龍驤がヤサグレるワンピース   作:HIRANOKORO

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バカの顛末

 エネルは、もはやなにをしたかったのかすらわからない。追いつめられているのはわかるが、なにがそうしているのかもわからない。

 誰もエネルを相手になどしていない。鐘を探し、遺跡を探し、好き勝手にあちこち焼いて、みんなそれぞれ逃げている。

 目の前のコックは挑んでくるが、それはエネルがあの航海士を狙っているからだ。

 狙ってはいるが、雷撃は途中で妖精さんが回収して、マクシムの維持に使われている。

 アレが一番、わからない。味方、されて、いるのだろうか。

 わからない。まったくわからない。マントラは通用しないし、通用する人間が、誰も理解していない。

 というか、色々と動揺で、マントラが乱れている。なんなのだ、愛とは。

 どうして、エネルは蹴り飛ばされている。

 落ち着かなければ。トンボをきって着地すると、さらに衝撃的な光景が目に入る。

 マクシムの傍らを、青海の海賊と、空の戦士が並んで飛んでいく。なんでだろう。

「いい加減にしろよ!! 貴様らッ!!」

 もう限界だ。エネルは激昂した。

 空はエネルのモノだ。やっと、あの小娘から取り戻したのだ。

 血が頭に登りきって、むしろ集中出来た。ゾロとすら斬り合えるエネルの技量は、格別である。

 天才なのだ。コックの足が赤熱していようと、エネルはプラズマだ。マントラを駆使し、受け、掴み、投げて、踏みつけた。

 コックがうめき声をあげ、エネルの溜飲が、多少下がった。

「すべて、目障りだ。叩き落としてくれる!!」

 加虐的な気分のまま、叫んで放電した。それはサンジを通して、マクシムに注がれた。

 内部の機構が加速し、吐き出される黒雲の量が加速する。十分だ。舌なめずりをしながら、エネルは絶望をもたらそうとした。

「一切は、沈め。ママラガン」

 サンジの悲鳴は、雷鳴にかき消された。

 

 

「幻想的ですね」

「なんか、龍驤の爆撃の方が派手だね」

 アイサが鼻をほじって、それを遠くに飛ばした。コニスが指を拭いてやる。

 雷が、激しさを増している。この窪地にまで、落ちてくる。

「でも、こっちの方がキレイですよ?」

「アタイは、地面に花咲くみたいで、爆発がいい」

 それ、二人の故郷を吹き飛ばしてますが。咲いたのは、思い出や住居他、多数である。

 後ろでは、シャンディアとスカイピアの住民が、ワーキャーしながら、右往左往していた。倒れた木が燃え、残っていた玉雲から、びっくりが飛び出す。

 迷いの森は、高い崖に囲まれた窪地だ。雷を避けやすい低い土地だが、閉じ込められたようなものだ。二手に分かれていた住民たちは、どうにか雷を避けようと、混じりあった。

 修羅場だ。落ち着かせようと頑張るマッキンリーさんが、青筋を浮かべた。

「なんで落ち着いているんだ!?」

 二人は空を見上げたまま、振り返りもしない。

「今さら、ジタバタしたところで」

「逃げた先に、逃げ場なんてありませんよ」

 そうだけど。

 

 

「なぜ、恐怖しない!?」

 全力を注いだエネルは、ピカピカの身体から人間に戻っていた。それでも足りなくて、声を絞り出した。神の絞りカスがエネルだった。

 マントラが変なやり取りを伝えてくる。住民がそっかなって、互いに寄り添って動かない。ホワイトベレーの指示のもと、シャンディアもスカイピアの住民も、巨大な木の根に縋っている。

