龍驤がヤサグレるワンピース   作:HIRANOKORO

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地獄とやらに用がある人用

 デスピアは稼働している。あの雷雲が十分な大きさになれば、エネルは落雷に乗って帰れる。

 つまり、ナミとロビンが危ない。サンジはさっさと飴ちゃんでも配って、妖精さんを止めろ。

「下に夜が訪れる厚みと広さ!! それを雷ごときで落としたかったんやろ!? この身のほど知らずが!!」

 エネルを挑発する。あのバカは、龍驤を空の支配者だと勘違いしている。たかが、軽空母の龍驤を。

 丁度よいので、空のすべてを引き受ける。楽しい。実に楽しい仕事だ。

 平和を実現する。夢のまた夢と言うなら、やって見せようじゃないか、この地獄で。

 簡単だ。理性と学問が、答えをくれる。

 あの頃と、なにも変わらない龍驤が、ただ獲得した人間性とやらでやってやる。

「貴様になにがわかる!?」

「い〜やいや。やるかやらないかやなくて。やれるつもりやったやろう?」

 いやらしいセリフ回しに、エネルが眉間を狭めていく。

 実際、不可能だとは思わなかった。そして、可能か不可能か以前に、手間が凄いって言われた。

 エネルにはない視点である。確かに面倒くさい。砂漠に針で穴を開けていくような作業だ。これをやれるなどと言うのは、ただのバカでしかない。気鬱なアーロンか。

 嘘つきなサイコパスも、自分には嘘がつけない。神の無謬性に亀裂が走る。

「見てみ? この巨大な森を!! 樹高!! 幹の太さ!! わかるか!? この意味が!?」

「なんのことはない!! ただの植物ではないか!!」

 エネルの一撃が、龍驤ごと木に叩きつけられる。木は消し飛ぶ。だが、龍驤の装甲は健在だ。雷では破られない。ミルキーダイアルで、足場を生成する。

「ほら、見いや!! 火事にならん!! 巨大な森は、それ自体が雷に負けんかった証や!! わかるか!? わからんやろなぁ!?」

 むしろ、巨大化したのは、雷がなかったせいではなかろうか。森というのは、少なからず、山火事を想定して生長している。雷で生まれ変わる。

 森にとって、雷がもたらす災害は、一つのサイクルに過ぎない。それがないから、際限なく大きくなったのだ。

 400年も前に伐採された身縒り木の林は、植物の成長に飲み込まれることなく、空き地であった。

 では、人間にとっては。

 雷は豊穣の証。王権の象徴。

 空から神の差し伸べた手が、人間に火を与えた。広い、大地も。それが雷だ。

 要は、狩猟採集民など、やめたらいいのだ。神が、祭祀王がいるのだから。

 スカイピアの住民は、元農耕民だろう。あるいは、ローマのような征服民だ。

 どちらでも構わない。パクス・ロマーナが実現出来るほど、スカイピアは強くないし、シャンディアは弱くない。

 彼らは農耕民になるしかない。

 それでいい。目指すは江戸の世だからだ。

「エル・トール!!」

「見え見えのストレートパンチやんけ」

 エースと同じだ。ロギアの弱点とも言える。拳の質量を運動エネルギーやらに変えてしまったがために、威力も熱と風圧に変えられてしまった。いや、エースは風圧だけでも木造船を破壊し、龍驤を軋ませるほどであったが、エネルのは電圧だ。

