龍驤がヤサグレるワンピース   作:HIRANOKORO

108 / 129
ドリーム・カム・トゥルー

 ボロボロになりながら、神兵にトドメを刺して回って、ドロドロになって帰ってきたら、誰もいなかった。

 メリーは一人だ。

 パガヤさんにお願いしていたはずだが、どうやら逃げ出した神隊の救助へ向かったらしい。動けない人もいるようだ。

 なにがあったのか、途中からよくわからない。大破したし、飛ばした基地航空隊も、雷でやられた。

 演習扱いにしてみたけど、やはり都合よくはいかなかった。また、熟練度から上げていかないと。

 バケツを被って、風呂に入る。入渠ではないが、風呂は好きなのだ。疲れた身体にしみる。

 色々と失った。妖精さんの暴走を止めるために、自由ではなくなった。

 仕事は好きだ。大したことじゃない。

 ただ、疲れた。ずっと、サイコパスの思考を読んでいた。価値観の違う相手を、誘導し続けることは難しい。

 弱点は、狙われるものなのだ。

 やり遂げたと思う。住民への被害は、一つもない。

 多分。

 ただ、住む場所がなくなっただけだ。雷かつ、ワープするかもわからない相手に、雲海へ散り散りになられたら困る。

 あと、色々計画的にしたら、混乱はしても突っ走れる。なんにも考えないのが悪いのだ。考えておけば、不完全であっても実務は回る。

 大戦だって、乗り切れる。麦わらは、例外。

 おかげで、恨まれただろう。憎まれたはずだ。故郷を消し飛ばしたのだから。

 構わない。どうせ、空島は通り道。何日か宴をするかも知れないが、すぐに立ち去る島である。

 なんでか、他の麦わら一味は許されているが、流石に龍驤はダメだろう。

 龍驤は、ここで船番をして過ごす。メリーと二人きりだ。寂しくはない。

 いや、ログポースはどんだけだ。今さらながら心配に。

 立地的にも、経歴的にも、磁気が弱くても不思議ではない。

 まあ、それは航海士が考えるだろう。龍驤は観測手だ。酒瓶を両手に、甲板へ向かう。

 一つはラッパで、もう一つは雲海へ。

 投げた酒瓶は、飛び出したマクシムの甲板に吸い込まれた。黄金船が、空へ駆け上がっていく。ドンピシャである。龍驤は笑った。

 マクシムは月へ、まっすぐに進む。

「男の船出や。祝福したる」

 届いただろうか。届くといい。マントラなのか、なんなのか。奇妙にエネルと繋がった感触は失われていた。どこか、心が繋がっている気がした。

 互いに不愉快だった。

 今はスッキリ、爽快な気分だ。

 本来なら、邪魔する理由などなにもなかったのだ。シャンディアにも、スカイピアにも、味方する理由はなかった。

 メリーを壊されたのだから、皆殺しでよかった。だから、エネルが空島を皆殺しにしても、どうでもよかった。

 しかし、まあ、メリーは、まだ、死んでいない。船長の、仲間の目的は果たされたのだ。それでいいじゃないか。

 一味がいるうちは、大丈夫だろう。しかし、立ち去ればまた、空島は戦い始める。互いを排除し始める。

 わかりきっている。400年を、たかが二日の騒動で解消出来るはずがない。誰も納得しない。

 自分の権利を手放すなど、そんなのが出来たらヒーローだ。誰かと分かち合えるなら、聖人だ。

 そんな最弱のヒーローが、こんな怪獣の跋扈する世界にいるわけがない。

 アンパンマンは、龍驤じゃない。シャンディアじゃない。空の騎士でもない。ルフィは絶対に、そうはならない。

 だから、龍驤は一人でベッドに入った。メリーを静かに出航させた。

 きっと、朝にはアッパーヤードの入り口まで流れて行けるだろう。

 妖精さんに任せた。メリーは応えてくれる。

 疲れた。

 龍驤は寝た。

 

 

