Golden Wars   作:吟醸丸

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4日目/剣闘

 大霧公園。朝葉市内で最大の公園施設にして、ランサーとバーサーカーが交戦した戦場。ランサーがここを訪れるのはおよそ三日振りのことだった。

 相変わらず自然物ばかりで人工物の少ない公園で、夕暮れ時という時間帯の影響もあってか、いよいよ人気が感じられなくなっている。公園としてはまるで役割を果たせていないのだが、これからランサーがやろうとしていることのためにはむしろ都合がいい。

 

「ふむ。確かに人知れず戦うには良き戦場だ。もっとも人知れず戦うこと自体が余の趣向には合わないのだが」

「諦めろ。聖杯戦争とはそういうものだ」

 

 ランサーは足を止め、剣闘士のサーヴァントの妄言を肩越しに否定する。

 こちらの得物は小柄な身の丈を越える槍。対するあちらは未だに武器を現出させていない。何らかの制約かとも思われたが、これまでの言動を見る限り、単にもったいぶっているだけだろう。

 この戦いは試合ではない。神秘の隠匿という暗黙のルールさえ守るなら、後はどのような手段であろうと許容される。ましてランサーのように本来()()()()()()()者に手段を選ぶ余裕などあるはずもなく――

 

「――――ッ!」

 

 ――振り向き様に槍の一撃を繰り出す。

 ランクCの直感スキルの恩恵によって『背後の敵を攻撃する』という視覚的な不利が補われ、最高速の踏み込みと刺突が直撃コースを一直線に突き抜ける。

 肉を裂く手応えの代わりに、金属で金属を打ち払う甲高い音が無人の公園に響き渡る。

 直感頼みで放たれた槍を迎え討ったのは、剣闘士(グラディエーター)の語源たる片手両刃剣(グラディウス)であった。

 

「そうだった。開幕の合図は無いのだったな」

 

 剣闘士の英霊は左手に握った両刃剣を軽く振るってそう漏らした。涼しい顔で受け流されたのは腹立たしいが、想定の範囲内だ。すかさず第二撃、第三撃と間隙なく刺突を繰り出し続ける。

 グラディウスの刃渡りは五十センチほど。せいぜい長めの脇差し程度でしかない。脇差し一振りで長柄武器に挑むことの無謀さを思えば、この戦闘におけるランサーの優位性は揺るぎようがないかのように思われた。

 しかし、ランサーの槍を受ける相手もまた英霊。それも戦場を駆ける戦士ではなく剣闘士(グラディエーター)として英霊にまで上り詰めた豪の者。ランサーはすぐにその本当の意味を理解することになる。

 

「さすがはランサーのサーヴァント。グラディウスのみで凌ぐのは難しいな」

 

 そう言うや否や、男の左腕に盾が出現し、繰り出された穂先を絶妙な角度で受け流す。強引に受け止めるのではなく、技巧によって軌道を逸らす見事な手腕。更に間髪入れずに大きく踏み込み、槍が引き戻されるよりも速く袈裟懸けに刃を振り下ろす。

 ランサーは際どいところで後方に身を引き、反撃の刃を回避した。

 一瞬の攻防だったが、彼我の実力を測るには十分過ぎる接触であった。

 

「見事だ、ランサー。余の知る女闘士(グラディアトリクス)でもここまでの技の冴えを見せた者はいなかったとも。これは誇るべきだ。ああ、しかし実に惜しい。余の国に生まれていればミネルウァの化身と褒め称えられたに違いないのに。かの女神の名を背負うに実力美貌共に申し分ない」

「……悪い冗談ね。手本が良かっただけよ」

 

 間合いを取りつつ槍を構え直す。ランサーは内心で敵の戦力評価を訂正した。長身と鍛え抜かれた肉体から受けるパワーファイターのイメージとは裏腹に、このサーヴァントはかなりの技巧派だ。それでいて膂力も充分にあるというから質が悪い。

