「えっ!? 黄金ないの!?」
「どうかしら? それを確かめに行くの」
三人は、まったくレースとは関係なく、なんなら地下を歩いている。まさに雲間、と言える場所を、のんびりと進む。
迷いなく入り口を見つけて、ごく自然と案内してくれるロビンを訝しくは思うが、なにも言わないでおく。
怖い。
なぜ金が貴重なのか。それは量が少ないからだ。地球では、世界中の金を全て集めても、オリンピックプール四杯分しかないと言われている。
国家予算規模を集めても、都市を覆うどころか、船も造れない。
金が少ないのは、重いからである。重いものは浮かないので、惑星の表面にはない。
地表にないものは採掘出来ない。
それがなぜ、高度一万メートルまで来て、なおも飛ぼうとしているのだろう。
「でも、激しい海流が泥を巻き上げるように、惑星内部の活動が盛んなら、その限りではないわ」
「ああ、ノックアップストリームみたいな?」
「ええ、そうね」
つまり、金が本当に大量にあるかどうかで、世界が滅ぶかどうかわかるということだ。
サンジはゲンナリした顔をする。
「黄金でそんなこと考えやがるのか」
目をベリーにしているナミを素直で可愛いと思う。なんにしろ、金が一杯あったら喜んでいい。一味はみんな、はしゃいでいた。まさか、世界の滅亡に思いを馳せるとは。
異世界人は不思議な生き物である。
まあ、可能性としては、マントルそのものを採掘するような技術があったのかも知れない。ノックアップストリームの吹き出し口は、実は坑道だったとか。
わからない。
なんにしろ地殻に穴を開けて無事なわけないので、技術が失われた以上、世界は滅ぶしかない。
金があればだが。
「いえ、あることはわかってるのよ。大々的に発表してる人がいるもの」
「ああ、あの有名な?」
なんか、全世界の富の二割ぐらいを所持しているらしい。見せつけるように、金もいっぱいあるらしい。
バカじゃないだろか。いや、天竜人が。
どんだけ搾り取られてんだ。為替使えって。でなくても、ベリーはあんだろが。
あと、金あり過ぎだろう。なんなんだよ。マントルどころか、核まで掘り返したか。
金は宇宙規模でも珍しい物質だ。原材料である陽子などの数が多い割に、安定しているからだ。品質が高い。
つまり、作るのが難しい。雑に開闢しても、金にはならない。恒星が死ぬまで練らないと。
宇宙人との貿易にも使える物質である。
よって、あらゆる意味で、大量の金は不自然だ。龍驤が、もはや顧みられなくなったSF技術である、重力制御の存在を疑うぐらいには。
重力バリアも重力砲も、重力エンジンも大好きです。
あと、世界は滅びます。
「いくら金属そのものが貴重な空だからって、黄金で機械を作るのは無謀だわ。銅の代わりにもならない」
「鍋もダメか」
「ゾロにはちょうどいいかもね」
手首が鍛えられそう。
入国の経緯から、空では手に入らないものが欲しいのはわかっていた。だが、アマゾンばあさんの態度からは、貴重なもの、以外への興味は見られなかった。なにも探していなかったし、支払いをする龍驤が迷惑そうですらあった。
法を守ることが目的になっていた。今考えれば、単に生贄にしたかったようだが。
欲しいものがあった、と過去形であるならば、既に目的は果たされたのだろう。
その目的がなにを意図しているのか探れば探るほど、結論が虐殺へ収束していくの、あまりにも夢がなさ過ぎる。
「どんだけ物騒なんだ、あいつの前世」
いや、起こっているのはこの世である。
虐殺が起こるメカニズムは、ある程度解明されている。宗教、共産主義、資本主義など、なんでもいいが、未熟なAIの暴走である。
AIなので、微妙に人間が判断していないか、逆に感情が暴走しやすいスキームが組まれている。一種のプログラムで、ある条件が達成されると、誰にも止められない。進むしかないのだ。
撃たれたら撃ち返すし、魔女は疑われたら死ぬ。
人間なんだから戒律や軍規なんて法律に囚われてないで、裁量を働かせて欲しい。
もう一つが、単なる戦術問題だ。
戦うなら、弱点を狙う。当たり前のことだが、国に関わらず、組織というのは基本的にラインよりもスタッフの方が多い。
三割で全滅という、あれだ。
スタッフは現場の人間ではないため、相対的に弱い。砲兵と歩兵では、得意な距離が違うというレベルで。