「起きろ!! 龍驤!!」

 夜中だった。龍驤は眠気まなこを擦る。

「キミ、女部屋に」

「いいから、来い!! 祭りだ!!」

「祭り?」

 なんか、そんなことを言った気がする。400年ぶりの帰還なのだ。ただの宴じゃ、つまらないだろう。

 神がいるんだから、宴ではなく、祭りにするべきだ。

 なんか、ノリで酋長を煽ったのだ。400年前にしていたことを、空の大地でやるべきだと。

「いや、眠たいんやけど」

「そんなの、祭りの後だ!!」

 後の祭りなんだよ。

 まあ、船長命令だ。ルフィに連れられて、龍驤は外へ出た。試練の入り口が見える。玉の字へ、迷いの森へダイブした。罠はどうくぐり抜けたのだろう。

 龍驤は、置いていかれるメリーを振り返った。送り出された気配がする。

 ルフィは探しに来たのだろうか。祭りの最中に、わざわざ龍驤を。それとも。

「なんや、コレ?」

 太鼓の音が鳴る。ドンドットットと、大地を揺らしている。

 キャンプファイヤーが、あのときの五倍はある。もはや、火事である。

 その中心で、蛇がクネっている。人が踊っている。飯を食べている。酒を呑んでいる。

 肩を、組んでいる。

 シャンディアの別なく、スカイピアの住民とも。誰も、彼も。鳥やオオカミでさえ。

「なんや? これは?」

「祭りだ。龍驤も踊ろうぜ?」

「いや、ちょっと見て回りたい」

「そうか? じゃあ、後でな!!」

 ルフィは炎へ飛び込む勢いで、中心に向かった。龍驤はフラフラと、祭りを見て回った。

 ゾロが、シャンディアの戦士と杯を打ち合っている。サンジが老若の区別なく、女性と踊っている。チョッパーは腰を振ってる。

 ウソップがパフォーマンスをして、ナミが手を取り合って、ロビンが微笑んでいて。

 ガン・フォールさんもいた。マッキンリーさんも。カマキリや、ラキも。アイサとコニスが笑っている。

 このアッパーヤードの玄関口で、話して、遊んで、酒を飲み交わして、仲良くなって。

「ウワッハッハッハッハッ!!」

 龍驤は呵々大笑した。それすらも、祭りの喧騒に飲まれていった。

「ハァッハッハッ!!」

 笑い転げた。笑い過ぎて、涙が出た。気味悪がって、周りから人がいなくなるまで、龍驤は笑い続けた。

「これが夢でなけりゃなんや!? あ!? 夢のまた夢でなければ、なんやと言うんや!? こんな、こんな!!」

 もう言葉にならない。

 排除、排除と言っていただろう。余所者を罪に落として、神へ生贄として捧げていただろう。

 互いを認められずに殺し合って、その歴史が400年だろうが。

 たかが六年ばかり、別の誰かに支配された程度で、この有り様か。

 じゃあ、地球って星はなんなんだ。馬鹿野郎が。

 実に愉快でたまらない。龍驤はワイパーを見つけた。彼でさえこの光景を見て、頭を抱えながらも、苦笑いをしている。

 龍驤はニンマリした。

「なにをシケた顔しとんねん?」

「お前、傷はいいのか?」

「プギャー!!」

 龍驤はご機嫌だ。こいつ、龍驤を心配してやがるぜ。自分は、右腕を砕いているくせに。

