龍驤がヤサグレるワンピース   作:HIRANOKORO

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グランドラインってどんなとこ?編
改めてコイツらおかしい


 メリー号にジョリー・ロジャーが付き、順調に妖精さんの巣と化している。

 小器用なウソップを気に入ったようで、常に張り付くようになった。空母である自分だけでは限界があると、ウソップには開発を許している。しかし、建造だけは絶対にするなと釘を刺した。

 約束と誓いは守る男だ。

 麦わらの意匠だけ確認して、龍驤はダイニングに座った。やっとこさまともな船に乗れて、これまで出来なかった日誌を付けようと思ったのだ。

 龍驤の仕事ではないのだが、本人は船乗りらしいことが出来てルンルンである。

 砲声が轟いた。

「なんでやねん?」

 ペンを握った瞬間である。周辺は索敵している。敵船の姿など欠片もない。つまり、悪ふざけである。

 そう判断した龍驤は走り出した。というか、船の進路がおかしい。近くの岩に向かって、巻き付くように近づいている。

 このままでは衝突だ。

「どいつもこいつも」

 不機嫌の極みである。後部甲板では、アホ二人が大砲の狙いを進路右前方に向けている。船首砲あるのに。

 龍驤が飛び上がるのと、砲声は同時だった。そして、着弾と蹴りの炸裂も二人同時だった。

 甲板に船長と狙撃手を沈めた龍驤は、船の進路が岩から逸れて行くのを確認して、ナミを見た。不思議そうに見返されるが、何も言わない。

 何で帆も舵も操作せずに船が進んで、問題ないのか。どうして誰も不思議に思わないのか。

 頭がおかしくなりそうだ。こっちとら異世界人なのだから、まずは異世界の常識を知りたいのだ。転生からこっち、非常識ばかり並べるのは心底やめて欲しい。

 改めて航路を確認すると、ハチャメチャもいいところの蛇行具合であるが、普通の帆船が真っ直ぐ進むよりめちゃくちゃ速い。

「この船、今、何ノット出てんの?」

「さぁ?」

 負けることはないにしろ、危機感を覚える空母。というか、こんな操船で船が保つのか。操船してないけど。

「何すんだ、龍驤!!」

「お、当たった!!」

「ホントか?!」

 ガキどもは無邪気である。ウソップが狙撃手に任命され、まだだったのかと驚いた。

 次は音楽家である。

「なんでよ?!」

「アホか、テメェ?!」

「海で娯楽がないのは地獄やでぇ」

「ほら見ろ。海賊は歌うんだよ」

「微妙に噛み合ってないぞ」

 外で破裂音がした。

「なんだ?」

「賞金稼ぎやないか? 取り付こうとしたんで、沈めといた」

 無名ではあるが、ジョリー・ロジャーを掲げているのだ。近づく船が一般人なわけがない。

「じゃ、大丈夫か」

「あ、泳いで来た」

「ダメじゃねぇか」

 乗り込んで来たのは、ゾロの知り合いだった。さっき砲撃した岩に潜んでいたようだ。偵察漏れである。龍驤は口笛で誤魔化した。

 彼自身に怪我はないのだが、相棒が病気らしい。だから、岩山とはいえ、陸地で休んでいた。

 まあ、上空から岩影の小舟は見つかりにくい。責任を感じて救出に向かった。ちなみに撃った二人もごめんなさいはした。

「脚気やな」

「壊血病でしょ?」

「ビタミンって知ってる?」

「栄養でしょ?」

 何気に日本が誇る大発見なのだが、こちらでも解明されているらしい。戦後の神器である冷蔵庫を前にすると虚しいが。

 本当に文明レベルがわからない。吸飲みにライムを絞って飲ませてやる。

「栄養全開、復活だーっ!!」

「寝とけ」

 ビタミンCはタンパク質の結合に関わる栄養素だ。暴れると本当に危ない。そうならないように、予防が大事となる。

 毎日の食事だ。

 艦娘の中でもまぁまぁ料理に自信のある龍驤だが、食糧の保存、管理、献立やそのローテーションまでは難しい。

 特に失われやすいビタミンをいかに保持して摂取させるかを、軍隊式にやるわけにもいかない。

 船長が常識を外れているし、剣士は航海に関わる仕事だけでなく、強くなるという目的がある。女に生まれ変わってはみたものの、女性経験は皆無。鼻は人類の骨格をしていない疑いがある。

