pixivで以前投稿していたものを投稿しました。
ここはどこかの地方のどこかの森。森には様々なポケモン達が住んでいる。ある夜、1台のトラックが森の中を爆走していた。トラックがガタゴトと揺れるたびに荷台から何か声が聞こえる。
「よしよし。今日も大漁だな」
トラックを運転する男は運転席からチラリと荷台を横目に見るとほくそ笑んだ。
男は密猟者だった。ポケモンをモンスターボールで捕まえず必要以上に傷付けて捕獲し、そのポケモンを別の場所で高値で売り捌くのが彼の仕事だ。その過程で出る被害などお構い無しに……だ。
男は森で捕獲したポケモン達を運んでいる最中だった。そんな時にふと小さな火が浮かんでいるのが見えた。男は訝しみながらトラックを一時停車させると運転席から降りる。
そして、取り出した懐中電灯を当てるとそこには……お尻の炎が特徴的な小猿のようなポケモンがいた。
「こいつはヒコザル……か?そういえば、ここはヒコザルが多く生息しているんだったな」
ヒコザルは男を見ると怯えた表情を浮かべ、少しずつ後ずさり距離を取ろうとする。男は折角なのでこのヒコザルも捕まえることにした。
「まぁ良い。ついでにこいつも頂くか。他の地方なら高く売れそうだしな」
男はそう言って下卑た笑みを浮かべるとヒコザルに近付いた。しかし、夜で周りが暗くなっていたため男は気付いていなかった。そのヒコザルの近くの土に
「よしよし大人しくし……うわあぁぁ!!」
男は落とし穴にはまってしまった。穴は大して深くはなく這い上がれない程ではないが、少し時間がかかる。穴の上ではヒコザルの喜ぶ声が聞こえる。ヒコザルに騙されたことを悟った男はカッと頭に血が上った。
「クソが! あのクソ猿が人間様を舐めやがって!! すぐとっ捕まえて……ぐあぁぁぁ!!」
男は悪態を吐きつつもなんとか穴から這い上がったその時、炎が勢い良く自分に向かって吹き出して来た。男は髪などあちこちが焦げながらも周囲を見ると、あることに気が付いた。自分の周りのあちこちに様々な大きさの火が無数に浮かんでいるのだ。
その中でも特に大きな火が男に近付いて来た。
正体はヒコザルの最終進化系、ゴウカザルだ。しかし、唯のゴウカザルではない。自分よりも図体が大きく、2mは軽く超える程の大きさだ。周りにいる他のゴウカザル達は1.1m程度なのでその異様さはより際立っている。恐らく、いや間違いなくこのヒコザル達のボスなのだろう。
男は咄嗟に腰に下げているモンスターボールからポケモンを出そうとした。しかし、相手の方が遥かに上手だった。
男の周りにいる火......ヒコザル・モウカザル・ゴウカザルの群れが男に一斉に襲いかかったのだ。男からあっという間にボールを奪い取ると開閉ボタンを壊してポケモンを出せないようにしてしまう。その内の1匹は壊れたボールを男の手に届かない場所へ投げ捨てる。
男は必死に抵抗するもののヒコザル達に身動きを封じられてしまう。そして、ヒコザル達は男の手足に炎技を容赦無く浴びせていく。ゴシャッという痛々しい音まで聞こえる。
「ぐぎゃああぁぁ! 熱いっ、熱いーーー!!」
男はもがき苦しむがヒコザル達の攻撃は緩むことがない。
「ゴウッ!!」
その時、ずっと静観していたボスのゴウカザルが鳴き声を上げる。すると纏わりついていたヒコザル達は男から離れ始めた。
男はその隙に逃げようとするが、手足に直接炎技を受けたせいでまともに歩くことが出来ない。骨も折れているようだ。ボスのゴウカザルは一瞬で間合いを詰めるとまず男の腹に“どくづき”を食らわせた。それにより男の身体には毒が回ってしまい、立つことすら出来なくなってしまった。
それでもゴウカザルの攻撃は止まらない。男の身体に容赦無く“インファイト”を叩き込んでいく。ゴウカザルはヒートアップしているのか止まらない。男は禄に抵抗も出来ないまま、殴られ蹴られ蹂躙されていく。
最終的に男はピクッピクッと痙攣させながらも殆ど動けない状態にされてしまった。
「ゴウッ!」
部下のゴウカザル達がボスのゴウカザルに呼び掛けた。ボスのゴウカザルが振り向くとそこには荷台が乱暴に壊され、無残な状態になったトラックがあった。中には捕まっていたポケモン達の姿はなく、もぬけの殻となっていた。どうやら部下達はポケモン達を全員無事に逃がせたようである。
ボスのゴウカザルは瀕死の男を勢いよくトラックへ投げ飛ばし、トドメに“かえんほうしゃ”を放とうとするがすぐに思い直して止めた。森の中でそんなことをすればどうなるのか思い至ったのだ。
ボスのゴウカザルはつまらなそうに、物足りない表情を浮かべながら闇の中へ消えて行った。部下のヒコザル達も彼に続いて闇へと消えて行く。
ーーーーーーーーーー
翌朝、森の近くにある保護施設の職員達が変わり果てた姿の男を発見した。この森に住むポケモン達の様子を確認するためのパトロール中のことだった。近頃、密猟者が出入りするようになったため、それを防ぐための対策でもある。
