ダンジョンに マインクラフト 持ち込んだ 作:魚介(改)貧弱卿
ダンジョンに、マインクラフト、持ち込んだ。
「スポーン確認した、ワールド読み込みOK、チャンク8×8、影mod有効、FPS200台安定……あれ?メッセージが出ない……?」
彼はマインクラフター、VR版マインクラフトver1.7.10を起動し、ワールドを展開したユーザーである。
「うーん、とりあえずいっか、木樵ろ」
コツコツコツコツ、と耳慣れた音と共にその辺の木を殴り、砕いてエンティティとしてドロップしたそれを回収し、インベントリーに収める。
「user7878まだかねぇ」
同じワールドにダイブしているはずの友人を待ちながら適当にきこりを続け、その辺の森をいじめていると、
突如としてワールドにヒビが入る。
「ん?バグ?……ちょっと落とすか」
設定画面を展開してチャンク読み込み数を4×4にしても減らない謎のヒビ、それどころか増えてすらいる。
「あぁ〜〜うん」
全てを諦めたuser1010はマインクラフトの起動を終了しようとするが、設定画面からのログアウト処理が完了するその前に、爆発的に拡大したヒビに飲み込まれて消えてしまうのだった。
「うぉおぁぁぁぁ?!?!」
落下する、ディメンション移動の際のバグで座標がずれて奈落空間へ落下する現象に似たそれはアイテムロストの恐怖を彼に思い出させ、思わず絶叫を上げる彼は
程なくして地面に叩きつけられた。
「……ライフ1.5ギリギリか……」
ハート1.5個分、公式の数値表記では3とされるその数はひどく頼りない
始めたばかりのワールドではデスヒールが基本であるため、食料アイテムなど羊肉すら存在しない
そのためこのわずかなライフを出来るだけ保たなくてはならない。
「……んで、ここはどこなんだ?」
彼は友人の
しからば不具合として報告してテレポートしてもらうべきなのだが、なぜかメッセージ機能が使えないため、物理的合流を必要としていた。
「……
初っ端から視界の通り辛い上に昼でも暗い
「うん、よし、今のうちに生活拠点を作ろう」
人気のない、動物すらロクに居ない過疎地帯ではあるが、彼らマインクラフターにそんな概念は関係ない、溶岩湖に棲まい、宇宙空間にすらベットを置いて、天界から飛び降りるのが彼らである。
「草種草種っと」
視界に映るその辺の草を殴って散らし、落ちた謎の種を握る彼、そう、この種こそ繁栄の種、最初の小麦である。
「あ、まず水かぁ……」
始めたばかりのワールドであるため、彼は基礎資源である鉄すら持っていない
それを用いて作成する輸送アイテム、バケツも当然持っては居ないのだ。
「よし、ブラマイすっか」
石の斧をツルハシに持ち換えたuser1010はそのまま斜めに地面を掘っていく
驚くべきことに地面を1メートル四方の規模でごりっと削り、さらに同じ幅・深さで削ることを繰り返して坑道を作り出して見せたのである。
掘り抜いた地面から続く1メートルの連続段差、それを丁寧に作られた幅・高さ50センチの階段で継ぎ、階段の横に松明を架けて照らす
本来なら風のない地下に篝火など自殺行為だが、彼に構う様子などない。
「よし、この辺かな」
地面から40メートルほど掘ったあたりで手を止めた彼は、今度は横に坑道を伸ばし始める
岩盤の筋目や地質、地下水脈、空洞など繊細な各種要素を勘案した上で梁などを設ける常識的な坑道ではない、何の考えもないかのように直線に伸びた埒外のそれだ。
