隻腕の狼、玄界に降り立つ   作:丸米

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変化×那須隊×弾き

 ランク戦、ラウンド4。

 落水隊の出番は夜の部である。

 狼はその日。昼頃に日課の鍛錬を切り上げ、作戦室の外へ向かわんとしていた。

 

「....少し出る」

「珍しいですね狼殿。何処かへ出かけるのですか?」

「....ああ」

「どちらへ?」

「....中位戦の観戦へ向かう。――熊谷より、見て欲しいと」

「成程....」

 

 己が技術の一部を伝え、巴を超えた熊谷より――壁を越えた己が姿を見て欲しいと請われた。

 丁度那須隊の出番は昼の部であったため。狼はこの日、観戦に向かう事に決めた。

 

「そういう事なら私もご一緒致します、狼殿」

「....そうか」

「エネドラ殿にも連絡を入れましょうか。どうせなら皆で観戦した方がきっと楽しいはずです」

 

 そうしてにこやかに通信機を手にした御子がエネドラに通話をした後。

 エネドラは――。

 

 

 

 

「こんにちは。B級ランク戦昼の部のお時間となりました。こちら、中位の部の実況を担当いたします。嵐山隊所属の綾辻です。よろしくお願いします。続きまして、解説陣のご紹介です」

「どうもどうも。玉狛第二の空閑遊真です。本日はよろしくおねがいします~」

「....」

「――エネドラさん?」

「....落水隊所属のエネドラだ」

 

 ランク戦昼の部。

 その実況席には――何故か、エネドラの姿があった。

 

 その姿。まるで苦虫を噛み潰した様。

 うわ言の如く「何でオレがこんな事を....」とか「あの野郎嵌めやがったな....」などと愚痴をこぼしながら、実に嫌そうに実況席に座っていた。

 

 何故こんな事になったのか。

 荒船より、「新作の映画がある」という旨の報告を聞き。それを見る対価として「少し仕事をしてもらう」と言われた。

 

 防衛任務でも肩代わりさせるつもりか?と聞き返すと「まあ、そんなもんだな」と答えをはぐらかした。

 

 結果――こうなった。

 知らぬ間にランク戦の解説の席に座らされる羽目になりました。

 

 恐らく荒船は、ボーダー内で極端に人付き合いの少ないエネドラの顔を、せめて皆に知ってもらおうとこうしたのだろう。

 落水隊は、ボーダーでも屈指の意味不明さとミステリアスさを持つ部隊である。

 不愛想かつ、無口。そして明らかに常人離れした雰囲気を持つ狼。何処か浮世離れした、超然とした空気を纏う御子。そして――突如湧いて出たエネドラという新人。

 

 御子は人当たりの良さでオペレーターの面々には顔が知られており。狼もよく個人戦には顔を出している。

 C級を爆速で駆けあがり、そういった関りですらもあまり持たないエネドラを慮り。こうして対外で喋らせる機会を作ったのだ。

 

 ――クソ余計な世話をしやがってあの馬鹿が。

 

「ではこの三人で――那須隊・鈴鳴第一・柿崎隊の中位戦の模様をお届けいたします」

 

 さて、と。綾辻が続けると――実況用のモニターに情報が伝達される。

 

「今回マップ選択権のある柿崎隊は、工業地帯ステージを選んだようです」

「――まあ、いつものカキザキ隊って感じだな」

 

 柿崎隊。

 万能手二人、銃手一人という部隊構成であるが。三人とも、近接戦も射撃戦も行えるという特徴がある。

 三人ともに距離を問わず戦えるが。明確な弱点として狙撃手の不在があげられる。

 

「狙撃手の射線が通りにくく、マップが狭く、その上で特定の区画内で撃ち合いが出来る。――合流した後の火力で押しきれる万能手二枚の構成を活かす為のマップ選びだな」

 

 万能手。

 それは、攻撃手用のトリガーと射手もしくは銃手トリガーのポイントが双方共に6000を超える隊員に与えられる。

 柿崎隊は、隊長の柿崎並びに隊員の照屋の双方がその万能手であり。両者が合流した後の射撃戦の圧はかなりのものである。

 

「おれもランク戦の映像は結構見ていたけど....この部隊はマップ選択権がある時は大体このマップだよね」

「合流からの制圧力で戦っていくならこの上ないマップだからな。変える必要も無いんだろ」

 

 ただ、と。エネドラは呟く。

 

「他の部隊もここでの戦いは予想はついているだろうからな。――何の対策もしてねぇ、とは思いたくないな」

 

