スーパー薩摩人 IN 兄世代   作:充椎十四

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近所にこんな便利な島があったらそりゃあゴミ箱にするだろう。誰だってそー思う、おれもそー思う。

なににつけてもかごんま弁変換が大変。


その9

 ニシサツマ島は日本の飛び地である。ゆえに、本土(※鹿児島県川内市)と繋がるゲートが設置されている。甑島列島と同列の扱いと言えば良いかもしれない――甑島列島には1日2回フェリーが(本土の)里港や鹿島港との間を往復し、(本土の)川内港からは高速船が出ている。これと同じく、ニシサツマ島へは川内市内某所から4トントラックが日に二度ゲートを潜り、様々な物品を島へ運び入れているのだ。

 

 その輸送品の中には食料品や生活雑貨はもちろん、娯楽品もあれば教材もある。

 

「珠子、勉強は? 宿題しやんせ!」

「勉強しちょっところじゃ、ほら」

「勉強しちょってそんた漫画じゃ……ああ、三国志か……」

 

 居間で漫画を読んでいた珠子は母親に表紙が見えるよう本を持ち上げる。彼女が読んでいるのは三国志――歳の離れた兄が買い揃えた漫画だ。

 

「じゃっどん、漫画ばっかい読むもんじゃなかよ」

五十(いそ)兄は中学入ったや役にたつ言ちょったもん」

 

 そう屁理屈をこねる彼女――加治屋珠子は今年十歳になったばかりの小学生だ。黒い直毛を顎先で揃え青緑色の瞳をしており、目の色から分かる通り欧州の血を継いでいる。

 

「近頃は漫画で勉強でくっんじゃ。ドラ○もんの算数の本とか」

「はあ……時代も変わったもんじゃ」

 

 そこに電話がジリリンと鳴り響き、母親は慌てて廊下に姿を消す。その背中を見送って、珠子は紙面に目を落とし……再び顔を上げた。電話、そう、電話だ。

 

 幼馴染の松平と龍平――ちなみに一般地区では上下五歳の相手は全員幼馴染だ――がホグワーツに留学してからこの秋で三年目、年上の弟分ドラコもホグワーツに入学した。新しい環境に飛び込むことはわくわくするが、怖くもある。頼れる親兄弟に会いたい、しゃべりたいと思うことはままあるはずだ……が、ホグワーツの所在地はイギリスで、電話もない。使える連絡手段はふくろう便のみ。

 松平や本土に実家がある龍平へは家族や近所の皆であれこれ手紙や物品を送っているし、返事も来ている。――ホグワーツには無礼を無礼と思わない教授がいたという話は何ヶ月も食卓の話題に上り、その度に珠子は「真似してはいけんよ」と言い聞かされた。

 

 本を踏みつけるなど不遜な行為、考えるだけでも恐ろしくてできやしないというのに。

 

 閑話休題。松平たちには学校のことや人間関係の悩みについて相談できる相手がいる。だが、ドラコにはいない。

 

 珠子は聞いてしまったのだ。ドラコは、弟が生まれたから、ブラック家の当主になるためマルフォイ家の子供ではなくなるのだと。

 弟が生まれたからとドラコを追い出すなんて酷い話じゃないか、と珠子は拳を握りしめる。きっと次男坊の母親という女は後妻か……後妻でないなら本妻で、自分の子供をマルフォイの跡継ぎにしたいからドラコを追い出すのだ。時代劇でそういう話を見たことがある。

 哀れなドラコは一通も手紙を貰えず、寂しい思いをするに違いない。ブラック家とやらがどれほどのものかは知らないが、マルフォイ家がドラコを捨てる先がブラック家だというなら酷い環境の家なのだろう。

 

 珠子は唇を引き結び決意した。弟分に辛く寂しい思いをさせてなるものか。

 

 ――さて。ふくろう便を送ると決めた珠子であるが、手紙を書くのは当然。その手紙の他に何を同梱すれば良いのだろうかと頭を捻る。

 ホグワーツでは電気機器が使えないと聞いている。ならば気晴らしに良いだろう音楽のカセットやアニメのビデオは不向き……。電気を使わない物で、普段から使う物とは――そうだ、箒に装填する弾はどうだろう? 普段からよく使う物だし、あって困ることはないはずだ。

 

 珠子は便箋ニ枚の手紙と銃弾を二箱、地域共用のふくろうに託した。その親切心ゆえの行為がきっかけとなりホグワーツで殺人未遂事件が起きるなど、彼女が知る由もない。

 

++++

 

