これは証明だ。僕にも魔法少女をやれるってね   作:書簡でいいか?

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時々ボソッとポーランド語で落ち込む隣のカドックさん

 自分は何者なんだとか自己同一性の危機を考えるより先に、解決しなきゃいけない問題があった。そう気づいたのは、起きて少しした時だ。

 

 風が直接足に──ふとももに当たるのを感じる。幸いなのは、他の小学生と会わないことだろうか。髪色や顔立ちからして、どうしても目立ってしまう。着替えに手間取って、少し早足になっているのも要因の一つだ。

 

 転校。もう一度小学校に入り直すことは、まあ……しょうがない。美遊はともかく、イリヤスフィールの方は普通の小学生だ。ステッキに言われるままにやらかして神秘の秘匿が壊れるなんてないよう、気を付けるべきなんだろう。当のステッキの性格からして信用できない以上、迅速に事態を収拾するにはしかたない。

 ただ、不満があるとすれば。下着はトランクスじゃダメなんだろうか。女物は確かに履きやすいといえば履きやすいけど、スカートと合わさって、下半身がどうにも心許ない。背負っているのも、ギターではなく教科書が詰まった鞄。学校にギターを持ち込むなんて不審者極まりないからするつもりもないが、いつもと全く違う様相はいやに落ち着かなかった。

 

 時計塔の人混みより数段高い声が聞こえる廊下を歩く。変声期前で、男女どっちも高く騒がしい。幸いなのは、美遊があまり喋らない気質だってことだ。おかげで職員室から教室に着くまで、僕も担任だろう教師に話しかけられずに済んでいる。

 

 それも、教室の前までだったが。入ってきてと促す担任の声に従って教室に入る。先に美遊が進んだあたり、言われたことはちゃんとこなすというか、しっかりした性格なんだろう。僕も続いて歩き出す。

 転校生ということで、好奇の視線がこっちに集まっているのを感じる

。二人だからかそれは分散しているが、僕の方が目立っていた。まあ、髪の色からして外国人のそれだからな。イリヤスフィールって前例があるとはいえ。

 

「美遊・エーデルフェルトです」

 

 先に挨拶してくれて助かった。とりあえず名前を名乗っておけばいいのか。後は担任が話してくれる。

 

「カドック・ゼムルプス」

 

 別に話すこともないだろう。癖で服を掴もうと手が少し動くが、制帽と鞄を持つのに手が埋まっている。ギターを弾いている時も思ったが、やっぱり手が小さい。

 

「カドックちゃんはポーランドからの帰国子女よ」

 

 か、カドックちゃん……分かってはいた。分かってはいたさ。ただ、自分が小さくなったってこういうことでも実感するんだな。

 きっと、好奇心から色々と質問されるだろうとは予想がついた。ただ、これから授業だって考えると、それは90分後……小学校だと45分だったっけか。時計塔の講義時間に慣れていると、おおよそ半分ってのは短く感じる。

 とにかく、その45分の間にある程度の答えは考えておこう。そんな目論見は、プリントを持って来るのを忘れたので自習という声や駆け足で遠ざかっていく足音に破綻させられた。

 

 担任が走り去っていってから数秒後、教室は堰を切ったようにうるさくなった。自分の席を立って友人グループで集まったりと普段の様子が伺えるが、今一番人が集まっているのは、美遊や僕の席の辺りだろう。最初こそ人が分かれていたから楽だったが、途中で美遊が席を外してからは、それらが全部僕に集中した。

 

「カドックちゃん、なにが趣味?」

「ポーランドって何があんの?」

 

 他にも、他にも……質問が、質問が多い……!というか、距離が近くないか?いや、僕も今は女子小学生だから妥当なのか。よくわからないな、このあたりの感覚は。

 

「ちょっと待ってくれ……いっぺんに聞き取れるほど僕は器用じゃない。えっと、ポーランドは温泉が有名だ。日本もそうなんだろ?それで、趣味……趣味か。音楽……ロックだな」

 

「銀髪僕っ娘ロックンローラー!」

 

 なにか変な目で見られてる気がする……

 

