鬼神と呼ばれた男   作:鬼人

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第十三話:地獄の合同修行・前編

キャプテン・クロとの暗闇での遭遇から数日。

「鬼神海賊団(きしんかいぞくだん)」の船は、東の海(イーストブルー)の航路から大きく外れた、切り立った断崖絶壁と険しい山岳が連なる孤島――通称「鬼の爪痕」と呼ばれる無人島に投錨していた。

17歳となったギンは、断崖の上に仁王立ちし、眼下を見下ろしていた。

甲板や海岸線には、汗と血に塗れて倒れ伏す仲間の姿がある。16歳となり一層肥大化した「鉄壁」のパール、元海軍の航海士(こうかいし)カルロス、そして怪しい試薬の小瓶を抱えた船医(せんい)Dr.ガルシアだ。

「おいおい……正気かよギン。海賊の修行っつうから、組手か何かかと思えば……こんな地獄みてぇなメニューを毎日やらせる気か?」

カルロスが砂浜に大の字になり、荒い息を吐きながら煙草に火をつけようとするが、震える指先ではライターの火すら上手く点かない。

「ハァ……ハァ……! 激しい筋肉の断裂、乳酸の異常蓄積! 素晴らしい、実に刺激的な臨床データが得られますが……私自身が死んでしまっては解剖も研究もできませんよ!」

ガルシアも青ざめた顔で白衣を乱し、地面に這いつくばっている。

二人ともただの裏社会の人間だ。普通の船員ならとっくに逃げ出しているレベルの負荷であった。だが、ギンは表情ひとつ変えず、二本の鉄球トンファーを背中に回して冷徹に言い放つ。

「東の海を飛び越え、偉大なる航路(グランドライン)、そしてその先にある『新世界』を目指す。……その意味が分かっているのか?」

ギンの一言に、海岸の空気が凍りつく。

「あそこは『常識』が通用しねぇ海だ。銃弾一発で沈むような雑魚、気候の変化に対応できねぇ航海士、戦場で自分を守れねぇ船医……そんな奴らは、死線に踏み込んだ瞬間に肉片すら残さず消し飛ぶ。俺の船に乗る以上、生き残るための『最低限の強度』を身につけろ」

「ヘッ……! 言ってくれるじゃねぇか、ギンよぉ!」

ガツンッ! と凄まじい金属音を響かせ、重装甲を纏ったパールが膝を叩いて立ち上がった。全身から湯気のような汗を吹き出させながら、血走った眼光でギンを見上げる。

「カルロスもガルシアも、音を上げるのが早ぇんだよ! 俺はこの1年、ギンのスパルタで毎日死にかけてんだ! ……だがよギン、俺の『鉄壁』は確かに強くなったが、お前の鬼神衝(きしんしょう)を完全に防ぐにはまだ何かが足りねぇ。……教えろ、俺はどうすれば『最強の盾』になれる!?」

パールは15歳の頃、ギンの鬼神衝(きしんしょう)によって内部から打ち砕かれた敗北の記憶を、1秒たりとも忘れていなかった。ただ固い鉄を身に纏うだけの「鉄くず」から脱却し、誰の手にも破れない絶対の盾になること――それがパールの狂信的な執着となっていた。

ギンはパールの前に降り立ち、その分厚い胸甲を指先で弾いた。

「お前の『鉄壁』の欠点は二つだ、パール」

「……二つ……!?」

「一つは、衝撃の受け流しだ。いくら外側の鉄板を頑丈にしようが、衝撃波や内部破壊の波動をお前自身の筋肉と内臓で『固直して正面から受け止める』からダメージが突き抜ける。力を一点で受けるな。全身の筋肉をしならせ、受け止めた衝撃を『地面』と『背後』へ逃がす術を覚えろ」

「衝撃を……逃がす……!?」

「そしてもう一つ――『攻撃への転化』だ」

ギンはトンファーの柄を握り、低く身構えた。

「防御ってのはな、ただ耐えるためのもんじゃねぇ。相手が全力を叩き込んできた瞬間こそ、敵が最も無防備になる刻だ。お前のその体躯、その鉄具、そしてお前が感情を昂らせた時に放つ『炎』――それらを全て『カウンターの爆発』として叩き込む重装甲アタッカーになれ」

