龍驤がヤサグレるワンピース   作:HIRANOKORO

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フォクシー海賊団に見る、海賊文化の醸成と起源

 コンバットの準備完了まで、しばしのご歓談だ。

 デービーバックファイトは、フォクシー海賊団の手で収益化されていた。

 実にやり手海賊団である。

「このビジネスモデル、ええなあ。もうちょい、参加しやすいようにリスク管理出来れば、もっと流行るんやないか?」

 ちなみに、麦わらも出店している。ナミがブックメーカーで、賭けの胴元。食材持ち込みで、サンジの食堂。

 そして、龍驤がカードパックを売っている。新しいやつだ。空の支配者編。ダイアルなんかの、装備カードが豊富。武器の有用性とか、布教したい。

「新パック? マッドティーパーティーは?」

「俺は進撃の龍皇が欲しい」

「あるよ」

 まあ、龍驤の思惑と違い、カードゲームとしては、あまり普及していない。だが、トレーディングカードとしては人気だ。それなりに。転売も狙える。

 本来は家具コインと妖精さんの取引だが、リアルマネートレードです。

 良い子は真似しないでね。

 必要な資材や道具なんかは、勝手に頂いた。ウソップは、使えなくなったミルキーダイアルを、蒸気が飛び出る貝として、フォクシー海賊団の演出担当へ売り込んでいる。

 なかなかに儲かる。

 フォクシー海賊団は、客が麦わらぐらいしかいないので、赤字だと思う。

「航海ってなつまらんし、船ってのは上下関係も厳しい。海賊なら、港へ入るのも気を使うし、荷を現金に変えるまでは給料も出ん。福利厚生としては、最上の類やな」

 音楽家は大事なんです。

 ロングリングロングランドみたいな島でも、変わらずに興行を行うことで、船員の離反を防いでいる。航海を楽しいものにしている。

 フォクシーを体験してしまうと、簡単に他所の船には移れないだろう。

「恐るべし、経営能力」

 すぐそこで、ご本人がそうだったのか、って顔をしている。龍驤はことさら、無視する。

「お前、嫌い」

「俺も」

「俺も」

「俺もだ!!」

 フォクシーの情緒が、ジェットコースター。地面に埋まる。

「なんだってんだ!! たかが、馬一匹!! 謝ったじゃねえか!?」

「奴隷に家畜。そういう経済動物を戯れに殺すなんざ、金をドブに捨てる行為や。バカ以前の問題やし、悪党としても失格極まりない」

 死んでないし。

 ほうら明るくなったろうは、風刺画だ。バカを晒して、笑うためのものだ。

 フォクシーは、軽蔑の対象で間違いがない。

 間違いがないのに、困惑している。龍驤は舌打ちする。

 こいつらは、旗の誇りを理解している。

「誰が、こんなもんを悪党のテンプレまでにした。どんな外道や」

 遊びでなにかを殺す。子供が虫を殺すのとは、わけが違う。漫画やフィクションの定番ではあっても、現実世界ならあり得ない。フィクションでも、ホラー作品にすらなり得る。

 サイコパスが誤解される。

 異世界人の感覚か。常識の欠如か。フォクシーに、悪党として不適格なことをした自覚はない。当然と思っている。

 思ってはいるのに、仁義には反するとも理解している。

 なのに、それが旗を貶めるなどと、考えてもいない。

 矛盾だ。常識がおかしい。

 龍驤はロビンを見上げる。

「ロジャーやと思うか?」

「デービーバックファイトに関わるなら、起源は海賊島よ」

「賊の国家か。ない話ではないな」

 アフリカで、人は輸出された。オーストラリアで、人は狩られた。アメリカでは、わざわざ輸入して、土地を奪った。

 そうだね、イギリスだね。ヨーロッパだね。

「海賊文化の根底に、天竜人?」

 天竜人だろう。イギリスの代わりになれる存在は。

 サイコパスでさえ、あんなもんだ。龍驤にすら勝てない。

「わからんな。これは差別なんか? 憎悪犯罪?」

 なぜ海賊文化が重要かと言えば、電伝虫を規制して、航海術を剥奪した時点で、情報統制は完了しているからだ。

 そこから抜け出して、噂でもなんでも、情報を届けて蓄積して歴史を紡いでいるのは、海賊と海軍しかいない。おまけで、世経。

 政府は、ほら、自分でやった情報統制のせいで、常に後手だから。