 高い電圧は、勝手に周辺へ放電する。炸薬を抜いた防御射撃で、簡単に散らせる。飛び去る砲弾へ、威力が飛んでいく。電圧が高過ぎる。

 龍驤は閃光の中に消えた。

「効かんなぁ?」

 黒焦げになって、不敵に笑う。

 嘘だ。体内はボロボロ。もう、まともに動けない。避けられない。

 多少、散らしたからなんだ。雷なのだ。

 しかし、龍驤の嘘は麦わらを手本にしている。やせ我慢でも、見栄っ張りでも、突き通せば本当だ。

 だから、笑え。血と煙を吐きながら。

「ウチすら砕けんで、この星の岩盤を貫くつもりか? たかが井戸を掘るのに、ウチの主力が四人がかりやぞ? それでなくとも、なあ、わかるやろ?」

 あらゆる森林限界を越えた移住と拡散。それが生物としての、人類の強みだ。一種の生き物が、星のあらゆる場所に生存圏を広げたのは、画期的ではあった。

 しかし、狩りをする人類は、まだ野生動物に過ぎなかった。

 火を使い、絵を描き、埋葬し、武器を手にしても、まだ弱肉強食の理からは抜けられなかった。

 祈るしかなかった神が降りてきたのはいつだ。

 農耕を始めたときだ。

「ノックアップストリームに耐え!! ジャイアントジャックに突き刺さって耐え!! そのまま、400年耐えた岩盤やぞ!? 雷ィ!? 災害の次元が違うわ、三下ァ!!」

 農耕を始めて、明らかに人口は増えた。要はよりたくさんで、仲良く、平和に暮らせるようになった。圧倒的にだ。頑張っても小さな村しか作れなかった人類が、国を造った。

 国だ。ただの都市ではない。行政であり、システムだ。ゴミを集めて捨てる。それだけでも、大変な公共事業だ。それを成せるだけの社会が出来た。

 宗教を基礎に、法も司法も、測量も暦も、軍や貴族まで。

 ただ植物を育てて、収穫しただけで。

 文明が生まれた。

「その口を今すぐ閉じろ!!」

「あびゃびゃびゃびゃ!!」

 笑っているのか、痺れているのか。

 敢えて言おう。エネルの気持ち、すごくわかる。

 空で戦う者にとって、自分以外の飛行体など邪魔なのだ。仲間でなければ、敵なんだから。

 まあ、仲間だって邪魔だけどね。編隊飛行とか鬱陶しい。

 空を飛ぶのは、本当に気持ちがいい。なによりも自由で、あらゆるものがちっぽけで、どこまでも見渡せる。

 雲に乗れたぐらいで喜ぶのは、空を飛んだことのない素人だけだ。あの風を切る感覚こそ、愛すべきものだ。

 それなのに、空に敵がいたら、もう自由ではなくなるし、視界を敵のケツでいっぱいにしなきゃならないし、でなきゃ背中を気にしなければならない。

 パイロットが戦う理由は、自由を取り戻すためだ。ただ、飛びたいんだ。それだけだ。

 その邪魔をするなら、なんであれ落としたいし、壊したい。かの魔王の戦果は、狂気でも執念でもなく、パイロットの純粋な願いから生じた。飛びたかったから飛んで、ついでに仕事をしたのだ。軒並み、全部片づけた。まさに、生きがい。