 どうしたって、この世界のプロが欲しい。生兵法で関わる問題とは思えなかった。

 この点は船長も合意した。

 そんなわけで向かった、海上レストラン。何故に帆が付いているのかわからないレベルである。

 船というのは波を越えて進むのだ。当然、揺れる。レストランなので揺れていないのはいいとして、それだと波を丸被りである。つまり、波に流される。

 流されていないのは素晴らしいが、波で動かない船を風で動かせるのか。

 考えているようで、実は何も考えていない龍驤はヤサグレている。わからない。もう、何もわからないのだ。

 そもそも口を開けた魚の顔が船首である。

 船首飾りではない。船首なのだ。エラがないので、ゴボゴボ溺れながら航行するに違いない。尚のこと進まない。

 もはや、オモロイ。

「海軍さんや。お出迎えせぇ」

 とりあえず、後方から海軍のコルベットが来た。流石にスマートだ。龍驤は安心した。

 あの錨の配置は、揚陸用だろうか。大砲よりも、兵を並べての一斉射撃が重視されているのだろうか。広めのバルコニーが、船首、船尾、操舵室の屋上に設けてある。大砲は、メリー号と違って固定式なので、威力は少ないがいちいち狙いを定める手間が省ける。

 どうも、海賊の拠点に殴り込むための船に見える。だとするなら、乗っているのは精鋭かも知れない。

 気を引き締めて待ち受けていたが、出てきた男を見て失望した。ウソップでも完封出来る。肩書も本部大尉だ。モーガンと同格である。

 しかし、ちょっと待って欲しい。

 この一味は非常識なのである。新入りだからといって、ウソップをバカにしてはいけない。妖精さんに好かれている時点でヤバいのだ。

 もしかして、龍驤の目が曇っている可能性もある。なにせ、転生してから出会う人も出来事も非常識極まりない。だとするなら、目の前のコイツこそ基準に考えるべきなのではなかろうか。