 言動こそ常軌を逸しているが、決闘者としての実力は明らかにランサーを上回っている。

 この英霊は兵士ではなく剣闘士(グラディエーター)だ。それはすなわち、知略軍略、兵の運用能力でも功績を挙げうる戦場とは違い、己の身体能力と戦闘技術がものを言う場で実績を挙げてきたことを意味する。戦術的、戦略的な立ち回りはともかく――事実このサーヴァントに戦略的思考は欠片も見られない――正面切っての戦いこそが彼らの『本業』なのだ。

 

 このまま戦っても勝ち目はない。

 ランサーの直感が速やかな宝具の行使を決意させた。

 

 腰を深く落としながら、槍の切っ先を敵の心臓部に向けて構えを取る。

 魔力の滾りがランサーの心臓を高鳴らせる。

 この身は映し身。偉大なる武将の絶技を蘇らせる再演装置。少女の(かお)は既に無く、宝具の一撃を繰り出すためだけのヒトガタへと変貌する。

 剣闘士の英霊は喜色を浮かべて両刃剣(グラディウス)を振り上げた。宝具解放の予兆を見て取りながら、この一振りで抗しうると判断したのか。だとしたら身の程を知らないと言わざるをえない。

 これより繰り出す一撃を凌ぐのならば八面六臂でもまだ足りぬ。たかが一振り、波濤に板を立てるがごとく。

 

「龍の牙を受けよ! 刀八毘沙門(ヴァイシュラヴァナ)ッ!」

 

 魔力を爆発させて繰り出される直線の突き。神速の一撃。大気を斬り裂く穂先が迫ると共に、七つの刺突が()()()()()()()()殺到する。

 まるで八本の腕で八つの槍を振るったかのごとき猛撃を前に――眼前の敵は確かに笑った。

 ランサーの直感が危険を告げる。第六感から発せられる警報が頭蓋に響き、即座の回避を四肢に命じる。

 だがランサーはそれを振り切って更に踏み込んだ。この一撃に込めた誇りはランサーのものだけではない。我が身可愛さに踏み留まって良いものではないのだ。

 刹那、剣闘士の手中の両刃剣が振り下ろされた。

 

「――偽・射殺す百頭(ナインライブズ・ノヴァ)!」

 

 八臂の波濤を迎え撃つは神速の九連撃。七つの追加攻撃判定が瞬く間に切り捨てられ、ランサーが握る槍もまた豪腕に打ち払われる。

 果たして誰が想像しただろう。一槍と一剣の打ち合いが十七もの剣戟に化けるなど。

 ランサーが咄嗟の退避を試みるよりも遥かに疾く、九撃目が華奢な身体を貫いた。

 

「かひゅっ――」

 

 両刃の剣先が肋骨を割り肺を穿つ。血潮と激痛が体幹を逆流し、吐血と蝦蟇の潰れたような声となって、艶やかな唇の隙間から吹き出した。

 ランサーの具足で最も強固なはずの胸部装甲すら意味をなさなかった。きっと背を見れば血塗れの切っ先が突き出していることだろう。

 ひときわ大きな血のあぶくが溢れ出たところで、剣闘士は血潮を払うように腕を振るい、剣に突き刺さったままのランサーを無造作に振り払った。刀身の抜けた創口から多量の血をまき散らしながら、ランサーは無力に宙を舞った末、巨木の幹に叩き付けられ、そのままずるずると根本までずり落ちていった。

 幹の表面に帯状の血痕が塗りたくられ、根本に血だまりが広がっていく。

 

「見事な技であった。相手が余でなければ死んでいただろうな」

 

 視界が歪む。賞賛の皮を被った自賛もよく聞こえない。

 ランサーは意識が麻痺しそうになるほどの激痛の中、どうにかなけなしの思考回路を働かせた。

 不幸中の幸いか、食らったのは斬撃ではなく刺突だった。常人ならどちらも致命傷に変わりはないが、サーヴァントともなれば話は別だ。絶命に至らないのであれば、ただ深々と突き刺さる刺突よりも斬撃で四肢を切断される方が厄介だ。

 力任せに投げ飛ばされたおかげで距離はかなり開いている。それに、勝利を確信したのかすぐさまとどめを刺しに来る様子はない。この隙に()()()()()()()を使えば離脱の機会を得られるはずだ。