 だから、総統でも止められない。サイコパスなど、足元にも及ばない。

 そして、そんなんばっかりいたもんだから、鬼も後退るような訓練に打ち込めた。やってのけた。

 まったくもって、バカばかりだ。いいやつらだった。自慢の、死んでも誇れる、龍驤の子供たちだ。

 AIなんぞに譲れない。誘導機能のついた能力なんかに、負けられない。

「神がなんぼのもんじゃ!!」

「不遜なり!!」

「お前がなぁ!!」

 爆弾が降り注ぐ。電圧に任せたエネルの放電で、次々と誘爆していく。空間そのものが炸裂する。真空が生まれる。

「取った」

 アーロンと同じ轍は踏まない。潜水病も高山病も、血管障害すら大したことない世界だ。真空如きには、なにも期待しない。

 エネルを囲む檻。空気すら失われた、本物の絶縁空間。例え、太陽ほどの電荷があっても逃れられぬ、一切の閉鎖空間。極小の隙間。

 その一瞬、アッパーヤード全域に与えられた電荷が失われた。温存していた副砲の徹甲弾をエネルへ撃ち出す。刹那が永劫にまで引き伸ばされる。光速で思考する。

 笑みを消した龍驤の眼光と、驚いたエネルの瞳が重なり合う。爆撃は龍驤自身さえ巻き込みながら、閃光の中で二人だけが影になる。

 砲煙の向こうに、結果が表れる。はずだった。

「アマル!!」

 よって、エネルは放電しない肉体を生み出した。周囲へ無駄にエネルギーをばら撒くのを止めた。真空がそれを助けた。

 雷を発するだけの半端者から、雷そのものに成った。荷電粒子によって構成された電離気体。

 プラズマの肉体を得た。

 副砲の砲弾は、その肉体へ到達する前に溶けて消えた。

「クソが」

 言葉に出来たかもわからないまま、龍驤は自分の爆撃にかき回された。錐揉みしてアッパーヤードの大地に転がった龍驤の装甲は、剥げていた。大破していた。

 もう、龍驤に出来ることはない。

 残念なことに、エネルじゃなくて、自分にやられた。

 欲をかき過ぎた。水平線の向こうで、嫌がらせだけしていればよかった。出来なかった。

 ここまでボロボロになって、傷つけたのが神のプライドだけとか。それも、自分のプライドを守るために。

 笑ってしまう。

「あーあ、負けた、負けた。まったく、土壇場でこの畜生が」

 エネルは神々しく輝きながら、それまでが嘘のようにキザな仕草で言った。龍驤は苦笑した。

「そこで見ていろ。貴様の仲間たち、スカイピアの住民、シャンディアの戦士。すべて死体で並べて、最後にこの大地ごと引き裂いてやる」

「そうかぁ。気長に待っとるわ」

 バチっと静電気だけ残して、エネルは消えた。見ていろと言われたが、焼け焦げても、ジャングルは健在だ。

 空なんか見えない。龍驤は腹から笑い出す。

「いやいや、金ピカんなったな、あの坊主」

 空で黄金抱えて、コソコソ、コソコソ。なにが出て来るか、あれこれ予測はしていたが、まさかまさか。

「宇宙人に化けたか。まあ、神の正体としては、妥当やないか?」

 別に、バビロニアの王を気取るつもりはない。

 システムはある。技術も伝えた。400年の積み重ねと、歴史がある。

 外交すべき相手はおらず、やって来るのは、リスクを顧みないバカだけ。ウソップで十年だ。龍驤が世界を変えても、外敵はしばらく来ない。

 今ならなんにも心配せずに、この島を耕せる。

 龍驤はただ、用意された地獄にただ乗りして、案内するだけでいい。

 平和への道を。しっかり、善意で舗装して。

「大地で生きろ。祈っとらんと、勤めよ。天国のバカども。そこは死者のナワバリや」

 龍驤の子供たちが、自由に飛んでいる場所だ。

 ちょっと眠ったら、すべて終わっているはずである。

 

 

 第四の状態。プラズマ。

 高エネルギーを持ち、流動し、質量も失わない。化学変化とは違い、別の物質に変わるわけではないので、エネルギー以外を消費せず、必要としない。エネルはまさに、雷の化身となった。

