隻腕の狼、玄界に降り立つ   作:丸米

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更新遅くて本当にすみません....。
ようやく那須隊戦は決着っす。


雷鳴×那須×村上

 あの時。

 異郷の最中にて戦った、あの雷鳴の剣士。

 あの人のかつての顛末は――熊谷から聞いた。

 

 故郷にも帰れず、病に伏せ、失意のまま逝ったであろう己が主の末路をただ見続けた。

 その心の内は――どれほどの想いなのだろう。

 

 きっと、自分には解らない。

 己は――病に罹患していた側だから。

 もし己が病が重篤化して。今よりも苦しい日々に晒されて。その果てに、死んでしまったら。

 それを見続けている友達は何を思うだろうか。

 見せつけてしまう側の己には、きっと解らない。

 

 でも。

 きっと、辛いのだろう。その末期を見せつけられるという事は。

 そして。きっと――そんな思いを振り撒いてしまう自分も。

 

 己が病に苦しむ事より。

 己が病で苦しむ様で、周りに辛い思いをさせる事が。

 辛い顔を見るのが、辛い。

 その、他者の内実の深い所は解らない。

 でも――己の心は、己が誰よりも理解できる。

 

 誰かの幸福を望む事は、誰かの不幸を呪う事と表裏だ。

 己が不幸が呪いを振り撒いてしまう。己が幸福を望む誰かの心内によって。

 

 だから。

 今度は、己が己によって他者にもたらしてきた想いを、知らなければいけない。

 己がチームメンバー。そして、あの時対峙した剣士。

 苦しんでいる他者がいるのならば。辛い思いをしている誰かがいるのならば。

 今度は、己が支える側へ行く。

 

 

 ――今度は、私が助ける。

 

 自分の為に快く手を貸してくれた落水隊の三人。

 一度、その力を借りたからこそ解る。

 あの三人もまた、何かを求めている。

 

『オレが今こういう状況に置かれているのは、完全にオレの意思であり、オレの所為だ。――全部オレの愚かさ故だからな』

 

 内戦国出身だという、新人の隊員がいた。

 常にトリオン体のまま、生身の身体を決して見せない男。

 見せられない程の酷い有様となった身体。そうなってしまった事情を――全て”自分の業が巡っただけだ”と。そう言い切ってしまうような、人が。

 

 自分の所為だから、同情する必要はない。

 恐らく――あの男は理解しているのだ。

 自分の事情に他者を巻き込む事、その罪悪感混じりの、辛さを。

 だから、やんわりと遠ざけようとする。

 自分に寄り添う様な感情を否定しようとする。

 

 その辛さは、自分にも理解できる。

 だからこそ、踏み込んであげたい。

 

『――多分、話せないし、話したくも無いんだろうけど。いつか貴方が、その”自分の所為だ”って言う過去を打ち明けたくなったら。いつでも私の所に来てね』

 

 あの時、そう言い放った自分の心に嘘を吐くつもりはない。

 

 那須玲は、決めた事がある。

 自分を救う切っ掛けとなった落水隊の三人を、己が全霊をかけて手助けするのだと。

 彼等には――上層部が箝口令を出す程の秘密がある。

 彼等の事情に足を踏み入れられるのは、限られた一部でしかない。

 

 ならば。

 まずは――自分が、その一部になる他ない。

 

 

 

「――だから。こんな所で負けてはいられない」

 

 

 その為には。

 ただただ、勝ち続けるしかない。

 

「あの戦いを経て強くなったのは、くまちゃんと茜ちゃんだけじゃないって所。――見せてあげるわ....!」

 

 

 

 

 那須の頭上より柿崎の弾丸が降り落ちていく。

 状況は、綱渡りだ。

 

 柿崎隊は、二手に分かれた。

 柿崎が那須を引き付けている間に、残る照屋が日浦を狩りに向かう。

 

 柿崎隊の二人を引き剥がす為に熊谷は合流した鈴鳴の二人の方向へ向かっていった。つまりは、じきに熊谷は来馬・村上の両名と対峙する事になるだろう。

 那須隊は現在2ポイント。

 まだまだ――点が欲しい。

 

「今、私がやるべき事は――」

 

 柿崎隊の狙いは理解している。

 この狙いを頓挫させるためには、その狙いの前提部分を崩す必要がある。

 

「リスクを負ってでも、――スピード勝負で、柿崎隊長を倒す事」

 

 あの仙境での戦いを経て。那須玲の戦いに対する意識もまた、少々変化した。

 己が頭上に落ちてくるあの雷を空にて受け、返す。このやり取りを行使しながらの、巴との戦い。

 あの時求められたのは、瞬間的な判断を繰り返していく事であった。

 ”地に足付け、雷を受けてはならない”という状況が設定され。その上で敵の打倒が求められたあの戦いは――那須がこれまで積み重ねてきた戦いとは、少々趣が異なっていた。

 