「元気一杯や!! 神も、住処も、全部焼いたからなぁ!!」

「ああ、わかってる。お前なら、苦も無く全部終わらせられたろう。俺たちも、エンジェル島も、ゴッド・エネルさえ。感謝している」

「終わらせるやなんて、買い被ってくれる」

 なんだこの、好青年。龍驤はワイパーの首根っこを掴んで、祭りを突きつけた。

「見ろ。見ろ! 見ろ!! これが終わりや。これが終わりなんや。よく見ろ、ワイパー!! これが戦の終わりやで!?」

 なにもかも焼け野原にして、終わりなわけがあるか。

 平和なんかなかった。長い、長い、長い戦後があっただけだ。互いの脳天に銃を突きつけるような、長い冷戦があっただけだ。

 引き金に指をかけたまま、目を逸らして夢を見ていた。

 平和なんてなかった。次の戦争は、もう始まっていた。

 虐殺と弾圧ばっかりが起こった。

「命の終わりが、キミらの終わりか? 違うやろ? 受け継いだやろ? ノーランドとカルガラの友情を!! で、どうや? キミらの次の世代は、なにを受け継ぐ?」

 ワイパーの目に、巨大なキャンプファイヤーの火が揺れる。

「さあ、見ろ、ワイパー。これは奇跡や。キミの子供は、もう戦わん」

 笑顔だ。みんな笑顔だった。ワイパーの目にも、涙が光った。

 誰にも言えなかった、秘めた願いを口にした。

「なあ、鐘の音は、ノーランドの子孫に、届いたかなあ?」

「届いたで。間違いない。なんたって、シャンドラの灯やからな」

 なんの気休めでもなく、それが真実なの、奇跡の域を超えていて酷い。

 やはり、技術こそ至高。

 ワイパーも笑った。心の底から笑った。腹の底まで笑った。ワイパーの仲間たちが、それを見つけて、嬉しそうに駆け寄っていった。龍驤は弾かれて、祭りの輪に加わる若者を見送った。

「ワッハッハ!! 勝ったで!! 間違いなく!!」

 祭りは最高潮だ。

 

 

 ジャヤ、モックタウン。そこにある男が訪ねてきた。

「俺の配下に……ッ!! チンピラはいらねえんだ!! 小僧共!!」

「いや、ええ、はい。スイマセン」

 ベラミーとサーキスが正座していた。その後ろには、仲間たち。そして、モックタウンに集まった落伍者たち。

 あれから、ベラミーはモックタウンを掌握していた。丸ごと、傘下にした。なんか、そういうことになった。みんなで、浮かれていた。

 そこに、ドフラミンゴが飛んできた。文字通り。

 飛行種ってなんだ。

「どうすんだ!? こんな島、手に入れて!?」

「さあ?」

「いやいや、旦那。そうバカにしたもんでも」

「誰だ、お前?」

 着ているものだけは立派だが、汚らしい感じのおっさんが、そろばんをチョンと持ち上げて話しかける。

 助けを求めて部下である二人を見ても、逆にどうぞどうぞみたいに、聞くのを強制される。

 なんだ、これ。まさか、こいつも部下なのか。いつの間に。

「ここらはグランドラインでも、比較的大人しい海域。加えて、アラバスタだのドラムだのの騒動も終わって、後ろにいるのは、サー・クロコダイル。あっちは、あっちで、海列車で繋がる海軍本部だ。ジャヤのエターナルポースを配れば」