 その政府がなんかして、海賊が天竜人並みのクズになったか。例えば、ドラム王国を始めとした、革命で揺れる各国のように。

 利益のためにヤクザが歪んだように、海賊も歪んだのか。

 白ひげはそれを仁義の側へ押し戻そうとしたのか。ならば、天竜人と協力したのは誰か。

 いや、より悪になろうとした結果、外道のマウント合戦になった可能性もある。

 外道が有効な戦術と誤解されるには、敵対にしろ協力にしろ、悪との直接的な関係が必要だ。

 推測はいくらでも成り立つが、どれが正しいのか。

 歴史は失敗の積み重ねであるため、こうだからこう、みたいなはっきりとした答えが出ない。来た、見た、勝ったで終わらない。

「人身売買は禁止されとるよな?」

 ロジャーという虚像は、政府に逆らったのか、従っていたのか。それは本当にロジャーなのか、消された誰かが別にいるのか。

 まったく、海賊王というものがわからない。ルフィは、なにになりたいのだ。

「情報が足りん」

 別になりたいものになればいいが、敵がわからない。目的も、戦術も、手段も。

 なんのために世界を混乱に陥れ、治安を乱し、文明を後退させているのだろう。

 挙げ句、失敗してやがる。でも、成果はある。中途半端な結果だけ残している。で、期間も短いもんだから、定まってすらいない。バカだから、聞いてもわからない。

「どこまで上手くいって、どこからダメになったん!? 政府も海賊も!! どいつもこいつも、まるで役に立たん!!」

 龍驤は七転八倒している。難しい話なので、オヤビンも仲間もどっか行った。観客席へ移動を始めている。

「ねえ、記念にペンか、メモ帳を買わない?」

「キミもか、ニコ・ロビン」

 意地でも要らないものは買いたくないので、ナミ用とあわせてお揃いのペン軸を購入した。

 後で、顔は削る。

 

 

 アフロの効用については簡単だ。覇気って信じる力だから。

 以上。

 知らん。

 触らせるな。

「根拠があることにびっくりだわ」

「自分の得意を活かすだけや。強い自負のある技なら、なんでもええんちゃう?」

 ルフィ、ゾロ、サンジのようにはいかないが、天候を操るなら、ナミでも覇気が使える。ウソップなら狙撃。

 たぶん。

 知らん。

「俺は!?」

「蹄で鉄を砕いたら、ええんちゃう? ルフィとゾロもそうやったし」

 今は石をも砕く鉄の蹄だが、レベルアップすればいい。二人も最初は出来なかった。

 チョッパーは奮起した。いい、兄貴分をやっているようだ。

「あら、私は?」

 なにかに裏切られたように、ロビンを見た。視界の片隅で、サンジとナミが、圧をかけてくる。

「そうか。打撃だけに目を向けて、グラップリングには無頓着やった」

 龍驤が静かになったので、落ち着いて観戦出来る。解説席に座らせると煽るから、色々と邪魔なのだ。

 妖精さんが張り切っている。

「大丈夫なのか?」

「撮影だけなら、大丈夫でしょ。ある意味、誰の味方もしないし」

 反則はしない。仕事には忠実。比較的。空島と同じゲームだから、遊ばせないと、また危ないし。

 選ばれた戦場がセクシーフォクシー号なので、観客席から見えない場所に移動することもある。そんなときのために、妖精さんが大活躍する。

 早速、ミルキーダイアルを使って作った煙幕に、妖精さんが撮った映像が流れる。

 なんか、もう、ツッコむのも疲れた。

 あれ、ほとんど立体映像技術だよな。しかも、空間表示。

 カッコいい入場とか終わったので、セコンドが追い出された。

 なかなか楽しい演出だが、それでも、音楽家の必要性が一味に理解されない。

 なぜなら、ルフィと龍驤以外、みんな暇をしていないからだ。夢のためにとか、色々と忙しい。ゾロでさえ。

「楽勝よね? 2400万なんて」 

「んなわけないやろ。懸賞金なんて、政府にとっての脅威でしかない。フォクシー海賊団は、ウチらと同じく、海賊相手に勝ち上がってここまで来た」

 弱いわけがない。グランドラインで、ゲームとは言え、殺し合いそのものの勝負を、自称無敗で乗り越えて来ている。

 だいたい、本部尉官クラスの実力があれば、凡百の海賊は倒せる。例えば、フルボディだ。あれは、別に弱くない。アベレージ三百万の東の海で、一千万クラスの首を取った、モーガンの実績評価がその程度だ。ほぼ、無双である。