「んー、鉄、鉄、鉄……」
残念ながら銅や鉄ばかりの鉱脈のようだが、歴戦のクラフターである彼の感覚では“ここ”こそY 13地点であると告げている。
「鉄ばっか、まぁいっか……撤退っと」
あまり地下に長居すると気が滅入るため、彼は長い階段を登って地上へと帰り、鉄を得たことで作成したバケツで水場を作り、それで体を洗ってからベッドに沈むのだった。
「おはよう世界」
翌朝、鳥の囀りによって彼は目覚めた
「畑作って、クラフトして、飯食って、地下労働、まぁ忙しいねぇ」
今日こなすべき仕事を列挙しながら、のんびりと歩き出す彼
手には既に鉄にアップグレードされた鍬が握られている。
「よぉし、16×16で区画畑にしよっと」
横に三つ分のブロックを掘って水場を作り、その両端に水を差すと、真ん中から水を汲み上げる
その水は尽きることを知らず、無限に汲み上げることを可能とする無限水源と化していた。
「意外と重いなぁ……」
ペシペシと地面に鍬を突き立て、耕された土に変えつつ水を撒き、湿らせた畑土に種を蒔き
今度は周囲に柵を立て始める。
「7878ならなんて言うかね」
適当に柵を立て終わり、水路も組んで畑らしい姿を現した畑を眺めながら達成感に満ちた表情になるuser1010。
「よし、地下行くか!」
全身にあふれる達成感を力に変えて、彼はちょっぴり良い予感と共に坑道へと潜っていった。
「ダイヤぁぁぁぉぁぁぁ?!?!」
そしてその5分後
鉄ピッケルと拳で地面を掘削していた彼は、ついにそれに出会った
「しかも2つ!……一個はアレにするとして、残り2個集めるか……」
まさかの豪運を発揮した彼は程なくして更にダイヤ2つを確保し、彼は未曾有の恐怖に打ち震えながらダイヤを握りしめて坑道から撤収するのだった。
「アヒャヒャヒャッ!!!あぁ愉快愉快!アヒャヒャヒャヒャヒャ!」
もう一人のマインクラフター、user7878は笑っていた
彼特有というかなんというか、もはや理解しがたい発音ではあったが、間違いなくそれは洪笑だった。
「あー笑いが止まらんでござるよアヒャヒャヒャまぁーさかね、ダイヤ8個初日とかね、もうヴウォフォッ!」
1010と同じような坑道を掘り抜き、そのまま更に拡大することで大規模な掘削を行っていた彼は、どちらかというと地下の拡充に時間をかけていたのか、見るからに高性能な道具を握り、全身を鉄装備に覆っている。
「スターリングジェネレータ様様やんな!」
笑う彼の傍らには石炭を燃やしながら煙を上げる謎の箱
そう、これこそ彼の笑顔の源、熱発電を担う始まりの科学、スターリングジェネレータである。
彼は片手に血の滴る生肉を握り、もう片手は銅色のネジ式レンチを弄んでいた
そう、科学の使徒である彼は金属系の素材を集めて機械を作っていたのだ
そしてその基盤である熱発電機、抽出機、圧縮機、粉砕機を揃えて人工ダイヤモンドの製作に勤しんでいた所であった。
「ゴムも銅も錫も都合良すぎでござるよアヒャヒャヒャヒャヒャヒュッ!ゴッホゴッホ息詰まったゲッホォ!」
マインクラフターは皆資材取り尽くしに躊躇はないが、だからといって皆このような下品な輩ではないことは明言させてもらおう。
「ネザー……そろそろ行くかァ」
そして偶然ながら二人は時を同じくして全く同じものを作った
