極限まで働きたくないから頑張って最難関のウマ娘トレーナーになったで   作:圧倒的雑魚臭

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レース描写する予定無かったのになあ……。
でも書きたかった。


EP10

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――あんな約束しなきゃ良かった……。

 

 

 

 

 

 

 

 私の前を走るウマ娘。

 何度も見たその背中を呪いながら、掲示板前の最後の直線へ流れ込むその足が限界に近いことを私は悟った――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さあ今日最後のメイクデビュー。続々とウマ娘たちがターフに顔を出します』

 

 今頃あのトレーナーはどんな顔をしてるだろうか……。

 

『グラスワンダー、エルコンドルパサー、スペシャルウィークと期待を乗せた新バたちはその期待に応え、今日のレースを優勝してきました』

 

 三女神がいるっていうならきっとそれは愉快犯だ。

 

『今、人々の期待を一身に背負い、緑の芝に降り立ちます』

 

 

 

 

 さあ、行こうか――

 

 

 

 

 

『一番人気、キングヘイローです!!』

 

 

 

 キング――

 

 その鹿毛を棚引かせ、威風堂々とゲートへ向かっていく背中を自然と目で追っていた。

 自信に満ち溢れたその後ろ姿は今の私には眩しすぎる。日の光に目を細めながら私は神がいるであろう天に向かって唾を吐いた。

 

 あの日、何度併走しただろう?何度あのウマ娘に抜かされただろう?何度、負かされただろう……?

 

 彼女の背中を追いかけながらゴールラインを割る感覚がゾワリと足元から這い上った。

 

 言ったじゃないか、トレーナーさん。レースに絶対はない。この世代はハズレだって。

 

 震える足を叱咤しながら、私は三番ゲートに向かって歩を進める。うるさく鳴りやまないこの鼓動はきっと初陣の緊張感だけじゃない。何度も練習で使ってきたはずのゲートがこんなに怖く感じることは無かった。

 

 それでも容赦なく迫るスタートの時間。私は半ば無理やり押し込められる形でゲートに入らされた。

 スタンドの歓声が嘘のように聞こえなくなる。狭く、暗いゲートの中、ドンドンドンという心臓の音がうるさく聞こえた。

 

 

 

 ガシャン!!

 

 

 

 扉が開くと同時に私の足は先頭目指して芝を蹴った――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後のハロン棒が迫り、残りが200mであると脅迫してきた。

 今日一番の歓声にも聞こえるスタンドのうねりがビリビリと肌を通して伝わってくる。

 

「勝てえええ!キング!」

 

「そのまま差しきれええええ!!」

 

 ああ、誰も私なんか見ちゃいない。そりゃそうだ。逃げウマ娘がラスト200mで抜かされた。

 誰が見たってこのレース、『セイウンスカイ』は終わったんだ――

 

 

 

『ねえ、セイウンスカイさん。必ずG1で優勝して下さいね!』

 

 あの日見た記憶が駆け巡る。あの娘との約束が空っぽになった胸の中を叩いたのが分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、セイウンスカイさん。必ずG1で優勝して下さいね!」

 

 そう言って彼女は無邪気な笑顔を私に向けた。さも優勝するのが約束されているというように。

 

「もちろん。必ず優勝するよ」

 

 彼女が作ってくれたタンポポの花冠が笑ったような気がした。

 

「ゆびきりげんまん嘘ついたら針千本の~ます。ゆびきった!」

 

 花畑の中でニシノフラワーと誓ったあの約束。彼女は覚えているだろうか――

 

 

 

 

 私の生家は平凡な家だった。

 メジロ一族とかキングヘイローのような銘家でもなんでもなかった。それどころか、借金取りに追われるほど生活はひっ迫していた。

 

 昔はそれなりに規模の大きかったらしい、父さんが経営していた『西山株式会社』。しかし、私が物心つくころには倒産間際まで追い込まれていた。

 

「セイウンスカイさんてとっても速いんですね!」

 

 そんな私が唯一自慢できる武器。それがこの足の速さだった。

 

「フラワーこそ、短距離だったら私でもかなわないよ」

 

 年は下だったが、近所の幼馴染にウマ娘がいたのも幸いだった。他の子達が貧乏でウマの耳をしている私を標的にいじめることが多かったが、それでも挫けずに学校生活を続けていけたのはいつでも側にいてくれたニシノフラワーのおかげだったのかもしれない。

 しかし、日に日に貧しくなっていく生活の中、ついにその時は訪れた。

 

