極限まで働きたくないから頑張って最難関のウマ娘トレーナーになったで   作:圧倒的雑魚臭

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EP14

 

 熱い日差し。そよぐ潮風。打ち寄せる波の音。

 

「ハッハー!グラスは砂浜弱いデース!!」

 

「くっ!戦いは常に得意な状況で行えるものではありません。それでも勝ちに導く者が真の武士(もののふ)です!」

 

 パラソル傘が作る影の中から夏の盛りを五感で確認する。ただ暑苦しいだけの都会とは違う、海から時折運ばれる水気の涼を肌で掬いながら俺はまどろむ意識の中で

 

「いやあ、セイちゃん実は釣りが大のお気に入りでして~。ブロントさんも良くやるんですか?」

 

「ほむ。俺は不良だからよ、モンハンもやるし水族館プロジェクトもやる。水プロは一面やっただけで『何これ?』『アニメ?』『クソゲ?』ほれこんなもんと全てを悟り、ネットのクソゲーハンターというジョブに『9万円でいい』と言って良心価格であげてやった。今メルカリではそのナイトは謙虚なナイトで人気者」

 

 あくせく働く都会のサラリーマンの心中を想いながら、わずかに痛む良心とともに

 

「キングちゃん、いっくよー!!」

 

「ちょっとウララさん!そのビーチボール空気が抜けだしてるわよ!空気入れ直すから貸しなさい」

 

「わー!ほんとだー!ビーチボールさんも遊び過ぎて疲れちゃったのかなー?じゃあ一回休憩にしよー」

 

「はいはーい!私かき氷食べたいです。北海道じゃ夏でもあんまり売ってなくて……。あとやきそばとフランクフルトも!」

 

「ウソでしょ……。まだ始まって十分ぐらいしか経ってないのに……」

 

「うるせえええぇぇ!!!」

 

 怒声が浜辺に響き渡る。皆が何事かと耳を抑えながらしかめっ面をした。

 

「うるさいなあ。魚が逃げちゃったじゃないですか。どうしたんですかトレーナーさん?」

 

「トレーナーさんもビーチボールやるー?みんなでやった方が楽しいよー」

 

「あーうん。ウララちゃんありがと。いやそれはいいんだけど、みんなもうちょっと静かにしてくれるかな。おいらちょっと寝てるからさ」

 

「ウララさん、そのような怠惰な人に近づくのは感心しませんねぇ。勤勉なる我がチームの一員として、どのような場所であろうとトレーニングを重ねるのデス」

 

 でたな。変態野郎。

 

 ウララに声をかけた方に視線をやると、そこにはこの暑い中紺色のマントで全身を覆ったおかっぱ頭の男がいた。緑の頭髪にその頂点にはつむじを隠す程度しかない帽子を付け、四白眼ともいえそうなほど白目の多い瞳孔の開き切った蛙のような目が特徴的だった。その瞳がギョロリとウララから俺に視線を移すと歯をむき出しにしたその口元が開いた。

 

「何故?何故勤勉を体現したような空間であるトレセン学園に貴方のような怠惰な人間がトレーナーとして勤務しているのか!?私の勤勉さを試す試練だとでもいうのデスか!?あああ!震える震える震えるうううぅぅぅぅぅ!!」

 

 まるで発狂したかのように頭を抱えて仰け反るような態勢になる。ほとんどブリッジ状態だがよく手もつかずにこんなエビのような姿勢を保てるものだ。毎度のことでもう見慣れてしまったが、かといって気持ちのいいもんでもない。

 

「俺のことなんかよりウララちゃんをもっと鍛えて勝たせてやったらどうだ?名門()テルギウスのトレーナーさん」

 

()テルギウスです。そんなみえみえの挑発で私を怒らそうとするなど実に怠惰デスね。それにウララさんは実に勤勉デス。貴方には分からないでしょうが、レースで勝つことだけが全てではありまセン。ウララさんは努力を怠ることなく、愛に忠実に、愛を施し、愛に報いている実に真摯にして勤勉なるウマ娘なのデス!」

 

「なーに?ウララのことー?難しい話は分からないけど、みんな仲良くすればいいよー」

 

 名門チームのトレーナーが選抜レースでも模擬レースでも勝ったことのないハルウララを何故チームに加入させたのか確かに俺は分からない。そして、トレーナー以前にこんなヤバい奴が多くの強豪ウマ娘を輩出していることも理解できない。というかむしろ理解したくない。

 

「ペテルギウストレーナー!併走してきたデース!きっちり三本。一度もグラスに負けなかったデスよー」

 

 見ると、長髪の黒鹿毛をポニーテールにまとめた覆面を付けたウマ娘が汗を流しながらこちらに近づいてくるのが見えた。

 

「よろしい。次に休憩を挟んでから遠泳20キロデス。この男のような無為なる休憩は実に怠惰デス。休憩中も念入りにストレッチし、事故を起こさぬようあらゆる事態を想定しながら体を休めるのデス」

 

「おーおー。言うてくれるなペテさんよ」

 

 見ての通り、俺とこのペテルギウスは仲が悪い。それも当然。このペテ公は勤勉にも俺のやる気の無さをどうにかしようと躍起になってあの手この手でやる気を促したが、毛の先一本にまで染みついたサボり癖がそれを許さなかった。結果、ペテ公は理事長やたづなさんにもなんか働きかけたらしい。きっと俺みたいな怠惰な奴がいたらトレセン学園全体の風紀が乱れるとかそんなところだろう。用はクビにしたいわけだ。が、それは叶わず、俺はグラスやスカイのお陰で新人ながらメイクデビュー戦を勝利で終えられたわけだ。

 

「ふう……。何故あの勤勉なるグラスワンダーさんがこのような男の担当になったのか理解に苦しみマス。所詮あの栗毛も愛に準ずる相手を間違えたということデスね」

 

 

 

「次グラスの悪口言ってみろ。その閉じねえ唇縫い合わせて二度と物言えなくしてやる」

 

 自然と体が動いていた。

 跳ね起きた身体と共に飛び出した、低くドスの効いたその言葉に自分で息を飲むが後悔は全くしていなかった。

 掴みかからんばかりにペテルギウスの眼前まで顔を近づけると、こいつはその気持ち悪い唇をニイと歪ませ、いかにも愉快そうな声色で応えた。

 

「なあんだ。勤勉なところもあるじゃないデスか」

 

「はあはあ……。トレーナーさん、面目ありません。死力を尽くしたのですが力及ばず……」

 

 呼びかけられた方に視線を送ると、グラスワンダーが息を切らしながら力なくこちらに歩いてくるのが見て取れた。

 

「エルコンドルパサーさんとの直接対決楽しみにしていマスよ!」

 

 気が付くともう目の前にその男はいなかった。

 高らかな笑い声とともにウララとエルコンドルパサーを連れて遠のくペテルギウス。背中越しに手を振るその姿は多くの名ウマ娘を育ててきた自信に溢れていた。

 

 




ここのペテルギウスさん、奇行が目立つだけで実はすごいまとも。
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