スーパー薩摩人 IN 兄世代   作:充椎十四

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ドラコがいなくて寂しいの、ダーリン……!
私もだ、ハニー!

ってことがあったはず。

誤字報告あいがと……誤字脱字多くて悲しい
》赤頭巾サァ、焦香サァ、windoeggサァ

追記
加筆修正しました2023/03/15、23:52


その8

 マルフォイ家の夜は奇声と共に明ける。屋敷の裏手に広がる森で小鳥が(さえず)り出す頃、七面鳥の断末魔も共に響き始める。――もちろん七面鳥を朝食用に絞めているわけではない。マルフォイ家の鳥小屋にいるのはフクロウと鶏とアヒルの三種類だけだ。

 では音の発生源は何なのか。

 

「ギイ↑ェ→ェ→ェ→ェ→エ↑エ↓ェ→ェ↑エ↑ェ↓ア゛ッ↑!!!!」

 

 束ねた枝の塊に繰り返し木刀を叩きつけながら、絞められんとする七面鳥よろしく叫んでいるのは、マルフォイ家の子息ドラコだ。人の形を真似た怪物にしか見えない彼は狂ったように枝の束を木刀で叩きまくり――そして奇声を発し――青々しい日光に照らされ汗を輝かせている。

 ここは祖父アブラクサスがドラコのため屋敷の横に用意した訓練場だ。一周300メートルほどあるグラウンドの内周には走り高跳びのコースと砂場があり、外周にはいくつもの高さの鉄棒(※遊具)や、東屋を改造したサンドバッグスペース、重いコンダラ(※整地ローラー)その他様々な屋外トレーニング用機材が並んでいる。

 少なくない金がかかっていると一目で分かる。

 

 ドラコはこれを用意してくれた祖父に深く感謝しており、その恵まれた環境を最大限活用せんと朝早くから鍛錬を行っているのである。

 ――突然、目覚まし時計の甲高い音が鳴り響いた。ドラコが鍛錬し始めて一時間が過ぎたのだ。目覚まし時計を止めてから軽いジョギングを訓練場三周、クールダウンを済ませた熱い体にスポーツドリンクが染み渡る。嚥下するたび、咽頭から腹へ向かい、広葉樹の葉脈のごとく冷たさが広がっていく感覚が心地よい。

 

「ふぅ……」

 

 うっすらと六つに割れた腹筋をだくだくと汗が流れていく。

 

 先日ドラコは祖父が治める荘園の子どもと接する機会があったが、彼の胸板は同年代と比べて二割増しで厚かったし、腕周りは倍ほど違った。――栄養と運動、そして目的意識……ドラコの鍛錬は目に見える形で結実している。

 割れた腹をぺちんと叩き、口元を綻ばせながら屋敷に入った。

 

「おはようございます、お祖父様、父上、母上」

 

 適度な筋肉は思考回路をクリアにし、病気を跳ね除け、自信と余裕をもたらすものだ。この二年でドラコはあらゆる意味で大きく成長しており、食堂の前で合流した三人にハキハキと爽やかな挨拶をした。

 ぴんと背筋が伸びた老人――アブラクサス・マルフォイはにっこりと笑み、目尻の皺を濃くする。ドラコの血色の良い頬や、シャワー後でもまだほかほかと全身から立ち昇る汗と熱気、覇気と呼ぶべき雄々しい気配。そのどれもがアブラクサスの胸を喜びに震わせる。

 

「ああ、ドラコ……今日も精が出るな。いいことだ」

「はい、お祖父様。友に追いつくためには休んでなどいられませんから」

 

 ニシサツマ生まれニシサツマ育ちの友人たちに追いつけ追い越せと鍛錬を重ねるドラコの姿に満足げなのはアブラクサスだけで、現当主夫妻は「うちの子が野蛮人に染められてしまった」と嘆いている。口に出していなくとも二人の顔にそう書いてある。

 そして席につけば――ドラコの朝食はルシウスの倍量ある。成長期もあるが、一番の理由は消費カロリーが多いためだ。朝の鍛錬前にもバナナなどの消化に良いものを食べていることを加味すればドラコの摂取カロリーはルシウスの三倍になるだろう。

 

 自分たちの経験だけでは測れぬ今のドラコのありよう(・・・・)に困惑してしまうのは仕方のないことだとはいえ、だからといってドラコが可愛い息子であることに変わりはない。ルシウスもナルシッサも息子のことを目に入れても痛くないほど可愛がっている――ニシサツマ島にドラコを置いていく時など心が千々に乱れるようだった。未練を断ち切るために冷たく接してしまったことを今でも後悔している――のだ。自分たちがドラコを見て困惑するのは良いが、他人に貶されるのは許せない。