 障害物を盾に、自在に曲げられるバイパーをもって敵を追い詰める。

 それが那須玲の戦い方。

 しかし――あの時。己は自由に建造物を足場とする事を許されず。空にて雷を受け、空にて雷を返す事を求められた。

 

 その感覚が、那須の頭の片隅に未だに残り続けている。

 この感覚こそが――今までの戦い方と異なる、別な手法を那須に授けていた。

 

 

 頭上より、ハウンド。

 那須の記憶に、雷鳴が轟き。眼前の弾丸とリンクした。

 

 身軽な己が動きにより追尾弾をいなし、障害物を盾にして応戦する。

 この、いつもの動きを、肉体が否定する。

 掴み取るのは――足場から飛び立ち、空へと飛び立つ。雷鳴の戦い。

 

「――な」

 

 柿崎のハウンドの弾丸を見る。

 ハウンドの追尾効果が切れ、面攻撃となり降り注ぐ直前まで。

 那須は、シールドを張る事も無く――跳躍した。

 

 

 跳躍しバイパーを展開。それを己が左右に放ちながら――那須は、障害物へ迂回することなく真っすぐに柿崎へ肉薄する。

 

 いつもの戦い方ならば。己も、対峙する者も、双方ともがシールドを張った状態からの差し合いになる。

 その状態からじわりじわりと機動力で有利を取っていくのが本来の己の戦い方だ。

 だが――今は、時間をかければかける程に不利になる。

 

 だから、こうだ。

 

 

「――速い....!」

 

 ここから、機動力で翻弄していく那須元来の戦い方を想定していた柿崎は、突如真っすぐな軌道で肉薄する那須の動きに驚愕の表情を浮かべる。

 突撃銃を那須に向け、掃射。

 されど――那須はシールドを張ることなく、弾道より逃れながら己が手に射手キューブを展開する。

 

 弾丸が腹部と肩口に突き刺さる。

 シールドを張らずに銃手と向かい合うという事は、こういう事だ。

 だが、こういう事まで呑み込んだ上での判断。

 

 リスクとは、避ける為だけに存在するのではない。

 対の選択として、敢えて呑む事もまた同時存在してこその、リスクだ。

 

 着の身着のまま敵の前に現れたリスクを呑み込み、――届かせる。

 

 先程展開したバイパーの弾丸が柿崎の四方より到来する。

 その瞬間――肉薄した距離から己が手先から展開した弾丸は、

 

 

「――アステロイド」

 

 雷の代わりに、直線を描く弾丸を。

 バイパーの鳥籠で身体全体にシールドを展開した柿崎の心臓部に突き刺さるは――威力と速度に大きくパラメーターを振った、アステロイドであった。

 

 これが、那須玲の第二の戦い方。

 機動力をもって追い詰める、ではなく。

 機動力をもって必殺の状況を作り出す。

 

 バイパーと機動力を布石に距離を詰め、最速最大の威力を叩き込む――雷鳴の戦い。

 

『――戦闘体、活動限界。緊急脱出』

 

 

 

 

「柿崎隊長....!」

 

 ――何が起こった!?

 

 柿崎と二手に分かれ、日浦茜を仕留めに向かっていた照屋は――柿崎の緊急脱出の報を受け、表情を歪めた。

 

『すまん文香!那須にやられた!』

 

 作戦室に戻った柿崎は、危機感を滲ませた声音で隊でただ一人の生き残りである照屋へ通信を届ける。

 

『――気を付けろ!今の那須は、明らかに動きを変えている!リスク承知の真っすぐな動きだ!』

 

「.....」

 

 突きつけられる。

 今――柿崎隊は、この戦いで最も不利な立場に立たされた。

 何故か?

 それは――那須隊が新たに取り入れた戦術と、那須隊のメンバーそのものの変化に対応できなかったからだ。

 

 柿崎隊。柿崎、照屋が万能手。そして巴は銃手であるが弧月も使える。

 あらゆる状況に対応できる編成であり。隊長の柿崎はこの部隊の特徴を合流してからの陣形の構築という形で戦術を作り出した。

 

 だが。

 巴は変化した熊谷の剣術の前に沈み。そして隊長たる柿崎は那須が新たに取り入れた動きを前に倒された。

 

 那須隊は、恐れず変化をした。

 その変化に、――自分たちは、呑み込まれた。

 

「――強い....!」

 

 その強さの芯の部分を、今突きつけられた。

 

 己もまた、現在危機の最中。

 柿崎の早期の脱落により、現在己は日浦と那須に挟まれる形になっている。

 単独であれば、位置が判明した狙撃手など近寄れば倒せる。

 だが――背後よりバイパーの名手に追われた上で、というなら話が異なる。

 