相手が強ければ強いほど、そうした隙を狙うわけだが、逆に考えよう。
強い組織は、常に弱い部分を狙われるのだ。
敵が弱ければ弱いほど厄介である。せっかく強いのに、なんか不利なのだ。
で、弱いスタッフ、一般人が虐殺される。空襲がそうだ。日本だけに留まらず、現代の高度に誘導された兵器を使っても、しばしば起こる戦争の伝統と言える。
犠牲者は少なくなったが。
また、弱い敵も殲滅される。話し合いなど無駄だ。強いからだ。弱みを狙われて、妥協など出来ない。
殲滅しきれないと、さらに弱った敵は、さらに弱い者を狙う。
本人たちはまっとうに戦っているつもりでも、お互いが単に虐殺を繰り返すだけになる。
シャンディアは滅びかけている。
今はエネルと戦っているから、なんとか均衡しているだけだ。エネルは待ち受けるだけで、シャンディアに攻勢をかけていない。
働きざかりの男はおらず、年寄りばかりで、若者はみな戦士だ。子供もいない。人数も少ない。
武器は希少資源を使う銃だ。弱いのだ。
翻って、エネルを除いたスカイピアに、戦力はない。エネルに囚われて、ガン・フォールさんとホワイトベレーぐらいしか残っていない。
残っていないが、子供はいるし、人口もある。ダイアルは日常に使えるほどあるし、雲の加工技術もある。
どちらにも弱みがあり、強みがある。強みを生かして、弱点を突いていけば、結果は目に見えている。
シャンディアは戦士だけが生き残り、スカイピアは一般人や子供を殺される。
いずれそうなる。どちらも勝とうとする限り、必然である。
だって、弱点を突くなんて、素人にもわかる常識的な戦術の話なのだ。
よほど常識から外れないと、絶対に避けられない。
残念なことに、ワイパーもガン・フォールさんも、常識的でいい人だ。弱者を守ろうとするだろう。
でもその弱者は、アッパーヤードがないと、やっぱり死んでしまう。
サンジはカッと目を見開いた。
「面倒くせえ!!」
「そうね」
「え? でも、神とかは?」
空にはもう一つ、強力な勢力がある。一番影響力があるはずのそれが、あまり考慮されていないように思う。というか、いなくなることが前提のような。
ロビンはニッコリ笑った。二人はその意味を測りかねたのだが、段々とわかってきた。
「ああ、そうね。そうよね」
「そういや、ケンカ売られてたな」
空島が楽し過ぎて、ちょっと忘れてた。メリーを真っ二つにされてた。
なんだかんだまあ、みんな忘れてるかも知れないけど、忘れてなさそうなのがいる。
エネルの思惑がどうであれ関係ない。やつは空から消える。
というかもはや、神はどこでなにをしているのか。麦わらの一味に限って言えば、メリー以外じゃ邪魔にもなっていないのだが。
「なんだったんだ?」
メリー撃破直後の、騒動である。敵討ちを止めた本人が一番、うらみが深そうだ。みんな動揺していたのは確かだが、なんかこう、誤魔化してたのだけはわかる。
「神って一応、スカイピアの王様でしょう?」
海賊船で言えば、船長だ。船長がケンカを始めれば、その手下というか、配下というか、この場合は住民が巻き込まれる。
巻き込まないよう、色々愉快に画策してたのに。
「いや、わかるでしょう?」
「わかってはいるのよ」
別に、誰かさん以外は巻き込もうなんて、この瞬間になるまで思ってもいなかった。むしろ、巻き込まないことが前提ですらあった。
ロビンは困った顔で、龍驤を擁護する。わかってても、つい弱いところを狙ってしまう。争いを拡大する。
龍驤みたいなのがいるから、虐殺は起こるのだ。
「アホゥめ」
異論はない。身内が面倒くさい。なんでそう、こう、気を回さないといけないのだ。
「海賊なのにね」
ナミとサンジは目をそらした。
そうだった。哲学的には、海賊って雑に住民を巻き込むものだった。
でもそんな、自然に住民を巻き込むという発想には至れない。考えもつかない。むしろ、嫌。
それは海賊としてどうなんだ、という形で議論するのが面倒なので、たまたまそこにいた、ガン・フォールさん以下を引き入れた。味方にしたのだ。
味方なら戦わないから。
龍驤は一味のために弱みを諦めて、むしろ弱みを抱え込んだのだ。めちゃくちゃ要らん手間である。本来なら、麦わらにそんな手続きは必要ない。
