チート勇士、貞操逆転世界にてダンジョンに挑む 作:ナイスウッホ
ステータスの更新を終えて。
「で、どうだった?」
「ううん、ダメだった……」
どうやら彼女のジョブは変わっていなかったようだ。神殿から出てきた瞬間のしょんぼりとした足取りと雰囲気で薄々分かってはいたが。
「今目指してるのって精鋭魔導士だよね?」
「そうね。まずはそこを目指してるわ。今週は5回もダンジョンに潜ったし、そろそろ経験値が溜まっていると思ったのだけど……」
精鋭魔導士とは、現在のジナの魔導士(☆2)の上位ジョブのことだ。レア度は☆3。
一般的には魔力の扱いが上手くなると進化するジョブであると言われているが、精鋭魔導士はスキルによって魔法攻撃に属性を込めれるようになる*1ので、魔法系ジョブ持ちの勇士にとっては最低限の技能が身についているかを確認する一つの指標ともなる。
「ゆっくりレベルを上げていけば、そのうちジョブも進化するんじゃないか?ジナなら大丈夫だよ」
「ん〜……。私ならそのうちジョブが上がることは間違いないと思うんだけど、早く追いつきたいなって」
杖を右手に強く握りしめて、遠くを見ながら彼女はそう言った。その表情には彼女の才能から来る確固たる自信がじんわりと滲んでいた。
ここで追いつきたいと言ってるのは、彼女が組んでるパーティーメンバーにだろう。最近ダンジョンを潜るときは、俺、ジナ、そして聖職者と騎士の4人パーティーの場合が多い。当然のように2人とも女性であり、今日もこの4人でダンジョンに潜る予定だ。
その2人のうち、聖職者の名前はディタルジナといい、銀髪ロングヘアでおっとりとした性格が特徴的である。彼女の持つジョブ「精鋭聖職者」はレア度☆4の二次ジョブであり、彼女は女神教会でも新鋭の若手として知られている。
そして所持スキル(「精鋭聖職者」の固有ジョブ)である「神聖な光輝」*2には、俺も何度も助けられた。これがダンジョン攻略にヒール・バッファー役が欠かせないと言われる所以だ。
ダンジョンには巨石が降ってきたり、矢が降り注いだり、落とし穴が掘ってあったりするシンプルな物理罠から、足を踏み入れた時点で毒や呪い、魅了や混乱といった搦手を仕掛けてくる悪辣な罠も存在する。
それ故に、ヒール・バッファー役をこなしてくれるディタルジナ、俺たちはディーと呼んでいる、には感謝が絶えない。
いつも助かってる……んだけど、見た目の清楚さにかこつけて無知を装って夜這いをかけてくるのはやめて欲しい。
「私のことが嫌いなのですか……?」とか甘く透き通った声で上目遣いしても無駄だからね??それで貞操を捨てるってなるのは何となく釈然とこないので……。(童貞故のこだわり)
可愛い女の子とイチャイチャおせっせは勿論したいんだけど、チョロいと思われるのも嫌だからね。
そしてもう1人の騎士、クーデリカは、ピンク髪のむっつりポニーテールであり、彼女もギルドに派遣された騎士として腕を鳴らしている。
時たま下ネタを言って滑り散らかす以外は、騎士団所属の勇士として魔王を討伐するという使命に燃えた模範的な勇士だ。本当に下ネタさえ言わなければ……。
彼女のジョブはレア度☆5「騎士」であるが、「騎士」の固有スキル「盾の壁」*3がこれまた強い。効果としてはパーティー全員に『防御』を3配るものであり、これによって「騎士」パーティーメンバーは被ダメージを2回半減させることができる。
しかももう1つのスキル「板金鎧」*4も有用で、戦闘では集団の先頭に立って戦うカチカチのタンク役として、大きな貢献をしてきた。
「じゃあ当分はまたレベルと熟練度上げだね。今日も授業受けてからダンジョン潜ろうぜ」
「そうなるわね!そうだタイガ、今日のダンジョン基礎学の小テストちゃんと勉強した?」
