ボロボロになりながら、神兵にトドメを刺して回って、ドロドロになって帰ってきたら、誰もいなかった。
メリーは一人だ。
パガヤさんにお願いしていたはずだが、どうやら逃げ出した神隊の救助へ向かったらしい。動けない人もいるようだ。
なにがあったのか、途中からよくわからない。大破したし、飛ばした基地航空隊も、雷でやられた。
演習扱いにしてみたけど、やはり都合よくはいかなかった。また、熟練度から上げていかないと。
バケツを被って、風呂に入る。入渠ではないが、風呂は好きなのだ。疲れた身体にしみる。
色々と失った。妖精さんの暴走を止めるために、自由ではなくなった。
仕事は好きだ。大したことじゃない。
ただ、疲れた。ずっと、サイコパスの思考を読んでいた。価値観の違う相手を、誘導し続けることは難しい。
弱点は、狙われるものなのだ。
やり遂げたと思う。住民への被害は、一つもない。
多分。
ただ、住む場所がなくなっただけだ。雷かつ、ワープするかもわからない相手に、雲海へ散り散りになられたら困る。
あと、色々計画的にしたら、混乱はしても突っ走れる。なんにも考えないのが悪いのだ。考えておけば、不完全であっても実務は回る。
大戦だって、乗り切れる。麦わらは、例外。
おかげで、恨まれただろう。憎まれたはずだ。故郷を消し飛ばしたのだから。
構わない。どうせ、空島は通り道。何日か宴をするかも知れないが、すぐに立ち去る島である。
なんでか、他の麦わら一味は許されているが、流石に龍驤はダメだろう。
龍驤は、ここで船番をして過ごす。メリーと二人きりだ。寂しくはない。
いや、ログポースはどんだけだ。今さらながら心配に。
立地的にも、経歴的にも、磁気が弱くても不思議ではない。
まあ、それは航海士が考えるだろう。龍驤は観測手だ。酒瓶を両手に、甲板へ向かう。
一つはラッパで、もう一つは雲海へ。
投げた酒瓶は、飛び出したマクシムの甲板に吸い込まれた。黄金船が、空へ駆け上がっていく。ドンピシャである。龍驤は笑った。
マクシムは月へ、まっすぐに進む。
「男の船出や。祝福したる」
届いただろうか。届くといい。マントラなのか、なんなのか。奇妙にエネルと繋がった感触は失われていた。どこか、心が繋がっている気がした。
互いに不愉快だった。
今はスッキリ、爽快な気分だ。
本来なら、邪魔する理由などなにもなかったのだ。シャンディアにも、スカイピアにも、味方する理由はなかった。
メリーを壊されたのだから、皆殺しでよかった。だから、エネルが空島を皆殺しにしても、どうでもよかった。
しかし、まあ、メリーは、まだ、死んでいない。船長の、仲間の目的は果たされたのだ。それでいいじゃないか。
一味がいるうちは、大丈夫だろう。しかし、立ち去ればまた、空島は戦い始める。互いを排除し始める。
わかりきっている。400年を、たかが二日の騒動で解消出来るはずがない。誰も納得しない。
自分の権利を手放すなど、そんなのが出来たらヒーローだ。誰かと分かち合えるなら、聖人だ。
そんな最弱のヒーローが、こんな怪獣の跋扈する世界にいるわけがない。
アンパンマンは、龍驤じゃない。シャンディアじゃない。空の騎士でもない。ルフィは絶対に、そうはならない。
だから、龍驤は一人でベッドに入った。メリーを静かに出航させた。
きっと、朝にはアッパーヤードの入り口まで流れて行けるだろう。
妖精さんに任せた。メリーは応えてくれる。
疲れた。
龍驤は寝た。
「起きろ!! 龍驤!!」
夜中だった。龍驤は眠気まなこを擦る。
「キミ、女部屋に」
「いいから、来い!! 祭りだ!!」
「祭り?」