即ちダイヤのツルハシで削り出した紫黒色の石塊を縦に3つ、角を重ねて横に2つ並べ、また縦に三つ重ね、最後にU字になったその天井部分を埋める合計10個の黒曜石がO字型の枠を形作ると、そこに彼らは火を放つ。
そしてその時、不思議なことが起こった
黒曜石に火が移ると、それは瞬く間に燃え広がり、枠の内側全てを満たし、そして紫に変色した炎が膜のように固着したのだ。
「よし、行くぞネザー!」
「アヒャヒャヒャ突撃ィィィィッ!」
二人は全く同じ時にゲートを完成させ、紫の炎を通り抜けて
炎の支配する地獄へと突入した。
「溶岩地帯、それも天井近くか……グロウストーンあるかな?」
片手に盾、もう片手に鉄のツルハシを握った1010は赤く染まった地獄の岩を掘り抜いて道を作りながら突如噴出する溶岩をやり過ごしていた、
この世界には
それらの相手をまともにこなせる戦力はまだ手に入っていないため、彼は隠密での資源採集を試みていた。
「要塞発見死ねブレイズ!」
片や7878は出現位置が素晴らしくよかったため、赤黒い石煉瓦でできた地獄の要塞の真横に出現し、そのまま要塞に突入する
まえに大量に確保していた丸石で黒曜石のゲートを囲むだった。
炸裂音と共に彼の握るアサルトライフルが火を吹き、次々にモンスターを狩る
金の剣を手にした豚鬼も、黒い骨の戦士も全てが銃と鉛弾の形をした力の前に屈した。
「アヒャヒャヒャッ!銃最高!銃最高ッ!」
7878は開けた要塞を銃によって制圧し、ひたすら弾を吐き出しているが、尽きる気配はない、既に潤沢な資源を得ているため、鉄も火薬も彼にとっては無尽蔵な物なのだ。
一方1010は慎重に地面や天井を掘り抜いて道を作り、上空から生えて垂れ下がった発光する結晶を削り取り、さらなる結晶を求めて今度は下方向へと掘り進めていく。
「うぉわっ!」
うっかり地面を掘り抜いてしまった彼は上空から落下し、咄嗟に藁束を下に置いて着地することでダメージを抑える
下が溶岩ならば使えなかった方法だが、幸運にも彼は地面へと降りることができた
そう、赤黒い煉瓦でできた巨大な要塞に。
直後、ダメージの衝撃が体を突き抜ける。
「ッ!」
咄嗟に左手の盾を突き出すと、盾がダメージを受け止める、左手に強い圧力を感じながら正面を目線を向けると
そこにいたのは銀髪碧眼、190cmの長身に煌めく宝石の鎧を纏った狂人だった。
「死ねやボケどもぉっ!!」
「ボケは貴様だっ!」
さらに撃たれる銃弾を受け止めながら撤退するために後ろに視線を向ける1010
しかしそれを許さんとばかりに接近してくる7878。
ドドドドドドドドッ!と炸裂音が鳴るが、やがて弾が切れるその瞬間、盾を握り直した1010が走り、接近してジャンプ、要塞の通路の横縁に飛び乗り、さらに跳躍して再び正面に、そして盾を構えてそれで殴りつける
銃を構えた右腕を。
ゴシャッ!という音と共に銃が逸らされ、7878の攻撃手段が失われた
これ幸いと1010はピッケルを取り出して振り抜き、跳躍して脳天へと振り下ろした。
キン、甲高い音が鳴る
超高速で抜き放たれた鉄の剣がピッケルの先端を捉え、軌道を逸らしたのだ。
「ふんぬ!」「アヒャッ!」
鉄剣が1010を薙ぎ払おうとするが、盾がそれを受け止め、わずかな後退のみに止める
しかし、そのわずかな距離こそ、7878が最も欲した物!