 抵抗はおろか、逃げ出しもしない。まるで、運命を待つかのように。

 諦めは絶望に勝る。エネルは納得がいかない。

「かくなる上は」

 もう一つの切り札で、迷いの森ごと消し去ろうと空を見上げた。

 なにかが落ちてきた。

「うわあぁぁッ!! あぶッ」

「クソ!? 一個しかねえのに!!」

 ワイパーとルフィだ。甲板に突き刺さった。どちらも雷に打たれたのか、焦げて煙を吹いている。

「あーあ、羽が壊れちまった」

 上舵コプターは、原型を失った。ルフィが残念そうに、唇を尖らせる。エネルは額を押さえた。

「貴様らも。なぜ、生きている」

「知らね」

 ルフィは首を傾げるが、ワイパーは構える。空を飛ぶために、バズーカはないが、まだ手は残っている。

「船を寄越せ。もう、鐘に辿り着く手段は、これしかない」

「答えになっていない」

 言いたいことはたくさんあるが、言葉にならない。

 二人とも、エネルを障害とすら思っていない。都合の良い足だとすら思っている。

 神から奪うことを、当然だと思っている。実際、そうだ。エネルは奪われてきた。めまいがした。神とは、なんだ。

 なぜ、こうも邪魔される。レインコートの妖精が、サンジの襟元に消えた。

 エネルはマキシムの玉座に座り込んだ。

「あッ!! サンジ!?」

 サンジは真っ黒コゲだった。眉だけじゃなく、金髪もクルクルになっていた。ルフィは駆け寄って、抱き上げた。

「どうしたんだ、お前!?」

「な、ナミさんは?」

 それだけで、船長は察した。この有り様で、この男は勝利したのだ。

「さっき、すれ違ったな。元気だったぞ」

「そうか」

 痺れて引きつった筋肉で、男は笑顔を浮かべた。元気だったと言うか、ナミは怒っていた。ガン・フォールさんが慌てるほど、怒鳴りつけていた。遊んでた船長に。

 だが、船長は欠片も悪びれていない。空へは、遊びに来たのだ。

 命をかけて。

 仕事を果たしたコックを褒めるように、船長はニシシと笑って立ち上がった。

「チョッパーに見せた方がいいな。どこだっけ?」

 龍驤とめちゃくちゃ森を彷徨ったので、チョッパーとウソップとも、何度かすれ違っている。近くにいることだけは、わかっていた。

 ゾロとは別の意味で迷子な船長は、はたと気がついた。

「そういや、さっきゾロがいたな」

 エネルはマントラでそれを察して、さらに玉座へ沈み込んだ。ワイパーは呆れて、なにも出来なかったし、言えなかった。

「な、にをする、気だ?」

 瀕死のサンジが、わかりきった未来への抵抗を示した。

 ルフィは船べりへ走ると、サンジを投げ飛ばす。ご丁寧に、ゴムの反動をつけて。

 罵倒が中途半端に消えた。諦めたような悲鳴が、だんだんと遠ざかっていく。

 絶望など、どこにもなかった。恐怖もだ。

 諦めと楽観が支配していた。

「ゾロ〜!! サンジを頼む!!」

 なんて言ったらいいのか。こんな船長がいてもいいのだろうか。妖精さん並みに、敵と味方の区別がない。

 少なくとも、エネルにだって慈悲はわかるし、どんなに過激で信念が硬くても、仲間のために撤退を選べるのがワイパーだ。

 マクシムの隣には、ジャイアントジャックの先端がある。

 四百年を戦いに費やした戦士の一族と、神が常識を疑った。海賊の思考を、まったく理解しなかった。

 ルフィは満面の笑みで戻ってきた。

「なあなあ? 鐘のところまで送ってってくれねえか?」

「極めて不遜」

 断りの文句には、力がなかった。もう、それでいいかと、頭の片隅に過ぎった。

 もう、さっさと船出したい。

 もはや、神でいることは重荷だった。しかし、やめられなかった。

 エネルは、他のものになれないのだ。

 恐怖でしか、人と関われない。

 そうだった。だから、すべて消してしまおうとしたのだ。

 それが望みだった。

 エネルには、その力がある。

「所詮、私は一人だ」

 マクシムはエネルの船だ。他に、なにもいらない。

 邪魔なものは、目障りなものは、エネルの自由を阻むものは、すべて神の威光によって、焼き尽くされればいい。

 

 