 ゾオンにおける、変形点のようなものである。

 通常、ロギアは身体の変化が容易であるが故に、安定しない。色んな形にはなれるが、逆に決まった形もない。

 針を刺しただけで変化してしまうかと思えば、足の小指をぶつけることもある。

 どちらにも共通しているのは、ロギアなのに痛い思いをする。身体は人間だからだ。

 こちらは見た目が人間なだけの、自然現象。デフォルトで流動性があるので、例え覇気で攻撃されても受け流しやすい。人間の身体をしていないからだ。

 要は、常にゴムだったり、バラバラだったりしているのと同じになったわけだ。やっぱり、あいつらおかしい。

 まさに無敵。エネルに関して言えば、流動性に加えて、熱と電撃もある。

 そんなエネルに対して、サンジは苦戦していた。ロビンはヒドい火傷を負っている。

 ただ、ちょっと助かったと思っている。妖精さんが、とんでもないテンションでいたからだ。

「ど、どうしよう!? 調子にノリ過ぎたわ!!」

 ナミは便乗していた。このまま、船を乗り換えんばかりだった。黄金船をパチるつもりだった。

「吾輩が運ぶ!! トナカイ殿のところまで行けばよいか!?」

 ピエールが驚いている。爆撃は止んだが、代わりに雷が忙しい。あの空を飛ぶのは、彼である。

「お願い!!」

「勝手に乗り込んでおいて、神の許可なく下船出来ると思うな」

「サンダーボール!!」

 サンジが止めようとするが、構わず電撃を放つ。ナミはあらかじめ作っておいた空気の膜に沿って、電気を流す。

 温度差に加えて、気圧差も生まれて、抵抗値が変化する。結果、上手いこと雷を逸らせる。電荷は位置エネルギーであり、電気は光速で飛ぶ。

 これ以上、速く飛べないので、簡単に電荷の低い方へ落ちてしまう。逆らい様子がない。

 余波で多少、ビリビリするが、玉のお肌は無事である。ついでに、逸れた雷が雲に吸い込まれて、アッパーヤードに落ちていく。

「どういう理屈なのだ、それは?」

 それは、それとして。

「わかりません」

 ブスッとしながら、エネルは聞いた。以前までの雷なら、まだわかる。今のはエネルの手、そのものだ。それを弾いた上で、余った電荷は逃がしている。 

 質量を持ったエネルギーという矛盾を、あの杖が解消していた。

 ナミは冷や汗を流しながら、ガン・フォールさんへ提案した。

「わたしも連れてってくれる?」

「吾輩も、頼もうと思っていた」

 残ってもヤバいが、雷だから逃がしてもくれない。互いが、互いを必要としていた。

 サンジは頑張っていたが、歯牙にもかけられていない。それどころか、蹴るたびに傷ついていく。

 触れるだけで身体が痺れ、焦げていく。

 だが、手応えはある。サンジが諦めることはない。

 見た目が人間で、周囲へ影響を与えないから、変形点に達したロギアでも日常生活が出来る。というか、ある程度のレベルまでくると、能力を常時発動状態にして生きていける。なんなら、そのまま眠れる。