 バラティエっておかしい。

 国や地域の防衛には、佐官クラス。各国の独自戦力もこの辺りだ。アラバスタ、ドラム、そしてウィスキーピーク。ちょっと特殊だが、ローグタウンも階級だけならそうだった。

 前半の楽園とはいえ、グランドラインでもそうなのだ。

 大海賊時代の普通とは、そういうものだ。それでなんとかなる。ならないわけがない。

 それが普通のはずなのに、なんかピンと来ない。

 あまりにも、出会った敵が強過ぎる。

「で、普通の海賊より強いわけやから、准将とか少将レベルですよ、あの割れ頭」

 要は、一億クラス相手に、楽勝と言える程度だ。まあ、七武海よりは下だなって。

「止めなさいよ!! クロコダイルより下が、なんの慰めになんのよ!? どうすんの!? 今、最終戦よ!?」

「いや、まあ、基準が曖昧やから、どうとも」

 ナミにガクガクされながら、言い訳する。

 本当にそうかは、戦ってみないと。懸賞金がそもそもいい加減だし。海軍の階級だって、強さばっかり評価しているわけじゃないから、ピンキリだし。

 脅威とか言うけど、それ都合が悪いって意味だからね。その、政府の都合がわからないけど。

 じゃあ、わからないよ、なんにも。

「役に立たないわね」

 ナミはイラついていた。

 一番、乗り気なやつが選手じゃないばかりか、危険も知らされずに参加させられたら、そうなる。

 ちなみに、今、船長は、キツネに化かされているところだから、見ないのが礼節であるかも知れない。

「情けねえ野郎だ」

「騙されてんじゃねえよ」

 散々、チョッパーに迷惑かけた後だからな、こいつら。船内で迷子になって落ちるか、女部屋に引き込まれて無力化されるか。

 ルフィよりダメで恥を晒すのが、目に見えている。

「まあ、負けんやろ」

「そんな心配はしてないのよ」

 嘘だ。ちょっと過ぎった。

 負けはしないが、ボロボロだ。ノロノロのせいで、ゴムの弾力を活かせていない。つまり、ノロノロにすれば、ロギアの流動変化にも対応出来るんではなかろうか。

「能力に頼り過ぎや」

「ねえ、私たちの情報、かなりバレてたわよね?」

「隠してへんし」

「ヤバくない?」

 懸賞金もかかっていない海賊を、名指しで襲って来たのだ。これまでは、存在さえ知られていなかったため、クロコダイルすら翻弄出来たが、そうも言ってられなくなる。

「構わんやろ。名を売りたいんやから」

 海が荒れ、国が荒れ、治安も経済も乱れた世界だ。海賊のニュースに飽きた人々の中には、英雄を待ち望む者たちもいるだろう。革命軍がそうだし。

 龍驤のプロデュースは完璧だ。

「情報源は、世経。なら、問題はない。ウチが意図的に流しとるもんや。キミに関しては、その、クロコダイルの嫌がらせのせいで漏れたけど、ウソップとチョッパーは大丈夫」

 ペコちゃんポーズ。

「ダメじゃない!!」

「ウチは悪くない。クロコダイルに言って」

「戻って、あんたが言って来い!!」

 こめかみをグリグリされた。痛い。

「ま、逃げ場をくれたんと思い。ウチらが負けたら、ロビンとクロコダイルんとこに行け。悪いようにはされん」

「負けねえよ」

「なに言ってんだ?」

「笑かしよる」

 まだ、少将クラスの力しかないくせに。

 まだ、中将がいて、大将がいて、四皇も七武海もいるのに。

 伝説は消えていないのに。

 それでも、世界は滅亡へ向かっているのに。

「国なんぞ滅ぼせて当たり前。キミら、アラバスタ百万を相手に出来るんか? あ?」

 正確には正規軍六十万、義勇軍四十万だが、なんだ、お前。中国か、ってな規模である。

「ガキどもが。舐め過ぎやねん、世の中を」

 たった一人の野望に振り回されたと言えば情けないが、相手はクロコダイルと、そこにいるワクワクお姉さんである。

