これは証明だ。僕にも魔法少女をやれるってね   作:書簡でいいか?

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フロムロストオトコノコ

 転校手続きには時間がかかるようで、まだ学校に行かずに済んでいる。

 住所の都合からエーデルフェルトの家に荷物を運び込むことになり、あの二人の手柄争いではそちら側に着くことになるだろう。明確に敵対を表明こそしてはいないが、あの二人だ。まず間違いない。現代魔術科のロードからは「協調性を以て任務に当たること」と言われてはいるが……時計塔の次期主席候補となると、蹴落とし合いも慣れたものってことか。

 カードの回収は今夜からと連絡があって、作戦は前に打ち合わせした時と変わっていない。

 

「透視の魔眼……ヴィイのそれを使ってからランサーで刺せば、たいていの敵は倒せないか?」

 

 ゲイ・ボルク。アイルランドの光の御子、クー・フーリンの魔槍。必中の槍と言われているそれは、カード回収において切り札となる。

 そして、僕の役目は対獣魔術での潜伏と、ランサーの限定展開と同時にヴィイの魔眼を使用することだ。

 ヴィイの魔眼──透視の魔眼は全力で解放すれば、因果律すら捻じ曲げて弱点を創出する。

 通常の場合、敵が何らかの防御手段──例えばアキレウスやジークフリートのように伝承防御を持っていれば、その真名を探ってから弱点を突く必要が出てしまう。

 けど、二週間という期限や戦闘そのもののリスクを考慮すれば、その手段はあまりいいとは言えない。そこでランサーのクラスカードとヴィイの魔眼を用いて無理矢理に必殺を通すという戦法を考えたわけだ。もっとスマートなやり方もあるだろう。もっと上手いやり方があるはずだ。

 それを思いつけないあたりが、僕の限界なんだろう。

 

 

「耳が痛い……」

 ホテルの部屋に一人でいるから、これは物理的なことだ。昼食を食べに出かけようと思ったら、音楽プレイヤーに繋いだイヤホンが耳のサイズに合わなかった。当たり前といえば当たり前だが、少し困る。ピックを持つ方はともかく、今の指じゃギターの弦を抑えるのに一苦労だ。思うように弾けないからか、ロックを聞くのは元の性別に戻るモチベーションを保つ手段だった。

 今まではスピーカーで聞いていたから気づかなかったが。

 ……まあ、しょうがないか。

 

 街に限らず、歩いていると風をよく感じるようになった。感覚がどうというだけでなく、ヴィイと契約して姿が変わったことで、開けていたピアスの穴が全部外れたのもある。

 イヤホンのサイズが合わないのもあって、財布だけ持ってホテルから出た。音楽を聴いていないからか、周りの視線に敏感になっている気がする。

 

「……傍から見れば、小学生が一人で出歩いてるのか」

 

 目立つわけだと納得しつつ、歩き方に気を使っていい店がないか探す。指摘されるまで気づかなかったが、心臓の辺りを掴む癖はこの時間に今の体でやったら悪目立ちする。何かあったのかと注目されるのはできるだけ避けたい。

 

「とりあえず、コンビニで弁当でも買うか」

 

 契約しているヴィイも魔力を負担するとはいえ、僕もある程度の魔力消費は必要となる。ヴィイの魔眼を使うとなればなおさらだ。そのためにも、カロリーを多く摂取しなくちゃいけない。

 外食チェーン店も考えたが、この体で一人だと悪目立ちする。この時間帯ならなおさらだ。

 コンビニで弁当とヘッドフォンを買ってホテルに戻る。夜の打ち合わせまでは時間があるから、ギターの練習をしておこう。

 ピックを使って弾いているから、幸いにも演奏ができないなんてことはないが、弦を抑える指は短いうえに柔らかくなってしまっている。前の感覚と違うと何度も実感しつつ、ヴィイを隣においてヘッドフォン越しに弦を弾く。

 音楽に没頭している間は、自分のことを考えずに済む。音をなぞって、拙い部分を修正して、自分の体には気が向かない。

 

「それじゃあ、今度はろっくの作法を教えてちょうだい?」

 

