幻に変える、薄井の忍具。

 

 黒い残影となった梟は遊真の背後へと回り。

 その心の臓へ――太刀を突き込んだ。

 

 

 

「――さらばだ」

 

 

 ただそう一言残し。

 薄井の森の忍び二人は――敗れた遊真が消え去るまでその姿を見届けていた。

 

「忍びの技の粋を見られたからには、必ず殺さねばならぬが」

 

「今の我等は、忍びではない」

 

「故に。必ずや、再び復讐へと来い。その為に、もっと磨いてくるがよい」

 

「――せいぜい黄泉にて、待っておる」

 

 

 

 

 

「.....」

 

 目が覚めた。

 

 

「空閑....大丈夫か!?」

「うん」

 

 二度目の、死痛であった。

 やはり――恐ろしいものは、何度味わっても恐ろしい。そんな事を感じた。

 

「....どうであった」

「滅茶苦茶強い人が二人。本当、びっくりするくらい太刀打ちできなかった。こっちは黒トリガーまで使ったってのに」

「黒トリガーで敗けたのか...」

 

 遊真はからりとした笑みで、そう呟いた。

 

 その言葉に衝撃を受けたのは、三雲修であった。

 

 ――黒トリガーを使った空閑も、太刀打ちできない相手が?

 

 これまで。幾度となく窮地を脱してきた空閑遊真の黒トリガー。

 大規模侵攻の際にも――”黒トリガー”がどれ程強力な代物かは、理解できていた。

 

「いくらかパワーダウンはしていたけどね。――それでも、勝っている要素が一つも無かった。まだまだ強くならなきゃ、あの二人には勝てない」

「....その二人は、何者であった?」

「おおかみさんと同じ技を使う人だった。――確か、オチョウとフクロウって名乗っていた」

「.....!」

 

 その二人の名を聞いた瞬間。

 狼は――少しだけ、表情を変えた。

 

 

「そうか....。あの二人が」

 

 かつて、己が忍びの粋を叩き込んだ二名。

 その者が、何故かは解らぬが――黄泉より、こうして出てきてくれた。

 その理由はどういったものかは解らぬが。それでも――狼は、存外に嬉しかった。

 

 

 

 

 もっと強くなって、何度でもリベンジする。

 そう遊真は宣言し、落水隊の作戦室を去っていった。

 

「――しかし。不思議なもんだな。その像に祈れば、別世界で誰かと殺し合いが出来るって事だよな」

「....そうだな」

 

 ふーん、とエネドラは呟く。

 やはり――己を怨嗟に落としたあの澱みといい。葦名なる地は、ほとほと己が知る世界とは異なる法則で動いているのだと思えてしまう。

 

 

「さて。では我々の方も――次なる戦いに向けて、手筈を整えましょう」

「ああ」

 

 次なる戦いは、はじめての上位戦。

 

 弓場隊、そして影浦隊。

 双方共に、狼には縁が深い部隊であった。

 

 弓場は、部隊を組む前に連携の基礎を教え込んでくれた人物であり。

 影浦は個人戦を通じて仲を深めた人物である。

 

 戦いに私情を持ち込むことは少ない狼であるが――次のランク戦は、純粋にこの両者とぶつかりあえることに狼は確かな喜びを感じていた――。

 

 




★ キャラ紹介

梟 狼の義父。裏切者の腐れ外道でぺらっぺらな野心を持っちゃったきたねぇ忍者だが多分狼君の事が大好きな義父。最強の土下座術を持っている。

お蝶 狼の師匠その二。SEKIROで立ちはだかるやたら強いババア。子犬を嬲り殺して鍛えるのが趣味。
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