 パドマ・パチルとバーパティ・パチル姉妹は魔法族の夫婦から生まれた魔女である。特急を下り、小舟で湖を渡り……二人は手を繋いでホグワーツの大広間に入った。

 

「ニシサツマ人はスリザリン寮生だって聞いてるから、私達のどっちかが――レイブンクローに入れたら、彼らに接触しましょ」

「ええ」

 

 大広間の天井に広がる星空も、新入生を興味津々に見る上級生たちの視線も気にならない。何もかもが彼女らの意識や耳を素通りしていく……二人にはすべき(・・・)ことがあった。

 スリザリンの寮旗が掲げられているテーブルは真ん中の通路沿いにはなく、左手の奥にある。ちらりちらりとそちらに視線を走らせるも――誰がニシサツマ人なのか、新入生のパチル姉妹に分かるはずもない。

 

「ファミリーネームをアルファベット順に呼びます――アボット! アボット・ハンナ!」

 

 組分けが始まる。パチル姉妹はPのためまだまだ呼ばれることはないだろうが、ごくりと生唾を飲み込み、目を皿にして組分けの方法を見つめる。

 被るだけ。それだけで寮が決まるようだ。

 

「どうしよう、きっとランダムよ」

「本人の資質で決まるってママは言ってたのに……」

「レイブンクローに入れなかったらスリザリン生に接触するなんて無理だわ」

「――君たち、会いたいスリザリン寮生がいるのかい」

 

 ひそひそと話していても周囲には聞こえるもので、シルバーブロンドをオールバックに撫でつけた少年がパチル姉妹に声をかけてきた。

 突然話しかけられて面食らったものの、親切そうな声をしている。協力してくれるつもりかもしれない。

 

「ええ……ええ。そうよ」

「私達、ニシサツマ人に会いたいの」

「会わないといけないの」

「分かった。僕はスリザリンに入るから、明日の昼休みにこの大食堂で会おう」

 

 ランダムなのに何故スリザリンに入ると断言できるのか。パチル姉妹が「気持ちはありがたいけど」と断ろうとした瞬間――大広間にマクゴナガル副校長の声が轟く。

 

「ブラック! ブラック・ドラコ!」

 

 私語が止まずざわついていた大広間がすんと静かになった。特にスリザリン寮のテーブルは息を潜めてマクゴナガル副校長を見つめており、他寮でも状況を飲み込めていない者を除き目と口を丸くしている。

 

「――はい」

 

 一歩進み出たのは、パチル姉妹に声をかけてくれた少年。堂々とした態度、ブレない体幹、鍛えた背中――ブラックってあのブラックだろうか。イギリス魔法族の王様の。いや、まさか……。

 パチル姉妹が目を白黒させているうちに彼は教員席への段を登り、椅子に腰掛ける。

 

 組み分け帽子は、少年の頭に触れることすらなく、叫んだ。

 

「スリザリンッ!」

 

 スリザリン寮テーブルが爆発した。テーブルを叩き、足を踏み鳴らし、口々に声を張り上げる。全員好き勝手に怒鳴っているせいで全ては聞き取れないが、いくつかは聞き取れた。

 

王国(キングダム)に栄光あれ!」

「王権復古! 王権復古!」

「待ってたぜぇこの時をよぉ!」

 

 指笛まで響く歓声の中へ「やめてくれ」「静かにしろ」と言いつつも嬉しげな顔で入っていくドラコ・ブラックの姿に、パチル姉妹は現実を受け入れた。自分たちの目の前で、ブラック家の再興という大ニュースが公表されたのだ、と。

 

「ねぇロン、なぁにあれ」

「僕も知らない……」

 

 少し離れた場所にいた二人組がそんな会話をしていた。

 

 ――さて、パチル姉妹がニシサツマ人に会うことを望む理由は何か。簡潔に言うなら「会いたい人がニシサツマ島にいるため、繋ぎを取ってほしい」のである。

 

 ニシサツマ島について改めて書こう。先ず、島民の九割強は日本国籍を持つ日本人である。残る一割足らずは研究その他の事情で居住する外国籍魔法族と、観光者向けのツアーガイドや世話役だ。

 

 次に、ニシサツマ島の形はほぼ円形。火山の噴火によりできた島である。初代首長梅元らの移住から四百年以上が過ぎた現在は島の三割が開拓され、市街地や田畑になっている。

 その居住可能な範囲の区分は四つ。一つは現在観光地区と呼ばれている旧市街、観光客の立ち入りが許可されていない一般地区の上区、中区、そして開拓区――現在は魔法生物との共生の観点から新規開拓や開発は行われておらず名称だけが残っている――だ。