なんか、そんなことを言った気がする。400年ぶりの帰還なのだ。ただの宴じゃ、つまらないだろう。
神がいるんだから、宴ではなく、祭りにするべきだ。
なんか、ノリで酋長を煽ったのだ。400年前にしていたことを、空の大地でやるべきだと。
「いや、眠たいんやけど」
「そんなの、祭りの後だ!!」
後の祭りなんだよ。
まあ、船長命令だ。ルフィに連れられて、龍驤は外へ出た。試練の入り口が見える。玉の字へ、迷いの森へダイブした。罠はどうくぐり抜けたのだろう。
龍驤は、置いていかれるメリーを振り返った。送り出された気配がする。
ルフィは探しに来たのだろうか。祭りの最中に、わざわざ龍驤を。それとも。
「なんや、コレ?」
太鼓の音が鳴る。ドンドットットと、大地を揺らしている。
キャンプファイヤーが、あのときの五倍はある。もはや、火事である。
その中心で、蛇がクネっている。人が踊っている。飯を食べている。酒を呑んでいる。
肩を、組んでいる。
シャンディアの別なく、スカイピアの住民とも。誰も、彼も。鳥やオオカミでさえ。
「なんや? これは?」
「祭りだ。龍驤も踊ろうぜ?」
「いや、ちょっと見て回りたい」
「そうか? じゃあ、後でな!!」
ルフィは炎へ飛び込む勢いで、中心に向かった。龍驤はフラフラと、祭りを見て回った。
ゾロが、シャンディアの戦士と杯を打ち合っている。サンジが老若の区別なく、女性と踊っている。チョッパーは腰を振ってる。
ウソップがパフォーマンスをして、ナミが手を取り合って、ロビンが微笑んでいて。
ガン・フォールさんもいた。マッキンリーさんも。カマキリや、ラキも。アイサとコニスが笑っている。
このアッパーヤードの玄関口で、話して、遊んで、酒を飲み交わして、仲良くなって。
「ウワッハッハッハッハッ!!」
龍驤は呵々大笑した。それすらも、祭りの喧騒に飲まれていった。
「ハァッハッハッ!!」
笑い転げた。笑い過ぎて、涙が出た。気味悪がって、周りから人がいなくなるまで、龍驤は笑い続けた。
「これが夢でなけりゃなんや!? あ!? 夢のまた夢でなければ、なんやと言うんや!? こんな、こんな!!」
もう言葉にならない。
排除、排除と言っていただろう。余所者を罪に落として、神へ生贄として捧げていただろう。
互いを認められずに殺し合って、その歴史が400年だろうが。
たかが六年ばかり、別の誰かに支配された程度で、この有り様か。
じゃあ、地球って星はなんなんだ。馬鹿野郎が。
実に愉快でたまらない。龍驤はワイパーを見つけた。彼でさえこの光景を見て、頭を抱えながらも、苦笑いをしている。
龍驤はニンマリした。
「なにをシケた顔しとんねん?」
「お前、傷はいいのか?」
「プギャー!!」
龍驤はご機嫌だ。こいつ、龍驤を心配してやがるぜ。自分は、右腕を砕いているくせに。
「元気一杯や!! 神も、住処も、全部焼いたからなぁ!!」
「ああ、わかってる。お前なら、苦も無く全部終わらせられたろう。俺たちも、エンジェル島も、ゴッド・エネルさえ。感謝している」
「終わらせるやなんて、買い被ってくれる」
なんだこの、好青年。龍驤はワイパーの首根っこを掴んで、祭りを突きつけた。
「見ろ。見ろ! 見ろ!! これが終わりや。これが終わりなんや。よく見ろ、ワイパー!! これが戦の終わりやで!?」
なにもかも焼け野原にして、終わりなわけがあるか。
平和なんかなかった。長い、長い、長い戦後があっただけだ。互いの脳天に銃を突きつけるような、長い冷戦があっただけだ。
引き金に指をかけたまま、目を逸らして夢を見ていた。
平和なんてなかった。次の戦争は、もう始まっていた。