「セイウンスカイさん、あっちでも元気に暮らしてくださいね……」

 

「私は平気だから、フラワーも元気だしな。逃げが得意だっていってもこの国から逃げ出すわけじゃないし、きっとどこかでまた会えるよ。……うん、分かった。ごめんフラワー、時間みたい。またいつか必ず会えるからね!」

 

 その言葉を最後に私の乗った軽トラックは走り出した。保田という叔父さんの元へ向かうそのトラックは私の両親と幼馴染を残して生まれ育ったこの町から私だけを追い出した。

 

「約束だよー!」

 

 背中から聞こえた幼馴染の声。強がりを解いた私の目から、堪えても堪えても涙が止まらなかったのを覚えている。

 

 そして私は足の速さを見込まれ、競バの世界では日本最高峰の養成所、『日本ウマ娘トレーニングセンター学園』、通称『トレセン学園』に入学することが出来た。

 でも私を待っていたのは非情な現実だった。

 

 これが『才能』――?

 

 覚悟はしていた。

 俊足自慢が日本中、いや世界中から集まるこの学園に私が敵わない相手がいるかもしれない。そう考えたことは確かに無かったわけじゃない。それでも、それでも――

 

 神様は酷く残酷だ。

 私らの世代は当たり年(・・・・)だった。

 スペシャルウィーク。エンコンドルパサー。グラスワンダー。そしてキングヘイロー。重賞を勝てれば一級ウマ娘と呼ばれるこの世界で、G1を獲るだろうと言われたウマ娘が4人も一度に出てきた。そんな彼女たちを前に、私は自分の立場を身をもって知らされることになった。

 

 

 

 所詮、借金で逃げてきたちょっと足が速いだけの田舎出のウマ娘――

 

 

 

 それを自覚した瞬間、私は勝つことが怖くなった。あの娘の約束が私を縛り付けていたから。

 私と彼女らは違う。負けて当然。負けるのが当たり前。ヒトがウマ娘に勝てないように。

 

 なのに…………。

 

 

 

「勝てるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後のハロン棒が背中の方へ過ぎ去る。

 キングヘイローとの距離は1/2バ身。背中から集団が追いすがるのが分かった。

 

 ざまあないや。これでトレーナーは辞職だね。ま、嘘だろうけど。

 

 そもそも私があのトレーナーを選んだのは『私に才能が無い』とはっきりさせてもらうためだった。

 あんな雑でいい加減で新人のトレーナー、きっと指導力も大したことない。もし私に『才能』があるんだったら、こんな男の元でも成長するはずだ。

 なのに。だのに……。

 

 おかしいでしょ?なんでタイムが縮まるんだよ。あんだけサボってあんだけいい加減に練習に付き合ってきたはずなのに――

 

 もしかしたら私にも『才能』があるんじゃないかって勘違いしちゃったじゃないか……。

 

 夢見させんなよ!期待させんなよ!!

 

 

 

 私に、『才能』が無かったから負けたって、ちゃんと言い訳させてよ――

 

 

 

 

『ねえ、セイウンスカイさん。必ずG1で優勝して下さいね!』

 

 

 

 

 心の奥で木霊した懐かしいその声に、思わず私は俯いていた顔を上げてしまった。

 顔を上げたその視線の先、スタンドの群衆の中にあの男を見た。

 

 一点の曇りもなく、真剣な表情で勝つことを信じ切ったその瞳を見た瞬間、私はこのいい加減な男がした賭けが本気だったことを悟った――

 

 

 

「うわあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 耳をつんざく咆哮。地面にからめとられてしまったのかと思えたその足を、私は再び力強く前へ出した。

 

 バ鹿野郎!クソやろう!ふざけんな!!

 

 破裂しそうなほど暴れる心臓。酸素を求めて伸縮する肺。鉛のように重くなった足。

 

 身体中が悲鳴を上げて限界を叫ぶ。

 それでも私は止まらない。

 

 足が芝を蹴り、体が宙を舞う。

 

 狭窄した視界の中で、私は掲示板の前を通り過ぎた。

 

 

 

 

 

 ああ、顔中汗だらけで気持ち悪いや――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこまでも青い空。静まり返る会場。うなだれる鹿毛の(キング)

 

 

 

「……あーあ。これでもう『才能が無いから勝てなかったよ』って、言い訳できなくなったじゃん」

 

 今日一番の大歓声がスタンドに響き渡った。

 

 

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