「アヒャヒャヒャッ!」
再び彼の手に握られたのはAK-47、アサルトライフルが殺意を露わにする
「うぉぉっ!?」
ガンガンと盾が鳴り、銃弾を次々に受け止めるが、やはり木の盾に過ぎないそれはついに限界を迎え、やがて破壊されてしまう
咄嗟に左手を塞ぐガラクタを捨て、木製の杖を抜き放った彼はそれをディフェンシブロッドとして扱い、重要部分を守って被弾を抑える1010。
しかし、やはり防御面積の少ない杖では防ぎ切ることはできず、無情にも突き刺さる銃弾が彼の命を奪う
その瞬間だった。
「あ?お前1010か?」
「……お前まさか、杖で気づいたのか?」
「アヒャヒャヒャ!お前アレだよ!何だっけ?まいいや俺がお前を見間違える訳ないだろ!」
「……まぁいいや、回復する」
「おっけ、ってかお前見るたびに体力ヤベェな」
「回復終わった、撤収しよう
お前の拠点に
お前のことだからアレだろう?風情も地上建築もないチャンク掘り地下拠点だろう?」
「……」
「アタリか」
急に黙った7878の先導するままに地獄の道を歩き、途中に現れた
「たでーま」
「お邪魔しますっと」
一つ頭を下げて地下へ伸びる階段を降りる、そしてその先に広がっていたのは。
「うわ……」
ダイヤのピッケルで掘り抜かれた広大な地下空間であった
天井も壁も全てが統一された石壁は無機質に全てを跳ね返すような色を見せ、その中に並べ置かれた無数のチェストがいかにもな木の香りを漂わせる。
「よし、アレだ、アレ」
「錬金テーブル?」
「そうそれ!」
ダイヤモンド・
をいとも容易く合成して作り出されたのは
際限のない等価交換を可能とする夢の物質だが、それだけでは終わらない
黒曜石・焼き石・賢者の石を合成して作り出される賢者の石の真価
マインクラフトに通貨価値と銀行の概念を与えるMOD、プロジェクトEの基礎となるアイテム
錬金テーブルである。
それを作った直後、突如として7878の動きが加速する
並んだチェスト群を破壊して、溢れたアイテムの山を錬成板に注ぎ込み始めたのだ
錬成板は入れたアイテムを純粋な価値に変換し、貯蔵する、そして入れられたアイテムを登録して、等しい価値を消費することで全く同じものを取り出すことができるのだ
たとえ価値の低いアイテムでも山のようにつぎ込めばダイヤモンドやエメラルドを購うことさえ叶う
これこそプロジェクトEの真骨頂の一つである。
「よし鉄装備登録!鉄斧登録 弓登録!石煉瓦登録!ウール登録 ダイピ登録ッ!」
7878は手にしたありったけのアイテムを錬金テーブルに流し込み、それらを価値にまとめたかと思えば更にいくつかの機械のクラフトを始める。
「錬成ッ!錬成解除ッ!錬成ッ!オラっダークマターの切れ味はどうだ感想を述べよッ!」
彼の言葉を聞き流しながら1010も錬成版を使い、手持ちの殆どのアイテムを登録する
錬金テーブルそのものも登録可能なので複製を登録し、それを持ち歩くことにした2人は名々に錬金テーブルを手にするのだった。
「俺は俺の建てた拠点に帰るよ、向こうにベッドあるし」
「お?このベッド登録すれば?」
「残念だが俺は赤ベッド派なんだ、拠点にあるベッドをとってくる
どうせならほら、お互いの拠点も統一したほうが良いじゃないか」
「そうか、んじゃ俺は待ってるけど、ネザー使うんか?」
「いや、オーバーワールドで普通に行く
距離は長いだろうけど、ネザーでビビりながら行きたくないし」
「そうか、頑張れ」
あっさりとした一言を背に受けて、1010は歩き出した。
「数キロ歩いたが……」
山を超え、谷を超え、野原を超え、海沿いの道を行き、そして見出したのは1010の拠点ではなく、大きな壁に囲われた場所
その威容は熟練したクラフターが建てた巨大拠点のように思える、しかしこの世界には1010と7878以外のクラフターはいないはずだ。
「んん?……行ってみるか」
灰色の石煉瓦とおぼしい壁を見据えた1010は道を進む。
「そこのお前!止まれ!」
「……俺か」
「入国者ならば素性を明かせ!」