虐殺と弾圧ばっかりが起こった。
「命の終わりが、キミらの終わりか? 違うやろ? 受け継いだやろ? ノーランドとカルガラの友情を!! で、どうや? キミらの次の世代は、なにを受け継ぐ?」
ワイパーの目に、巨大なキャンプファイヤーの火が揺れる。
「さあ、見ろ、ワイパー。これは奇跡や。キミの子供は、もう戦わん」
笑顔だ。みんな笑顔だった。ワイパーの目にも、涙が光った。
誰にも言えなかった、秘めた願いを口にした。
「なあ、鐘の音は、ノーランドの子孫に、届いたかなあ?」
「届いたで。間違いない。なんたって、シャンドラの灯やからな」
なんの気休めでもなく、それが真実なの、奇跡の域を超えていて酷い。
やはり、技術こそ至高。
ワイパーも笑った。心の底から笑った。腹の底まで笑った。ワイパーの仲間たちが、それを見つけて、嬉しそうに駆け寄っていった。龍驤は弾かれて、祭りの輪に加わる若者を見送った。
「ワッハッハ!! 勝ったで!! 間違いなく!!」
祭りは最高潮だ。
ジャヤ、モックタウン。そこにある男が訪ねてきた。
「俺の配下に……ッ!! チンピラはいらねえんだ!! 小僧共!!」
「いや、ええ、はい。スイマセン」
ベラミーとサーキスが正座していた。その後ろには、仲間たち。そして、モックタウンに集まった落伍者たち。
あれから、ベラミーはモックタウンを掌握していた。丸ごと、傘下にした。なんか、そういうことになった。みんなで、浮かれていた。
そこに、ドフラミンゴが飛んできた。文字通り。
飛行種ってなんだ。
「どうすんだ!? こんな島、手に入れて!?」
「さあ?」
「いやいや、旦那。そうバカにしたもんでも」
「誰だ、お前?」
着ているものだけは立派だが、汚らしい感じのおっさんが、そろばんをチョンと持ち上げて話しかける。
助けを求めて部下である二人を見ても、逆にどうぞどうぞみたいに、聞くのを強制される。
なんだ、これ。まさか、こいつも部下なのか。いつの間に。
「ここらはグランドラインでも、比較的大人しい海域。加えて、アラバスタだのドラムだのの騒動も終わって、後ろにいるのは、サー・クロコダイル。あっちは、あっちで、海列車で繋がる海軍本部だ。ジャヤのエターナルポースを配れば」
身振り手振りに、パチパチ、玉を鳴らす。目がキラキラしている。ベリーで。
「どうするってんだ」
「どうするもなにも、旦那の器量次第でさ」
すっごい、期待した目で見られる。まるで褒められるのを待つ、子供のようだ。こみ上げるものがあった。騙される子供には、慣れているのだ。ドフラミンゴは冷静になった。
「それ、誰に吹き込まれたんだ?」
スンとなる。
「オイ、こっちを見ろ。目を逸らすんじゃねえ!!」
そんな知恵があったら、モックタウンはとっくにそうなっている。ベラミーはバカだし、こいつらに、そのアイデアがあるはずもない。
入れ知恵したアホがいる。締め上げて吐かせる。
「麦わらのちっこいのに」
「麦わらァ!?」
詳しく聞いた。完全に、酒の席のたわごとである。超、夢いっぱい。
「ベラミー。お前、負けたのか」
「ええ、完膚なきまでに」
どうしたもんかな、このバカども。なにスッキリした顔をしてんだ、クソガキ。まずは、シンボルを返しやがれ。いや、まあ、ドフラミンゴだって男の子ではあるけれど。
悔しい。
確かに、儲かるかも知れない。
しかし、世界情勢をわかっているのだろうか。あり得ないことだが、白ひげとクロコダイルとアラバスタと魚人島が、協力して新たな経済圏を作る。
ひいては、マリージョア包囲網を作ろうって噂で持ちきりなんだが。
