隻腕の狼、玄界に降り立つ   作:丸米

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長らくお待たせしてすみません。
50話まで行きました~。


熊谷×寄鷹斬り×村上

 三人と、三人が揃う。

 鈴鳴第一と、那須隊。

 攻撃手と攻撃手。銃手と射手。狙撃手と狙撃手。

 

 村上と熊谷が斬り結ぶ地点を中心として。円弧を描くように三人と三人が向かい合う。

 

 この状況をいち早く察知した互いの狙撃手は――対照的な立ち回りを行使していた。

 出現と同時にバイパーの弾頭を構える那須玲へと照準を合わせた別役太一と。

 敵部隊の位置関係を確認し、新しい狙撃地点への移動を開始する日浦茜。

 

 現在。交戦中の熊谷を村上が追った事で、那須がいる地点まで鈴鳴の部隊全体が釣り出された形となっている。

 戦略的なイニシアティブを手にしているのは、那須隊であった。

 

「――ぐぇ!」

 

 一瞬であった。

 太一の狙撃が那須玲に放たれ。

 那須が身体に纏わせたバイパーの弾頭を消しフルガードにて狙撃を防ぎ。

 那須への弾丸の軌道を確認し――茜が太一へのカウンタースナイプを成功させる。

 無防備な太一の頭部にライトニングの弾丸が突き刺さり、――那須隊に更にポイントが追加される。

 

 

「ここで那須隊、鈴鳴第一の別役選手を見事狙撃で落としポイントを獲得――!」

 実況の綾辻が、那須隊のポイント獲得と共に声を張り上げる。

 観覧席は、那須のフェイントと茜のカウンタースナイプによるポイント奪取に大きく沸いている。

 

(――釣ったか)

 

 解説席から見ていたエネドラは、心中でそう呟いた。

 熊谷を村上に追わせ。追わせた地点にて那須との合流を果たす。

 

 当然。鈴鳴第一は――”那須と熊谷が連携して村上を落とそうとしている”と相手の戦術を捉え。

 その対応策として、当然熊谷と那須との連携を鈴鳴第一は切ろうとしてくるであろう。

 

 この状況にて真っ先に対応が行えるのは、この盤面で最も長い射程を持つ狙撃手の駒であり。

 故に太一がこの場で選んだ手は――村上が抑え込んでいる熊谷ではなく。単独で浮いているように見える那須に向け弾丸を放つ事だったのだろう。

 

 この選択は正しい。

 特に――これまでの那須隊を研究している部隊であればある程、この選択から逃れられないだろう。

 鈴鳴第一の――もっというならば、この場における村上鋼の負け筋は、熊谷よりも那須の方にある。

 

 同じ攻撃手の土台にて、熊谷は村上に勝つ事はない。粘ろうとも、必ず村上を前に熊谷は瓦解してしまう。

 だから熊谷は那須との合流を果たすべく村上へ粘っこく立ち回っての撤退戦を仕掛けたのであり――戦術的な重大さは那須の方が高い。

 

 故に、那須を狙った。

 だから、釣った。

 この戦術的要素の比重を那須隊は了解していたからこそ。那須はフルガードの用意をしていたし。茜は那須側へ狙撃地点を変更し、太一への射線を通す事に成功させた。

 

 ――多分、事前に用意していたわけではないんだろうな。

 状況を把握して、即席で意思を疎通させ、手にした成果。

 

 

 

 

 

 戦況は、巡っていく。

 

「――手出しはさせませんよ、村上先輩....!」

「.....」

 

 太一が落とされ、村上と来馬の二人となった鈴鳴第一。

 茜はもう位置が暴かれた為、鈴鳴から見て那須の背後側の建造物に身を置いている。

 

 那須の方向に向かわんとする村上を――熊谷は押し留める。

 

 己の役割。

 それは隊長であり、エースである那須のサポート。

 

 サポートとは、部品のようなものかと思っていた。

 歯車が噛み合うように隙間に埋める金属片や錆落としの薬剤のように。一つの歯車が滞りなく動き続けるための部品だと。

 

 違う。

 そうじゃない。

 ――戦いの場に立つのならば、その大小はあれど全員が歯車だ。

 部品は存在しない。ただ大きい歯車や特殊な形をした歯車が存在するだけ。

 己は、小さい歯車だ。

 卑小なれど歯車なれば、考えるべきは――如何に、噛み合わせるかだ。

 

 この眼前の巨大な歯車に、噛み合わす。

 己は――小さくとも、頑強で、壊れにくい歯車だ。

 

「すまないが――すぐに片付けさせてもらうぞ」

「すぐに片付けられると思わない事ですね....!」

 