突然張り上げられたその声に、声を掛けるにしても内容が随分高圧的だ、と考えながら大人しく従うのだった。
「俺は
「名は何という!」
「user1010」
デフォルトスキン愛用者である彼は、スティーブと一瞬迷ったものの、自分のプレイヤーネームを名乗ることにした。
「本名を明かせ!」
「いやだから……ジャック・スティーブだ」
ユーザーネームが通らなかったのを疑問に思いながら彼は適当に今作った名前を名乗ると、怪しまれながらも通してくれるようだ。
「オラリオに来た目的は!?」
「……実は俺の一族は行商をやっていたんだが、先日の嵐で積荷を失ってしまった、
だから一番若い俺が先行して金稼ぎに来たんだ」
「ならなぜ偽名など名乗った!」
「俺達は数字に生きる商人、遊座一族なんだ、数字を名に冠して何が悪い」
詰め寄ってくる守衛に軽く返しながら、1010は出まかせを打ち切った。
「取り敢えず俺は文無し、ここには金を稼ぎたいんで来た、OK?」
「……まぁ良いだろう」
「よっし、じゃあ失礼」
門番氏の横を抜け、分厚い壁を越えて都市に入ると一気に視界が広がる。
ポルトガル式歩道の繋がる通路に花の詰められた籠を飾る店屋、石畳にすらなっていない路地裏からはゴミの腐臭
総じて中世ヨーロッパの街並みといったところか。
「お、この辺の石畳はギリシャ式か」
足元の変化を観察しながら街を歩くと周囲の環境が徐々に変わっていくのがわかる
華やかな住宅・商店街から巨大な建造物が建つおそらく集合住宅?エリア、そこからはさらに巨大ななんらかの目的を持った建造物とおぼしいものへと道が続いている。
ほぼ円形らしい巨大な外周壁の中の中心地にはこの街のシンボルであろう巨大な塔が聳えている。
「……アルファベット表記か」
街の店に出ていた置き看板を見れば、zephyr's kitchenの文字
竜巻のようなエフェクトに彩られたそれは到底マイクラの看板表示には思えない
違和感もここまで来たら認めるべきだろう、ここは、そう。
「マイクラの世界じゃない、のか……」
「マイクラじゃないなら、ここはどういう世界なんだ?」
アルファベット表記が使えるっぽいしまず間違いなく英語はある、最低でもキングス・イングリッシュ、うまくいけばアメリカ風なブロークン・イングリッシュが使えるだろう、などと気軽く考えたスティーブは通り過がりの人に挨拶を試みる。
「どうなってるかもわからんし……まいっか」
英語で。
「すまんヒエログリフは無理だ、コイネー使える?」
「あっごめん」
「共通語使えるんなら先にそっちで話しかけろよ全く……
で、道でも聞くのか?」
「あ、はい、銀行とか質屋って近くにありますか?」
「お?アンタ外から来たのか?
バベル……あの一番でっかい塔の一階、あそこには大抵の物がある、そこで適当に換金するんだな、ただし!」
「はい」
「ガラの悪い奴も多い、あまり一気に換金すると狙われるぜ、気い付けな」
pv勢ではないスティーブはあまり対人戦に秀でているわけではない
一応対ゾンビ戦に限ればバニラであれば百人斬りも夢ではないが、流石に別世界の住人をマイクラと同じ基準で考えることはできない。
「っし、ありがとうございました」
「いいって事よ、薬か医療ならディアンケヒトファミリアを宜しくッ!」
サムズアップした彼はスティーブに背を向けて歩き出したが、すぐに戻ってすれ違って行った。
「……まぁ良いや」
格好がつかない彼だったが、ありがたい助けになった
今度彼の言っていた『ディアンケヒトなんとか』に足を運んでみようとも思うスティーブだった。
純金100g、日本円なら大体50万円程度だろうか?日本では大金になる量だが、この世界での黄金の価値はどうなのかわからないため、少々控えめな量を換金するスティーブ。
「507650ヴァリスになります」
「ありがとう」
その金額は大体51万ヴァリス、日本円とあまり変わらない価値だった
換金商の店から出て、都市街までの道を歩きながらこの世界での物価はどの程度だろうかを考えながらヴァリス金貨を弄ぶスティーブに声が掛かる。
