極限まで働きたくないから頑張って最難関のウマ娘トレーナーになったで 作:圧倒的雑魚臭
「バックステッポゥ!バックステッポゥ!バックステッポゥ!バックステッポゥ!バックステッポゥ!バックステッポゥ!」
う~ん、あんな超人見たことない。
なんでウマ娘とトレーナーが併走してんだ?しかもトレーナー側はバック走なんだけど。
「おいィ?フォームが乱れがちなんだが?とてとてに疲れている状態でも、ほうなるほどなと感心が鬼なるほどのフォームを維持できるのが一流」
「一流……ハア……以前に…………こっちは、ウマ娘……なのよ!……ヒトの……ゴホッ!…………トレーナーに……負けるもんで、すか!」
いや、あれはどう見てもヒトじゃないだろ……。あんな化け物と俺を同類にしないでくれ。頼むから。
「トレーナーさん?……ハッ……併走、してきました~」
この世のものとは思えない異様な光景から視線を切ると、そこには走り終えて汗を流すグラスワンダーとセイウンスカイの姿があった。
グラスはいつものにこやかな笑顔を浮かべている。一方、セイウンスカイはうずくまるようにして両手を膝の上に置いてうなだれていた。顔は下を向いて分からなかったが肩で息をしていることはすぐに分かった。
「よーし、じゃあ十分休憩。次腿上げね」
「はい~。併走相手がいるとやはり違いますね。一人で走る時より何倍も良い練習密度になります」
「………………」
俺が座っているベンチの横にちょこんと座るグラスに対して、セイウンスカイは炎天下の中突っ立ったままボトルからパカリを口に押し込むだけだった。
あの日から彼女は遅刻せずに来るようになったし、練習にも真面目に取り組んでいるように見える。が、それだけ。逆に口数は少なくなった。というか、最近はもう必要最低限のことしかしゃべっていない。表情もいつも朗らかだったそれから無表情、いや、前回見せたあの闇深いそれが顔を出す頻度が上がったと思う。
担当トレーナーとしては真面目にトレーニングしてくれるに越したことはないのだが、これではまるで俺が管理人で指示を出してセイウンスカイという機械に仕事をさせているようなものだ。全く質問もしないし本当にこれでいいのかと反抗もしない。どころか前のように世間話や無駄話もしない。
一言で言うなら彼女との関係は完全に冷え切っていた。
「ねえセイちゃん。ここなら日陰で休めるわ。一緒に座らない?」
そう言って自分の開いた隣の席を手で叩くグラス。最近は対照的に妙に明るく振る舞うことが多くなった彼女だが、こういう役回りに慣れていないのか、気を使ってチームの雰囲気を良くしようとしているのは俺でもすぐに分かってしまった。
「……あー、うん。私ここがいいから……」
グラスの誘いにも無下に断りを入れる。暑いのが苦手と言っていた彼女が日がかんかんと照る日向で汗をかきながら立ち続けている姿はまるで不貞腐れた子供のように見えた。グラスも眉をひそめて困った表情を俺に投げかける。
そんな目で見られてもな……。
トレーナー経験の足りなさにやきもきする。いくら勉強が出来たって他人の心、担当バの心理が分からなければトレーナーとして一人前になれない。なりゆきとはいえ己の担当バになったウマ娘が何を考えているのかまるで分からないというのは現在の悩みの種であった。
「おいィ?そこの皮装備のウマ娘。闇のパワーを振りまくのもたいがいにすろよ。そんなネガネガのふいんき出してるとそのうち不良に絡まれて病院で栄養食を食べるハメにぬる」
突然、声をかけてきた独特な口調のトレーナー。担当バのキングヘイローがふらふらになりながら手をとられて引っ張られているが、もはや焦点が合っていない目で今日も晴れ渡る空を眺めていた。
「あ、あのブロントさん、スカイは今ちょっと……」
「新人とはいえトレーナーなのは確定的に明らかなんだが?トレーナーはそこらの皮装備のジョブとは違う、唯一ぬにの存在なのは明白に明瞭。お前そんな状態でトレーナーを名乗る浅はかさは愚かしい。おい、ウンス。今から一流のキングと併走する権利をやろう。これでお前が一回でも勝てたら自由にすろ。一度も勝てなかったらその腐った態度を改めるべき。そうするべき」
