竹馬に乗って、実は助けを求めてたとか、見ただけでわかるわけないだろ。ぶっ飛ばすぞ。
龍驤は動物好きである。ことあるごとにペットを飼おうとして、あんなに懐いたサウスバードがジャヤへ帰ったときも、珍しく涙を見せていた。
いつもは泣き真似だ。
飼い主に似たので、一味は快く、追い出した。チョッパーだけが、引き止めた。龍驤の腕に捕らわれながら。
だから、ウ〜マが撃たれたと聞いただけで、キレ散らかした。
船長より、意地になっていた。
後はもう、お察しである。
龍驤と妖精さんがいて、反則ありのゲームを挑むとか。
フォクシー海賊団は、一味の同情対象となった。
「ルールブック寄越せ」
「あるわけねえだろ。オーソドックスルールだ」
「俺が説明する」
デービーバックファイトは、常識のない海賊たちの間でさえ、普及しているようなゲームだ。どれだけバカバカしく思えても、それに従うことは、当たり前とされている。
旗の信用能力に関わるのだ。唯一、海賊の身分を証明する手段が、使えなくなる。クリークのような立場になる。
弱肉強食の世界では、実力すら通じない。弱者にも生存戦略と、有効な戦術がある。強者を貶める方法がある。
簡単に言えば、環境が敵になる。雑草や小虫を踏みつけて気にしないのは、それが敵ではないからだ。
全部、敵になる。地雷原だ。
サンジは心配だった。
「いらん、いらん。なにがオーソドックス。この世に常識なんぞないわ」
お前が言うな。一度、じっくり言い聞かせてやらなければいけない気がする。
「ドーナツレースっ!!」
「死ね」
生きてたことを、褒めてやろう。一味は、きっちり安全圏に避難している。選手は海の上。龍驤は遠慮をする必要がない。
死者が出なかったのは、フォクシー海賊団の実力である。
「なにをしやがった!?」
「ズルだ!!」
「反則だ!!」
「なにをしたかもわからんのにか?」
龍驤は揺るがない。
「ウチが、なにをしたか、言うてみろ、ボケカス。言いがかりには、実力で応えんで?」
怖い。
フォクシー海賊団は、すごすごと引き下がった。
善人な世界、万歳。ここは、悪党の天下である。制空権があるし。
「それで? 彼らからなにを貰うの?」
「賠償金」
請求書を渡す。
「こ、こんなに高えのか!?」
「お前たち、デービーバックファイトは人取り合戦よ!! こんなの認められないわ!!」
「認めるさ」
「なんで!?」
積み重なる理不尽に、悲鳴が上がる。
「犬とも猫とも違う。人馬一体。人間と一つにまでなるのが、馬という生き物や。熟す仕事。育てるコスト。生き様から滲む、愛嬌と衷心。賢さと優しさ。海賊ごときゴミクズじゃ、いくら身柄を貰っても足しにはならん」
「お、俺は、畜生以下」
「オヤビン!! 元気出して!!」
ギャグな雰囲気を作るが、許さない。
「なにを落ち込んどる。ただの事実やろ?」
「いやん。どういうこと?」
「金が払えな、奴隷として売る。当たり前やろ? デービーバックファイトの結果なんやから」
「仲間を売る? だと!?」
「賭けの種にしといて、今さら? そもそも、どんな処遇でも、文句は言わんと誓ったはずや」
フォクシーの顔が青ざめた。
「人間なんざ、大した金にもならん。檻に閉じ込め、人買いのところまで糞尿まみれにして、豚の餌を食わす。それでやっと、儲けが出る。生涯をかけて実感出来るぞ。身の程ってやつを」
「すみませんでした。お支払いします」
流れるように、土下座した。揃ってみんなした。寄せ集めの割に、チームワークだけはよかった。
「謝る相手が違うやろが!!」
一味の反対を押し切ったルフィすら、ちょっとついていけない。でも、口を出せない。