 

 

 

「やっぱり工業地帯を選んできた。――なら方針はそのまま」

 

 那須隊作戦室。

 転送まで残り数分を切ったタイミング。相手が選んだマップを確認し、那須隊一同は頷く。

 

「私が各部隊の浮いた駒を遊撃する。くまちゃんは合流路を塞ぐ動きをしながら、――村上先輩と接敵したら、抑えて」

「了解」

「マップが狭い分、抑えてくれさえすれば必ず私が向かうわ。だから、村上先輩は無理に倒そうとしなくていい」

 

 

 那須は、三人をジッと見つめる。

 

 

「また、皆で乗り越えよう」

 

 

 

 

「.....おお、エネドラ殿が解説席に」

「.....」

 

 狼と御子が観戦ブースに向かうと。そこには、解説席にて恐ろしく嫌そうにしているエネドラの姿があった。

 御子は純粋に驚きの表情を浮かべ。狼は相変わらずの無表情であった。

 

「何というか....意外ですね。ああやってエネドラ殿が人前で話すというのは」

「....奴は戦略にも戦術にも明るい。適格であろう」

「いえ。それはそうなのですが....。あの方自身、あまり人前に出る事を好く性質ではないでしょうから」

「....うむ」

 

 まあ、仲間が解説をしている所を観戦するというのも乙なものだろう。

 そう思い適当に空いた席へと向かった先。

 

「おや?」

 

 その隣には。前髪を頭頂部に流した、独特の髪型をした男が一人。

 男は裏表のなさそうな笑みと共に――隣に座った二人を見た。

 

「おお、落水隊の薄井さんと落水さんか!はじめまして、俺は嵐山隊の嵐山だ。どうぞどうぞ、隣に掛けてくれ」

「はい。失礼いたします」

「....ああ」

 

 A級、嵐山隊。その隊長を務める、嵐山准。

 彼等は、通常の部隊の枠を超えた活動を行う部隊である。

 防衛任務やランク戦の参加とは別に。彼等はボーダーの広報活動を行っている。

 

 ボーダーという組織と市民との関係性を確固とする為。警戒区域の外にまで出張ってその活動を行う。ボーダーにとっての”顔”の一つとも言える。

 

 その辺りの活動と並行して、A級にまで登り詰めたのだ。他の部隊よりも訓練に費やす時間も削られるであろう立場であるにも関わらず。

 その”顔”の隊長を務める男は――隣に座った御子に対して、深々と礼をしていた。

 

「....?その、私が何かをしたのでしょうか....?」

「一度礼をしたかったんだ。――君は俺の弟妹にとっての命の恩人の一人だ。本当にありがとう」

「え?」

「以前、トリオン兵が学校に現れた事件があっただろう?あそこには俺の弟妹もいたんだ。君がトリオン兵を引きつける為に残った事は、三雲君から聞いている」

「ああ....あの時の....」

 

 それに関しては礼に及びません、と。御子は言う。

 

「事件の顛末についてはご存知でしょう。トリオン兵を実際に仕留めたのは、三雲隊長と空閑君ですから」

「それでもだ。――俺は君と薄井さんの身体についても、上からある程度知らされている」

「.....」

「不死身の身体を持っていたとしても――。いや、そんな特異な身体を持っていたからこそ。トリオン兵に攫われる危険性が高かったはずだ。それでも、皆の為に残ってくれたのだろう」

 

 嵐山は、迷いのない言葉を御子に紡いでいた。

 

「だから――君は間違いなく、俺と、俺の家族にとってのヒーローだよ」

 

 

 

 

 そうして。嵐山と共に観戦する事となった。

 

「嵐山さんは、この勝負はどちらに分があると思いますか?」

「うーん....」

 

 御子の問いかけに。嵐山は顎に手をかけ少し考えると、

 

「個人的には鈴鳴第一に分があると思っている。――村上隊員の力がやはり大きい」

「....そうか」

「柿崎隊はメイン火力である柿崎隊長と照屋隊員が合流した上で、単独の村上隊員を囲う形でなければ中々撃破まで行くのは難しいと感じる。――今回、三つの部隊全てが合流を基軸として動く隊であるから、尚更個として突出している村上君が、この場では厄介だろうな....」

 

 マップ選択は柿崎隊、というこの状況においても。嵐山は、鈴鳴第一が有利であると判断しているようであった。

 

「薄井さんはどうだい?どこが勝つと思う?」

「――俺は、那須隊を推そう」

「へぇ。那須隊かぁ」

 