 

 小学校の教育範囲でまさか躓くなんてこともないが、少し困ったことはある。

 

「義務教育途中の範囲……」

 

 精神年齢が周りと離れていて、どこまでの知識を使えばいいかが把握できていない。ある程度なら前の学校で習ったって言い訳できるが、小学校の学習範囲外にある知識を披露するのは悪目立ちする。二週間経てばここにいる必要もなくなるから、構わないと言えば構わないが……

 

 ……そんなこと気にする必要もないのか。美遊は方程式とか使っている。なんでそこまで理解しているんだ? 天才ってやつだろうか。僕も問題を解くことになったが、うっかりπを使ったくらいだ。小学校だと習わないのか……

 

 次の図工だが、絵はそれほど上手くないからな。普通に描いていれば、それなりのものはできる。魔法陣を書くときとかのために、線をまっすぐ引くだとかの技能は必須だった。

 

 調理実習、というか料理は得意分野だ。火とフライパンと、まあそれくらいあれば大抵のものは作れる。肉系統ならなおさら。獣を相手にしているんだ。解体や調理くらいはできるさ。それに、男の一人暮らしならある程度は当然だろう。

 

「味はイケるわね。形に気を付ければもっといいわ」

 

 担任からはそんな風に言われた。まあ、普通にやっていればできる。

 ……美遊はハンバーグの他にいろんな品を作っていた。おかげで、僕の方も何かあるんじゃないかって目線が度々来ている。

 

 ──そして、僕にとっての鬼門が訪れた。日本だとそういう言い方をするらしい。方角の魔術的な……まあいいか。現実逃避はこのあたりにしておこう。

 

「た、体育……」

 

 男女で着替え場所が異なる。そして、今の僕は女子に区分されるわけだ。流石に小学生女子の着替えを見て喜ぶような性格をしていないが、この学校の運動着はブルマだ。肌に張り付いている上に、足がかなり露出していて心許ない。スカートの時もそうだったが、それ以上に普段当たらない部分に風が当たる。男の時は太ももの内側に風が当たることなんてほとんどなかったから、下着姿になっているみたいで恥ずかしい。

 「かわいい」とか聞こえるが、たぶん美遊のことだろう。まさか内面が男なヤツにかわいいなんて言うわけ……そんな、()()じゃあるまいし。

 

 体育は、グループに分かれて走るタイムを計るらしい。

 山と平地はもちろん違う。違うが……サバイバルを学んだプライドはある。ここで全力を出さないのは、ゼムルプスの魔術師として認められない。200年ほどの歴史しかない家の平凡な魔術師でも、そこだけは譲れなかった。

 クラウチングスタート。ブルマ姿で腰を上げるのは少し恥じらいを感じるが、それよりも速く走ることに意識が向く。腰を突き出す姿勢で、太ももに風が当たる。もちろん魔術をこんなところで使うつもりもないが、こうして走ると決めた途端に、恥ずかしさは消え失せていた。

 走る。風を切って全力で走る感覚に、どこか既視感を覚える。脳裏に浮かぶのはインバネスコートの男と共に駆ける記憶。……シャーロックホームズなんて単語が頭に浮かんだが、そうだとしてもどんな状況だよ。

 

 そして小学生女子と一緒に走って、内心で大人げなく勝ち誇っているブルマに体操服姿の魔術師がいた。僕だ。

 ところで、美遊が走った時は「すごい」とかだったのに、僕が走った時は「かっこいい」だとかギャップがどうとか周りが言ってたのはどういうことなんだ?足が速い方がモテるとかそういうやつか?

 足や胸の間に少し汗をかいている。それに、胸が思った以上に揺れるのは想定外だった。

 

 疲れた。なんか寒気がする。風邪とかじゃなくて、物理的なそれだ。冷気の方が近いか?ともかく、そんなわけで。僕の小学校生活一日目は幕を閉じた。

 

 ……この後カード回収もあるのか。小学生って、体力あるんだな。そんなことを思いながら、この夜のカード回収に向けて体を休めることにした。




帰ってきた。
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