 身振り手振りに、パチパチ、玉を鳴らす。目がキラキラしている。ベリーで。

「どうするってんだ」

「どうするもなにも、旦那の器量次第でさ」

 すっごい、期待した目で見られる。まるで褒められるのを待つ、子供のようだ。こみ上げるものがあった。騙される子供には、慣れているのだ。ドフラミンゴは冷静になった。

「それ、誰に吹き込まれたんだ?」

 スンとなる。

「オイ、こっちを見ろ。目を逸らすんじゃねえ!!」

 そんな知恵があったら、モックタウンはとっくにそうなっている。ベラミーはバカだし、こいつらに、そのアイデアがあるはずもない。

 入れ知恵したアホがいる。締め上げて吐かせる。

「麦わらのちっこいのに」

「麦わらァ!?」

 詳しく聞いた。完全に、酒の席のたわごとである。超、夢いっぱい。

「ベラミー。お前、負けたのか」

「ええ、完膚なきまでに」

 どうしたもんかな、このバカども。なにスッキリした顔をしてんだ、クソガキ。まずは、シンボルを返しやがれ。いや、まあ、ドフラミンゴだって男の子ではあるけれど。

 悔しい。

 確かに、儲かるかも知れない。

 しかし、世界情勢をわかっているのだろうか。あり得ないことだが、白ひげとクロコダイルとアラバスタと魚人島が、協力して新たな経済圏を作る。

 ひいては、マリージョア包囲網を作ろうって噂で持ちきりなんだが。

 そんなところに参加しちゃうんだ。ドフラミンゴが。その傘下と。まだ、表向き、賞金を引き上げてない、新入り使って。

 大ニュースじゃねえか。どうすんだ、これ。大してなにも考えずに来ちゃったけど、マズくないか。

 また、アホウドリにないことないこと、書かれないか。

 政府の裏の協力者って形で、コウモリのように活躍してきたのが、ドフラミンゴだ。当然、こんなふうに参加しても、利益が得られるだけで、信用は毀損する。

 どちらにも、味方とは思われない。それでなんの問題もなかった。

 これまでは、政府と四皇の天秤を測っていればよかったからだ。それなのに、これからは海軍とクロコダイルが増える。

「クロコダイルだとォ?」

 同格だったはずの男の、顔色を伺いながら生きていけというのか。大した組織もない、個人の武勇だけだった男の利益にぶら下がり、その血を啜って生きていけと。

 頭を振って、冷静に務める。

 政治。政治だ。軸は一本。皿は四つ。身動きが出来ない。

「やってくれたな、センゴク」

 たった一手だ。政府の協力者だったはずのドフラミンゴに、麦わらの情報を流した。欲張ったドフラミンゴは、センゴクへの貸しに釣られて、ジャヤへやって来た。

 ベラミーがいたからだ。

 それだけで、こうだ。七武海の勢力図が変わった。ドフラミンゴは、決定的にクロコダイルの後塵を拝した。さらに、天秤が増えたことで、新世界の状況も変わる。それだけのファミリーを作り上げた自信はある。

「フッフッフ!! この俺が、遅れただと? フフフフ!! この俺が!?」

 ベラミーはたかが五千万の小物だが、バロックワークスとクロコダイルが入り口を塞いでいるのも事実。

 アラバスタを越えたら、ジャヤ周辺の、よそでエターナルポースを入手しにくい、ズタズタの航路がある。

 そして、九蛇と影野郎に挟まれた、海軍の支配地域へと差しかかる。

 最後はジンベエだ。

 楽園とは呼ばれるが、前半の海を突破するのは大変だ。

 ベラミーは、頑張っている部下なのだ。億越えとか、なかなかルーキーでは生まれない。

 よほど、七武海の一角が崩れるようなことがない限り。

 そう、エースが現れたときのような。

 海賊を止めるための七武海が落ちれば、当たり前に海賊は新世界へ雪崩込む。

 治安も悪化し、当然のこととして、賞金額も上がる。

 今のセンゴク体制は、四皇と直接、対峙しないことで、緩やかに治安を回復している段階なのだ。

 七武海は、必須のはずだ。海軍の戦力が、回復するまでは。

 だから油断した。

 これによって、直接ドフラミンゴが害されることはない。だが、間接的には厄介だ。下手をすれば、致命傷となり得る。

 どうするべきか。

「ベラミー。ちょっと、こっち来い」

「なんだ?」

 ドカンと、カウンターへ叩きつけた。能力を発動する暇もない。ベラミーは血だらけになった。

「約束だ。負けた以上、シンボルは返せ」

「う……あ」

「俺は、期待してんだぜ? ベラミー。お前なら、また這い上がってくるよな?」

「あ……? ドフラミンゴ?」

 確かに、舵取りは難しい。だが、この場所は楔にもなり得る。

 これまでは、新世界こそが、世界の中心だった。

 これからは違う。

「フフフフ!! 来たぞ!! 時代のうねりがッ。もう、間に合わねえ!! 誰も逃げられない!! 本物の海賊がッ、豪傑どもが鎬を削る!! 新時代の幕開けだ!!」

 

 

「そう。中心はマリージョア。または、魚人島。誰も無視出来んやろう? なあ、異世界人ども」

 千の波を越え、万の風を読み、海を行くのが海賊だ。

 海賊でないなら、大地にしがみついていろ、一般人。

「争え。そのうねりに乗って、ウチらが先頭や」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。