龍驤がヤサグレるワンピース   作:HIRANOKORO

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最後までつきまとう

 連日連夜、宴をしているが、流石にそろそろ出航する準備を始めた。

 そうしたら、神がついに実現出来なかった恐怖が、龍驤の目の前に迫ってきた。

 住民が、大挙して押し寄せて来たのだ。

「無茶抜かすな。こんな柱、メリーに乗るわけないやろが」

「だって、金塊なのよ!?」

「余計、無理やんけ」

 なんか、戦いの余波で落下した鐘が、アッパーヤードのどっかに引っかかっていたらしい。

 それを、人力で引き上げたらしい。

 で、ロビンが調査し、ポーネグリフを見つけて、しかも海賊王のメッセージまで確認して、ご好意で金が貰えることになった。

 お礼をしたいと、押しかけて来た。

 少し、時間がほしい。

 状況を整理したい。

 だが、ナミが暴走した。

「なんとかならないの!? ねえ、龍驤が引っ張ればいいでしょ!?」

「雲の海やぞ!? ウチだけ真っ逆さまやんけ!!」

 重いのだ。海の上だって危ないものを、雲の上で運びたくはない。

「そもそも、どこで取引すんねん、こんな量。島ァ丸ごと買っても、お釣りが出るで」

 大海賊時代と呼ばれるぐらいには、景気が悪いのだ。お金があるなら、海になんぞ出ない。

 お金と交換出来ない金など、荷物になるだけである。

 しかし、この柱。太い。単純にデカい。龍驤ですら手に余るレベルだ。

 なんで担いでるの、この人たち。

「キミら、神隊の人?」

「いや、ただの住民だが」

 一般人怖い。

「せっかく、大金持ちになれるのに!!」

「メリーの船体より太いもん、どうやって持つ気や」

 大海を支える柱を武器にした、孫悟空ならなんとかなるかも知れない。だが、麦わらは人間である。猿ではないし、神でもない。

 船よりデカいものは、絶対に運べない。

「ウソップを見習え。まっとうに取引するだけでも、大儲けや」

 まず、為替が違う。物価も違う。アッパーヤードを手に入れて、供給力が爆上がりで、需要も旺盛。

 青海では見られない特産品が豊富で、他に競争相手もいない。

 これで大金持ちになれなかったら、詐欺である。こんな如意棒崩れに、命をかけることはない。

「そんな!? 受け取ってくれないのか!?」

「どうやって礼をすれば!?」

「いや、こっちは住処吹き飛ばしとんのやから、貸し借りなしやろ」

 辛い。人々が善人過ぎて辛い。龍驤は身の置きどころがない。重慶でもそうだった。

 焼いても潰しても、毎日生えるんだ。一般人が。

 戦略兵器なのに、まともな虐殺も出来ないし、被害は無視されるし、恨まれもしない。立場がない。

「真剣に考えなさいよ!! なんとか出来るでしょ!?」

「ワガママもええ加減にしときよ、この泥棒猫」

「は?」

「あ?」

 めっちゃ火花を散らす。

 まあ、柱から剥がしたりなんなりすればいいのだが、シャンドラの金は異常に頑丈なので、本物と認めて貰えないかも知れない。そうすると、合金から精錬する必要もある。換金が面倒だし、換金出来てもすごい目立つしで、貰ってもいいことがなにもない。