 

 判断に迫られる。

 退くか、進むか。

 

『退却だ、文香』

 

 当然、隊長としての判断はこうなるだろう。

 勝算は、明らかに薄い。

 

 だが――。

 

「――隊長」

 

 今ここで。

 己もまた、踏み出す。

 

 

 

 

 那須隊は現在、柿崎隊の柿崎と巴、鈴鳴第一の太一を落とし三ポイントを取得している。

 このまま生存点を確保すれば、勝利は確実と言えるであろう。

 

 だが。ここまで点を稼ぐためにのめり込むように攻めの戦術を繰り出していた那須隊は――ここからが綱渡りとなる。

 

「――熊谷を発見しました」

「了解....!これから迎撃に入るよ、鋼!」

 

「――今度は2対1か。何とかするしかないね....!」

 

 

 熊谷、鈴鳴第一の二人に発見。

 

 

「――隊長!わたしよりも、熊谷先輩を優先して下さい....!」

 

 

 日浦、柿崎隊の照屋から迫られている状況下。

 

 

 那須に突き付けられた選択は二つ。

 熊谷か、日浦か。どちらの救援に向かうか。

 

「いいえ、茜ちゃん。私は照屋ちゃんを落とすわ。挟撃するから狙撃地点について」

 

 判断に、迷いはない。

 那須は――防御に徹した熊谷が斬り抜けることを期待し、日浦との挟撃で照屋を落とす。

 

 

 だが。

 この判断を即座に変更せざるをえない盤面の変化が現れる。

 

 それは――柿崎隊の照屋が、日浦から熊谷へと標的を変えたからだ。

 

 

「....!」

 

 鈴鳴の二人と対峙している最中で、横合いから照屋に襲われるのならば――熊谷の命は間違いなく消し飛ぶ。

 

「くまちゃん、予定変更!照屋ちゃんがそっちに来るわ!私も援護に向かうから、気を付けて!」

 

 

 急ぎ那須は熊谷の方角へと移動し、横合いから襲撃せんとする照屋を止めんと走る。

 

 

「く....!」

 

 熊谷の頭上に、照屋のハウンドが降り落ちる。

 距離が開いた状況下で威力が大きく減衰したハウンド弾。大した脅威ではない。

 

 だが。

 今、村上と来馬と対峙している状況ならば――この微弱な弾丸ですらも、致命的となる。

 

 

「――くまちゃん!」

 

 熊谷が照屋のハウンドをシールドで防ぐと共に、来馬はその隙を狙い熊谷へ弾丸を放つ。

 その瞬間――間一髪、那須のシールドが間に合う。

 

「――!」

「ぐ....!」

 

 そして。

 来馬の援護を受けた村上の襲来を、熊谷が食い止める。

 

(――強制的に、2対2にさせられた)

 

 照屋の予想外の動きにより、今――那須と熊谷は村上と来馬との2対2の戦いへと誘導された。

 熊谷と日浦双方の危機を、照屋が――熊谷へとその危機を一本化させたのだ。

 

 よって。この盤面は純粋な2対2ではない。

 照屋という媒介物が存在した上での、2対2。

 

 

 ――リスクを取り、混沌を作った。後は、ここで上手く立ち回り点を稼ぐのみ。

 

 照屋もまた、リスクを取り。己が思惑を通した。

 彼女もまた、変化の萌芽へと踏み込んだ。

 

 

 

 

「――くまちゃん!」

「うん!――茜側に二人を引きつける!」

 

 この状況に陥ったが故に。那須隊側は、浮いた駒である照屋の警戒をしつつ、鈴鳴の相手をしなければならない立ち位置となってしまった。

 照屋を放置すれば、今度こそ彼女は日浦を仕留めにかかるだろう。

 よって。――鈴鳴と交戦しつつ、日浦側に引いていくという。非常に難解な立ち回りが要求される事となった。

 

 向かい合う村上・来馬と那須・熊谷。

 双方共に中距離での射撃手段を持つ者と攻撃手。

 それ故シールドは手放せず。攻撃手同士の鍔競りも、熊谷の弾きにより膠着する。

 

 交戦する両隊は、全くの互角の様相。

 故に――ここで浮いている第三勢力の照屋の介入如何によって、天秤は傾く。

 

 

 この時。

 突破口を見つけたのは――那須であった。

 

 那須は――バイパーのキューブを展開すると共に、左手側から折れ曲がる様な軌道から来馬へ向け放つ。

 

 村上が、熊谷に抑えられている状況下。

 来馬は当然、自前のシールドにてこれを防ごうとするが――。

 