 愛について考えよう。

 現実から、なおも逃げるために。

 理性というのは、答えを出す能力であるが、答えが出たからなんなんだという話で、実はあまり意味はない。

 正誤というのは、評価でしかないからだ。しかも、切り取られた。

 じゃあ、どうすんの、という決断は、感情の機能である。つまり、悪魔じゃないと、マクスウェルは機能しないのだ。

 計算が理性。プログラムが感情だと思えばいい。

 熱いや冷たい。速いや遅いで区別するこの悪魔は、実はロギアにも存在する。

 本当に物理無効なら、光は当たらないし、服は着れないし、息も出来ない。なんなら重力は作用せず、地面に立てないので、自然と飛行種になる。

 現象のすべてが、物理だ。

 なんでならないのか。悪魔の実に、情報処理機能があるからだ。

 当たるものと当たらないものを区別している。重力が質量にしか作用しないように。磁力が、磁性体とそうでないもので違うように。

 質量というのは、原子核でほとんど決まるし、物質の性質は、電子と電荷によって決まる。

 つまりこれらは、エネルギー、力の振る舞いも決めている。

 ここに覇気やら能力が加わるわけだが、その振る舞いはニュートン物理学的な見た目に矛盾のないものでも、見た目と実際が違う相対論的なものでもない。

 量子的だ。物理法則がもつれている。

 もつれてはいるが、量子的であっても、量子ではないので、観測は直ちに、誰にでも行える。

 物質の性質や、構造に依存しない、現象のレベルでコンピューターが出来ちゃうのである。

 パンチとパンチがぶつかった瞬間、そこに覇気と覇気、または能力による量子回路が生成される。

 そこでなにを計算しているかはわからないが、流れているのは量子でも電力でもなく、人間の精神によって操作されて出力された、悪魔の実から出た波形。または、同じように出力された覇気の波形である。