「これは酷い……」
「いくら相手が密猟者だからってむごいな……」
職員達はこの惨状を見て思わずそう呟いた。
彼らは男やトラックの周囲に無数にある足跡からこの惨状を作った犯人が誰なのか気付く。更にその足跡の中にある一際大きいものを見付け、彼らは愕然とした。
「……なぁ、この足跡ってもしかして“ブラット”のものじゃないか?」
「え? そんな……まさか……」
職員達の脳裏にはある1匹のゴウカザルの姿が浮かんだ。
ブラットというゴウカザルが保護施設にやって来たのは今からおよそ1年半前のことだった。ある1人のポケモントレーナーが自分のゴウカザルを預けて欲しいと頼んで来たのだ。
そのトレーナーの話によるとこのゴウカザル、ブラットは元々ヒコザルの頃に密猟者によって捕まってしまい酷い目に遭わされていたらしい。トレーナーが出会った頃には傷だらけでガリガリに痩せ細っていたそうだ。トレーナーはその様子につい見ていられずにそのヒコザルを買い取り、育てることにしたらしい。
トレーナーはそのヒコザルを“ブラット”と名付けて大切に育ててゴウカザルにまでに進化させたのだが、その成長が異常だった。どういう理由かは分からないがドンドン大きくなり、通常のゴウカザルの倍近くの大きさになってしまったのだ。ブラットはバトルではかなりの強さでジム戦などのバトルでも負け知らずだったそうなのだが、他の手持ちのポケモン達とは折り合いが悪くトラブルを起こすこともしばしばだったらしい。おまけに力も強いためポケモンやトレーナーである自分に怪我を負わせることも少なくなかった。
そのため、トレーナーは泣く泣くブラットを手放すことにしたらしい。トレーナーは施設の職員に頭を下げてブラットのモンスターボールを渡すと去って行った。
それからブラットは施設で過ごすことになった。施設内で同じように保護されているヒコザル・モウカザル・ゴウカザルの群れの中でもあっという間に頭角を現し、ボスの座に就いた。トレーナーに育てられていたためか人にも慣れ、人懐っこい態度を見せるブラットは職員にとって信頼出来るポケモンだった。
しかし、そう思っていたのは職員だけで、ブラットの胸の内は全く違っていたらしい。今から3ヶ月程前、ブラットは保護施設を脱走した。施設はポケモンを盗もうとする者達から守るために厳重にロックされており、扉を開けるための順序も人間でも手間取る程複雑になっている。
職員達にとって誤算だったのは、ブラットが力だけでなく知能も他のゴウカザルよりずっと優れていたということだ。ブラットは毎日職員が取る扉の解除の手順を見て覚え、自力で脱走したのだ。更にブラットはその際に部下のヒコザル達20匹を引き連れて出て行った。
勿論、脱走せずに大人しく施設に残ったヒコザル達も多くいた。彼らは分かっていたのだ。人間に飼い慣らされたポケモン達が野生で簡単に生きていけるはずがないことに。
彼らの考えた通り、脱走してから3ヶ月の間、施設に自分から戻って来たヒコザル達は何匹かいた。しかし、ブラットを含めた数匹は未だに戻って来なかった。
職員達はブラット達は無事に野生に戻って平和に暮しているのではないかと楽観視していた。だが、それは大きな間違いであることを悟った。
その後、職員達は警察の手を借りてブラット達の捜索を行ったのだが、結局見付かることはなかった。以降、この森は許可が無いと立ち入ることも出来なくなり、保護施設の職員でさえも入れる者が限られるようになった。
「何かにずっと見張られているような気がするんだ」
「視界の隅に火の玉みたいなのが見えることがある」
「今まで何回も入って慣れたはずの場所なのに今じゃ全く別の場所のように感じる」
これらの言葉は森に入ることの出来る一部の職員達のものだ。それを聞いた1人の職員が切なそうに呟いた。
「……ひょっとしたらこれがブラットの復讐だったのかもしれないな」
今でもブラットは見付かっていない。しかし、まだ森の中にいるのは間違いないだろう。
ブラット(ゴウカザル♂)
とある森のヒコザル・モウカザル・ゴウカザル達の群れのボス。2m以上の体躯を持ち、通常のゴウカザルの倍近くの大きさを誇る。バトルが非常に強く知能も高い。それによって群れのボスに簡単になることが出来た。統率力も非常に高く、部下達を自分の手足のように操る(これはトレーナーに育てられた経験も大きく彼の真似事をしている所も大きい)。
非常に獰猛な性格で人間(特に密猟者)に対して執拗なまでに攻撃を行い、大怪我を負わせている。人間のことを完全に見下している。一緒に脱走した施設の仲間だけでなく、森でのヒコザル達の群れも仲間にして1つの大きな群れになった。最初は群れの中でも反発があったが、持ち前の強さや統率力で信頼を勝ち取っていった。
使える技はかえんほうしゃ、フレアドライブ、どくづき、インファイト