 そう、大尉というのは偉いのである。学校なら学年主任。会社なら部長とかである。とにかく、複数の部隊をまとめる立場にある人物だ。

 人手不足のこの世界だと、基地司令まで任される人材である。

「末期やん」

 恐るべき気づきである。そんな気はしてたが、やはりこの世界、詰んでいる。物語なら、似たような立場の主人公が大逆転で戦況を巻き返していく場面である。

 ちなみに、そんな現実はなく、龍驤は舵を踏んでいる。

 仕方がないことだが、そもそもメリー号は海賊船ではない。遊覧船というか、金持ちが舟遊びをするための船である。

 よって、舵は舵輪ではなく、レバーである。

 なんでここをケチったと思わないでもないが、説明を聞くに、羊だか執事だかの趣味である。マニュアルとオートマみたいなもんだろう。

 舵輪と違って細かい動きが出来ないということは、雑で大きな動きは得意ということである。

 ちょっとでもマシにしようと、足でも操作可能に改造された舵は、龍驤の意思を正確に船体へ伝えた。

 ナミでなくともこれぐらいは出来ると、気合いを入れて膨らんだルフィをスルーして、砲弾を避ける。メリー号の右手に水柱が立った。

「危ねえな?!」

「ヤロウ、やりやがったな!!」

「やめてー、そいつの向こうにはレストランがあるのよー」

 舵を戻しながら、操舵室からでは届かない警告を放つ。

 帆船は風と、帆と、舵が同期しなければ速度が出せない。速度がなければ、狙いやすくなる。また、側面を向けるか、船首を向けるかでも違う。

 全員がド素人な上、これが初めての海戦である。なまじ、腕に覚えがあるからか、ルフィもゾロも大砲の弾を打ち返そうとしていた。

 非常識以前の問題だ。

 ウソップと賞金稼ぎは慌てているだけだし、ナミは呆れているが、もっと、こう、何に突っ込めばいいのかわからない。

 龍驤はこの世界に適応しようと頑張っている。

 出来れば操船に参加して欲しいとは思うが、あらゆる要素が、真面目に考えるのを阻害した。

 速度を失ったメリー号が捉えられた。大砲が轟き、砲弾がほとんど水平に飛んでくる。

「ゴムゴムの、風船っ!!」

 砲弾は、案の定、海軍の船を飛び越えて、レストランの最上階に着弾する。人死がないことを祈る。

 とりあえず、龍驤は犯人を引き渡すためにロープを用意した。

 

 

 木造船の修理は、妖精さんに任せられる。

 だが、まったく望んでもいないし、心からそうでないことを祈ってはいたが、実際に誰も死んでいないとなるとヤサグレてしまう。

 艦娘は戦艦の性能を持ったヒトガタなのだが、装甲で人間に並ばれると立場がないのだ。

 武装のほとんどが、無効である。

 屋根があったのは確かだが、大砲なのだから直撃でいいと思う。出血は派手だがピンピンしている老人を見ると、異世界に来たのだと感慨が深い。

「なんでぇ、小娘」

「邪魔するでぇ」

 屈強過ぎるコックたちの隙間を縫って、龍驤が顔を出した。情けないもので、相手が女の子となると腰が引けるらしい。

 オーナーを心配して集まって来たはずが、全員逃げ出した。

 同情の余地が欠片もなくて、一味全員に差し出された船長。海賊らしからぬ素直さで、連行されていった。一言も恨み言を漏らさないのはエラいが、放置すると被害が広がる。

 相手の。

「医者の真似事やが、治療しよか。部屋の修理もさせてもらうで」

「な、なんだぁ?」

 ワラワラ部屋を跋扈する妖精さんに、老人は戸惑っている。なにせ、見る間に壊れた家具やら破片が片付けられて、リフォーム見本の図面が広げられ、選べとこっちを見つめてくる。