 ならば、普通に貿易した方が、よほどマシである。

 ウソップはワゴームでぼろ儲け。

 チョッパーは両陣営の人を連れて、薬草探しへ行った。薬学に詳しいチョッパーは、植物学者な部分がある。龍驤がまとめた資料を、喜んで活用した。

 他のメンバーは、いつも通り。ナミと龍驤は、仲良く出航準備をしていた。

 ロビンがニコニコ、いがみ合いを見物している。

 諦めきれないナミに、仕方なく、龍驤は切り札を切った。

「アラバスタで仕入れた、綿と麻があったろ。それで絞りとる。ええな?」

「取ってくるわ」

 どちらも、世界中で利用されてきた繊維だ。麻は歴史が古すぎて、有史ではなく、人類史で語られる類の植物である。

 綿は言わずもがな。近代の中心にある作物だ。

 つまり、ざっくり言うと、エジプトとかイギリスになれる戦略物資である。

 二次産業が生まれるのだ。人類の分業化が進み、文明とか発展する。

 経済が出来て、ルールが整備されて、税金が発生する。

 憂鬱になる。

「不幸になれや」

 そんな安い商品じゃないのに。

 龍驤が仕入れたのは、繊維の方ではない。種である。国外へ持ち出すと、死刑になる品物だが、十億ベリーとお姫様の身柄を盾に、カツアゲした。

 砂漠のアラバスタが、大国でいられる理由の一つだ。

 この世界だと、島ごとの気候が異次元過ぎて、ちゃんと育つかわからないが、綿も麻も強いコだ。

 ノーランドさんの資料に、原種らしき記述もあったので、大丈夫だろう。混ぜて栽培すれば、空島に適応しつつ、生産量も十分な品種が生まれるかも。

 指南書に従えば、出来る。

 知らん。頑張れ。

 税務とか、本当に、もう。経費に薄い本やめて、オータムクラウド先生。艦娘には、乙女心が搭載されてるんです。それは、ヤサグレた龍驤も、例外ではないんです。

 汚れちまった悲しみに沈む間も、準備は進めておく。ほとんどが食糧なので、積み荷の管理一つで、一味が全滅する。

「手伝いましょうか?」

「ロジャーのメッセージやて?」

 ロビンが警戒した。雰囲気から、マジであると推察した。

「ええ。古代文字で、石に刻まれていたわ」

「読み書きに、石工の技術? 字は下手やったか?」

「下手、ではあったかしら?」

「読めたんやな? 問題なく?」

「どうしたの?」

「読む、書く、話すは別スキルや」

 憂鬱は読めるが、書けません。本は人よりたくさん読むし、お絵描きだってするけど、おしゃべり出来ない。

 そんなものだ。

「石に、文字を刻む?」

 判子の文化は、無駄にあるものではない。認証に使えるぐらいに、真似が難しい。素人が手を出せるものではない。

 それらを、ロジャーが駆使したと。

 例えるならば、ラテン語を学んで、印章を使いこなすヨーロッパの知識人みたいなことである。

「ロジャーが?」

 最近では、枢機卿レベルでも、そんな教養はない。

「広まっている話とは、ずいぶん違うようね?」

「どっちが正しいん?」

 名前を変えられて、キャラクターまで加工されて。

 それでは人生そのものを歪められた、被害者ではないか。

 二次創作で好き勝手にされる系の。ゼウスかテメェ。

「それが悪名、と言えばそれまでやが」

 かわいそうだが、政府は珍しく正しい対処をした。エースの人生は歪んだが、あっちもこっちもゼウスの子、みたいな事態は防げている。

 しかし、ロジャーがジェントルメン。

「あり得へんわ。間違いなく、蛮族です」

「容赦ないわね」

 まあ、イギリスは蛮族なのでね。矛盾はないのかも知れない。

「ロジャーに古代文字を使う教養があるなら、オハラみたいな研究結果やなく、継承やろ。東の海出身で、現状を考えりゃ安心やな。政府は、ちゃんと仕事をしとるもの」

 たぶん、オハラと同じく、滅びているだろう。つまり、麦わらにライバルはいない。いても、白ひげかエースというところだ。

 龍驤は、ちゃんと対処している。大丈夫だと思う。

 まさか今さら、東の海へ戻って、ロジャーの故郷を探すとかしなきゃダメかね。東へ逃げたエースが、さらなるアドバンテージを手に入れて戻ってくる可能性とか、どんなもんだろう。