 一見、矛盾した状況が、まったく問題なく並列しながら、出力された結果としての現象に偏りが現れるのは、そのような理由だろう。

 自分でも、なにを言っているかわからない。

 で、それがいい加減なレベルだと、ああやって、ゴムだからで突破される。

 エネルは諦めているようだ。イライラしている。気持ちは、わかる。

 ゴムだからで、雷を無効に出来るか、バカ。むしろ、抵抗値の高さで、余計に傷つくわ。

 つまり、悪魔の実に搭載されている情報処理機能は、屁とうんこを間違える肛門ぐらいにガバガバなのだ。

 ケツは自らの意志で、断固として締めなければならない。要は、能力をちゃんと把握して操れば、ゴムだからで漏れることはない、と思う。

 人の認識によって、悪魔の実の波形は変わる可能性があるし、覇気という思い込みでどうとでもなるのだ。

 多分。

 わからん。

 人の認識なら理性であるが、ルフィが勉強してなにか変わるだろうか。

 そも、覇気って、なんぞや。

 位相として能力と逆だ、と言うならわかりやすいのだが、ゴムでロギアを無効化されるとだな、ちょっと難しい。

 しかも、愛ってよ、お前。

 あのときは暴走してたんだって。黒歴史を現実化すんな。

 もし、分け隔てないのが愛ならば、物理的にもそうなるわけか。もはや、波形ではなく、津波ではあるまいか。

 愛って、そんな一方的なものだっけ。

 存在しないマクスウェルの悪魔で、なんとか色々を理解しようと頑張っているのに、さらなる謎で混乱させるんじゃない。

 情報処理なんて、物理の世界では、最新鋭も最新鋭の概念なのだ。

 過去、未来、ワープに加えて、魂や生命にまで踏み込んでいく、半ばオカルトだ。

 妖精さんの分野じゃないか。

「喰らえ、フレイバー!!」

「うるさいな、カス」

 龍驤の専門は砲術である。空母だけど。

 そのせいか、こんなバカどもを仕留め損なった。痛恨の極みである。森をさ迷う龍驤を見つけて、隠れていればいいのに、恨みを向けてきた。艦娘にとっては、慣れた状況だ。

 物足りないぐらいである。

 脂肪で膨れた腹に、副砲を向ける。先に出た砲火だけで絶命し、砲弾が通り抜けた頃には、死体さえ衝撃波で消えた。

「こ、コトリ!?」

「黙れって」

 振り抜いた錨が、脇腹に突き刺さる。暫定、多分ホトリは、言葉も息も飲み込んで、血を吐いた。

 爆弾の代わりに雷が降ったことで、なにか勘違いをしたのだろう。もはや、神は神兵の味方ではないし、龍驤は弱くない。

 合理的な意味で、麦わらに挑む理由はない。むしろ、逃げ出すべきだ。

 見知らぬ小娘は、後悔する時間さえ与えなかった。作業のように進めて、困惑と絶望だけをもたらした。

 なにもさせてもらえなかった。

「まさか、マントラを?」

「心があるように見えたか? あ?」

 ないなら、もっとちゃんとして下さい。精神面で、麦わら最弱がイキる。経験と勘です。

「か、た、き。兄弟、の」

「そうか。で、キミは誰の仇やの?」

 答えは聞かず、対空火器で穴だらけにした。

 やられたらやり返す。合理的ではないが、実に共感出来る理由だ。龍驤は艦娘だが、サイコパスではないので、ちゃんと相手の心情を理解した。

 その上で殺した。ケンカを売られたからだ。

 やられてやり返せない軍事力に、なんの存在意義があるのか。復讐の連鎖こそが、世界平和の礎だ。

 神兵たちは、平和のために死んでもらった。

 エンジェル島も、シャンディアの隠れ里も、みんな平和のために消えてもらった。

「さて。これから、どうしよう?」

 条件は整えたけど、人々の感情はどうなるのか。プログラムのように、単純ではない。

 変われるだろうか。

 龍驤のように、変われないのだろうか。

 戦いをやめられるだろうか。

 ボロボロの身体を引きずって、龍驤は生き残りを探す。

 仲間が治療して、生き延びたやつがいる。

 はよ、寝たい。

 

 

 鐘が鳴っている。

 雲の上の、さらに上空だ。大破した龍驤はもちろん、誰も、その戦いの趨勢を目撃出来ない、はずだった。

 青海の、ある島を除いては。

 鐘が鳴っている。

 聞こえる。

 一万メートル上空の、光さえ遮る雲の上から。

「ロマンじゃねえか……」

 ロマンで許されていい騒音被害じゃないが。

 まあ、感性のない人間ならともかく、この鐘の音を不快に思う者はいないだろう。心地よい響きだ。多分、半径100キロぐらいに、鳴り響いている。たかが鐘一つに、なんだこの超技術。

 これが、シャンドラの灯。

「そうか。空島はちゃんとあったのか」

 麦わらを被った影が、上空を飛び跳ねている。それを、トサカのついた影が追っている。

 猿山連合の男たちが、それを見上げて、笑っている。

「相変わらずのようだな」

 コミカルな劇だ。影だけで、楽しんでいるのがわかる。誰だかわかる。安心で笑みと、涙が溢れる。

 一人だけ、不機嫌なのが、背中を向けていた。

「もういいか?」

 なんかもう、不機嫌だ。不機嫌である。切り株に頬杖をついて、ヤサグレた態度で、葉巻をくゆらせている。

 3と5とキャハハが直立不動だ。ゴールデンが茶を置いた。ズズズと、向かいで飲んでいる。

「ああ、構わねえ。すまねえな、話の途中で」

「まあ、条件はさっき言った通りだ。気に入ったようなら、連絡をくれ。俺は帰る」

「なんでえ? 飲んでいかねえのかい?」

「邪魔するつもりはねぇよ」

 喜びで湧く猿山連合に背を向けたまま、クロコダイルは立ち上がった。後を、エージェントたちがついていく。

「こんな、木っ端海賊団を、傘下に?」

 5が聞いた。3はくつろいでいるゴールデンを、引っ立てている。

 残念だが、賞金を取り下げられても、武装した海賊を獲物にする義務を負う根性のやつは少ない。ならば、七武海の利点を最大級に利用する方が、理に適っている。

「技術ってのは、いくら持っていても構わねえ。なにより、ロマンさ。俺にゃ、縁のないものだ」

「えっと、つまり?」

 クロコダイルは笑う。夜に覆われて、影が差す。

「世界をひっくり返すのは、バカだってことだ」

 猿山連合が踊り出す。クロコダイルは歩み続ける。

 光と闇が、交差する。

 

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