そんなところに参加しちゃうんだ。ドフラミンゴが。その傘下と。まだ、表向き、賞金を引き上げてない、新入り使って。
大ニュースじゃねえか。どうすんだ、これ。大してなにも考えずに来ちゃったけど、マズくないか。
また、アホウドリにないことないこと、書かれないか。
政府の裏の協力者って形で、コウモリのように活躍してきたのが、ドフラミンゴだ。当然、こんなふうに参加しても、利益が得られるだけで、信用は毀損する。
どちらにも、味方とは思われない。それでなんの問題もなかった。
これまでは、政府と四皇の天秤を測っていればよかったからだ。それなのに、これからは海軍とクロコダイルが増える。
「クロコダイルだとォ?」
同格だったはずの男の、顔色を伺いながら生きていけというのか。大した組織もない、個人の武勇だけだった男の利益にぶら下がり、その血を啜って生きていけと。
頭を振って、冷静に務める。
政治。政治だ。軸は一本。皿は四つ。身動きが出来ない。
「やってくれたな、センゴク」
たった一手だ。政府の協力者だったはずのドフラミンゴに、麦わらの情報を流した。欲張ったドフラミンゴは、センゴクへの貸しに釣られて、ジャヤへやって来た。
ベラミーがいたからだ。
それだけで、こうだ。七武海の勢力図が変わった。ドフラミンゴは、決定的にクロコダイルの後塵を拝した。さらに、天秤が増えたことで、新世界の状況も変わる。それだけのファミリーを作り上げた自信はある。
「フッフッフ!! この俺が、遅れただと? フフフフ!! この俺が!?」
ベラミーはたかが五千万の小物だが、バロックワークスとクロコダイルが入り口を塞いでいるのも事実。
アラバスタを越えたら、ジャヤ周辺の、よそでエターナルポースを入手しにくい、ズタズタの航路がある。
そして、九蛇と影野郎に挟まれた、海軍の支配地域へと差しかかる。
最後はジンベエだ。
楽園とは呼ばれるが、前半の海を突破するのは大変だ。
ベラミーは、頑張っている部下なのだ。億越えとか、なかなかルーキーでは生まれない。
よほど、七武海の一角が崩れるようなことがない限り。
そう、エースが現れたときのような。
海賊を止めるための七武海が落ちれば、当たり前に海賊は新世界へ雪崩込む。
治安も悪化し、当然のこととして、賞金額も上がる。
今のセンゴク体制は、四皇と直接、対峙しないことで、緩やかに治安を回復している段階なのだ。
七武海は、必須のはずだ。海軍の戦力が、回復するまでは。
だから油断した。
これによって、直接ドフラミンゴが害されることはない。だが、間接的には厄介だ。下手をすれば、致命傷となり得る。
どうするべきか。
「ベラミー。ちょっと、こっち来い」
「なんだ?」
ドカンと、カウンターへ叩きつけた。能力を発動する暇もない。ベラミーは血だらけになった。
「約束だ。負けた以上、シンボルは返せ」
「う……あ」
「俺は、期待してんだぜ? ベラミー。お前なら、また這い上がってくるよな?」
「あ……? ドフラミンゴ?」
確かに、舵取りは難しい。だが、この場所は楔にもなり得る。
これまでは、新世界こそが、世界の中心だった。
これからは違う。
「フフフフ!! 来たぞ!! 時代のうねりがッ。もう、間に合わねえ!! 誰も逃げられない!! 本物の海賊がッ、豪傑どもが鎬を削る!! 新時代の幕開けだ!!」
「そう。中心はマリージョア。または、魚人島。誰も無視出来んやろう? なあ、異世界人ども」
千の波を越え、万の風を読み、海を行くのが海賊だ。
海賊でないなら、大地にしがみついていろ、一般人。
「争え。そのうねりに乗って、ウチらが先頭や」