「おいお前、随分と持ってるじゃないか」
その瞬間、全身ダイヤ装備にして剣を振り回したり、空を飛べる指輪を付けて飛んだり、さまざまな案が彼の頭に浮かぶが、最も現実的な案として彼に残されたのは
「イヤーッ!オイハギーッ!!」
絶叫である、どちらかといえばニンジャシャウトな気がするが、絶叫である
「ヤメローッ!」
「ソレイジョウイウナーッ!」
(無言の殴り掛かり)
しかし、与太者冒険者の拳がスティーブにヒットする前に別の拳に遮られる。
「ガネーシャ・ファミリアだ、ご同行願おう」
lv4 【剛拳闘士】ハシャーナ・ドルリアがその拳の持ち主だ
「チッ!てめぇ汚ねえぞ!」
「汚いのはどっちだ、人の金を不当手段で巻き上げようなど言語道断、恥を知れ」
「卑怯だぞー!」
3人纏めてずりずりと引き摺られながら、与太者達の負け犬の遠吠えが響くのだった。
「……あ、君にも話を聞かせてもらいたいので、同行願いたい」
「はい、わかりました」
そしてハシャーナと名乗った男の後ろを着いて歩き、辿り着いた先は趣味の悪い巨大な建築物、マイクラで散々に見てきたからわかる、それは人を象ったものだ。
「ここがガネーシャ・ファミリア本拠地、『アイ・アム・ガネーシャ』だ」
「……うわ……趣味悪っ」
「言ってくれるな、俺達も苦労してるんだ」
巨大建築物はよく見ればインド系中年男性の姿らしく、しかも股間に出入り口があるまさにクソ仕様
無性に抵抗感を覚えながらも思考を無にして追従するスティーブだった。
「溶鉱炉ヨシ!バイオ生成機ヨシ!丸石製造機ヨシ!エネルギーリアクターヨシ!」
箱型のさまざまな機械を並べて、指差し確認を終える現場7878は、バイオ生成機と呼ばれた緑色の機械に山のような苗木を放り込み、溶鉱炉には石炭と鉄を投入する。
「銃弾ヨシ!EMCヨシ!ダークマターヨシ!」
次々に制作されていくアイテムら、本来ならば資源を集積し、錬金によって等価交換して初めて手に入れられるような上位素材を無数に手にした彼女の姿は一種異様であり、実際ゲームシステム的にも異様だった。
7878はとある装置によって時間リソースを価値へ変換し、具体化する事で高価なアイテムを大量に手に入れることに成功していたのだ
その名もEMCコレクター、太陽光パネルのように強い光を受けることで
「オレは言った、金あれ、すると金があった」
生み出された錬金物を金や銅などの金属に変換し、それらの量を嵩増しして消費する
マシンケーシング、金属歯車、被覆ケーブル、さまざまな用途に使われるパーツ達を直接錬金して生み出すことで時間コストとストレスを削減しているのだ。
「金型よし、乾式製錬炉設置完了、パターンチェストよし、受け鉢よし、準備OK!」
今度は巨大な黒い箱型機械を創り出した彼女はそれに素材アイテムを次々に投げ込んで溶かし始めた、そう、それは超高温のマグマを利用した溶鉱炉
ティンカーズ・コンストラクトによって追加される金属加工・合金作成用の大型装置だった
乾式製錬炉とも呼ばれるそれに鉄や鈴を溶かし、混ぜ合わせて合金にしたあとは金型に注いでインゴットとして取り出す
金銀銅錫と言った金属や黒曜石、エメラルド、レッドストーン、さまざまな鉱物を利用した道具・機械が速やかに組み上げられていった。
紙に結ばれた黒曜の刃先、柄は青銅色に鈍く光り、その異常性を喧伝する
最終的に形を成したそれはダイヤモンドを上回る採掘レベルを有する黒曜石のツルハシである。
「よし、完成!こいつの名前は……ピノキアだ!」
カンカンカンと金槌で叩く音、ツルハシの鎬に彫り込まれた銘は【pinocchia】
「性能は上々っと……さーて、っと、なんもすること無いな、あ''〜肩痛ぇ」
血流が悪いのか全身痛い痛いと言いながら7878はベッドに転がった。
「俺が、ガネーシャだ!」
「はぁ……」
「気にするな、ガネーシャのコレはいつもの事なんだ」
「そっすか……」
気のない声を上げながら事情を説明する事にする
