極限まで働きたくないから頑張って最難関のウマ娘トレーナーになったで 作:圧倒的雑魚臭
俺は転生者だ。うん、多分。
何故多分なのかというと、前世の記憶があまりないからだ。断片的に思い出せることはあるが、それも酷く曖昧でよく分からんものばかりだ。やたら汚い部屋とテレビでURAのレースを見ていた記憶がぼんやりある。あと、特定のウマ娘の顔。まあこれもぼんやりだが。前世の奴のお気に入りだったのだろうか。
いや、一つだけはっきりしてる記憶がある。俺は餓死した。
そうあの飢えでの苦しみははっきり覚えている。飢えた奴はプラスチックでもティッシュでも口にするというが、それは本当だ。俺もあまりの空腹で口に飛び込んだ虫や土を食べていた記憶がある。土?いや、土みたいなものか。記憶の断片から察するにきっと自室で孤独死したのだろう。哀れなじいさんだ。いやばあさんかもしれないが。死ぬ間際の光景や詳しい状況は分からないが、とにかく絶望的な飢餓感とそれによって自分が死ぬという感覚だけは転生しても残っていた。
そして転生した俺は何故ここに来たのか。
それはこのトレセン学園のトレーナーが日本最難関の職業であると知ったからだ。
転生した瞬間は覚えている。今はまだ。
今はまだ。という表現をしたのは年々それが曖昧になってきているからだ。
そもそも俺は転生した瞬間に赤ん坊だったわけじゃない。産道を通ってベッドの上からこんにちは!して、出会いがしらのギャン泣き挨拶をかましたわけじゃない。
俺が転生した時には俺の体はすでに京都大学3期生の奴の体だった。
転生した瞬間、そいつの今までの人生の記憶がブワーっと襲い掛かるように蘇り、転生前の本来の人格の中に流れ込んできた。転生前の記憶が曖昧になったのもこの体の記憶と混ざってしまったからかもしれない。
どうもそいつは非常に怠惰な男だったみたいだ。家は裕福で面倒見のいい兄妹も多かったから自分の望む物は大抵手に入るし、やりたくないことはほとんどやらなかった。
なんでも思い通りになるそいつは退屈を持て余していたが、その中でも自分の思い通りにならない『勉学』というものに興味を持ったらしい。家柄のコネでも金でも解決できない『純粋な自分の力のみ』で計られるテストというものに酷く執着した。大学受験をするときも実際は裏口入学が出来たのに親に反抗してでもそれを止めさせたみたいだ。結果は主席で京大合格。最初から裏口入学など必要なかったようだ。
が、根はやはり怠惰なのだ。東大も受かる実力があったのにわざわざ京大を選んだのは、『親から離れられる』のと『校風が自由だから』らしい。実際ほとんどの授業は受けず、出席せざるを得ないものでも友人を身代わりで出席させるだの、それが無理そうなら必要最低限の出席しかしないだの、やれる限りの省エネな学園生活を送っていた。それでもテストだけは毎回上位に食い込むのだから恐ろしい。
そんな奴でも就職はしなくてはならない。
残念ながら、こいつは家族兄妹の中でも末っ子に位置していた。家督を継ぐことは当然できず、それどころか無駄に京大なんて受かってしまったものだから大手企業に就職できるものと期待されてしまったらしい。これで実家で働かずにだらだらしたいなどと言ったら親に追い出されるのは明らかだった。
そしてこいつは嫌々ながら就職口を探している時期に俺が転生したということみたいだ。
前世の記憶に比べれば、はるかに今の体の記憶の方が量にしても質にしても圧倒的に勝っている。転生してすぐに、人格が変わっていることが疑われることなく暮らしていけているのもそのおかげだ。むしろ俺の方がこいつの人格に染まっていっているような気がする。時々転生したことを忘れている自分に驚いている。転生した瞬間が曖昧になってきつつあるのもこのせいだろう。
なにはともあれ転生時期が就職時期に重なったのは不幸だった。しかもこいつは裕福な家で育ったせいか、勉強は出来るくせにバイトもしたことがない坊ちゃんだった。だから仕事のことに関してはほとんど無知だったのがさらに不幸を加速させる。
そして前の人格がどうだったかはともかく、今の俺の人格は元の持ち主に引っ張られて実に怠惰なのだ。
だから楽をしたい。ひたすら楽してお金が欲しい。
裕福な家で育ったからか、金で解決できないことは許容しがたいことみたいだ。だからそこそこ給料が良さそうで楽な仕事がしたかった。
1DKの狭い寮内に散らばる新卒向けのパンフレット。その中でトレセン学園のトレーナー募集の広告が目に入ったのが運の尽きだった。
そういえば、ウマ娘のトレーナーってなるのが超ムズイんだよな。それも天下のトレセン学園だったら日本一ムズイってことだよな?
そんな入るのが厳しいとこなら楽で給料いいんじゃね?
かくして地獄の道へ自分で勝手に飛び込んでいくバカが一人増えた。