 ──こんな幻聴さえなければ。

 ふとした拍子に、声が聞こえる。聞き覚えの無い、聞き慣れた、苦手なくらいに面識のない声。

 今からでも喉を震わせれば耳に届くだろうそれは、僕と違って自信に満ちていて……

 

「はぁ……」

 

 ミスが目立つようになった。落ち着くための作業で気分を乱したら世話がない。ギターをケースに入れて肩にかける。ちょうど小物入れのところにヘッドフォンを入れて、荷物を持って集合予定の場所に向かった。遠坂の方は戦闘経験のない素人の子供にステッキが渡ったことを考えると、エーデルフェルトが戦いを主導することになるだろう。

 

「マジか……」

 

 到着したら、今の僕と同じくらいの背丈の子がステッキを持っていた。エーデルフェルト、お前もなのか。

 美遊という彼女は幸いにもやる気があるし、そもそも作戦からして突っ込んで刺せばいいんだから、楽と言えば楽だろう。もっとも、転身すれば障壁があるとはいえ、迷わず相手に向かって走る精神的な負担は別というのは知っている。対獣魔術や野外技術を持っていたとしても、山に入れば死の危険が隣り合わせにあるのと同じだ。

「よろしくお願いします」と最小限の会話と確認で終わったのは、以前に数言だけ言葉を交わした伝承科の男を思い出す。なんて言ってたんだっけか。

 

 作戦の確認はスムーズに終わって、十二時を待つ。鏡面界。別の世界。作戦の要の一つであり、僕自身の生命線でもあるヴィイを確認すれば、腕で強く抱き寄せていたことに気付いた。というより、服を握る右手に力が入っていたのか。

 

「緊張……してるのか」

 

 それもそうだ。名門の魔術回路も、特別な魔術も、()()()ない。あるのは精霊と契約できただけの適性や幸運くらいだ。それでも、上手くやるしかない。

 境界回廊一部反転という言葉と浮かび上がる魔法陣に、どことない怖さを覚える。まるで、突然に僕の意識が途切れるような錯覚。

 鏡面界に着けば、以前に聞いたイリヤや遠坂の声が聞こえてきた。逃げ回ってるのか?

 

「あれは?」

 

 そう聞く美遊に、エーデルフェルトは気にすることはないという。というか、商売敵って言い切ったぞ……

 

「僕も始める」

 

 歩き出した彼女に声をかけた。同時に、服装が今までの不本意ながらもダボついたものから変化する。今の眼と同じ色の外套に、白のドレス。周囲を吹き荒ぶ冷気と共に、僕の服装は皇女を思わせるそれへと変わった。ロマノフ帝国の秘蔵精霊だから仕方がないとは思うが、女物のドレスはどうにもなれない。肌の感触からして、多分下着も上下ともに女物だし……

 そんな考えを中断して回路を回す。ヴィイがひとりでに浮かび上がり、僕の背後に本体が現れるのを感じる。

 

「ヴィイ。全てを呪い殺し、奪い殺し、凍り殺せ。魔眼起動――疾走せよ、ヴィイ!」

 

 ヴィイが瞼を開くとともに、槍を限定展開させた美遊が駆けた。凍り付く形で現れた弱点を正確に貫き、敵──ライダーを消滅させる。

 

「対象撃破。クラスカード『ライダー』回収完了」

 

 ……一応、性能の把握も兼ねて霊体やらにヴィイの魔眼を使ったことはあったが、それとは違う感覚。生きていると言えるかは分からないが、人型を凍らせるのは──

 

(サーヴァント)が殺した。それなら、(マスター)の罪だ」

 

 幻聴。僕の、カドック・ゼムルプスの声。なら、それを聞いている僕は──

 

「誰?」

 

 イリヤが発した問いかけと自問の言葉は、意味こそ違えど重なった。

 

 

 その後、知らされたのは──

 

「明日から転校ですわ。カドック、制服のサイズを確認なさい」

 

 制服はスカートだった。トランクス履いていていっちゃ駄目か……?




カドックJSTSは『善い事』だ。
それを関知できたのがオレだけなら──
この作品を投稿することで、それを伝えよう。
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