これは証明だ。僕にも魔法少女をやれるってね 作:書簡でいいか?
境界面に飛んだ直後、空一面を覆うように広がる魔法陣が見えた。間違いなく
「何あれ、すごい数……」
そう零すイリヤスフィールだが、よく考えてみれば納得できる。
「自分の
ローブは羽のように広がっており、空を飛んでいるそのサーヴァントの顔はフードで隠れていて見えない。
「ええ、どうやら向こうは──」
雷が落ちる場所に、予め電流が奔るように。赤い光が僕たちの体に向けられた。
「準備万端だったようですねー」
光弾が降り注ぐ。美遊たちは魔術障壁で防いでいるから、僕は自分の身を守ればいい。ヴィイが大半を賄ってくれるおかげで大量に使える魔力を用いて、氷の壁を作り出した。
「重い……っ!」
完全に防ぎきれはせず、熱量を持つ鈍器のような衝撃が伝わってくる。
前触れのない砲撃の停止。攻撃に晒されていた地面は破壊の痕跡が広く残っていた。
「遠距離戦なら望むところですわ! 墜ちなさい!」
エーデルフェルトが言うと共に、美遊が後方から踏み出した。
「最大出力……
ステッキを力強く振り、滞空中の敵に対して魔力砲を撃ち込む。同時に僕も冷気の旋風を放つが……
「弾いた!?」
「あれは……魔力指向制御平面! まさかこれほどの規模で……」
攻撃が当たる前に展開された大量の魔法陣によって弾かれた。それから一秒も立っていないうちに、僕たちの周囲を砂嵐が包んだ。逃げ道が塞がれている。それにしても、この規模の魔術を
そして、狙いはこれと言わんばかりに展開される、積層構造の魔法陣。
「てっ撤退ですわ!」
エーデルフェルトの判断はこの場の全員の総意だろう。美遊のステッキが鏡界面からの離脱を準備し、発射された砲撃を受けることはなかった。
----------------------------------------------------------------
「勝てないわけじゃないんだよな」
撤退して、改めて考える。
魔力指向制御平面は、ヴィイの魔眼で弱点を創り出して突破が可能だ。空を飛んでいることだって……僕は飛ぶことなんてできないが、氷で道を作ればいい。決して勝てないわけじゃないんだ。ただ──
「いやー、ものの見事に完敗でしたねぇ。歴史的大敗です」
全部自分一人でやるには手が足りない。それこそヴォ―ダイムなんかであれば容易くやってのけるのだろうが、生憎とここにいるのは僕だ。手段があろうと、赤い方のステッキが言うように、今回は完敗だろう。
「それに魔法少女が無敵なんて、慢心もいいところです。まあ大抵の相手なら圧倒できるだけの性能はありますが、それでも相性というものがあります。ちょっとの不利ならカドックさんで覆せますけど、二つ重なると不利が無理になっちゃいますよ」
実際、僕はそのために呼ばれたようなものだ。その役目を、お世辞にも果たせたとは言えないが。
「で、その相性最悪なのがアレだったわけね」
「まったく、あんなの反則ですわよ」
マジカルルビーとサファイアが言うには、キャスターが使っていたのは神代の魔術。反射平面も攻撃も座標固定だから、魔法陣の上まで飛べれば戦えると解決方法も一応は提示された。
「練習もなしにいきなり飛ぶなんて……」
氷で橋を作るにも、僕一人ならともかく、三人全員が乗ると動きが制限される。どうするかと考えを巡らせている間に、イリヤスフィールは飛んでいた。
「あ、そっか。飛んじゃえばよかったんだね」
……飛べていた。魔術を使って飛ぶのは極めて困難なのは周知の事実だ。エーデルフェルトの反応を見るに、転身した状態でも難しいことなんだろう。魔法少女は飛ぶものという思い込みで、それを成し遂げていた。
このままでは遠坂とイリヤスフィールに手柄を取られてしまうという対抗心からか、美遊に飛んでみなさいと言うエーデルフェルトだが、「人は、飛べません」と当たり前といえば当たり前のことを返される。飛行魔術の術式自体は単純だが、実際に人間を飛ばす──それも戦闘を前提としてと考えると、確かに飛べないというのは過言じゃない。
「そんな考えだから飛べないんですわ。来なさい、次までに飛べるように特訓ですわ」
美遊の襟首をつかんで引きずるエーデルフェルトは、実際にイリヤスフィールが成功したという例があることに焦っているのだろう。
「とはいえ、人のことは言えないけどな」
ヴィイの力を借りれば氷で足場こそ作れるが、高速で自由な軌道を描いて生成できるかと問われれば怪しいところだ。ただ、目的や手段がハッキリしている努力は、今までより気が楽だ。少なくとも、天才たちが周りにいるときよりよっぽど。
「カドック! もしあの平面が上にも展開されたら、貴方がいないと破れませんわ! 特訓しますわよ!」
「はぁ!? ちょ、放せ、エーデルフェルト! そもそも僕は飛べなくても……っ!」
僕も、ドレスを掴まれて引きずられていく。肉食獣のような雰囲気こそあるが、
そしてその翌日。学校が休みということで、太陽が高く昇っているうちから特訓こそできるというが。
「……無理です」
「そうだ、エーデルフェルト。考え直せ」
僕と美遊の意見は一致していた。髪が風で乱れて、白銀と黒のそれがたなびく。それに、ドレスが風に吹かれるせいで恥ずかしさが湧いてくる。しょうがないとはいえ、女の子の恰好をしてるんだよな……
「おやめください、ルヴィア様。パラシュートなしでのスカイダイビングなど、単なる自殺行為です」
マジカルサファイアとの意見も一致した。この場にいて意思表明できる四者の内、過半数が無理だと思っているわけだ。
ヘリコプターの席に唯一座っているエーデルフェルトに視線を向ける。
待て。というか、なんで僕も美遊と同じく扉付近に立つことになってるんだ?