 村上の攻撃は、更に苛烈になり、その圧を増していく。

 本当に、とんでもない人だ。

 過去の己よりも、より明瞭に理解できる。この村上鋼という怪物の強さが。

 己が積み上げた経験を決して忘れることなく、その全てを己に還元できるが故の強さ。柔軟ゆえに鉄壁。攻撃を挟み込むイメージが全く構築できない。

 それでも熊谷は防ぎ続ける。

 壊れるまで受け続ける。

 ただ噛み合わす。壊せずとも、押し留める。

 ここで村上さえ押さえていれば。

 ――この盤面で那須が敗れる事はない。

 

 

「――ッ!」

 

 狙撃手を失い、村上を熊谷に抑え込まれているこの時間。

 銃手である来馬の存在が、ぽっかりと浮いている。

 

「茜ちゃん」

「はい!」

 

 その時間を用いて、那須と茜は動き出す。

 バイパーにて来馬の動きを誘導しつつシールドを切らせ、茜の狙撃にて仕留める。

 茜が那須の近くにいるからこそ選べる連携にて、来馬を仕留めんと動く。

 

 だが。

 

 トリオンの射出音。

 茜の狙撃が来馬へ命中するよりも早く、その肉体は狙撃の軌道から離れる。

 

 ――この状況でも、やっぱり村上先輩は来馬先輩を守る。

 

 村上は熊谷との攻防の最中、スラスターの起動と共に来馬に向けレイガストを投擲。茜の狙撃が当たるよりも早く、来馬をレイガストにて吹き飛ばし間一髪その身を守った。

 

 ――ここに来て防の要であるレイガストを捨てる判断。どうする....!

 

 これを好機であると捉え、深く踏み込まんとする己が、熊谷の本能の中にいる。

 だが。その勇み足を、止める何者かもいた。

 それは、あの時の記憶。

 あの時剣を交えた巴との記憶が――弧月一本で待ち構える村上の姿から、誘い水の気配を感じ取らせた。

 

 踏み込みを抑え、剣先を下がらせた。

 故に、対応できた。

 

「――ここで踏み込まないか。やるな」

 

 熊谷の踏み込みと呼吸に併せ、村上は飛び掛かる。

 その動作と共に新たに生成したレイガストを前に掲げ、それを重石とし。飛び、回り、斬りかかる。

 

 斬り掛かりを熊谷が弾くと共に、村上は左手に生成したレイガストを支点に、逆さに回りながら再度スラスターを起動。

 熊谷との距離を、この瞬間に大きく開ける。

 

「あの人から学びを得ているのは、お前だけではない」

 

 ――寄鷹斬り、逆さ回し。

 

 狼が扱う技の一つ。

 得物の重みを利用し空にて回転し相手に斬りかかり、その後は逆さに回り相手と距離を取る。

 村上は、狼と多く交わした個人戦でも。そして以前に交戦したランク戦においても。この技で辛酸を味わわされてきた。

 レイガストと弧月を併せた村上の戦法において。互いの剣が届かぬ位置からの急襲をした上で更に距離を取れるこの技は、相性が良かった。故に、村上相手に狼はこの技を多用していた。

 狼と交戦するたび村上の脳裏に染みついた忍びの技。それは彼の才覚と、不断の努力により――再現が成された。

 

 狼と同じくレイガストの重量を用いて空に回り斬り、空に回り逃げる。だが――村上には狼には無い手段が備わっている。

 それはレイガストに付属したスラスターの存在。他のトリガーを優先し、狼が取りつけなかったそのサブトリガーを、村上は持っている。

 トリオンの噴出による強力な加速手段を得た村上の寄鷹斬りは――逆さ回しの瞬間、狼よりも遥かに大きな距離を開ける事が可能となった。

 

 直前に大きく踏み込まなかった判断が熊谷の命を掬い上げた。

 しかしこの瞬間。

 ”熊谷が村上を抑える”という那須隊の作戦の根幹を担っていた部分が、消えた。

 

 村上は寄鷹斬りにより熊谷との交戦距離を大きく開けると共に。たった今己がレイガストにより救い出した来馬の下へ走り出す。

 

 ――まずい。このままじゃあ来馬さんと村上先輩が合流してしまう。

 

 急ぎ距離を詰めようとする熊谷の頭上より、戒める様に弾丸が降り注ぐ。

 生き残った来馬が村上を援護するべく放ったハウンドの弾雨であった。

 ハウンド弾を防ぐためシールドを展開し、左方の壁へと回避した熊谷。この瞬間――村上と来馬の合流を防ぐ事は絶望的となった。

 

『熊谷先輩、背後からトリオン反応!柿崎隊です!』

 

 抑えていた村上を取り逃がしたその瞬間。更なる敵襲が襲い来る。

 遅れてこの場に現れた第三勢力、柿崎隊。

 

 バッグワームの解除と共に、今度は二人分のハウンドの火砲が熊谷の頭上より降り注いでいく。

 たたらを踏んで、熊谷はその場を離れていく。

 

「――なかなか上手くいかないね。でも、」

 

 中々、事前に定めた通りにいかない。

 この辺りの作戦を思う通りに遂行する能力というのは、やはり自分たちはまだまだ発展途上なのだと思う。

 