「もしかして、ロビンって超危険人物か?」

「ふふふ、そうかも」

「世界政府公認ですけど」

 麦わらで、唯一かつ高額賞金首です。

 怯えるウソッチョと、不満げな両翼。龍驤は内心、ニヤニヤしながら、仏頂面を貫く。

「船長を二流に押し上げられもせんで、イキるんやないわ。もっと頑張り」

「お前はどうなんだよ?」

 龍驤はキョトンとしたあと、足を組み、信じられないほど艶っぽく言った。こいつ、美少女だった。

「ねじ伏せてみい。一人前の男になりたきゃな」

 龍驤がカラカラ笑う間にも、コンバットは進んでいる。能力を駆使してしがみついているが、勝負は目に見えている。

「俺の仲間は、死んでもやらん!!」

 いつの間にか静まり返っていた戦場に、船長の大音声が響いた。フォクシーが仁王立ちしていた。

「いや、いらねえよ」

 ルフィがボカンと吹き飛ばした。フォクシーは海へ沈んだ。

 感動する船員、絶望する船員、助けようとする船員。パニックで、観客席が倒れた。

 龍驤は、救出作業に追われた。

 

 

 旗を持って、トンジットさんを訪ねた。もう、謝罪も賠償金も、お見舞いさえ頂いたので、今さらな気はする。

 でも、シェリーのことだった。十年を、一人っきりで、当てもなく待っていてくれた馬だった。

 皆殺しにしたって飽き足らない。でも、力が足らなかった。

 落とし前には充分だ。旗にはそれほどの意味がある。今日、出会ったばかりの海賊がやってくれるには、有り余ることだった。

 トンジットさんは、腐ったチーズしかお出ししていないのに。

 これ、エースもきっとやるんだよ。怖くね。

 シェリーに会いに来るかと思ったが、龍驤は船番で残った。

 義理があるのは、ルフィたちだけだと言って。

 慎みがあるのか、ないのか。情が厚いのか、薄いのか。

 よくわからない娘だ。

「ケガをしている」

「こんなの、いつもだ」

 ゴムなのに。

「……ありがとうよ」

 二人は笑顔を交わした。一件落着である。

 まだ、村の人々と合流しなければならないが、まあ、それは龍驤がいればすぐだ。今頃、それも含めて、偵察しているのだろう。

 せめてもの礼に、トンジットさんが出来る限りもてなそうとしたところ、草原の向こうから龍驤が来た。

 肩をいからせて来た。大股で、憤懣遣る方無いという顔で。

 一味は疑問を浮かべた。

 そうそう、仕事を放り投げてくるような仲間ではない。

 だが、なんとなく話しかけ辛くて、その挙動を見守っていた。

 龍驤は、トンジットさんの家の入口まで来た。

「誰だ?」

 ロビンが腰を抜かした。一味は、ますます、わけがわからなくなった。

「え? 誰? 誰なの!?」

「一体、いつの間に!?」

 その誰かに、龍驤はドロップキックをかました。みぞおちに、高下駄を突き刺した。男はフラつきもしなかった。

「海軍大将、青キジ!!」

「なにさらしとんのじゃーッ!!」

 ナミの悲鳴は虚しかった。もう、やってしまった。

 男はアイマスクをしたまま、周りを見渡して、気怠げに顔を晒した。

「あらら、なんだ? なんか騒がしいな?」

「お前、なにで来た?」

 男は苦労した。本当に膝ぐらいまでしかない小娘を見つけて、頭をかいた。なんか、怒っているようだった。

 心当たりはまるでないが、正直に言った。腐っても海兵。やましいことはなにもない。

「チャリで来た」

「うがぁぁぁぁッ!!」

 龍驤は発狂した。大将が困惑した。麦わらも困惑した。

「と、とりあえず、中に入るかい?」

 トンジットさんが、年の功を発揮した。

 

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