一同しんと静まり時間が止まったような錯覚に陥る。スカイ本人も何を言われたのかと頭の中で整理するのが一杯のようだった。しかし、
「……ちょ、ちょっと、併走って……。あたしさんざん走った後なのよ……。うぇ……。また、走ろっていうつもり……!?」
どう見ても立っているのがやっとというようなフラフラのキングヘイローが静寂を破った。声も絶え絶えでとてもじゃないがこれから併走なんか出来る状態じゃない。
「……フッ。いいですよ。その代わり私が一度でも勝ったらもう口挟まないで下さいよ。貴方はキングのトレーナーであって私のトレーナーじゃないんですから」
自信ありげに
「公開後に立つという名ゼリフを知らねえのかよ。あまりナメた態度とってると裏世界でひっそり幕を閉じるハメになる」
そんなことを言いながらキングヘイローに無理矢理水をぶっかけるようにして飲ませる。一流のキングが全身びちゃびちゃになって、あられもない姿になりながら彼女に向かって何事かを耳打ちした。
「あ、貴女にはこれぐらいのハンデがあって当然だわ!い、一流の走り、間近で見せてあげるんだから感謝しなさい」
何を言われたのか、ヘロヘロなのは変わらないのに急にやる気を出してきた。
俺はセイウンスカイの方を見ると、冷めた目で『私に走らせろ』と強要してきたのが分かった。
「仕方ない。先輩の頼みとあっちゃ断れないしな。行ってこい」
「……すぐ終わりますよ」
そう言いながら彼女はターフの方にゆっくりと歩いていった。
「……すいません。セイちゃん今日だけちょっと早く帰らせてもらっていいですか?」
答える間もなく、彼女はよろよろと覚束ない足取りで遠ざかる。夕日に照らされ、うなだれながらゾンビのように彷徨うその姿はきっと肉体的な疲労だけからきているものではなかっただろう。
「あー、グラスも今日のミーティングは無しだ。予想以上に長引いちゃったからな。……あと、ちょっとスカイが心配だから……」
「承知しております。セイちゃん!私も一緒に帰るわ!」
そう言ってセイウンスカイの背中を追いかけるグラスワンダー。あの武士ソウルが無ければ本当に良い子なんだがなあ。と一人感傷に浸っていると、
「新人トレーナー。あの皮装備のウンスがとてとてに疲れ切ったキングに何故勝てなかったのか分かったか?」
ウマ娘とバック走で併走しながらピンピンしている謙虚なナイトがそう問いかけた。
「……正直、実力不足かと。セイウンスカイは逃げが得意なのに簡単に逃げさせてもらえなかった。むしろわざと泳がされてるような場面が多かったように思います」
「お前、何回併走したか覚えてるか?」
「え?えっと……」
「9回でいい。謙虚なナイトが相手なら『これほど才能があると勝てるわけがない』となるが、相手は一流とはいえ、同年代のウマ娘なんだが?それほどの実力差がないのは確定的に明らか。さすがに一度も勝てないというのは異常な超常現象」
「ん?うーん……」
何か諭されているというのは分かるのだが、いかんせんその答えにたどり着けない。唸るフリをして答えを待っていると、呆れたようにブロントさんは口を開いた。
「レベリングが足りなかったという件(トレーナー話)。コーチングにはまだ早かったかと想像を絶する悲しみがブロントを襲った。仕方にい。直接ティーチングで教えてやる。……あいつはな、勝つことを怖がってるぞ」
?勝つことを怖がってる……?
「ブロントさん、それってどういう意味……」
「俺から言えるのはそれだけなんだが?これ以上教えたらお前のためにならないというあるさま。胸の内に手を突っ込んで良く考えるべき。そうするべき」
そこまで言うと謙虚なナイトはとんずらこきながらさっさとトレーナー寮に帰寮していってしまった。
一人残された俺は釈然としない想いを抱きながら、一つ夕日に向かって溜め息を吐いた。