 だが、その予測すら無意味な楽観論に過ぎなかった。

 

「本来なら観客に助命(ミッスス)の是非を問うのが剣闘士(われら)の流儀なのだが。誰も見ていないのでは仕方がない。無粋だがマスターの意向に従うとしよう」

 

 両刃剣が霊子となって消滅する。それと入れ替わるように、骨ばった手に簡素な投槍が握られた。

 槍兵(ランサー)のサーヴァントが存在しながら、異なるサーヴァントが槍を握るという異様にランサーが目を剥いた直後、しなやかで力強い投擲から投げ放たれた槍がランサーの大腿を刺し貫いた。

 

「がっ……!」

 

 血飛沫が飛び散る。

 投槍は大腿を貫いて地面に達していた。串刺しにされた左脚を見下ろし、ランサーは悔しさと苦痛に歯を食いしばった。

 完敗だった。弁解のしようもない敗北だ。

 視界が潤む。堪えなければと分かっているのに、涙が溢れるのを止められない。

 呼吸をするたびに鉄の味が喉を焼き、血液と吸気が混ざり合って、胸に開いた孔から泡を吹く。

 左脚の状況は最悪に近い。物理的に縫い止められただけでなく、恐らく骨にまで破壊が及んでいる。先ほどの思考と矛盾するが、これなら切断された方がデッドウェイトにならないだけずっとマシだ。

 交戦を経て、敵の真名におおよその予想はついたのだが、このままではそれすら無為に終わるだろう。

 

「ランサーのサーヴァントよ。マスターの拠点の所在地を話すつもりはないか。有益な情報を得られたなら、貴殿を余のマスターの第二のサーヴァントとして迎え入れる用意があるそうだ。余のマスターながら理解に苦しむ発想ではあるがな」

「……冗談キツイわ」

「だろうな。仮に余が同じ要求をつきつけられたとしても、決して受け入れはしないとも」

 

 剣闘士の手に一対の弓矢が出現する。剣に盾に槍に弓。ここまで好き放題に武具を取り替えられては絶句するしかない。クラスの縛りを無視しているとしか思えない有り様だ。一体何種類の武器を使い分ければ気が済むのだろうか。

 

「敗北を恥じる必要はない。それは余と汝の力量差ゆえのこと。汝が()()()()()()()者が余に劣っていたわけではないのだから」

「なっ……!」

「解るとも。余には解る。余がそうであるように、汝もまた模倣者なのだろう? もっとも、汝が尊ぶ英雄といえど、余が奉ずる大英雄には及ばぬであろうが……な」

 

 ランサーは力なく項垂れ、瞼を閉じた。もはや抵抗の意思はない。心臓を狙って引き絞られる弓を視界に収めることもせず、ただその瞬間を受け入れた。

 

「……申し訳ありません、景虎様……」

 

 弦が鳴り、風切り音が空を断つ。

 瞬き一つの後には鉄の鏃がランサーの心臓を射抜くことだろう。

 

 

第一の元素が檻を成す(Terra, Purima Essentia.)!」

 

 

 甲高い音を立て、金属同士がこすれ合い軋みを上げる。思わず顔を上げたランサーの目に映ったのは、木々の間に張り巡らされた無数の金属糸が矢を絡めとり防ぎ止めている光景であった。

 金属糸は周囲十数メートルに渡って展開され、複雑に絡み合って檻のように立ち塞がっていたが、剣闘士の放った矢はその九割九分を突き抜けて、文字通りランサーの目と鼻の先まで達したところで停止していた。

 紛れもない魔術の産物である。これほどの規模なであれば大魔術に近いはずだが、呪文詠唱の気配すら感じられなかったのは、宝具同士の衝突が繰り広げられたせいで空間の魔力が乱れに乱れていたためだろう。

 

「――くそっ、やっぱりサーヴァントは規格外だな。ただの矢で瞬間契約(テンカウント)の防壁がここまでやられるか」

 

 悪態をつきながら木陰から現れた男を見て、ランサーは驚きに声を失った。

 

「あ、亜蓮殿!?」

「悪い、少し遅れた。本当は槍を止めたかったんだが、詠唱が間に合わなくて……」

 