気持ちは同じ、はず。
なんかもう、決闘する理由のほとんどがなくなった。
だから、龍驤の介入は、それまでだ。シェリーにしがみついた。シェリーは迷惑そうだった。
トンジットさんたちは帰った。安静にしなきゃならないので。
龍驤は邪魔。
悲しむ龍驤を、フォクシー海賊団の司会が誘う。
「選手じゃねえなら、解説とか」
「ちょっと、尊敬してきたわ」
海賊だ。ゴミのような人間だ。腹が立った。でも、なんか憎めない。
というか、憎悪を向けても気にされない。実に、龍驤が間抜けだ。一人で盛り上がっている。
「海賊としては、正しい姿よね」
まあ、間違っているのは龍驤だ。
「お気楽なだけちゃう?」
常識が迷子。いつものように。
超スズメに乗れるので、承諾した。解説席を用意された。
一悶着、あった。
「第二回戦!! グロッキーリング!!」
たんこぶと青痣だらけの司会者。並んで龍驤。超スズメに埋まる。
「麦わらのメンバーは、迷子の剣士、ゾロ。メロリンコックのサンジ。そして、七段変形トナカイ、トニートニー・チョッパーです」
「な、七段変形!?」
フォクシー海賊団と、一部麦わらが沸く。大騒ぎだ。チョッパーに、声援が集まる。
「ぶっ飛ばすぞ!?」
「明らかに贔屓だろうが!!」
こっちにはブーイングの嵐である。酷い。
でも、麦わらの一味は、悪名すら広まってない。
そして、フォクシー海賊団のメンバー。
「コンダバ?」
「やつらの入場テーマ曲だ!!」
これはワクワクする。あの機構、欲しい。船首飾りの口が降りてきて、選手たちを吐き出す。ルフィとウソップと、揃って振り返ったが、女性陣からバツを食らった。
残念。
「グロッキーモンスターズ!!」
「人間を運ぶというゲームの特性上、怪力を旨としたメンバーやな。体格も肝や。敵を持ち上げて、抵抗を許さんデカさ。逆に、敵は持ち上げられん。巨人は特に。攻撃と防御に、バランスのええメンバーやな。無敗の記録も伊達やないで」
「素晴らしい解説ゥ〜!!」
褒められて喜んでいる。素直だ。どうしよう。愛嬌に弱いんですよ。モンスターだし。
ペットにするか。
人の心。
麦わらからも、声が上がる。
「俺は!? 俺は!?」
「こっちのメンバーも解説しろ!!」
「そうだ!! そうだ!!」
なんで、味方の情報を。
しかし、船長に言われてしまった。チョッパーからもお願いされた。
「怪力なら、こっちのメンバーも負けん。一味の腕相撲ランキング、上位三名や。体格も、小さいことが不利とは限らん。素早さと小回りでウォータンの足元を崩せば、ボールは一気にゴールへ近づく。なにより、七段変形や」
実は弱い船長。気を抜くと伸びるので、ウソップにも負ける。ロビンにくすぐられたり、サンジに肉で釣られたり。
なぜか、龍驤にだけはガチ。妖精さんも、味方してくれない。
「上手いこと、誤魔化したわね」
「注目選手よ、チョッパー!!」
「コノヤロー!!」
喜んで貰えてよかった。
常識で考えれば、人間同士の腕相撲がどうだろうと関係ない。警戒はしない。サイズが違う。
ただまあ、麦わらの一味の腕相撲である。
軽率に始めると、メリーが沈む。もう、簡単に暴れられなくなっている。本当に、メリーは頑張っている。
「おい、武器は反則だぜ」
「あ?」
ゾロが剣を預けた。サンジとケンカが始まった。
「真面目にやってくれよ!!」
「なら、こっちも身体検査しよか」
司会と審判がびっくりした。
「え? ちょ」
「妖精さん。剥け」
止められるわけがなかった。
ナミとロビンは目を背けた。モンスターズは、なんとかパンツだけは許された。
「玉と竿も武器やろぉ、なあ? 武器やよなぁ。海賊やもんなあ」