 チョッパーが、どんな形態でも頭がいいように、意識しないでも、身体を操れる。

「遊ばれておるのか。早く脱出せねば、ここはすべて危険だ」

 電源が黄金の上に立っているわけだから、みんな感電してもおかしくない。

 のだが、安定しているが故に、勝手に身体が動いたりはしないのだ。電気ではなく、ちゃんと雷になっているからだ。

 雲の中に出来たプラズマから、余計な電荷を発散しているのが、雷鳴や稲光だ。発散しなくなれば、電気は流れない。

 エネルも、言われてそうだなって思っている。顔には、おくびにも出さないが。

 エネルは、オートエイム機能を失った。

 代わりに、エネルは金ピカに光っていた。明らかに、人間を超越していた。

 悪い意味で。

 電圧が漏れないだけで、光を発していたら中途半端だろう。光もエネルギーだ。無駄なことをしている。

 足りない技量で、大将クラスなことをしているから、あんなことになっているのだろう。自己顕示欲とか、なんかその辺がまったく隠せていない。

 麦わらの一部なら喜んだだろうが、目がチカチカするし、なんかうんざりする。

 強いのだろうし、この場では無敵なのだろうが、なんだろう。

「こっち向け!! 金ピカ野郎!! 趣味がわりぃんだよ!!」

 そう。そうなのだ。それに尽きる。

 周りを囲む妖精さんたちが、揃って拍手をしていた。改造を邪魔されて怒っていた。

 やっていいかと思ったのに。

 提督の備品は、妖精さんが用意する。赴任して最初に向かうのは、机ではなく、みかん箱である。

 仕事と遊びの区別がつかなくて、妖精さんは机を荒らして、書類と旅に出た。人間が、四六時中向かう机や書類に興味津々で、混ざりたかったし、手伝いたかった。

 なのに、邪険にされて、拗ねたのだ。

 妖精さんは親切で楽しい執務室にして、妖精さんなりに書類を片づけた。

 どれだけ眺めて見ても、面白さはわからなかった。わからなかったけど、返してはくれなかった。

 地獄が現出した。

 膨大な資料、データ、手続きの履歴が消えてしまった。

 多少、機密が漏れたが、そんなことは些細な問題だった。全部、やり直しだ。

 全国の装備、弾薬の在庫、備蓄など、ボールペン一つから、戦車に至るまで。各自治体との覚書や、取り決め、国とのあれこれ。各員の給料、階級、手当てと、その振込先など。

 深海棲艦との、戦争中なんですけど。

 前線では当然、艦娘との協同が模索されていたが、後方にもやむを得ず動員された。戦死者の出るような、戦場が生まれた。

 艦娘は人類というか、軍に受け入れられた。

 同じ死線を潜ったのなら、もう仲間じゃない。

 現場の一兵士から将軍に至るまで、艦娘と一緒に戦った経験を得た。

 なんなら、整備兵から食堂のおばちゃんまで、妖精さんとの付き合い方を、艦娘から学んだ。

 仕事と、遊びの区別がつかなかったから、みんな巻き込まれたのだ。

 結果、幼い女の子が深海棲艦と戦ってて、普通な社会になった。疑問を持たなくなった。

 その名残りが、新人提督へのしかかる。みかん箱で執務させられる。妖精さんが作った備品で、仕事をやらされる。

 妖精さんに、仕事だか遊びだかわからない役割を与えるためだけに。

 提督なんか、酒でも飲んでなきゃやってられないし、艦隊主力は事務作業の主力でもあるので、まあ、便利だ。

 陸軍は反対する。うらやましい。

 じゃあ、代われ。眠れると思うなよ。

 時代は変わっても、色々変わらない。

「なんだ? その足は」

「恋の情熱」

 サンジの足が、赤熱している。その状態で、エネルへ蹴りかかって行く。歯牙にもかけなかったエネルが、警戒して避ける。

 また、非常識である。

「まさか!? 改造したの!?」

 妖精さんは冤罪に首を振った。ナミのお仕置きは怖いのだ。

 でも、その割に、半分ぐらいが目を輝かせてサンジを見ている。ナミがジト目になる。妖精さんは慌てる。

 違うのだ。

「これ以上、女性には指一本!! 触れさせねえ!!」

「大した騎士道だが、我を相手に果たせるかな?」

 エネルは体術の技量も高い。正確に足で部位を狙えて、ゾロと互角に渡り合い、船長の銀蝿を阻止するサンジでさえ、どこかあしらわれているようだ。

 そして、導体のマクシムがあり、上空にデスピアの雲がある。

 エネルが指を振ると、足元から雷撃が立ち昇って、雲へ吸い込まれていった。サンジは歯を食いしばる。

 その顎を、エネルの棒が打ち抜いた。サンジは倒れた。

「確か、こうだったかな?」

 ナミを見る。ドヤ顔されたけど、なんのことかわからない。雷を操れて嬉しいらしいが、気候を知るナミからすると、普通のことしか起こっていない。

 トドメは棒だし。

 エネルは不満そうだ。

「絶望しろ!! 今日、空島は消えてなくなる!!」

「え? 負け惜しみ?」

 ダウンしていたロビンが、上品に顔を逸らした。吹き出していた。

 おそらくだが、龍驤が全力でやってビクともしないものを、雷で出来るとは思えない。ナミは、雷をよく知っている。

 そりゃ怖いし、自分のメイン武器だが、どうも信じられない。

 ゴムでやるとか、足や剣でやると言われた方が、まだそんな気もする。

 実際、今も雷はアッパーヤードを含めた白々海に降り注いでいるが、直前までの絨毯爆撃と比べると、どうにも迫力が足らない。爆発しないので。

「そいつらは、下で火事や砂嵐そのものと戦ったのよ。こんなものに頼らなきゃ、雷雨も起こせないアンタに、ウチのクルーが負けるわけないじゃない」

 その言葉に、焦げていたサンジが、両手を踏ん張った。立ち上がり、タバコに火をつける。

「やっちゃえ!! サンジくん!!」

「ナミさんからの、声援。これはつまり、愛だ」

 わけのわからないことを。マントラは伊達ではないのだ。まったく、そんな関係でないからこそ、エネルはそこに付け込もうと思えない。

 だが、本気だ、コイツ。

 混乱して、懐に潜り込まれた。あまつさえ回転されて、意図を読めなかった。マントラがオーバーフローする。

「ムートン・ショット!!」

 雷の身体が、プラズマの肉体が蹴られた。意味がわからない。電子を介して接触するはずの物体が、電子の遊離したプラズマへ作用した。どうやったんだ。

 エネルはなんとか後ろに飛んで、威力を逸らした。流石に、それぐらいのことはやって来そうな気はしてた。

 麦わらの一味を、常識で測るのはやめていた。雷速で離した距離を詰め、未だ技後硬直するサンジへ手をかざす。

「もはや、侮ることもない。神の全力で消し飛ぶがいい」

 動けないはずのサンジから、エネルへ視線が飛んだ。指の隙間から見えたそれに、唇を吊り上げる。

 やっと、神の座に返り咲ける。そう思った。

「10億ボルト。ヴァーリーっ!!」

 その瞬間、エネルとサンジは電気的に繋がった。エネルの脳内に溢れかえる、存在しない記憶。つまり、妄想。

 サイコパスには理解出来ない、甘いシチュエーション。バカげたやり取り。欲望だけではない、祈り。そうであってほしいという、願い。

「効かーん!!」

 得体の知れない衝撃に、エネルは吹き飛ばされた。なんか、凄い顔した。

 なんとなく、ナミはエネルの内心を察した。

 サイコパス、唯一の天敵。愛の伝道者。

「行きましょう。今のうちに」

「な、なにが起こったのだ!?」

「理解しない方がいいわ」

 三人と一羽は飛び去った。エネルは立ち直れない。

「これは、愛の試練」

 取り残されたコイツの、なにもかもがわからない。

 

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