 亜蓮はランサーの側にしゃがみ込むと、おもむろに傷の検分を始めた。真っ先に目に入った串刺しの大腿部に顔をしかめ、次に胸の傷の深さに表情を歪める。無理もないことだ。こうして喋ることができているのもサーヴァントであればこそ。常人であれば既に死んでいるか、そうでなくとも苦痛に我を失っているところである。

 

「応急処置くらいしかできないけど……鎧、外すぞ」

「いや、その、お待ちを……」

 

 返答を待たずに胸部の簡素な鎧を取り外し、下に着用していた着物を肌蹴させる。晒を巻いているとはいえ素肌を露出させることに羞恥を感じ、ランサーは思わず身じろいだが、傷の痛みに負けてすぐに動きを止めた。

 流血が鎧の内側に溜まっていたこともあって、着物と晒はその大部分が赤く染まっていた。

 亜蓮は目を細め、うっすらと肋の浮いた胸部に容赦なく穿たれた孔を睨むと、淀みなく三小節の詠唱を紡ぎ上げた。

 

四大の元素はここに在り(Terra, Ignis, Aer.)第二の元素が漿を成す(Aqua, Secunda Essentia.)其は生命の紡糸なり(Est Vitae Fila.)

 

金属糸が繊細に動き、ランサーの皮膚に潜り込んだかと思うと、傷口の周辺の肉を小刻みに出入りして刀傷を縫い合わせ始めた。痛みはおろか金属糸が通っている感覚すらない。心霊手術の応用で成される金属糸縫合が、両刃剣の貫通痕を体内の組織に至るまで縫合し繋いでいく。

 最初こそ縫合と止血に安堵したランサーだったが、すぐに表情を変えて亜蓮に撤退を促した。

 

「いけません、亜蓮殿! まだ敵サーヴァントが……」

「ああ、それならもう大丈夫だ。()()()も間に合ったみたいだしな」

「大丈夫って……」

 

 亜蓮の合図に呼応して、周囲一体に張り巡らされ視界を遮っていた金属糸の防柵が緩み、金具の壊れたカーテンのように地面に落ちた。

 銀の幕が取り払われたその向こうに、大きな背中が立ち塞がっていた。

 まるで深夜の街のゴロツキのような装束。六尺を優に超える身の丈。肩に背負った無骨なマサカリ。

 白銀亜蓮のサーヴァントたるバーサーカーがそこにいた。

 

「こいつか。最後のサーヴァントって奴は」

 

 バーサーカーは金色の髪を揺らし、サングラスを親指で軽く持ち上げて剣闘士に睨みを利かせた。

 対する剣闘士のサーヴァントは、新たな敵の出現に戸惑うどころか満面の笑みで腕を広げ、バーサーカーの闖入を心の底から歓迎しているようでさえあった。

 

「なんと素晴らしい肉体だ! マルスの彫像すら思わせる!」

「おい亜蓮。こいつキメェぞ」

「変なこと気にするな。思いっきりやってしまえ」

「あいよ」

 

 悠々と間合いを詰めるバーサーカー。それを迎え討つように、剣闘士のサーヴァントは弓に変えて長槍を携えた。強靭な脚が大地を蹴り、瞬く間に彼我の距離を塗り潰す。

 バーサーカーはマイペースにマサカリを掲げると、それを足元の地面に叩きつけた。

 

「――そらっ!」

 

 地表が砕け、土塊と砂塵が噴き上がる。眼前で足場を砕かれた剣闘士が急制動を掛けて停止した。体勢を崩したその一瞬、バーサーカーが土埃を割って跳びかかり、袈裟懸けにマサカリを振り下ろす。

 剣闘士は辛うじて身を反らして直撃を回避したが、長槍は無残に叩き折られ、がら空きの胴体にバーサーカーの丸太のような豪脚がめり込んだ。

 

「ぐぬぅ!」

「まだまだァ!」

 

