極限まで働きたくないから頑張って最難関のウマ娘トレーナーになったで 作:圧倒的雑魚臭
「……ーさん?トレーナーさん?」
「んあ?ああ、グラスか」
「お疲れですか?なんだかボーっとしてらっしゃいましたけど」
正気に戻った俺はチラと腕時計を見やる。休憩に入ってからすでにニ十分は経過していた。
「いや、ちょっと昔のことを思い出してただけだよ。悪かった。じゃあ坂路やろうか」
俺は軽く伸びをして固まった体を柔らかくした。
両手を頭上に高々と上げると、おなか回りがポッコリと強調されるのが分かってしまう。学生時代と違い、金に困らなくなると外食ばかりになって栄養バランスが崩れてしまう。調理もせず毎日美味いものが食べられるのはありがたいが、少し食生活を考え直さないとダメみたいだ。
「おいィ?担当バ置き去りとかちょとsYレなんしょ。指導しる立場なのにそれ放棄するとかうちのシマじゃノーカンだから」
この特徴的なセリフは……。
声のする方に目をやると、そこには褐色の肌に、白く短い髪、三白眼のジャージ姿の男が脇にセイウンスカイを抱えて土手の上から降りてくるところだった。側にはその男の担当バであるキングヘイローもいる。
「きた!盾きた!メイン盾きた!これで勝つる!!」
「あ、トレーナーさん、おはようございます~」
脇に抱えられながら笑顔を向けて挨拶するセイウンスカイ。胴回りを抱えられて四肢がだらんと垂れ下がっている姿はまるで捕獲された犬のようだ。というか30㎏以上はあるであろうウマ娘を片手で抱えるってブロント先輩どんな筋肉してんだ。
「お前の担当バが校舎でスリープ魔法くらってたからPT組んで連れてきてやったぞ。謙虚なナイトが親元に連れて行ったと裏世界で伝説になってる」
「ちょっとセイウンスカイさん自由過ぎるんじゃない?黄金の鉄の塊で出来た謙虚な一流トレーナーに感謝しなさいよ」
キングヘイロー。ブロント先輩の担当バであり、由緒ある血統の自称一流ウマ娘。グラスワンダー、セイウンスカイの同期にあたり、ライバルとなるウマ娘だ。
「キングさん。ブロントさん。どうもありがとうございます。私のトレーナーさんも放任主義なのでセイちゃんの自由にさせてたのですが……。人様に迷惑かけるようでは看過できませんね。これからはきっちり管理しますので」
「いや、グラスさんじゃなくてそういうのはトレーナーの仕事でしょ」
「他人の立場になって率先して動くのも社会勉強だぞ。グラスはその辺もしっかりしてて偉いな」
グラスワンダーは口元に手を当てて、フフ……。と遠慮がちに笑う。尻尾がせわしなく動き、耳もピコピコして満更でもなさそうだ。言った本人が思うのもなんだが、それでいいのか?グラスよ……。
「おいィィィ!?このウンス、時すでにスリープ状態なんだが?ちょっとわずかに呆れ顔。睡眠障害かなんかかよ」
「すいませんブロント先輩」
「さんをつけろよデコすけ野郎!」
「あ、はい。すいません……」
なぜかブロントさんは謎のこだわりがあるらしい。生徒はもちろん、大先輩のトレーナーやたづなさん、理事長にいたるまで『ブロントさん』という呼称を通している。まあこれはこの人の変態性の極一部分でしかないのだが。
「おーい!スカイ!流石に起きろ!迷惑だぞ」
「ん……。あ、おはよートレーナーさん」
「ああおはよう。それじゃまず地面に立って」
ブロントさんが抱えていた脇から離すと、ふらふらしながらなんとかその場に立ってみせた。俺はそのまま彼女の後ろから肩を掴むとゆっくりと前に押し出し始める。それに合わせてゆらゆら揺れながらセイウンスカイはコース脇の芝をゆっくり歩き出した。まずは目を覚まさせるのが先決だがこれもなかなか大変だ。
「どうもブロントさん、ありがとうございます。グラス、悪いけど一人で坂路やってきてくれるか?一本ごとに休憩入れてな」
「承知いたしました~」
慣れっこのグラスは一人でさっさと坂路コースに向かっていく。その光景を眺めていたブロントさんとキングヘイローは開いた口が塞がらないようだった。
「……セイウンスカイさんのトレーナーさんも大変ね……」
「あれで値を上げないのは後輩とはいえ、ちょっとわずかに感心が鬼なる。謙虚な俺がトレーナーでもマッハで怒りが有頂天になってるだろうな(ナイト話)。仏の顔を三度までという名ゼリフを知らねえのかよ」
よたよた歩くセイウンスカイを支えながら、今日の練習時間は押すな。と一人心の中でごちるのだった。