誰よりも下卑た顔で、龍驤が煽る。ポルチェちゃんが、顔を真っ赤にして逃げ出した。どちらが賊かわからない。
いや、龍驤も海賊だけど。
「オヤジ臭いわ」
「魂の九割がそう」
船なのでね。あの時代、セクハラとかなかったし。
龍驤はヤサグレている。
互いに同じ条件で、試合が始まった。
だが、楽勝とはいかなかった。悪いことを考えたオヤビンが、ビームとか撃ってきたからだ。
ボロボロになってから、二人は疑問を叫んだ。チョッパーは狙われていない。
「なんだ、これ!?」
「なにが起こった!?」
放送席。
「決まった!! オヤビンの悪魔の実の能力!! ノロノロビーム!!」
「古きよき、パルスレーザーやな。やはり、能力は波動」
「ノロノロ光子により、あらゆる物体は速度を失うよ!! 麦わらチームはどう対抗する!?」
「失っとるのは、速度やないな。質量、重力、光の反射。すべて異常が見られん。照射された物体の空間深度だけが、異様に引き延ばされとるんやないか? 結果、時間に影響を与えとる」
「なにを言ってるかわからない!! でも、解説ありがとう!!」
「どういたしまして」
オヤビンが、そうだったのかって顔をしているが、なにもわかっていない。龍驤もそう。
不思議光子です。
これには、ゾロもサンジも苦戦した。なんとか、チョッパーが支えている。
「鬱陶しいな。観客席でのケンカって、別に反則やないよな?」
「逃げて、オヤビン!!」
「オヤビンに限らんが」
ルフィもウソップも、白熱して試合を見ている。妨害ばっかりしていたら、そっちからも狙われる。
オヤビンはこそこそした。
「監視しておくわ」
「お願いね」
女性二人は真面目だ。
「ドジョウレーシングサーカス!!」
「ああああ」
「笑かしよる」
それでもダメだったり。チョッパーはノロノロしている。オヤビンはクラッチされている。
しかも、一度場外へ飛び出た二人組が、武装してきた。
「おーっと、これは明らかな反則!! 審判は、余所見をしているよ!!」
「まぶた引き裂いて、磔にしよか、あいつ」
「物騒だ!! でも、審判への暴力も反則だよ!?」
「暴力だけが拷問だとでも?」
妖精さんは、いつでもスタンバイ。まあ、でも、それも醍醐味と言えば醍醐味か。海賊の常識と、倫理観と、一味の怒りを天秤にかける。
「三十秒は許す。それ以上は、落とし前をつけて貰う。全員にや」
「急いで!! グロッキーモンスターズ!!」
ちなみに、麦わらの一味は、懸賞金もついていない、海賊旗を掲げただけの観光客です。遊覧船に乗っているし、間違いない。
でも、ビビるよね。ちょっとルフィが、変な目で見られている。
「グロッキー!!」
そして、三十秒。モンスターズは、期待に応えた。三人がフィールドに横たわる。
「頼むから、協力してくれよ」
「そうだな。十秒だ」
「妥当な時間だな」
三人は立ち上がった。ずっとヘビーポイントでいたチョッパーが、ブレーンポイントで走り出した。
「一人で突撃!? グロッキーモンスターズの三人に!? 残りの二人は、もうフラフラだ!!」
そのモンスターズは、武器を置いて、また持った。審判はブリッジ。フォクシー海賊団みんなで、龍驤を見た。
「せせこましい。人の顔色伺うぐらいなら、反則なんかするな」
「許可が出たよ!! 三十秒だ!!」
「モンスターバーガープリーズ!!」
大合唱になった。勝負を決めないと怖い。
「次は、ルールブック作るんやで?」
「検討しておくよ!!」
なんか、デービーバックファイトに新たなルールが追加されそう。異世界人のせいで。
ルールを作るのは、常識のぶつかり合い。
「ちなみに、十秒経過」