「好みの選んで。一応、言葉は通じるが要望は通らん。そいつらの提案を飲むか断るかや」

「いや、なんなんだ?」

「詫びやが? いらんなら断ってもええで」

 老人は苦虫を噛み潰した。詫びなら受け取らないのは野暮だ。同時に、それ以上を求めるのは器が小さく見える。

 そして、断ってしまえばそれまでだ。器は示せるかも知れないが、被害は丸被りである。

「そんな意地悪く考えんでもええで。これは一味としてや。そいつ個人の落とし前は、そいつ自身がつける」

「え〜っ?!」

 ルフィは不満そうだが、文句はないらしい。床に正座して沙汰を待つ。

 視線が義足に集中しているのがわかりやすい。

「こいつは元からだ」

「なんだ。よかった」

 どうだろうか。やはり、正直は美徳とは限らない。龍驤は本当に邪魔するつもりはないのか、静かに止血を進める。

「俺はこのレストランのオーナーだ」

 させるがままにしながら、老人がじっとルフィを見つめる。様になる光景だ。ただ、頭の血を処理しているだけだが、つい見とれてしまうほど、自然で気負いがない。

 率いるということが身に染み付いた男と、従うことに矜持を持った女のやり取りだった。

 様式美というのか、機能美というのか、ルフィが背筋を正すほどの威力がある。

 しかし、当の老人はどうしたものかと考え込んでいて、そんなことになっているとは思ってもいない。

 なにせ、チビナスと変わらないようなガキである。若さも未熟さも明白だ。

 そのように相手をしようとしたら、出てきたのが自分と対等に交渉の出来る傑物である。

 確かに、まだまだ手綱も握れてないようであるが、これが見込んだ男だと思うと、背筋も伸びる。舐めてかかるわけにはいかない。

 かといって、未熟なのは確かなのだ。チビナスがそうであるように、道理が通るとは限らない。

 余所の子なので恥をかかせるのは気が引けるが、かといって遠慮し過ぎてはこちらの面子も立たない。

 どこで塩梅を測るのか、難しい。

 そんな風に集中する環境を、頭に包帯を巻きながら整える龍驤は、最高に美少女である。

 生まれ変わって一番ぐらいに、内心ドヤっていた。

 まだ0歳。誰よりも未熟だったりする。

「お前、金は?」

「一味からは出さんぞ」

 口を開いたルフィは、言葉も発せられずに息だけ吐いた。

 船長なのに把握してないのだ。自分の取り分すらわからない。答えがないのだ。要求も出来ない。

 老人は困ってしまう。

「金がないなら働くしかねぇな」

「そうだな。ちゃんと償うよ」

「言ったな? じゃあ、一年間の雑用ただ働き。それで許してやろうじゃないか」

「イっ?! 一年?!」

 まぁ、それからは酷いものだ。ヤクザ者の落とし前としてはそれなりに優しい類ではあるが、ルフィはこの旅に命をかけている。一年もの期間を無為に過ごすのは耐えられない。

 不義理なのも、何もかもわかってはいるだろうし、それを力で押し通そうとはしないが、言うだけならタダである。ワガママ放題だ。

 見苦しいといえばそれまでだが、ルフィのプライドはそこにはない。誰に何と言われようと、自由を貫くために海に出たのだ。

 ちょっと前までの荘厳な雰囲気など吹き飛んで、悪ガキと頑固ジジイの言い合いになった。

「よし、決めた。一週間で許してもらうと、俺が決めた」

「決めんなっ、ボケナスぅ!!」

 血圧が心配である。治療を終え、片付けまですませて美少女モードを存分に楽しんだ龍驤は、そこで口を挟んだ。

 ちなみに、部屋は直っている。

「まぁまぁ。そいつ、まともに家事も出来んから、ただ働きいうても迷惑なだけやで」

「そうだ、そうだー」

「雑巾もまともに絞れんし、皿は割るし、掃除は適当やし、サボるし、寝るし、集中力ないし、覚えは悪いし、人の話聞かんし」

「そうだー?」

「厄介は引き込むし、騒動を呼ぶし、約束は忘れるし、まともに働くなんて無理や」

「そっかー」

 いつもは気にしないのだが、なんとなく今日は落ち込んだ。勘違いされているが、ルフィは結構傷つきやすい。ちゃんとしてないというのは、ルフィのコンプレックスなのだ。

 多分、兄弟関係だろうな、と龍驤は把握している。

 だから、もちろんワザとだ。

 本当に酷いヤツである。

「人手が欲しいなら、ウチが代わろう。まあ、あんたらほどやないやろが、それなりに使える」

「いいのか?」

「なんなら、雇って?」

「え? 船、降りるのか?」

 龍驤はルフィの顔を見ず、ただ襟首だけを掴んだ。

「大砲は遊び道具か? 海戦はケンカか?」

「いや、」

「よー考え。そんで、きっちり詫びろ。出来ん器の船長なら、用はない」

 部屋から叩き出す。ルフィは扉に取り付いたが、妖精さんに阻まれて諦めた。というか、また連れ去られた。

 怨霊に引きずられて行くように遠くなる小僧の声と愁嘆場に、老人は言葉もない。

 龍驤は深くため息を吐くと、その場にへたり込み。老人を見上げた。

「常識って何?」

「知らねぇよ」

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