「重装甲……アタッカー……!」

パールの目が、興奮と熱量でカッと見開かれた。

ただ耐えて自慢するだけの防御ではない。相手の最大威力を受け止め、それを何倍もの火力として返り討ちにする戦術。

「行くぞパール! 太陽が沈むまで、俺の鬼神衝(きしんしょう)を受け続けろ! 衝撃を逃がせなければ、今日もお前の内臓が破裂するぞ!」

「叩き込んで来いッ!! 俺の『鉄壁』を見せてやる!!」

ドーーンッ……!!

無人島に、地動を震わせる凄まじい衝突音が炸裂した。

ギンが放つ連撃の鬼神衝(きしんしょう)。鉄球がパールの巨大な丸盾に叩きつけられるたび、衝撃の波動がパールの身体を突き抜けようとする。

「グガァッ……! つ、強く握り締めるな……! 衝撃を膝から……足裏へ……地面へ流す……!」

ズズズ……ッ!

パールの足元の岩盤が、逃がされた衝撃によって蜘蛛の巣状に砕け散る。

最初の10打までは、内部破壊の余波で血を吐いていたパールだったが、数十打、数千打と叩き込まれる中で、次第にその足腰と筋肉の使い方が変貌を開始していた。衝撃を一点に留めず、身に纏う鉄具全体へ振動を分散させ、地面へと打ち逃がす――感覚が、極限の死線の中で研ぎ澄まされていく。

「フハハハ! 見ろカルロス! ガルシア! 衝撃が逃げていくぞ! 俺の『鉄壁』が本物になっていく!!」

その凄惨な修行風景を、海岸で見ていたカルロスは煙草を吐き捨て、苦笑いを浮かべた。

「ハッ……イカれてやがる。17歳と16歳のガキがやる組手じゃねぇぞ」

「ですがカルロス、あのギンの打撃……外傷を与えずに内部を破壊するあの波動、解剖学的に見ても異常な域に達しています。そしてパールも……あの連撃に耐えることで、細胞レベルでの頑健さが向上している」

ガルシアは眼鏡の位置を直しながら、怪しく目を輝かせた。

「……カルロス、我々も『船の足』と『船員の命』を預かる身です。足手まといとしてあの二人に切り捨てられたくはありませんね?」

「チッ……言われなくても分かってんだよ! 元海軍の意地があるんでね、あの化け物船長に『航海士が倒れて船が進まねぇ』なんて言わせてたまるかよ!」

カルロスは落ちていた重い木箱を担ぎ上げ、走り出した。ガルシアもまた、自らが調合した強壮剤を口に含み、自身の肉体改造へと取り組む。

「そうだ、その意気だ」

連続打撃の手を緩めず、ギンは心の中で静かに笑った。

(悪魔の実の能力を持たない我が『鬼神海賊団』が、グランドライン、そして新世界で四皇や海軍大将と渡り合うには、基礎肉体と戦術の融合が絶対だ)

パールの「鉄壁+衝撃逃がし+炎カウンター」。

カルロスの「東の海の荒波すらねじ伏せる操舵術と体術」。

ガルシアの「毒・薬物を用いた戦闘補助と死線からの即時蘇生」。

そしてギン自身――二本の鉄球トンファーによる鬼神衝(きしんしょう)の精度を上げ、肉体を超越した『武装色(ぶそうしょく)』と『見聞色(けんぶんしょく)』の二大覇気を完全覚醒させること。

「まだまだ甘ぇぞパール! 衝撃を逃がしたら、間髪入れずに炎を纏って殴り返して来い!」

「オォォォォッ!! 『鉄壁のファイヤー・アタック』だぁぁッ!!」

ゴオオォォッ!!

無人島に巨大な炎の渦が巻き起こり、二人の死闘は夜が明けるまで延々と続くのであった。

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