極限まで働きたくないから頑張って最難関のウマ娘トレーナーになったで   作:圧倒的雑魚臭

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EP6

 

「それでは、お疲れ様でした~」

 

「お疲れ~」

 

 西日が差し込むトレーナー室。

 メイクデビュー戦が近いこともあってミーティングもかなり長引いてしまった。もうすぐ陽が沈むような時間まで引き留めてしまったが、グラスワンダーは朗らかな笑顔を浮かべてトレーナー室を後にしようとしていた。

 

「……セイちゃん?」

 

 同じくミーティングを受けていたセイウンスカイは椅子から立とうともせず、じっと膝の上で握った拳を睨んでいる。もうすっかり眠気は抜けているはずだが、彼女は真剣な表情で押し黙ったままその場を動こうとしなかった。

 

「……どうした?セイウンスカイ……?」

 

 まだ短い付き合いだったが、最近は特に練習に対して消極的であることが気がかりでもあり、体調が悪いのかと心配になってしまった。それほどハードワークはしていないはずだが……。

 ふと次の瞬間、押し黙ったままだった小柄なウマ娘の口元が少し開いて何かを口にしようとしたが、また元通りにもどってしまった。

 

「悪いグラスワンダー。セイウンスカイがちょっと体調が悪いみたいなんだ。先に帰っててくれても大丈夫か?」

 

「え?ええ……。分かりました。セイちゃん、あんまり無理しないで下さいね」

 

 グラスがトレーナー室を出ていくのを見送ると、俺はもう一度葦毛のウマ娘の方に視線を向けた。彼女は少し顔を上げてこちらを恨めしそうに見つめるとすぐに視線だけそらす。人払いしたものの、それでも何か言いかけたその唇はかたくなに結ばれて開きそうになかった。

 

「……別に練習に遅れたことに怒るわけじゃない。今更だろ?それよりお前、何か言いかけなかったか?」

 

 水を向けてやるが彼女は一向にこちらを見ようともしない。初対面であれだけ失礼なことを言っておいて、いまさら文句一つ言うのをためらうというのはおかしな話だろう。きっと別の何かがあるはずだが、それは彼女の口から出るのを待っていた。

 

 しばしの沈黙。コチ、コチ、とソファーの上に取り付けられた時計の針の音が二人しかいない静かな部屋に鳴り響いた。

 

「……トレーナーさんさあ、きっと『才能』ある人だよね?」

 

「……あ?」

 

 やっと開いたその口から出たのは、全く予想だにしていないものだった。

 真意がつかめずに答えあぐねていると、続けてセイウンスカイはそっぽを向いたまま言葉を続ける。

 

「こんなにズボラなのにトレセン学園のトレーナーとして就職できるし、私みたいにやる気ないウマ娘の面倒見てそれでもタイムも縮めるなんてなかなか出来ないよ」

 

「……あの練習量でタイムが縮まるのは俺の手腕じゃなくてセイウンスカイの実力によるもんだよ。自信持てよ」

 

 その瞬間、彼女はゆっくりとこちらに向き直り、その濁った双眸で俺のことを睨んできた。その表情はグラスと言い争っていたあの時の表情であり、初めてトレーナー室に入ってきた時の昏い顔のそれだった。

 

「……セイちゃん、トレーナー選び間違えたかな……」

 

 セイウンスカイはそれだけ言うと椅子から立ち上がり、踵を返してドアの方へ歩いていく。

 

「おい!待てよ!何が不満なんだ!」

 

 しかし俯いたままの彼女は何も言わずドアの取っ手に手をかけた。

 

「……ごめんなさい。少しセイちゃん放っといて下さい。練習にはちゃんと来ますから」

 

 いつもとは違う、よそよそしい丁寧語に鳥肌が立つのが分かった。

 俺は追いかける気にもならず、セイウンスカイがそのトレーナー室を後にする背中を見つめるしかなかった。

 

 

 

「……ちゃんと、諦めさせて下さいよ」

 

 

 

 バタンと閉じられるその扉に俺は何も声をかけることが出来なかった――

 

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