極限まで働きたくないから頑張って最難関のウマ娘トレーナーになったで 作:圧倒的雑魚臭
良かったら元ネタと比べてみてね
「なあ、なんとかならんか?」
「なんとかと言われてもなあ……」
電話口の男は今日何度目かになる溜め息をついた。
大学時代の友人から久々の電話があり嬉々として出たはいいものの、どうものっぴきならない用件のようだった。
「その、マーベラス……サタデー?って病弱なんだろ?引き取ったところでレースに出られないと思うが……」
「マーベラスサンデーな。まあそう言わず見るだけ見てくれ。素質はあると思うんだ」
その用件というのはあるウマ娘を引き取ってくれという話だった。
どうも選抜レースで良い成績を残してスカウトされたはいいものの、右膝に不安を抱えて休養していたところに疝痛をこじらせて生死をさまよう重篤状態にまでなったらしい。そして医者である友人のところに運び込まれて一命は取り留めたものの、担当していたトレーナーがこんな爆弾だらけのウマ娘の面倒をみるのはごめんだと言って契約の解除を申し込んだとか。
なんとも酷い話だが、トレーナーも死活問題だ。レースにすら出られないかもしれない担当を持つというのは、原価割れしている商品をひたすら仕入れて売りさばいているような状態だ。もちろんウマ娘という一バ生を預かる身としてはそんな単純な話だけではない。だがシニアも走り終えてピークを過ぎたというようなウマ娘ならともかく、まだメイクデビューすらしていないそんな若手の状態でそのような娘を抱えるというのは悪手以外の何物でもない。
「悪いけどな、他を当たってくれないか?せめてその娘が全快して、それでも話がないってんならまた持ってきてくれよ」
「そう言うなよ。遅くなればなるほど貰い手がつかなくなる。知ってるだろ?トレセン学園は入学して二年目の九月までにメイクデビューで勝ってないと追い出されるの」
もちろん知っている。トレセン学園はあくまで競走バを養成する場だ。それなのに一年半もの間公式戦未勝利という成績を残すのは、もはやレースで活躍する機会無しと捉えられてもおかしくない。どんなに学業成績がよかろうとレースでの戦績を残せないのならば普通の学校に行って下さいということなのだろう。
そういうリミットが設けられていることからも、トレーナーは長く未勝利のウマ娘を担当したがらない。自分の担当バから足切り(この条件で学園から追放されること)を出したなど不名誉以外の何物でもないのだから。酷い時にはタイムリミット直前に担当契約を無理やり解約してしまうトレーナーもいるくらいだ。
「そうは言ってもなあ……」
もちろん俺だって足切りを出してしまうのは嫌だ。が、まだ時間的には余裕がある。だから本当はこれ以上担当を増やしたくないだけだ。特にそんな病弱体質のウマ娘が
「……………………仕方ねえ」
ひたすら渋る俺に返す言葉も無く黙り込んだかと思うと、彼は何か意を決したようにそう切り出した。
「分かってくれたか?気の毒だとは思うよ。俺だって」
「なあ、大学三年の夏休みに海行ったよな?」
「え?」
急に話が変わって混乱する。何を意図しているのか分からず友人の話の続きを待っていると
「あの時さあ、夜の浜辺で噴出型の花火を手で持ってさ、そこいらの通行人めがけて噴射させてたよね」
「…………そう、だっけ?」
おぼろげな記憶を必死に引っ張り出してみるが、なんとなく花火をした程度しか思い出せない。
「酒飲んでてあんま覚えてないかもだけど、ちゃんとカメラに収めてんだよね。夏の思い出ってことでさ」
あれ?こういう展開前もあったような……。
「昼間はさ、なんか高級車?っぽいやつのボンネットの上でフライパン敷いてベーコンエッグ作ったよな?あれ油飛び散りまくって車体にもろかかってんの器物損壊に当たるんだよね」
こいつもしかして……。
「んで極めつけは有名な回転すし屋でさ、お前醤油の口を」
「分かった!分かったよ!もう分かった!いいから!行くから!見るだけ見てやるよ!ふざけんなよ!」
「ははは!ワリぃ。やっぱ持つべきものは親友だな。空いてる時でいいから時間だけ教えてくれ」
こうして俺は脅迫に屈するように半強制的にそいつの元へ行く約束をさせられた。
「正直、かなり衰弱してるからあまりバ体は良くない」
病院の廊下を歩きながらそう切り出す親友。大病院だけあって人がやたら多かった。
「おいおい、まさか危険な状態だなんて言うんじゃないだろうな」
消毒液の臭いに顔をしかめながら彼の後を追いかける。なにもメイクデビューが終わったばかりのこんな時期にと思いながら、見るだけ見てさっさと帰る心の準備だけはしていた。
「いや、山場は通り過ぎたからそこは安心していい。ただ、担当トレーナーから解約をほのめかされたから精神的にも安定してなくてな、あんまり酷なことは言うなよ」
いや、そんな奴を紹介するなよ……。
内心ツッコむが、半分脅されてるのでそんなことも口に出来ない。世知辛い世の中だ。
「ここだ」
一つの扉の前に止まる。どうやら個室らしい。重篤になったとはいえ贅沢なやつだ。うらやましい。
おもむろに開かれた扉の先にそのウマ娘はいた。
長い栃栗毛を腰まで下ろし、上半身だけをベッドの上に起こしたその少女の顔はげっそりとやつれていた。腕はやせ細り、髪もぼさぼさで手入れをしていないのはすぐに分かった。目にも生気が……、あ?なんだこの目。
「…………マーベ、ラス?」
彼女は俺たちをそのしいたけみたいな瞳で認めると謎の言葉を呟いた。
なにその呪文。てか目ぇどうなってんの?なんで星型なの?しいたけなの?骨と皮だけのがいこつみたいなってて怖いのにそのつぶらな瞳で見つめられると余計怖いんだけど。
などと思っていると、彼女は細い上半身を傾けて食い入るように俺たちを凝視しだした。というよりむしろ俺一人を見てる。めっちゃ見てる。何?今朝食べたいもけんぴでも髪の毛についてた?そんな穴が開くように見られると穴開いちゃうよ?そのシイタケ型に穴開くよ?いやシイタケになるの?そういや人をキノコにするっていうふざけた能力の超強いやついたな。あいつは魔法使いだったけどこいつも瞳だけは魔法使いっぽいな。てかいつまで見てんの?俺帰るよ?そんな見つめられたって
「マーベラス!」
俺を見つめていたそのウマ娘は急に笑顔になると大きな声でそう叫んだ。気のせいか血色が少し良くなったような気がする。
「こいつはトレセン学園のトレーナーだ。今日はマベちゃんを担当してくれるかもしれないということで連れてきた。何か質問とかあるか?」
友人が一通り説明すると、マーベラスサンデーはしわしわになった唇をゆっくり動かしてその言葉を突き付けてきた。
「……なんでトレーナーさんは二人いるの?」
こいつまともにしゃべれたんか……。ん?今なんて?
「えっと、マベちゃんどういう意味かな?今日はこのおじさんしか連れてきてないよ?」
おじさんで悪かったな。
「とってもマーベラスね。トレーナーさん。こんな人見たことないわ」
いや意味が分からんて。本調子じゃないのはともかく、錯乱しとるんじゃないか?
「な、なあ、やっぱ調子悪いんだろ?また時期改めてさ……」
「なんで一人の人に二人も人格がいるの?」
瞬間、心臓が凍った手でわしずかみされたような感覚が走る。
これが俺とマーベラスサンデーの初めての出会いだった――
蟻の巣を浸水させるのはダメ!絶対!