 シールドを展開したその地点から、更に折れ曲がり――弾丸は、照屋の下へと向かっていく。

 来馬へと向かうと見せかけての照屋へ向け放たれたそれは。

 那須隊の動きを見、肉薄しながら横槍を入れんとする照屋の動きに、大きな牽制を入れる事となる。

 

「――しゃ!」

 

 村上のレイガストに己が刀が抑え込まれる瞬間。

 熊谷はバックステップと共にシールドを引っ込め――メテオラを展開。

 

 バックステップで空いた距離の、中間。爆撃と爆煙で視線を遮る。

 

 

 空白。

 膠着状態から無理矢理に出来上がった、空白。

 

 

 この空白にて――動かない天秤に、傾きを生み出す。

 

 

 

 ――爆撃で生まれた白煙に紛れ込ませた地を這うバイパー弾を、那須が来馬の死角に放ち。

 ――その弾丸に目敏く気付いた村上が、弾丸から来馬を防護する動きを見せ。

 ――その一連の動きから連動するように熊谷が、照屋へと襲撃を仕掛ける。

 

 膠着が解かれた瞬間から状況が回る。

 

 その回る状況の中――離脱者が一人。

 

「ぐ....!」

「――隊長!」

 

 白煙を斬り裂く照屋の突撃銃の掃射により、来馬がまず脱落。

 

 

 柿崎隊に一点が入ると共に――村上の眼は、弾丸の軌跡を追い、その先の白煙越しに照屋が熊谷に襲われる光景があった。

 

 熊谷の襲撃に、突撃銃を捨て弧月で応戦し鍔競る瞬間。

 村上の――エースとしての本能が、身体を動かした。

 

 白煙に足を踏み入れながらぐるり体を回転させ――旋空弧月。

「――油断した!ごめん、玲!」

 

 己が撒いた白煙によって、旋空の存在に一瞬気付くのが遅れた熊谷は――その首が刎ねられる。

 

「――ここまで、ですね」

 

 そして。

 回転した身体から勢いをつけ放たれるレイガストによって体勢を崩した、向かいの照屋文香は――猛然と迫る村上の凶刃にその首を貫かれた。

 

 

 

「.....」

「.....」

 

 

 生き残りは、三人。

 那須隊の那須玲と日浦茜。鈴鳴第一の村上鋼。

 那須と、村上。双方の視線が無言で交わった瞬間

 村上の背後より、日浦の狙撃が放たれる。

 それをシールドで防ぐと同時――村上は那須玲に斬りかかる。

 

 斬りかかりながら、左手にレイガストを再生成。

 ――来る。

 

 先程、熊谷に見せた――狼の剣技。

 レイガストの重みを用いて空より斬りかかり、斬った後にスラスターを用いて距離を取る――寄鷹斬りの技法。

 

「――もうその技は見たわ」

 

 那須は――空中にて斬りかかる村上の軌道に併せ、バイパーの射出を行う。

 軌道上に弾を置き、仕留める。

 その意図を乗せて放たれた弾丸は――

 

「え....?」

 

 くるり。

 スラスターの噴出機構にて己が肉体を回転させた村上が――己が四方から来る弾丸を打ち落とした。

 

 スラスターの発動と共に己が体幹から手首の先までを回転させ――バイパー弾への防護を行っていた。

 完全に防ぎ切れず、村上の肉体に幾つかの弾丸が叩き込まれるが――致命傷は避ける。

 そして。本来は上段からの斬りかかり技であるこの技を、着地してからの回転斬りへと変化させ――那須の足下よりその胴を斬り裂いていた。

 

 村上鋼。

 狼より学びし寄鷹斬りの技法に、スラスターの噴出機能を加え――己が独自に昇華した技にて、那須玲を斬った。

 

「くぅ....!」

 

 致命傷。

 

 だが――それでも、相打ちには持って行かねばならぬ。

 

 逆さ回しの為に、一瞬村上が足先に力を入れる瞬間。

 その瞬間に――那須もまた、射手キューブを生成する。

 

 己がトリオンが全て失われるその刹那。

 同じだ。

 相手が――地を飛び立つ瞬間を狙い。こちらも、飛び上がる。

 

 

「――返すわ」

 

 雷の代わりに。

 村上の逆さ飛びに一寸遅れ、那須もまた飛び上がる。

 あの時、幾度となく繰り返した”雷返し”。

 その経験は――死の淵にあっても、那須の身体を、ごく自然と動かしていた。

 

 その手に持つキューブを分割し――村上との距離を詰め、放った――。

 

 

 

 

『試合終了』

 

 その後。

 異境の剣技を取り入れた村上と、仙境の戦いで得た経験を用いた那須。

 双方は、互いにその技巧をぶつけ。そして互いへそれは届いた。

 

『那須隊、日浦隊員が残ったため生存点を獲得。よって6対3対1で、那須隊の勝利です!』

 

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