 スープを飲むがごとく厚切りのハムを吸い込んでいくドラコを「気味が悪い」と言わんばかりの目で見ている屋敷しもべ妖精(ドビー)にルシウスは低く地を這う声で「下がれドビー……」と唸り、ナルシッサは「そろそろアレ、クビに(クローズ)してもいいのではないかしら」と凍りついた声で夫に囁く。

 

 今頃台所で自罰しているだろうドビーのハロワ登録の日は、近い。

 

 さて、食後。ナルシッサはルシウスの差し出した腕にするりと自分のそれを絡めると、義理の父と愛息子に「では、ニベルコルの様子を見てきます」と挨拶をした。ニベルコル――去年マルフォイ家に加わったドラコの弟だ――が生まれた際、マルフォイ家を訪れた外祖父シグナス・ブラック三世に対しドラコは「兄より優れた弟など存在しない」と発言して問題になり、かなり揉めた。

 なお、ジャギとは違いドラコのこれは真摯な兄心からの言葉である。

 

 優雅に退室した二人を見送り、ドラコは祖父を振り向いた。

 

「お祖父様、今日の体調はいかがですか? 良いようでしたら昼のジョギングに参加なさいませんか」

「そうだな……うむ、参加しよう。お前と一緒に私も体を動かすようになってから調子が良いでなぁ」

 

 よく食べよく寝てよく遊ぶ子に良い意味で引っ張られているからだろう、アブラクサスの首も腕も肉がなく皮が余っているが、血色は良い。

 ――筋肉をつけることの利点は多い。体温が高くなり病気や寒さに強くなる、他人に頼らず自分で行動できる範囲を広く保てる、ジョグなどでは足裏の様々なツボが刺激されて健康に良い等々。週に二度ほどドラコと共にジョギングしているアブラクサスが健康的になるのは当然の流れといえる。

 

 ドラコのタイムスケジュールは毎日ほぼ同じだ。朝六時前に起床してバナナとミルクその他の軽い朝食を摂り、六時半から一時間強の運動、八時に朝食、九時から十一時までの約二時間ホームスクーリングのテキストで自習。十一時過ぎから昼食を摂り午後一時まで休憩、一時間ほどジョギングその他の有酸素運動をして三時半から五時まで自習。

 予定と予定の隙間は本を読んだりマナー講師の指導を受けたりと、日により異なる。夕食後にももちろん運動をし、夜九時には寝る。なんともストイックな生活だ――とはいえ激務ではない。

 

 ドラコが自習に使っているのは基礎学力の習得を主目的とした教材のため、国語や算数の比重が重い。魔法史は流れを知る程度、呪文学も「魔法族の家庭でよく使われる身近な呪文」の解説に終始している。魔法薬学などは悲しいほどページが少なく、「初心者が見間違えやすい薬草一覧」や「常備魔法薬の安全な保管方法」、「有名な魔法薬学者とその成果」しか載っていない。

 魔法学校への入学が決まっている児童向けのものなのだ。内容が簡単なのでテキストを解くのも三周目になる。

 

 ――ニシサツマ島で小学校に通った経験はドラコに良い影響を与えていた。運動は楽しい。出来なかったことが出来るようになるのは嬉しい。国語力があれば魔法生物の論文をすらすら読めるし、計算ができれば安くたくさんの物を手に入れられる。

 異国の日々はドラコに学びの大切さを教えてくれた。

 

 バイコーンを追いかけ続け、ドラコの足がもつれ置いていかれそうになった時、勝久が手を引いて走ってくれた。嬉しかった……負けてなるものかと思った。次は自力で走り続けてやると誓ったから、ドラコはジョギングを欠かさない。

 ニシサツマ島ではドラコより年下の子供でさえ振り下ろした杖の切っ先がブレないのに、ドラコだけ刀身がぐらぐら揺れる。悔しくてならなかった。ひたすらに練習して、そして、ドラコの杖先は鋭く目標を示すようになった。

 

 ドラコはがむしゃらに、一所懸命に、友達の背中を追いかけている。追いかけて追いかけて、今もまだ追いかけている途中だとはいえ、小さな成果に気づいては嬉しさのあまり吼える。

 そんなことを繰り返して……ドラコは今の(・・)ドラコになった。

 

 常はイングランドでこのような生活を送り、長期休暇期間中はニシサツマ島で過ごす。そんなルーティーンも今年で終わる。――いつもは休暇が終わるギリギリまで帰国しないドラコも、ホグワーツ入学となれば余裕を持っての帰国となった。新学期前の数日を家族水入らずで過ごし、入学当日。キングス・クロス駅のホームにマルフォイ一家の姿があった。

 

「お祖父様。僕がいなくても運動をして、体を大事にしてくださいね」

「うむ……、うむ……元気で、よく学び、よく遊びなさい」

 