「美遊は常識にとらわれすぎなのです。魔法少女の力は空想の力。常識を破らなければ道は開けません!」
あからさまに顔色の悪い美遊は、ヘリの扉の縁部分に捕まっている。
「さあ、一歩踏み出しなさい。できると信じれば、不可能などないのですわ!」
キラキラとした表情でこう言っているエーデルフェルトとは、見事なくらいに対照的だ。
「……エーデルフェルト。それで、僕までこっちにいる理由を説明してくれ」
「戦術プランとして提示していた、氷の橋というのはいい着眼点だと思いますわ。けれど、それでは根元を叩き折られたときの対応が不十分。貴方が身に着けるべきは、やはり飛ぶことに他なりません! そこの精霊も飛んでいることですし、できると信じていますわ!」
……確かに、その点は僕も懸念しているところだ。僕に思いつくような脆弱性くらい、分かっていて当然か。僕の周りをふらふらと回るヴィイ。
美遊は一歩踏み出そうとするが、少し目を閉じて考える。
「いえ、やはりどう考えても無駄で──」
僕がその言葉を聞き終わることはなかった。正確には、彼女がそれを言い終わることもだが。
「ウオオオオオオ!!」
背中に衝撃が走った。後ろから押されたのだろう。同じように墜ちていく美遊の姿が見える。
余裕があれば助けたいけど、そこまでできるかどうか。まず、氷の足場を作って止まろうと……ダメだ、落ちる速度が速い。他に何か──そうしているとふと頭によぎる、"氷塊投擲・絶殺野球"とかいう単語。名前からしてふざけているが、一応、飛ぶようなことは可能らしい。飛ぶというより滑空といった方がいいが。なにか嫌な予感はする*1が、この場を切り抜けるにはこの方法しかない。
「ああ、やってやるさ。ヴィイ!」
まっすぐに落下している状態から、ヴィイの魔眼を使う。サーヴァントの膂力で投げた氷塊を強引に曲げることができるんだ。それなら、落下する方向を変えるくらい……
「できたっ!」
落ちながらしかできないとはいえ、一応の空戦能力は手に入れられている。今回の戦場は橋が近いのもあって、これでそうした鉄骨や壁などに近寄れば、氷の足場を作り出してもう一度滑空することができるだろう。
不格好で、イリヤスフィールのように上手く飛ぶことなんてできない。それでも。
「これは証明だ。僕にも魔法少女をやれるってね」
空を滑り、落下している美遊の方へ。空気の抵抗に関係なく、僕の髪型は維持されていた。魔力を感じることから、ヴィイが止めているんだろう。……見栄え? まあいいか。
「今行く! 着地……任せろ!」
「カドックさん!?」
同じくらいの体型なら、抱えることはできる。もう地面に激突するまで幾許もない以上、助けた方がいいだろう。僕は魔術師だが、黙って見捨てるまで人の心を捨てた覚えはない。
斜め下に滑空しながら、足が地面に着くと同時にそこを凍結させる。美遊を横抱きにし、氷上を滑って勢いを殺していく。周りが森というのもあって、ぶつからないようにルートを考えながら速度を落としていけば緩やかに止まることができる。
「ふぅ……どうにかできたな」
とはいえ、物理保護がある以上は放置しても問題なかった。どうも、僕がやったのは余計なお世話だったらしい。
どうやったら、あんな風に、もっとうまくできるんだ……
「あ……」
上を眺めることに気を取られていたからか、美遊を抱えていたことを忘れていた。元とはいえ、僕は男だ。もしかしたらデリカシーに欠けたことを無意識にやっているかもしれない。考えると背筋が寒くなる。なんというか、物理的にも。
彼女を地面に降ろすと、先ほどまで見上げていた頭上から声がかかる。
「カドックさんに美遊さん? なんで空から……」
軌道を変えられるとはいえど落ちるしかなかった僕とは違って、真っ当に飛んでいるイリヤスフィール。
「飛んでる……」
そう呟く美遊に、「はい。ごく自然に飛んでらっしゃいます」と同意するマジカルサファイア。後は、特に僕がなにかする必要もない。
「一緒に練習しない?」
とイリヤスフィールが誘い、美遊が飛び方を教えてほしいと歩み寄ったわけだ。……僕も、もっと上手くやれるならと頼んだ。できることはやっておかなきゃ、後悔するだけだからな。
……その後は、「エイッて感じ」とか漠然とした指示でイリヤスフィールが教えるも、美遊や僕はそれでは飛べなかったってくらいか。「魔法少女は飛ぶもの」というイメージの元を見ようという話になって、彼女の家に行くことになったのだが……
「……はぁ!?」
ヴィイの力を解いた僕の服はズボンにYシャツの姿じゃなく、セーラー服に青いスカートの恰好だった。セーラー服の方は丈が短いせいか、臍が出ている。ぺたりと座り込めば、僕の周りをヴィイがふよふよと浮いていた。
間違いなくコイツのせいだ。大きな声を出してしまったことで、二人から変な目を向けられたのも。
「……僕の趣味じゃないんだ」
弁明のように自然と出た言葉は、たぶん彼女たちには届いていなかった。もしかして、この先こういう服しか着れなくなるのか……?
書いている連載が完結したら、匿名投稿の作品を進める。そう考えていた。