「裏目ったか? これ、裏目ったんか?」

 しかしながら、ロジャーに教養はないと思うので、メッセージを代筆した人間の存在を考えなければならない。

 いや、名前まで変えられた人間の実態なんか、どれだけ本当かわからないけど。

 頭痛い。

 政府は仕事をしていない。

 根本を除いていない。

「歴史を紡ぐ者。古代文字を扱う人々が、まだどこかに生き残っているんだわ」

 ロビンは嬉しそうだが、龍驤は気鬱。

「ロジャー、一つとっても、絶望的やがな」

「どういうこと?」

「キミ、新聞のバックナンバー、保管しとる?」

 なぜ国が滅び、また興るのか。

 国をシステムやプログラムとして考えれば簡単だ。

 紡いだ歴史が重いデータ容量となり、改編し過ぎて不具合が出て、開発者がこの世から退職してソースがわからなくなる。

 だからあるとき、全部を一新して、新バージョンへのアップデートが必要になる。

 どんな国も、やがて官僚主義へ陥るのは、そういった理由からだ。もはや、付け焼き刃では、システムを動かせない。

 誰でも動かせるのが、システムのよい所なのに。

 よって、歴史の編纂は官僚の仕事だ。やつらは言われなければ、外国の出来事など記さない。

 日記なんか、普通は他人に見せたりしないので、最悪、数百年は出て来ない。歴史学者は滅ぼされた。

 いつからか、この世界では、世界史を紡ぐ習慣が失われた。国史ならあるだろうが、それも外海には出ない。

 海を渡ってまで、事実を調べようとする人間は、まずいない。

 だから、たかが二十年前のロジャーという男のことすら、明確にはわからない。

「まあ、新聞も新聞でアレやけど」

 船乗りたちの噂話を除けば、唯一の情報源だ。そうなんだけど、新聞紙って便利だし、保管には場所を取るし。

 蔵が建つんだよね。ただの古新聞で。

 この世界には、歴史がない。紡ぎ方すら、知らない。

 政府は仕事をしてないんじゃない。終わらせている。

「喜んどらんと、紡いで見せよ。過去ばっか振り返るだけが、歴史ちゃうぞ」

 本当にお願い。現状分析だけでも大変なの。こんなメッセージ一つで、思惑が外れるぐらい。

 麦わらのライバルたちは、上位数パーセントの上澄みばかりだ。百万の常備軍を擁するアラバスタをどうこう出来るクロコダイルが、銀メダリストなのだ。百万の軍勢って、大陸国家でも難しいぞ。アラバスタは、超大国だ。王族、貧乏だけど。

 そして、世界政府は、思ったよりバカじゃない。

「子孫を自称する民族に、その詳細が伝わっとらん。歴史の抹消は、800年前に完了しとるんや。徹底的にな。ポーネグリフなんざ、鼻くそみたいなもんやぞ。気合いを入れ直せ」

 核でも落としたか。歴史と言う名の行政文書を、丸ごと吹き飛ばせるのは、それしかない。

 革命に無頓着なはずだ。政治体制が根本からひっくり返れば、歴史の継承もない。海軍、という超巨大官僚組織を、国家とは別に管理している。完璧ではないにしろ、様々な施策をしている。

 まどろっこしいだけで、本当にバカではないのだ。

 そのおかげか、ワンピースへの注目は衰えている。どいつもこいつも、レースではなく、陣取り合戦に夢中だ。だからって放置されるはずもない。麦わらが勝利するためには、蜘蛛の糸のような綱渡りが求められる。

「情報がいる。唯一、歴史を紡いどる場所へ行かなならん」

「じゃあ、やるのね?」

「やる。しゃーない」

 物騒な相談をしていると、ルフィが近づいてきた。なんか、テンションが低い。

 宴の連続で、機嫌は良かったはずだ。こそこそと、龍驤に耳打ちする。

「なあ、なんかお礼だなんだってうるさいから、逃げるぞ」

「なら、なんでウチ、ナミとケンカしたん?」

 なんだ、お前。

 

 

 タコで落下した。とてもよくわからないが、そうなった。

 そもそも、なんであんなに感謝されているかわからないが、麦わらの一味は、空を後にした。

 たぶん、龍驤のやった所業が、エネルへ転嫁している。龍驤を見て、そんなことが出来るとは、普通に思わない。ルフィが船長に思われないのと、同じぐらいに。

 で、常識的な思い込みで、歴史が歪められたのだろう。ガン・フォールさん周りは知っているが、いちいち訂正はしない。

 龍驤も諦めた。面倒なので。

 ロビンがニコニコしている。ならば、いい。

「金持ちになったぞ!! なに買う!?」

「船やろ」

「でっかい銅像買おうぜ!!」

「船やて」

「いやいや、ここは大砲だろ!? 十門買おう!!」

「載らんから、船な」

「鍵つき冷蔵庫だな。一味の死活問題だ」

「うん。新しい船につけよ」

「本!! 本が欲しい!! 他の国の医術も知りたいんだ!!」

「買えるだけの小遣いやるから」

「酒」

「聞け、カスども」

 龍驤の砲撃が火を吹いた。ナミとロビンは、冷静に観察している。

「船を買います。ドゥユーアンダスタン?」

「はい」

 男たちが唱和する。

 船長だろうと、文句は言わせない。二つに割れて、メインマストが折れている。

 一応、今は大丈夫だ。クラウドエンドまで航海して、7000メートルをゆっくり降りている。

 空島の人たちに、手を振りながら見送られた。落下したときは、爆撃の恨みを果たされたかと思った。あんまりにもみんなが笑顔だったので、サイコパスかと思った。

 へそ、じゃないから。送別の鐘が、マジで鎮魂の音に聞こえた。

 ノックアップストリームに吹き飛ばされるときより、ドキドキしたので、ケロッとはしゃいでいるバカどもが恨めしい。

 しばし、ゆったりと過ごす。

「海面が近づいて来たで」

「青海に降りたら!! 新しい冒険が始まるんだ!!」

「次は、どんな騒動になるかねえ」

「ログポースはバッチリ」

「食糧も充分だ」

「帆も張り替えたし、修理も済んだ!!」

「頑張ったゾ!!」

「フフフ」

 仕事して。

「とりあえず、もう、不意打ちは食らわん」

 龍驤は艦載機を展開した。男たちは、いつもの耐ショック姿勢。メリーが着水した。

 海が青い。実に感慨深い。

 ザバァっと、海獣が顔を出す。

「猿?」

「猿はもう、ええねん」

 波に追われて、一味は次の島へ。

 

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