極限まで働きたくないから頑張って最難関のウマ娘トレーナーになったで   作:圧倒的雑魚臭

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EP8

 

 ブーンという音とともにエアコンの風が強くなる。外の気温に比べればここは天国だ。

 そんなことを思いながらお気に入りのソファに寝ころびながら雑誌を読んでいた。

 

 勝つのが怖い?なんじゃそら?勝てなかった時の言い訳かなんかか?まあブロントさんが言ったんだけど……。

 てか仮にそうだとしても知らんがな。普通にいいタイム出してるから勿体ないとは思うけど、担当バとはいえあんな態度とられて、どうこうしてやりたいって想いもなくなるわ。それに結局本人の問題だしな。トレーナーとはいえウマ娘の内心にまで踏み込むってのはどうなん

 

「トレーナーさん?」

 

「あえ?グラス?」

 

「今お気づきになられたんですか?ちゃんとノックして入ってきたんですけど……」

 

 考え事に集中してて気付かんかった。セイウンスカイじゃなくて良かった……。いつものようにソファから見上げるその顔は毎度おなじみのちょっと困った顔をしている。

 

「それにまたそんな恰好で……。こんなに室内を冷やしてたら風邪をひいてしまいますよ」

 

 そう言いながら俺の読んでいた雑誌を取り上げてしまう。いつものように捨てられるのだろうと思ったが、彼女がその開いたページを見た瞬間に一気に険しい顔つきになった。ポップな柄に若い女性の表紙が俺に笑顔を向けている。特集記事のところにはでかでかと『40代50代でも分かる若者の気持ち!』と銘打った題名が踊っていた。

 

「……セイウンスカイさん、ですか?」

 

「……なあ、グラス。勝つのが怖いって思ったことないか?」

 

「?どういう意味です?」

 

「ブロントさんがな、キングと併走させた時、スカイは勝つことを怖がってる。だから一度も勝てないというようなことを言ってたんだ」

 

 しばし考え込むグラスワンダー。エアコンの風に混じってグラスの匂いも一緒に肺に入る。今日は沈香かと聞いて(香道では香りを嗅ぐことを『聞く』と表現する)いると、彼女は思い出すようにゆっくりと話し始めた。

 

「正直、私自身は勝つことを怖いと思ったことはありません。負けて怖いと思うならまだ分かるのですが……。ただ、トレセン学園に来る娘たちは地元では皆敵なしのランナーだったと聞き及びます。四月の選抜レース前には揚々と自慢話をしていた方が、選抜レースが終わった後に意気消沈してそのまま一度も勝てずに学園を去ったなどという話は枚挙にいとまがありません。そんな世界でもし勝ってもシンボリルドルフさんのような上には上がいると思ってしまうとやる気がなくなってしまうのではないでしょうか?」

 

「う~ん、そんなもんか?」

 

 シンボリルドルフ。確かにあんな天才と同じレースに立ったら、そらもうバッキバキに心が折れるだろう。今は幸い休学中のようだが。でもそれって最後の最後には結局負ける。だから怖いって話だよな。まああんな天才を前にしたら……。天才……?

 

「そういや、前にスカイと話してた時に才能云々の話をされたんだけど、グラスはそんなことなかったか?」

 

「……そういえば、あのキングさんと何度も併走した日の帰り道、少しお話したんですけど、『グラスちゃんはいいよね。エルやスペやキングみたいに才能(・・)があって……』ってポツリとこぼしていたことが……」

 

 コンコン。

 

 その会話はノックの音によって寸断された。

 失礼します……。という気だるげな挨拶の後、話題の葦毛のウマ娘が顔を出すのが分かった。

 時計を見やるともう練習の時間。今日はメイクデビュー前ということもあって軽めの調整だ。挨拶もそこそこに、俺はそれでも面倒ながら外に出る準備をし出した。

 

 




なんでこんなシリアスになっとんじゃ?(驚愕)
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