 だが。それでいい。それが今の自分たちの現在地点。

 

「――前よりずっと楽しいじゃない。そうでしょ、玲....!」

 

 

 

 

「――このままハウンドで熊谷を動かして、挟み込むぞ!」

「了解です、隊長!」

 

 柿崎と照屋は互いに頷き合うと――熊谷の位置を両者で挟み込むように走っていく。

 現在、那須と日浦、来馬と村上は合流を果たしている。この状況で浮いている駒は、攻撃手の熊谷である。

 故に。攻撃手では対応できぬ距離で、二人分の火力で削り殺す。そういうプランであった。

 

「――させないわ」

 

 ただ。那須隊が苦境に立たされた味方をただ見捨てるわけもなく――熊谷に目標を定めた瞬間より、那須の弾丸が柿崎隊に降り注いでいく。

 

「那須隊が熊谷先輩の援護の為に距離を詰めてきています!」

「この距離なら一人分のシールドでも防ぎ切れる!防御は俺に任せて、お前は熊谷との距離を詰めるんだ!日浦の射線には入り込むなよ!」

「了解!」

 

 変幻自在な軌道をもって攻めてくる那須の弾丸に対して。柿崎がシールドでの防護を担当し、照屋は柿崎に背後を任せ、熊谷と距離を詰める。

 距離を詰めながら武装をハウンドからアステロイドの突撃銃に切り替え――熊谷を追い立てていく。

 されど。熊谷は――レーダーを確認した後に、逃走の方向を切り替える。

 逃走する、その先。そこには、

 

(――村上と来馬さんも距離を詰めてきている)

 

 ――鈴鳴第一の二人がいる。

 熊谷は柿崎隊の狙いに気付き、わざと他勢力が存在する方向へと逃走経路を変更していたのだ。

 深めに追えば、鈴鳴第一の二人とも交戦する事になるぞ、と。そう暗に熊谷は伝えているのだ。

 

 このまま悠長に追ってばかりでは、合流した村上と来馬が状況に入り込んでしまう。

 

(どうする?混戦を避けて一旦距離を離すか?それとも――ここで一気に熊谷を攻め立てるか)

 

 ハウンドで熊谷を追い立て二人分の火力で挟み込み火力で押し潰すのが理想的な展開であったが。鈴鳴第一の接敵により追い立てる時間の猶予が無くなってきている。

 引くか、攻めるか。

 どちらも同じだけの合理性がある。

 こういう時――柿崎は、どうしてもリスクを回避する方向性での合理を選んでしまう。

 

「文香、一旦引こう。那須が前に来ているのならば日浦が浮く。俺が那須を誘導するから、日浦を仕留めに行ってくれ」

「.....了解しました」

 

 照屋は悔し気に口元を吊り上げ、そう呟いた。

 柿崎の判断に不満を持っているのではなく――熊谷に誘導の意図が見破られた己が実力不足を悔しく思っているのだろう。

 

 この瞬間。二人は熊谷を追うのを止め、二手に分かれる。

 柿崎は――この場に釣り出した形となった那須に向けハウンド弾を放ちながら更なる釣り出しを行い。そうして稼いだ距離を利用して、照屋は茜を狩り出しへ向かう。

 

 盤面は、ここより大きく動き出す――。

 

 

 

 

「.....」

「おお...!見ましたか狼殿、あの技は....!」

「ああ...」

 

 熊谷と村上との斬り合い。

 見事だと、狼は感じていた。

 

 冷血と共に任を果たしてきた狼にも見て解る。

 互いが互いに。己が矜持を燃料とした熱気をその剣に乗せ、斬り結ぶ様が。

 

 部隊の勝利の為。村上は対峙する者を仕留めるべく剣を振るい、熊谷は仕留められぬ為に剣を振るっていた。

 

 ――多分。むらかみ先輩とくまがい先輩だと、実力的には大きく開きがあるんだろうけど。その上でなす先輩が到着するまでくまがい先輩がむらかみ先輩を抑え込めていただけでも、凄い事だと思う。

 

 空閑遊真の解説が観覧席に聞こえ来る。

 

 ――実力で勝る相手を、死なないで抑えるのは、それだけで十分な価値がある。

 

 そう。

 熊谷は――己よりも遥かに強大な存在を、己が身一つで抑え込んでいた。

 その時間が長ければ長いほど。――己が部隊のエースである那須が活きる事を理解できているから。

 

 その為に熊谷が用いたのが、己が伝えた弾きの剣術であり。

 そこから逃れるべく村上が用いたのは、己から学んだ忍びの剣術であった

 

 寄鷹斬り。

 いつの間にやら、村上は――我流にアレンジしながら、己が技術の一つを会得していた。

 

 

 成程、と狼は呟いた。

 これが――技の継承というものか。

 

「.....」

 

 狼は――この世界に来て、幾度目か。

 己が忍びの粋を叩き込んだ義父の姿を、思った。

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