 祖父の骨張った手を握り、ドラコは別れの挨拶を交わす。

 

「父上、母上、ここでお別れです。ニベルコルもね……どうぞ、お元気で」

 

 ホグワーツ特急発射ギリギリまで両親と別れを惜しみ、抱き合って――離れた。

 

「ドラコ、こっちじゃ」

「フクロウの鳥籠と鞄一つ? あー、検知不可拡大呪文か。ははぁ、流石じゃ、よかもん使うちょる」

「マツ兄、龍兄、あいがと」

 

 兄貴分の松平と龍平が確保していたコンパートメントに入ると、乗り場に面した窓を開けて両親の姿を探す。――まだそこに、四人とも、いる。

 

「父上、母上……! いってきます!」

 

 ホグワーツ特急の汽笛が高く鳴り響いた。

 

++++

 

 例のあの人ことヴォルデモート卿がハリー・ポッターに敗北してすぐの頃。ブラック家本家の血筋はすでに絶えた……というと語弊があるが、ほぼ絶えたに等しい状態にあった。闇の時代に当主であったオリオン・ブラックは病死、その子息であり次期当主と目されていたレギュラス・ブラックは死亡推定、出奔したシリウス・ブラックはアズカバンで――死んだも同然の――終身刑。その他の分家筋でも死亡が相次いだ。

 ブラックと名乗る一族が近いうちに断絶することは火を見るよりも明らかであり、傍系一族であるポルクスの下に当主代行の身分が転がり込んできたのは、ブラック家を襲ったその悲劇がゆえであった。

 

 溺愛していた嫡子レギュラス・ブラックの死亡――屋敷しもべ妖精の証言では死んだものと思われる――により中継ぎの当主ヴァルブルガ・ブラックは発狂した。

 正気を失った彼女が当主の義務や責務を果たせるわけもなく、彼女のため代理人を立てる必要が生じたが、代理人の資格を持つ者――ブラックの名字を保持し存命で自力歩行ができる魔法使いか魔女のこと――はポルクスとその息子でありヴァルブルガの弟シグナス・ブラック3世以外にいなかった。その時には既に一族のほとんどが死んでいたのだ、仕方のないことだろう。

 そして代理人となったのはヴァルブルガの父であるポルクス・ブラック。父親と比べれば若く体力のあるシグナス・ブラック3世は、分家当主として様々な業務を担っていること、利益相反関係にあること等々の事情から、代理人には不適当とされたのだ。

 

 しかしポルクスがヴァルブルガの代理人(・・・)として老老介護もといブラック本家の維持に携わったのはたった数年。クリーチャーの献身的な介護も甲斐なく、ヴァルブルガまでもが、この世を去ったのである。

 

 跡継ぎ不在、とはいえ本家を継ぐことができる男子がいない。世代を遡ってまた下れば候補がいないわけではないのだが、純血の恥晒しウィーズリーなどから跡継ぎを連れてくる訳にはいかない……たとえポルクスが納得しても他家が納得しないだろう。ブラック家はイギリス魔法族の王家なのだから。

 ブラックの名を、財産を、歴史を失わせる訳にはいかない。生き残った年寄りは必死だった。あちこちの候補者と面談しては「不可」と怒鳴りつつ、当主代行として老骨にむち打ち荘園や屋敷の維持管理などに奔走し――その数年の努力に神が微笑んだ。

 孫のナルシッサが嫁いだマルフォイ家に、二人目の男児が生まれたのである。

 

 二人いるなら一人はブラックに貰ってもいいはずだ。分家筋とはいえブラック家に生まれた母を持つ子供だ。誰も文句は言わないだろう。

 

 それから紆余曲折、喧々囂々(けんけんごうごう)侃々諤々(かんかんがくがく)あーでもないこーでもないとブラック家とマルフォイ家の綱引きがあり、「兄より優れた弟など存在しない」と力強く言い切った長男のドラコがブラック家を継ぐことで決着を得た。

 ポルクスとシグナス・ブラック3世は手を取り合い安堵のため息をついた。肩の荷が下りたせいかポルクスはその年の末にヴェールを潜ったため、シグナス・ブラック3世がその後を引き継いだ。

 ブラック家本家の復活だ、待望の後継者だ。公表の時期は話題になりやすい時と場所が良い……。ならば。

 

 ――ホグワーツの入学のその日、ドラコ・マルフォイはドラコ・ブラックとなる。

 

 それがどういうことかと言えば、1991年9月1日、蘇ったケルト人(さつまかぶれ)の王族がホグワーツに入学した、ということだ。




ボウル教授「素敵ー!! サイコー!」

馬の鼻先に人参
ましまろ
ついったー(前半の第一稿のせてる)
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