死なない俺は今日も己の肉を削ぎ落とす 作:シンジ
学食が美味い大学はいいものだと心の底から思う、カツカレーのカツを噛み締めながら俺は一人感動していた。
外はサクッと中はジュワッと、しっかり油が染み付いた衣は極上の食感を生み出してくれる。
「そんなにカレー食べて飽きたりはしないの?たしか昨日も食べてたよね」
食堂のテーブルを挟んだ向かいに、ひとりの大学生が座っていた。
彼の名は金木研、小学の頃からの幼馴染にして
「昨日のは個人店のカレー、これは学食のカレー。飽きる飽きない以前の問題なのさ」
「でもどっちもカレーじゃない?」
「全然違うね、カネキだって『毎日小説読んでて飽きないの?同じようなもんでしょ』って言われるの嫌だろ?」
「確かに、でもそれとこれとは別問題のような」
小説は多種多様な種類があるが、知らない人から見ればカレーは一見どれも同じように見える。
勿論店によってこだわりや差異があり、どれも違った味わいを生み出すのだが、小説を例えとして出すのは少し不適切だっただろう。
「まあ、俺の例えは下手だけどカレーは美味いってことで。お、カネキのかき揚げそばも美味そうじゃん」
「うん、美味しいよ。いつも入れすぎちゃうんだけど、今回はいい感じに一味を振りかけられたから辛さも絶妙」
「一味ねぇ、俺も胡椒とかよくかけるんだけど加減を間違えるとマジで胡椒の味しかしなくなるんだよな」
胡椒でさえそれなのだから、一味を入れすぎたらその料理にはもはや『辛い』という味しか残されていないのではないか。
なんてことを考えながらカツを一口、うん美味しい。
と、そこで俺はあることを思い出した。
「そういえばこの前カネキに借りた本あったじゃん、あれ読み終わったから返すよ。結構気をつけて読んだから傷はついてないはずだぜ」
「気遣いありがとう、内容はどうだった?」
「結構面白かったよ。まあタイトルから薄々気づいてたけど明るい話じゃないなコレ、悲劇のオンパレードっていうか。でもまあ俺個人の感想としては露骨な露悪感もなく陰鬱ながらも綺麗な物語だったよ」
『塩とアヘン』、今回カネキに借りた小説はそれだ。
今世ではあまり活字に触れていないため、これはいけないと思い少しは読書してみようとカネキに相談したのだ。
そして俺の読む漫画の好みなどから悲劇系もある程度いけることを知っているカネキは、彼自身も大好きな塩とアヘンを貸してくれたというわけだ。
読んだ結果の感想としては、「『塩とアヘンは俺の眠っていた厨二心を呼び覚ましてくれたいい作品』といったところだろう。
もっとお堅いのを想像していたから意外だったというのは秘密だ、カネキの読む本だから小難しいと思ってたなんて言えるわけがない。
「そっか、なら良かったよ。ぶっちゃけ結構グロくて暗い話だからカエデの好みに合うか心配だったけど」
「まぁ……普段漫画で読む『体が真っ二つ』とか『腕が切断される』とかと違って、『爪を剥がす』とかの想像しやすい痛みが多かったのはちょっとキツかったかな。リアリティのない痛みなら幾らでも受け流せるんだけどな」
リアリティがない、というより想像しやすくて身近な痛みと言った方が正しいだろう。
漫画において『テロリズム』より『食べ物を粗末にすること』の方がヘイトを買いやすいのにも似てる現象だ。
などなどと本の話をしているうちに、次第に話題はカネキのデートの話へと移っていった。
「いやー、しかしカネキに春が訪れるとは。馴染みの喫茶店にいた気になる人、悪いけど俺はアクションも起こせずただそれだけで終わると思ってたんだぜ?本の趣味が合うことが発覚して瞬く間にデートとは、人生何が起こるかわからないねぇ」
「うっ……なんかだいぶ失礼なこと言われた気がする……」
「はっはっは、全くもって気のせいだよカネキクン」
「信用ならないよ……カエデのクン付けは人をおちょくるためのものだし……」
カネキのデートの相手、
大学生男子なんて基本面食いだ。
「ま、気をつけろよ?デートしたからって脈ありってわけじゃないぜ?むしろここからが本番だ」
「どういうこと?」
疑問を持つカネキを訳知り顔で眺めているのは俺だった。
女性と男性のデートに対する意識と認識が違うというのは、男から女に生まれ変わってようやく理解できたことだった。
「フフフフフ知りたいかねしょうもなき民よ」
「なにその三文王様芝居」
「中世ヨーロッパ風適当芝居さ。それにカネキ、まだその人と喋り始めてからそんなに時間経ってないんだろ?むしろ知り合って一日、脈ありなわけがない」
俺としては相手側がただ本を選んで本について語るだけのお出かけという認識なのだろうかとも疑っている。
だが流石に『女性が会って間もない大学生の男子を遊びに誘う』、この事象を社会人の女性が理解していないとは考えにくい。
カネキがどういう目的で誘いを了承したのか、それは確実に理解しているだろう。
つまり、勝負はこれから。
「それは……確かにそう。ってカエデ!別に脈ありなんて僕は思ってないよ⁉︎ただただ遊びに───」
「はいはい恋に恋する青年よ、相手もカネキの目的なんて分かりきってるだろうよ。てことは相手は見極めようとしているんだ、カネキケンって男がどんな存在なのかを」
「つまり……この本屋デートで精一杯いいところを見せろってこと?」
「そゆこと。でも気張りすぎるのは逆効果、自然体でなおかつスマートに……そこまでやるのはちょっとハードルが高いか」
ニヤリと笑って最後に一つアドバイス、少々上から目線になってしまったと反省をしながら。
「まぁ一つ言っておくとするならば、身だしなみは気をつけてってとこかな。服選び、手伝おうか?カネキの部屋にある服だけでもいい感じに仕上げてやるよ」
「頼むよ、間違いなくファッションセンスはカエデの方が上だし」
「デートは明日だろ?じゃあ今日の夜はカネキの部屋に行くけど……ダメな時間とかある?」
「いつでもいいけど……やっぱり早めの時間がいいかな。夜は明日に備えてゆっくり眠りたいし」
「おけ」
そんなこんなで、俺たちは昼ごはんを食べ終えた。
カツカレーは最後の一口まで最高に美味かった、ただ一つ言うとするならば付け合わせの福神漬けの味が薄かったのはちょと残念。
だがまぁそれも個性だ、カレーの種類は千差万別、付け合わせの福神漬け一つとっても同じ味ばかりでは飽きてしまう。
「コーディネートはあんな感じでよかったかな……最低限観れるレベルには仕上げたし寝癖消しも貸したし……まぁ大丈夫か。あとはカネキの頑張り次第、陰ながら応援してるぜ」
そんなことを呟きながら、カネキの服を選んだ後の俺は夜の街を歩いていた。
向かう先はとあるバー、
数十分歩いた先にそれは存在していた、中に入るとカランカランと鈴が鳴った。
「やぁやぁ、
ズカズカと店内に踏み入り、テンション高めで店主に話しかける。
「相変わらずテンション高いねぇ……しかし切っても斬っても再生する化け物が純人間とは、そんなジョークカエデにしかできんよ」
喰種にしてピエロのメンバーの一人、イトリがそこに立っていた。
そう、彼女こそこのバーを経営する喰種。
そして俺の親友だ。
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