 嵐山の言葉に、狼は迷わずそう答えた。

 

「理由を聞いてもいいかな?」

「――俺は、那須隊が大きく変化している事を知っている」

「変化....」

「変化したものに即応する事は、至極難しい。特にこれまでと変わらぬ動きをしてくるであろう柿崎隊にとっては」

 

 そうか、と。嵐山は呟く。

 

「――なら、那須隊がどう変化しているのか。楽しみにしている」

 

 

 

 

『――各部隊、転送が完了しました。ランク戦第四ラウンド昼の部――開始です!』

 

 晴れ間の工業地帯。

 鈴鳴第一、那須隊、柿崎隊の三部隊が転送を終わらせていた。

 

 

 那須隊は――熊谷と日浦が比較的近い南西の区画に転送され。那須はほぼ反対の東側に転送された。

 

「――こうなったか。なら茜はあたしについて。周辺区画の索敵をお願い」

「了解です!」

「村上先輩は、発見しても今は放置。他の駒を獲りに行くよ」

 

 熊谷の目には、確かな自信に満ちていた。

 ――今の自分ならば。那須と協同せずとも、単独で斬り合う事が出来るという自負が。

 

「柿崎隊の動きを中心として、開けた工業区画に部隊全体が集まっていく。なら個々で襲撃を仕掛ける。――全員で、点を取ろう」

 

 

 

 

 巴虎太郎は、マップ南東の区画より。合流場所であるマップ中央からやや西側に離れた工業プラント内へと移動していた。

 同部隊の柿崎と照屋はマップ北側の位置に転送され、それぞれの位置から合流を目指している。

 

 現在、己は浮いた駒だ。

 故に、ルートの構築は丁寧に行っていく。

 工業地区マップの特色――マップが狭く、また狙撃の射線が切れやすい。

 故に。狙撃がしにくいルート選択を行う。

 

 だが――狙撃が行使しにくいルートの構築は。転じて移動経路の大幅な制限にもつながる。

 

 それ故に。

 

「――巴君を発見。迎撃するよ!」

 

 ルートを先回りしていた熊谷友子と、部隊の合流前にぶつかり合う事になった――。

 

「――すみません隊長!熊谷先輩に見つかりました!これから戦闘に入ります!」

 

 熊谷の姿を一瞥し、巴もまたバッグワームを解き、拳銃を手にする。

 響く四発の銃声音。それは、軌道を変えながら――熊谷の正面と、左手側から襲い掛かる。

 

 巴の狙いとして、ここで熊谷にシールドを切らせながら己が側面へと移動しつつ別方向から銃弾を浴びせる事にあった。

 熊谷の基本スタイルは弧月両手持ちに加え、シールドで防護を固める。ここで取り回しの良いハウンドの拳銃弾で先んじてシールドを切らせ、側面へ移動し威力の高いアステロイドの拳銃弾でダメージを与える。

 

 しかし。

 ここで――熊谷は、シールドの手を切らなかった。

 巴の発砲を恐れることなく、刀を構え前進。

 

 左方から曲がり来る弾丸を前進にて軌道から逸れ――正面から迫りくる弾丸へ、刀身を置く。

 

 弾き

 

 

「な....!」

 

 己に弾丸が当たるか、否か。その刹那にて――熊谷は弾丸を弧月にて弾いた。

 

 シールドを用いぬ、刀での防護。それは明らかに――落水隊の狼の技術であった。

 

 弾きを選択したのは、シールドを用いずこの手を通す為。

 メテオラ。

 

 弾きと共に己が周囲に纏わせたメテオラの弾体を――巴に叩きつける。

 

 爆撃に対し、巴は拳銃を弧月に切り替えた上でシールドを展開。

 煙に巻かれ、視界が塞がれる中――熊谷の姿もまた、消えていく。

 

 爆撃による視界の制限に合わせ、熊谷は腰を下ろし、巴の足先に横薙ぎの斬撃を浴びせる。

 寸前でその剣先を捉えた巴は何とかステップにて回避を行うが。完全には避けきれず、脛の一部が切られ、トリオンが噴出する。

 

 ――まずい。足を取られた。

 

 足を斬り裂かれ、機動力が落ちた。

 ここで熊谷を仕留める以外に、この場より脱出する方法はない。

 

 バックステップした先。

 煙に紛れ、影が落ちた熊谷の姿が見える。

 

 一つ息を整えた熊谷が――弧月を構え、猛然と巴に斬りかかった――。

 

 

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