 蹴り飛ばした相手が地面に着くより先に、バーサーカーは再びマサカリを担ぎ上げながら踏み込み、垂直に叩き潰す勢いで振り下ろした。それを受け止めたのは赤塗りの長盾(スクトゥム)。凄まじい衝撃が両脚を通して地面に伝わり、剣闘士の足元にクレーターを生じさせる。

 衝撃波が宵闇の公園を駆け巡る。木々は揺れ、街灯の電球が割れんばかりに点滅し、砂塵と木の葉を空まで巻き上げた。

 長盾がマサカリの威力に耐え切れずに砕け散る。

 飛び散った破片を目眩ましに、剣闘士のサーヴァントがバーサーカーめがけて両腕を伸ばした。バーサーカーも即座にその意図を察し、マサカリを手放して互いの手を鷲掴みにし合った。

 バーサーカーの右手が剣闘士の左手を。左手が右手を。握り潰さんばかりの力を込めて正面から取っ組み合う。

 

「むうっ、まるで猛獣と格闘しているようだ! 汝、どのような鍛錬でこの肉体を作り上げたっ!」

「鍛錬なんざしちゃいねぇよ。生まれつきの天然モンだ」

「なんと! 妬ましいぞ!」

 

 二メートル近い巨漢同士の取っ組み合いはバーサーカーの方が僅かに有利。クレーターを土俵と例えるなら、剣闘士のサーヴァントは少しずつ土俵際へと押し切られつつある。

 戦いが真っ向勝負の力比べに移行したところで、ランサーがようやく冷静な思考を取り戻した。

 

「亜蓮殿、奴のステータスは確認できますか」

「ああ、ちゃんと見えてる。けど……あいつ、剣士(セイバー)でも暗殺者(アサシン)でもないみたいだ」

「なんですと!?」

 

 これまでに得られた情報から、あの剣闘士のサーヴァントのクラスは消去法で剣士(セイバー)暗殺者(アサシン)のどちらかだと推測していた。ところが、マスターの透視力によってもたらされる情報は両方の可能性を明確に否定している。あのサーヴァントは剣士(セイバー)のクラス別スキルたる対魔力と騎乗も、暗殺者(アサシン)の気配遮断も持ち合わせていないのだ。

 代わりに認識できるクラス別スキル――それは『熱狂』というスキルだった。

 観客の盛り上がりや戦場の狂気が高まるにつれて有利な補正を得るというスキル。聖杯戦争の主旨には合わないが、自分以外の大勢が戦いに興奮することで強くなれる能力である。これを保有していることが分かれば、あのサーヴァントが観客の存在を欲していたことにも納得がいく。

 対魔力、騎乗、単独行動、道具作成、陣地作成、狂化、気配遮断。七つのクラスが持ついずれのスキルでもない異様な技能。もはや考えるまでもない。これはあの剣闘士のサーヴァントが特殊(エクストラ)クラスであることの動かぬ証拠だ。

 

「……なるほど。剣士(セイバー)でないのなら、剣以外の武器を次から次に使っていたのも頷けます」

「手の内は読みづらいけど、パラメータはバーサーカーが上回ってる。この調子なら――」

 

 戦況を分析する亜蓮の目の前で、突如として異変が起こる。剣闘士のサーヴァントの筋肉が隆起したかと思うと、バーサーカーの剛力とにわかに拮抗し始めたのだ。

 

「……っ! 怪力スキルだって!?」

「奴め、そんな技能まで隠し持っていたんですか!」

「違う……持っていたんじゃない、増えたんだ!」

 

 亜蓮の知覚に映っていたスキルは四つ。熱狂と精神汚染、そして詳細未開示のスキルが二つ。怪力スキルはこれらとは別の五つ目のスキルとして突然現れたのである。

 ランクAに達した筋力が戦況を拮抗状態まで押し返す。

 仮に、これが未判明スキルの効果だとしたら。それも『怪力を得る』という限定的なものではなく『欲しいスキルを得る』という万能の技能だとしたら。あのサーヴァントの脅威度を大幅に考え直さなければならなくなる。

 

「へぇ……やるじゃねぇか」

「なんの。余の力はこんなものではないぞ」

 

 大気中の魔力が激しく励起する。

 その気配を感じ取ったランサーが、口の端から血飛沫を飛ばして叫んだ。

 