「スコープ!!」
まだだから。
チョッパーから恨めしげな視線。サンジの舌打ち。ゾロに青筋。
「二人目だ!! 頭!!」
チョッパーは、迫りくる金属バットに背を向けた。そこへ、二人で走りこんだ。
「仲間を踏み台にしたァ!?」
「いーち、にー、さん」
ハンバーグを飛び越えた。バットがチョッパーを打ち据える。回るピクルスの頭頂に、サンジが着地した。ピクルスが戸惑い、回転が不安定になるが、片足でバランスを取る。
「しー、ごー、ろく」
そのサンジの足に、ゾロが乗る。方向を見極める。
「アルメ・ド・レール」
「はい、空軍ね」
「パワーシュート!!」
「なーな、はーち」
ゾロが空中で構える。
「無刀流、牛針!!」
ビックパンの眉間に、突きが刺さる。倒れていく。その上顎を、ゾロが掴む。
「きゅーう」
「浮いた!?」
「さあ、ご一緒に」
「じゅう!!」
麦わら一味と、フォクシー海賊団の声が揃った。瞬間、ボールをリングへダンクする。ピッタリだ。およそ。
「十〜秒ッ!! 宣言通り決めたッ、麦わらの一味!! 試合ッ、終了だァ!!」
負けたのに、大歓声。やめろ。好きになっちゃうだろうが。
「敵の立ち位置、ゴールへの距離、身長。連携の隙と技の弱点を看破し、即座に作戦へ落とし込む。見事や。味方の力量を、存分に活かした。最初からやれたら、もっとよかった」
実は、チョッパーしか褒めていない。まあ、仕方がない。兄貴分が、弟分の世話になっちゃダメだ。
最後の十秒以外、ケンカしかしてない。
「じゃあ、勝利者の権利だよ!? クルーの一名、もしくはシンボルを奪う機会が与えられるよ!!」
「いらん。つか、乗らん」
麦わらの一味は、成長している。それはもう、大成長している。
比例して、食糧の消費量も増えた。それはもう、圧倒的に。
ルフィの次ぐらいに、龍驤も食べる。三人前くらい。
メリーの積載は限界です。
「申し訳ないけど、奴隷の待遇はデフォなんよ」
残飯なんてないので、本当に生ゴミを食べて貰うしか。ここでケガをしたから、一味の消費量はさらに倍。
平等にしても、足らないのは変わらないので、漂流して一味全員が危険に晒されるだけである。
「考えなしに、勝負とかしたらあかんよ? 航海って普通、計画的にするもんやから」
「はい」
両方の船長が叱られている。
「特に、ルフィ。負けたときのことを考えんのは、まだな。理解してやれんこともない。でも、勝ったときのことを考えんのは、船長としてどないやねん? 戦うことは手段やろ? どうすんの? オヤビン仲間になったら?」
「オヤビンはいらねえ」
フォクシーは項垂れる。ルフィは不満そうだが、反論はしない。龍驤は、それで終わりと、ニンマリ頷いた。
「というわけで、超スズメを頂きます」
「なにが、というわけだ!?」
ペットを飼う責任について、ルフィ以外から、懇々と説教された。でも、だってを繰り返すので、正座させられた。
六段積みのたんこぶを引っ提げて、フォクシー海賊団との交渉に向かう。
「スタンダードルールにはないが、仲間は要らんし、堅気に手を出した不義理を謝って貰ったら、終わりで」
セクシーフォクシー号の船首と、最後まで争ったのだが、欲しいもののために戦うのでは、本末転倒だ。
「いや、でも俺ら海賊じゃん」
「奪うのなら流儀やが、戯れに殺すのはな」
なるほど、ということで、そうなった。トンジットさんのところに謝りに行って、お見舞いを置いてきた。
本当に目的がなくなった。
なんで通用するの、この理屈。
なんか、ルールそのものが崩壊した。最初から、という説もある。
最後のゲームは、コンバット。
賭けるのはただ、海賊の誇りだけ。