 

 観光地区は輪郭線が複雑に歪んだ扇形をしている。初代首長梅元永久がイベリア半島方面からまっすぐ島に入った地点を起点として同心円状に開拓を進めていったためで、島の北西から北部に広がっている。

 魔法生物や植物の研究者、観光客用ガイドの住居は主に観光地区内にある。寮暮らしの仲居などを除けば観光地区内に居住する人数はそう多くなく、七割がニシサツマ島民で三割が外国籍の魔法族だ。

 

 上区は観光地区から島の中心部に少し踏み込んだ位置にあり、北部の海に少し接している。京都と大阪をくっつけたような形だ。

 一部の研究者はここに居住しており、住民の見た目は八割の黄色人種とニ割の白色人種、十数人の黒色人種。

 

 中区は観光地区と広く接しており、川はあるが海はない。形は新潟県に似ている。

 住民は七割の黄色人種とニ割の白色人種、一割の黒色人種。

 

 開拓区は島の南西部から南部にあり、高知県と徳島県を合体させたような形をしている。海岸線からはアフリカ大陸を臨み、視力の良い者なら海の先にアルジェリアをぼんやりと視認できる。

 そして、住人の人種は中区とほぼ同様の割合である。

 

 人種は黒、白、黄といるが、島民の九割強は日本国籍を持つ日本人だ。――肌が白い者も黒い者も、日本人である。

 ニシサツマ島と呼ばれる前にこの島が長年置かれていた「処分に困った生き物(ゴミ)を捨てる場所(ばこ)」という事情がゆえに。

 

 ――ヨーロッパには複数の魔法学校があり、ホームスクーリングを選択するとしても資格を持つ者には入学通知が届く。ホグワーツを例に上げるなら、資格を得た者の名前は自動的に新入生名簿に浮き上がる。

 つまり、「使える」レベルの魔法使いなのかそうでないのかについて魔法アイテムがシステマチックに判断するがために、入学通知は問答無用に現実を突きつけるのだ。

 

 通知が届かなければ、スクイブである。

 

 決して豊かとは言えない時代、スクイブは家の恥であり、お荷物であり、無能な穀潰しであった。魔法族の――特に血統に誇りを持つ家は、スクイブと判明した子供をどうしたか?

 捨てたのだ。「ゴミ箱」に。

 

 地中海に浮かぶ島が魔法生物の楽園となってから百年も経たぬ間に、島の周辺の魔法族……ヨーロッパ大陸の魔法族にも、アフリカの魔法族にも、「スクイブの子供は島に捨てる」という慣行ができた。

 自らの手を汚すのは嫌だが、行動範囲内に捨てては自力で家へ帰ってくるかもしれないし、死体が見つかってしまうかもしれない。スクイブがいたと露見する可能性は潰さねばならない。家の名誉を守るために。

 

 そうとも、あの島の魔法生物なら、骨も残さず食べてくれる。なかったことにできる。

 

 便利なゴミ箱であった。

 

 梅元永久が入植した翌年には男児が、その三年後に男児、明くる年には女児。捨て子が途切れることはなかった――多産多死の時代だ、成人まで育つ方が少ないのだから、子供の数は多い。

 十一歳の子供が海岸で一人立ち尽くしているのを初めて見た時、永久は唖然として、しかし、喜んだ。永久の子はその時既に魔力に目覚めていたが幼く、他の奴隷たちもほとんどが女と子供。

 十一歳であれば、労働力になる。

 

 それから時は過ぎ四百年以上。捨て子を受け入れ続けたニシサツマ島は今や、国際色豊かな日本人(・・・)の島である。

 

 ――パチル姉妹の叔父もまた日本人として生きているはず。島へ()られる前の……二十年前の写真しかないが、これがあればきっと見つかるだろう。

 双子の目的は母と叔父を再会させることだ。

 

「明日のお昼に、この場所ね……。絶対にあの王子様を取っ捕まえるんだから」

「でもあの子、王族よ? 取っ捕まえるなんて無理でしょ、護衛とかがいるだろうし」

「それっぽいのは見当たらないわ。それに、学校にまで護衛がついてくるなんておかしいでしょ」

「たしかにね。じゃあ――明日、お昼。二人がかりなら絶対に捕獲できるはず。頑張りましょ」

 

 姉妹は見つめあい、頷いた。読み上げられる名前はもうLまで来ている――どちらかが、必ず、レイブンクローに入るのだ。




えっさ、ほいエサ、えっさ、おいエサァ!
ましまろ
ついったー(前半の第一稿のせてる)
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