極限まで働きたくないから頑張って最難関のウマ娘トレーナーになったで   作:圧倒的雑魚臭

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EP13

 

「マーベラスサンデーさん、ですか……」

 

「そう。俺の担当、つまりグラスたちと同じチームになるわけだけど、まだ入院中で顔合わせできないし、明日からの夏合宿にも間に合わない。んでまあ合流するのは先になるけど仲良くしてやってくれ。あとこれ、今日の練習メニュー」

 

 そう言いながらグラスがいるであろう方向に向かってメニュー表を突き出した。その間もずっと溜まっていた書類に目を通しながら、時折必要なところに書き込んでいく。うん?これなんて締め切り5月末じゃん。めっちゃ遅刻してて草。

 

「え~?トレーナーさん練習付き合ってくれないの~?じゃあセイちゃんサボっちゃおっかな~。ちょうどソファーも空いてるし~」

 

 いつも俺が占領しているソファーを十分に堪能しながら、セイウンスカイがそうぼやくのが耳に入ってきた。

 

「セイちゃん、トレーナーさんはお忙しいの!」

 

「明日から合宿だから軽めに調整してるんだがな。それに、セイウンスカイは本来長距離向きの筋肉してるんだ。今までグラスやキングに練習で勝てなかったのは練習サボってスタミナ無かったからだぞ。瞬発力や判断力はともかく、持久力は一朝一夕に身に付かないんだ。毎日コツコツ訓練することが肝心だぞ。俺、スカイには期待してんだ。だから頑張ってもらいたい」

 

「ぅえ!?そ、そうなの~。へへ、トレーナーさんがそう言うなら少しは……」

 

 チラと横目でスカイの方を見ると、ソファーに座りながら顔を赤くしてポリポリと頬を掻いてる姿が目に入った。前より素直になったからか結構単純だな~、などと思っていると

 

「セイちゃんがそう言われるのはもっとトレーナーさんの期待に応えられると思われてるからですよ。私はトレーナーさんの信頼に応えて練習もして結果も残してきましたからこれ以上何も言うことがない。それほど信用しているということですよね?」

 

 あれ?なんか怒ってる……?

 

 目線を机の前にたたずむウマ娘の方にやると、怒気を纏った栗毛の怪物がいた。顔はいつもの笑顔だが、若干耳が絞られて細めた目の間から鋭い眼光をこちらに放っている。

 

「あ、ああもちろん、グラスは非の打ちどころが無いからな。俺が何か言う前に率先してやってくれるし期待以上の働きをしてくれるよ」

 

「あらまあ!トレーナーさんがそこまで私のことを評価して下さっていたとは~。恐悦至極でございます~」

 

 声も上ずり、急に上機嫌になるグラスワンダー。頬を染め、口元に手を当てて耳をピコピコとせわしなく動かす姿は先ほどの張り付けられた笑顔と比べると全くの別人に見える。一番付き合いが長いのにこの娘のことが良く分からなくて戸惑う俺だったが、まあ今機嫌がいいからいいか。といういつもの場当たり的な対応でしのいでしまう悪い癖がでてしまった。

 

「さあセイちゃん!準備してプールに行きましょう!今日も暑いですから早く行かないと定員オーバーになってしまいますよ!」

 

「えー!グラスちゃんが張り切るとメニュー以上にトレーニングさせられるからやだー!」

 

 少しやる気を持ち直したスカイだったが、急に張り切り出したグラスワンダーに引きずられるようにして二人ともトレーナー室から退場していった。

 

 さて、俺も明日までに間に合うかな……。

 

 山になった書類の束を黙々と処理していく男が一人、静かになったトレーナー室に取り残されていた。

 

 

 

 

 

 

 

「……起きてくださいトレーナーさん。トレーナーさん?」

 

「んあ?グラス?」

 

「何寝ぼけてるんですか?もう合宿所に着いて皆さん支度してますよ」

 

 寝ぼけ眼をこすると、バスの窓の向こうが砂浜と海原になってた。目の前にはたづなさんが心配そうに覗き込んでいる。こんな暑いところでも緑の帽子を被り、ピシッとしたこれまた緑のいつものスーツを着ている理事長秘書を見ているとこっちまで暑くなってくる。

 

「たづなさ~ん。起こして~。昨日仕事しまくって体がだるいんよ~」

 

 バスの中に誰も残っていないのをいいことにふざけてたづなさんの腕を掴んで引っ張る。しかし、予想に反してたづなさんは微動だにしない。まるでウマ娘のような謎の力によって俺の体重は華奢な女の腕一本に支えられていた。

 

「もう、トレーナーさん、遅くまでお仕事してたのは存じ上げてますけど、身から出た錆ですからね。同情できません。それに、向こうで担当バさんが待ってますよ」

 

 その言葉を聞くと同時に背中に悪寒が走るのが分かった。

 獲物を見つけた蛇のような視線を背中に受け、恐る恐る振り返りながらその先を見やると、これ以上ないほどの満面の笑みを浮かべた栗毛の愛バがこちらを凝視していた。

 

 父さん、母さん、ごめんなさい。今日が僕の命日になるかもしれない……。

 

 何もしらずに燦燦と輝く太陽が今年の夏合宿の始まりを告げていた。

 

 

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