仕方がないので、ガン・フォールさんにとっても、有利な形でケンカを収められたら、いいなって思う。
ちなみにアイサは自己責任。モンブラン一族への恩を送ったとも言える。
「海賊ねえ」
「海賊だけどね?」
ルフィとゾロは、そもそも言葉の定義なんか気にしない。名乗った以上は、ありのままの自分で胸を張る。他人など気にしない。嫌なことは、死んでもしない。
海賊とは己のことだ。揺らぐことなどない。
ウソップは海賊と言いつつ理想があって、そっちの方を本当にする。チョッパーはあんまりわかっていない。多分、海賊というものを誤解している。
だが、海賊をちゃんと知っている常識人もいる。立場を考えられる、真面目な優等生もいる。
面倒なのは、龍驤だけではない。ロビンはニコニコ。二人は不機嫌である。
確かに、あそこで間髪入れずにケンカを始めていたら、真っ二つになったメリーの前で、反対していたと思う。知っている海賊にならないように。
コニスや、他の住民を殺さないように。
「物騒だな、ホントに」
空母ですから。戦争の道具である。
本当に困った。海賊という立場で理屈を捏ねて、麦わらの一味としてメリーの仇討ちに龍驤が参加すると、攻撃が雑なので普通にみんなを巻き込むのだ。
仇討ちに参加しない選択はないし、仇討ちなら船長も止めないので、誰も龍驤を制御出来ない。本人さえ。
だから、仇討ちそのものをやめるしかなかった。
少なくとも、艦載機を龍驤が十全に使えるようになって、空島の状況や地理を把握するまでは。
で、把握したら、エネルって重しをどかしていいのかわからないのに、エネルがどっか行きそうだった。
政治が、もう、複雑過ぎて、もう、どうしたらいいかわからない。
せめて、海賊がどう振る舞えばいいか、マニュアルをくれ。
「解説は、諦めてたわ」
「ああ、そう」
別に聞きたいわけではないが。
むしろ、この好奇心の塊が、それを龍驤から引き出していたことが驚きである。
諦めてたのに、聞いたんだ。みんなが酒飲んで、踊ってる横で。
ちょっとかわいそう。
愚痴も零れようというものである。
「え? じゃあ、弱いわたしは狙われるんじゃないの?」
雷、撃ち返してたろう、とは言わない。慌てて周囲を見渡すナミを、二人は生温かく見守る。
神を、素で、弱い敵として見てる。
「どうかしらね?」
「安心しろよ。神ごとき、俺が蹴飛ばしてやる」
恥を知っていたら、自分を恐怖だとか言いつつ、弱い者など狙わないのだろうが、サイコパスなので。
怖いから神だと言われても、よくわからない。怖いのは神でも魔でもなく、怨霊だと相場は決まっている。
神に抱くのは、畏怖の感情だ。敬意とかわかんないのだろう。
人間は神になどなれない。能力がどうとか、こうとかではない。人間はAIのごとき外部装置ではなく、主体であるからだ。
機関説とか言われて、まあそうだよね、とか返すの、ちょっと受け身が過ぎるかも。
人間に戻って下さい。
精緻に分析すれば、うんざりするような空も、龍驤以外にとっては宝の山である。
黄金はあるし、遺跡はあるし、不思議もスリルも、敵もいる。
まさに奇跡のような環境だ。ロビンは目の前に広がる、壮大な都市の威容に、足を止めた。
「これが、黄金都市シャンドラ」
龍驤の爆撃が始まった。
エネルの目的は、黄金で船を作って、空へ飛び立つことである。
アルミがなくて、木で作った飛行機を運用している龍驤に謝って欲しい。
断言するが、金を素材にしている限り、既存の技術では絶対に飛ばない。絶対にだ。
燃料と速度と重量に悩まないでいられたら、どんなにいいか。
実はチタンなのかとも考えた。大きく育つ樹木と、巨大な豆の木。気圧に比べて、薄い酸素。不思議な空気組成。
窒化チタンは、金色だ。エネルの電圧と、窒素の豊富な空気があれば、まあ、自然とそうならないでもないかも知れない。
そうではなかったが、なんらかの合金ではあるようだ。まさか金歯の素材ではあるまいが、なんにしろ、歯車にしても問題のない剛性があるらしい。
金だけで作ったら、歯が潰れるだろう。
知らない。わからない。
空に来る過程で、ついにまったく分析も解析も出来ない技術で目白押しになった。
龍驤のチートが通じなくなってきた証である。