「あたりまえだろ〜?てかあれだけジナに言われてたら嫌でも覚えるって」
「えへへ!単位落として授業別々になっちゃうのは嫌だからね!頼むよタイガ!」
杖を持ったまま両手を合わせてニッコリと満面の笑みを浮かべるジナ。トンガリ帽子から覗くブラウンの瞳に思わず吸い込まれる。かわいい。
そんな彼女には魔法の才能がある。それも10年に1人くらいの天賦の才が。
ジナはその才能を国に見込まれて、リンツ市にある魔法大学に付属している教育機関に特待生として通っている。大学に通っている人は主に才能を持った人とお金持ちの人の2つに大別できるが、国が運営している施設として、実際は前者の人々が多くを占めている。
故に魔法大学に通っている生徒は、ダンジョン攻略のための徴兵を回避できるという実利と共に、多くの人々の羨望を集めることとなっている。
そして俺たちは今日も午後に授業があるので、こうして朝ごはんを一緒に食べてこれから授業に向かおうって訳だ。
ちなみに俺も一緒に講義を受けることになっている。ジナの場合は国の目に留まってこうしてエリート街道を歩いているのだが、俺の場合は聖職者曰く「女神の託宣」によるらしい。どんなことを女神様に言われたんだろうか?
この世界に召喚された時、俺は権力によってガッチガチに行動を縛られることも想像したが、実際はそんなこともなく、こうして自由な生活を送らせてもらっている。
おかげさまで毎日が楽しく充実している。時折男の少ない世界の弊害を感じることもあるが、基本的に男であるだけでチヤホヤされるし──とはいってもチヤホヤされすぎるのも好きではないが──、好きに生きる毎日が誰かに肯定されている気がして、気楽に過ごせている。
女神さまに感謝。俺ってば敬虔な信徒だね。
いつもの道を通り、古めかしい石造りの大学の門をくぐって、ジナと並んで教室に入る。そしていつも座っている一番後ろの列の窓際の席に2人並んで座った。
教室に入る際にいくつかの視線がこちらを向いた。どうやらまだ生徒は半分も揃っていないようだ。
「ひゅ〜今日も熱いねぇお二人さん!」
「おはようリーシャ」
「ふん!おはよ」
丸眼鏡が特徴的な艶のある茶髪を一つにまとめた女の子が、俺たちを囃し立てながらスッと俺の左隣の席に座り、そしてわざとらしく身を寄せてきた。
ふわりと良い匂いが香る。そして左腕にむにっと柔らかい感触。
あの、当たり前のようにおっぱい当ててくるのやめてもらっていいですか?
彼女の名前はリーシャ・クノール。何かと俺たちに絡んでくる女の子である。例に漏れず乳はデカく、大学のローブを押し上げて存在感を主張している。
リーシャは被っている魔女帽子をくい、と指で持ち上げながら話しかけてきた。
「今日のダンジョン基礎学のテスト、勉強してきた?」
「うん、多分満点近く取れると思う。ジナが教えてくれたおかげでバッチリだよ!」
この会話の件さっきしたんだよな……なんて思いつつも、ジナの左肩にポンと手を置きつつ視線を合わせて答える。
「ふーーーん、そっか。あ、そうだ!私ちょっと不安なところがあるから教えてもらってもいい?」
「ん、いいよ。どこが分からなかった?」
「ちょっと、よくないわよ!それなら私が教えたっていいわよね?」
ジナがすごい勢いでその場で立ち上がった。それに呼応するようにリーシャも弾かれたように立ち上がった。そして数秒間睨み合ったと思ったらそのまま手を取っ組みあった。
「あんた邪魔だよ!」
「そっちの方が邪魔よ!」
今日もこの2人の間でバトルが勃発している。
ギャアギャア騒ぐ2人に挟まれつつも、俺は机に目を落とし、テスト前最後の仕上げとして暗記分野の確認をするのだった。