どうも『神』には嘘が通じない?という話らしく、嘘判定機としてその能力を活用する事もままあるらしい
それでいいのか神。
「私はスティーブ、採鉱技師です、バベルで手持ちを換金して通貨を得ようとした時に彼らに遭遇し、強奪されそうになったところをハシャーナ殿に助けていただきました」
「……嘘は無いようだゾウ!」
「まったく気の抜ける神だ」
「ではもう帰って良いだろうか……いや帰る場所もないが」
ガネーシャと呼ばれた神、インド神話に出典があるその名を把握していたスティーブはあくまで礼を持って答え、ガネーシャも神としての己のスタンスを提示する。
「帰る場所がないというのなら、ウチに泊まっていくといい
幸い空き部屋はあるからな」
「帰る場所がない?どういう事だ?」
「私はついさっき外から来た旅人、此処には事故で事情を負って金を稼ぎに来たに過ぎませんし、私達に帰るべき家はありません」
ガネーシャの問いに思案を重ねながら答えるスティーブ
『事情』の部分に随分な物事が纏められているが、そこはそれだ。
「なるほど、ならば一つ提案をしよう
オラリオに、いやガネーシャ・ファミリアに来ないか?」
「私は旅人、根無草だ、しかし私にも共に此処に来た友が居ます、私の一存で帰るべき場所を定めることは出来ない」
スティーブはガネーシャの象頭を見据えて、その視線を見返しながら言葉を返した。
「今度友を連れてきます、そのお話はその時に」
(待ってまずは顔を隠させろ)
どことも言えぬ遠くから彼女の声が聞こえた気がした。
その晩、案内を任されたガネーシャの
サポーター:トネリコ・ジキタリスに導かれ、スティーブはホーム内を散策していた。
「そろそろ夕飯時ですねぇ、ご飯食べに行きます?」
「良いんでしょうか?部外者ですが」
「もちろん、一般にも開放していますから
これもガネーシャ様の神徳ですよ」
ガネーシャはインド神であるから、建屋内もインドの寺院風な所が多い
そのため食事に関してもインド風なのではないかとも考えていたのだが、オラリオがアメリカ的な多人種・複合文化の都市であった事から食事は割と多岐に渡り
見覚えのある日本風料理も用意されていた。
「ここはオラリオ最大級の派閥ですから、人数も多いんです、なので料理人を雇ったりもしているんですよ、スティーブさんはどれにします?
私はコーヒーと白パンにじゃが丸君塩胡椒味です」
「ウドンにしようかな」
見慣れぬその文字、
「それだけで足ります?私はあんまり食べるタイプじゃありませんけど、男の人ってお肉ばっかりたくさん食べるイメージした」
「僕は……ステーキを3枚とか平らげることもあるけれど、林檎一つ齧って済ませることの方が多いかな」
「そうなんですね、そんなに融通が効くなんて知りませんでした」
「そう?僕より融通利く奴を知ってるからか普通に思っていたよ、それよりコーヒー冷めるよ」
黄金のさしすせそをそこかしこに挟んでくる彼女に若干辟易しながらうどんを食べ切るスティーブ。
「あの、スティーブさんは」
「僕を相手に謙る必要はないよ」
スティーブがインターセプトを入れると、彼女は言葉に詰まる。
「で、なんだい?」
「はい、スティーブさんはファミリアの入団、断ったんですよね
今はフリーなんですか?」
「……僕は恩恵を持っていない、その意味で言えば未所属だね」
「恩恵だけでも貰っておこうとかは思わなかったんですか?」
「誠実さに欠ける行いだね
恩を受けたら恩で返すものだろう?」
「……そうですか」
彼女の声は急激に冷え込み、そのまま興味を失ったように黙り込む。
「明日、僕は此処を出る、そして外へ……アウスヴォワテュールへと帰る、そしたらもう会うことも無いだろう
言いたい事があるならば言うがいい、それが君の為だ」
「……無駄に紳士ぶる人、嫌いです」
「そりゃあ悪かった、謝罪をしよう、金の林檎で足りるだろうか?」
怒りが故か、彼女の唇は次第に滑らかになり、やがて思考の速度を上回る。
「不和の源なんて要りません、大体貴方なんなんですか?!