かつては、宇宙船の推進力として期待された重力制御技術だが、現在は新元素の生成、または錬金術への応用といった研究がなされている。
錬金術だ。鉛から金を作るあれ。
鍛造や鋳造は、金属の結晶構造を整える技術だが、重力は原子の構造そのものを変える。
ダイヤは地球内部の高圧力下で生まれる。そこで鍛えられて輝く。それをさらに発展させて、恒星や中性子星まで高めれば、多分、金が出来る。
重力を制御出来れば、やがて人類は原子核を取り囲む電子の配列をデザインし、自然界で生成不可能な物質を作り出すだろう。
オリハルコンとか、アダマンタイトとか、ヒヒイロカネとか。
真珠も作れないのに。
まだ、夢のまた夢の話だ。それでも、宇宙に落ちてるブラックホールのなり損ないに、鉛を仕込んで一万年待つより、ずっと現実的だ。
超巨大なレーザーや加速器で、科学者たちは今日も遊ぶ。経済的な意味で、金を消し飛ばしながら。
人に向けるな、異世界。
夢のまた夢を見つけたのに、なんでルフィと龍驤でこんなにも違うのだろう。現実は非情である。
よって、まあ、金が飛ぶことも、金で飛ぶことも、とりあえず許容しよう。科学者よりもマシな気がする。
なんで、船で飛ぶんだ。
いや、いいのだ。別に飛行機だけが技術ではない。ロケットだろうが、ニワトリだろうが、木馬が空を飛んだっていい。
エネルはロギアだろう。しかも、雷の。
飛べないロギアもいるだろうが、雷がその範疇だとは思えない。好きに飛んだらいいだろう。
その意味で言えば、飛行種が五つというのも違和感を感じる。
例えば、変身してプロペラを生やせたりするのは、飛行能力ではなく、変身能力へ分類されても、納得は出来る。
おかしいのは、飛行機もないのにプロペラの概念があるこの世界であって、変身のレパートリーではない。
でも、エースは実にファンタスティックに飛ぶし、スモーカーもクロコダイルも、ランプの魔人みたいに飛ぶ。
実はこれ、空気の組成が関係している。空気が泥なので、鍛えたら踏めるのだ。
この世界の人たちは、空を駆ける。
地球育ちからしてみれば、エースたちは飛んでいるように見えるだろう。だが、この世界の人たちにすれば、あれは走っているように見えるのだ。
言葉は同じでも、飛ぶということの意味が違う。
つまり、足を使って飛ぶことを、この世界では飛ぶとは言わない。もっと限定的に、翼とか羽を使って飛ぶことを、飛行能力と言うのだろう。
地球で言えば、龍がわかりやすい。アジアは雲で飛ぶが、西洋は翼で飛ぶ。常識の違いは、言葉や表現にも表れる。
そう考えると、有名なのは五種か、となる。問題は、飛べないアルバトロスを含むか否かだ。
含まない場合、最後の一種は金獅子になる。
だが、おそらくはそうではない。金獅子は浮遊能力で、飛行能力ではない。
なぜか。それは人工衛星を考えればわかる。あれは落ちて来ないだけで、人工衛星それ自身に飛行能力はない。
ボールを飛ばしたのはバットや腕だ。ホームランを見て、ボールって飛べるんだって言ったらバカだろう。
だが、浮かしているのは、金獅子本人。その能力。
金獅子が飛んでいないのではない。風で落ちる程度では、飛行能力と認めてもらえないのだ。
この微妙なニュアンスがわかるだろうか。異世界の常識を感じ取れるだろうか。
この世界の人々は、ピストルの弾速を越えたら落ちると、当たり前に理解した上で、飛行という概念を理解している。
逆に言えば、飛行種ってピストルの弾速を当たり前に越えるんだ。
アルバトロスは、飛ばなくて正解かも知れない。
重巡の主砲並な体当たりをかましてくんのが、四人になってよかった。せめて粉々になって下さいと祈ってはみるが、無駄だろう。
この世界の神って、あんなだし。どうせ、ビーム撃つし。
飛行機はない。知識はない。理性として教育されていないし、体験もない。ゾロが出来ないなら、一般人には絶対に無理。
それでも、人々の中に感覚としてあるのなら。常識であるのならば。外部装置から、内部装置へと翻訳されているのなら。
人々にそれを植えつけた環境があったのだ。それを実現するだけの文明が、かつてあった証である。
だから、妖精さんが集っている。
「こっのッ!! こいつらをなんとかしろォ!!」
エネルの船は、今、しっちゃかめっちゃかである。
「う、む。気の毒だが、我輩にはなんともしようがないのである」