「いけない! 宝具が来る!」

偽・射殺す――(ナインライブズ――)

 

 次の瞬間、剣闘士のサーヴァントは驚愕に目を見開き、すぐに嫌悪も露わに顔を歪めた。どちらからともなく手を離し、拍子抜けするほどあっさりと取っ組み合いが終わりを迎える。

 

「気が利かぬマスターめ。ここまで来て撤退を命じるとは。よもや余に対する嫌がらせすら疑うぞ」

「ご愁傷様だが、こちらとしては大人しく見送ってやる義理もねぇんだ。そこんとこはどうするつもりだ?」

「それは困る。あの小心者のことだ、迷わず令呪を浪費するに決まっている。そこでだ、どちらのマスターか知らぬが銀髪の少年よ。ここは余の秘匿情報の開示をもって痛み分けとさせて頂こう」

 

 不意に話を振られて呆気にとられる亜蓮のことなど構わず、剣闘士のサーヴァントは一方的に要求を突きつけてきた。低ランクとはいえ精神汚染に冒されているだけあって、意思疎通が成り立つ気配すら感じられない。

 

「余は剣闘士(グラディエーター)のクラスを得て現界せしサーヴァントなり。いずれまた会おう!」

 

 グラディエーターが光の粒子と化して消えていく。

 亜蓮はバーサーカーに追撃を命じなかった。見たままのクラス名のどこが秘匿情報なのかと呆れ混じりの溜息を吐く。

 このまま泥仕合に持ち込むこともできなくはなかったが、そうすることに何の利点も感じられない。他のサーヴァントが戦いの気配を感じ取って乱入してこないとも限らないのだから、優先すべきはランサーの救出と自分達の安全の確保である。

 グラディエーターの撤退と共に、ランサーの大腿に突き刺さっていた投槍も消え、貫通痕からポンプのように血が溢れる。亜蓮は再度呪文を詠唱して治療用の金属糸を紡ぎ、その傷口を塞ぎにかかった。

 

「……バーサーカー。悪いが、帰りは二人とも抱えて超特急で帰ってくれ」

「あん? ランサーはともかくあんたもかよ」

金属防網(メタリカエ・サジーナ)に魔力を使いすぎたんだ。治療が終わったら速攻ダウン間違いなし。というわけで、後は頼んだ」

「おいおい……」

 

 いつもどおりの態度で言葉を交わす亜蓮とバーサーカー。

 ランサーは俯き気味に自身の脚の傷を見下ろしながら、どこか憂鬱そうに目を伏せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

CLASS グラディエーター

 

マスター   ????

真名     ????

性別      男性

身長・体重 191cm・110kg

属性     中立・悪

 

筋力|□□□□■ B  魔力|□□■■■ D

耐久|□□□□■ B  幸運|□□□■■ C

敏捷|□□□■■ C  宝具|□□□□■ B

 

クラス別能力

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

熱狂:B   戦場の興奮が高まれば高まるほど、戦闘時の判定成功率が上昇する。

       ランクBならば、上昇効果を自身のみならず味方にも波及させられる。

 

保有スキル

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

■■■■:A  ■■■■■■■■■■■■■■■■だけが持つ常時発動スキル。

        ■■■■■■■であり、■■■■■■■■■■■■■■を短時間だけ獲得する。

 

精神汚染:D  精神干渉系の魔術を低確率でシャットアウトする。

 

対毒:D  常用している解毒剤の作用。毒物の効果を軽減する。

 

 宝 具

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

偽・射殺す百頭(ナインライヴズ・ノヴァ)

ランク:B 種別:対人・対軍宝具 レンジ:不定 最大捕捉:不定

 大英雄ヘラクレスが編み出した武の極み。

 状況に応じてあらゆる型に変化し、素手を含むあらゆる武器で発動可能。

 凄まじいまでの妄執と長きに渡る修練で模倣した技であり、模倣元(オリジナル)には及ばないが充分に強力。

 剣闘士(グラディエーター)はクラス特性として多様な武具を装備できるため、相性はかなり良い。

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