オラリオに於いて、冒険者の格は見た目では決まらない
誰も彼もがケンシロウのような体格をするわけではなく、
そのため、見た目から冒険者の実力を量ることは困難であり
その指針としてしばしば武器が用いられる。
冒険に於いては基本的に、使い手の能力値に相応しい武器が用いられるため
武器や防具の使い込み方から冒険者としての年季を、その格から能力値を、おおよそ見てとることが出来るのだ。
「ただの人間だ、と言っても気はすまないのだろうね……それと、この剣はたくさん作った量産品だよ」
磨き抜かれた鉄の直剣は一見業物のように見えるが、実際の攻撃力はそう高くはないものだ。
「これは修理した痕跡が残っているから、高値では売れそうに無いし
ただの直剣なんてそうそう使うものでも無いだろう?だからただ持っているだけのものなんだ
僕自身、実戦となればもっと良い武器を使うしね」
故に、それを知るスティーブにとっては当たり前の感想なのだが
彼女の基準では違ったらしい。
「もっと良い武器?恩恵もない人が!?舐めないで下さいよ!冒険者の端くれでもないくせに!」
「……そんなに喧嘩がしたいのか?やけに突っかかるじゃないか」
彼女と共にガネーシャ・ファミリアのホームに備えられる運動場へと移動する
ステイタス更新後の慣らしや訓練などに用いられる一般的な運動場である。
「じゃあ、模擬戦をしようか、僕はこの木刀を使うよ、君はどうする」
「私は槍です……行きますよ、恩恵のあるなしの差……冒険者の力を見せて差し上げる」
彼女の目はいかにも攻撃的だ。
「無銘刀『木偶』抜刀」
対して深く腰を落としたスティーブの目は澄み渡り、ただ彼女を見据えていた。
「はぁぁっ!」
冒険者の最低限である、『
彼女に宿った神の恩恵は強化をあまり受けていないが
それでも常人との間には天と地の差がある
目にも映らぬ速度で出走した彼女の突撃は容易くゾンビやスケルトンを貫くほどの力を発揮して
その瞬間、ひらめく木刀の一撃に迎え撃たれた。
「硬い!?」
「……」
腰を落とした姿勢のまま刀を振り抜いたスティーブは既に鞘へと刀を納め直した後であり
彼女が再び突進するのを待ち構えているように見える。
「ふっ!はぁぁっ!」
右足からの踏み込み、突きを躱されることを想定して左への切り払い、さらに回転薙ぎ
連続攻撃を仕掛けるサポーターに対して、スティーブは抜刀と納刀を繰り返すのみでそれを捌いた。
武器種:カタナを追加するMOD・
その最初の一振りたる無銘刀木偶
それを握ったスティーブは、ただそれだけで剣豪の領域へと至っていたのだ、弾かれたところで無理もないことだろう。
「まずい……!」
彼女が冒険者として培ってきた直感が警鐘を鳴らす
高速連続攻撃は多くの敵に対して有効だが凌がれれば体力を消耗し足が止まる
その隙を狙われれば命はない。
「ハッ!」
最後の薙ぎを放った直後、余力で地面を滑走するように後退し距離を取る
しかし、わずか2m程度の距離など、抜刀剣の前には無いも同じ。
槍を体の前に置く防御の構えをとった彼女の胴体に直撃する木刀
抜刀剣の特徴の一つである防御越しのダメージだ
そして体の浮いた彼女を秒間12連打で打ち据え続ける連撃
レベル1には到底見切れぬ神速の抜刀術によってサポーターの少女はノックアウトされるのだった。
「医務室を先に聞いておけばよかったな……」
あまり大きな怪我はさせていないはずだが、僅かに心配になったため、彼女を抱えて歩き出すスティーブ。
「すまない、この子と模擬戦をしていたらうっかり気絶させてしまったんだが、医務室を知らないか?」
「ネリーと模擬戦を?随分珍しいね、医務室なら一階の東側にデカいのがあるよ」
通りすがりのアマゾネスさんに話掛けると、彼女を引き受けてくれるとの事なのでそのまま彼女を渡す
エルフのサポーターさんをいつまでも野郎が抱えているよりはマシだろうという配慮だ。
武器をしまっておくのを忘れて腰に差したままだった刀をインベントリへと戻し、スティーブは足早にその場を去った。
一話あたりの文字数は
-
多い
-
少ない
-
これくらいが良い
-
私に良い案がある