「役立たずめが!!」
怒られても。気持ちはわかるが。
国を奪われた経緯さえ忘れそうなほど、なんだかかわいそう。
ガン・フォールさんは部下を探しに来た。龍驤から地図をもらって、地下へ続く抜け道を通り、ちゃんと部下を見つけた。
なんであるのかは、聞かなかった。
疲れ果てて、弱ってはいたけど、無事だった。涙の再会をした。
無事だっただけで、六年の月日で辛酸を舐め尽くしたことは見て取れた。でも、生きていた。
やっと、肩の荷が下りた。
シャンディアとは約束を交わし、友好を結んだ海賊たちが、島の歌声を響かせる。きっとなんとかなる。ガン・フォールさんは信じている。
この老体に未練などなかった。もはや、理性を働かせる意味もない。感情に従おうと思った。部下を逃がし、勝負をつけようと、一人奥へと向かった。ピエールもついて来てくれたが、その背に跨ろうともしなかった。
ここからが自分の人生だ。もう、誰のためでもない。自分の足で歩くのだ。
ただ、無念を晴らさんと、覚悟を決めて来た。
こんなの聞いてない。
エネルは飛べない。雷だからではなく、エネルだからで。
広い電場を形成して、マントラへ応用したのは、そりゃ凄い。でも、雷って電位差を解消するための現象で、より近いものへ伝わる性質があるから、そんなことしたらどこにも行けない。
電荷という、自分で与えた位置エネルギーに囚われて、落ちてきてしまう。エイムが吸われるから。自分で狙ったところに行けないから。
悪魔の実に与えられた、能力というプログラム。そこから逸脱する技術も根性もない。挙げ句、振り回されて、空ですら走れない。
それがエネルだ。そんなエネルを、連れて行ってくれるはずだったのがマクシムだ。夢の船だった。
妖精さんに、分解されかかっている。過去形にされている。
「クソッ、この!! どうやったら従わせられる!?」
「従、う? うむ、ルールには従うと聞いたが」
「ルールとはなんだ!?」
戸惑っている。完全に混乱している。エネルを相手にしているのに、まったくの素で対応している。
親切でお節介な、ただのおじいちゃんになっている。
エネルは必死。
「ゲームだ。龍驤殿が、そう、主催しておる」
「ゲームだと!?」
ザッと妖精さんの目が向いた。分解っていうか、もはやなんか改造している手が止まった。一斉に。何十人が寸分の狂いなく。
怖い。超見つめられてる。
でも助かった。本当に、なんにも通用しなかった。こんな理不尽、体験したくなかった。もう、諦めた。
「どういうことだ?」
妖精さんと見つめあったまま、エネルが聞いた。ガン・フォールさんは心から同情した。
なんのてらいもなく、答えてやった。
「鐘を鳴らすのだ。かつて、アッパーヤードが現れたときに、鳴り響いた島の歌声を、再び響かせるのだ」
「鐘? 鐘だと?」
エネルは考えた。考えているエネルを、妖精さんがじっと見つめた。
「鐘を鳴らせば、こいつらは消えるのか?」
ガン・フォールさんは呆れた。そんなものはルールではない。勝負というのだ。こいつは、そんなことも知らないのか。
妖精さんも、凄いがっかりしている。エネルはいつ再開されるかと、ビクビクしている。
「鐘を鳴らせ、エネル。参加している間は、見逃してもらえるだろう」
その後は知らない。エネルは迷った。迷って、迷って、決断した。その瞬間に、妖精さんたちは残念そうに片付けを始めた。
マクシムは直った。
よく、わからない。エネルは頭を振る。
「そうか。ならば、わたしも邪魔はしないでおこう」
なんか、仇とかどうでもよくなった。ただ、この空の行方が気になった。
あの娘はどんな絵を描くのだろう。そこにどんな色が載るのだろう。我々はどうなるのか。
わからないが、気になる。どうせなら、特等席で見よう。
エネルは恨めしげにガン・フォールさんを見やり、玉座っぽいところへ向かった。ガン・フォールさんの肩にしがみつく、レインコートの妖精さんが、監視するようにエネルを見ている。
エネルの口から、舌打ちが漏れた。
「まあいい。見せてやろう。これが神の奇跡だ。二億ボルト、ヴァーリーッ!!」
雷撃が走る。光と音が瞬いた。思わず、ガン・フォールさんが顔を庇った。
歓喜に迸るエネルを、全て圧する衝撃が走った。
龍驤の爆撃が始まった。