「どうせえつーの? ねえ? どうせえつうんじゃ?」
龍驤はヤサグレている。
「海軍最高戦力がチャリ? チャリで来るんか? この広い大海原を、航跡もなにもない、チャリ一つで? チャああリぃぃ!?」
ずっと発狂している。
こんな不意打ちがあるだろうか。致命傷である。
「艦隊引き連れて来いよ!? 立場があるんならさあ!? んな、身一つで来られて、こっちはどないせえっつうんじゃ!?」
「まあ、そうかも?」
ルフィも暴れている。
「ロビンは渡さねえぞ!!」
「落ち着け!!」
「いや、まあ、なんだ。色々あってだな」
「色々ってなんだ!?」
「チャリで来るに相応しい理由なんやろなぁ!?」
「なんだ? チャリに相応しい理由って」
「だから、その、なんだ? ボチボチだ」
「諦めるな」
カオスだ。なんにも話が進まない。ロングリングロングランドのどの生き物よりひょろ長いので、ゲルにも入らない。
なんか、その場で寝た。
二人を止めてはいるが、殴りたい。
「話を聞いて下さい」
大将が下手に出た。物理的にも寝転がっている。態度はデカいが、そんな感じだ。麦わらのバカ二人は、大将をやり込めた。
勝利である。
聞いてあげた。
麦わらに懸賞金はない。今のところ。
だが、ロビンが加入した。海賊とは違う。むしろ、世界的犯罪者の方で、下手をすればレヴェリーの議題にさえなる人物だ。
ちょっと、海軍の管轄と違うような、そうでもないような。
「だから、まあ、今回は様子を見に来ただけだ。指令とかじゃない」
「んで、チャリか? チャリなんか、クソッたれがぁッ!!」
隔離した。頼むから、落ち着いて欲しい。
「なんだ!? 散歩か!? じゃあ、こんなとこ通るな!! どっか行け!!」
「めちゃくちゃじゃないすか」
大将がチャリで来る方が、めちゃくちゃですけどね。
海面を走るチャリとか、どうやって見つけたらいいのか。巨大な艦隊すら、見つけるのは難しいのだ。
海軍大将がチャリで散歩する海とか、怖すぎなんですが。
どうすんのよ、これ。
ということで、トンジットさんを送ってくれることになった。意味がわからないようで、通常業務だ。大将がやるべきかはともかく、遭難者の救助と考えれば、海軍の仕事ではある。
メリーの積載を考えると、助かることは確かだ。まあ、海兵だし、甘えることにした。
で、海が凍った。
「これに勝つのん?」
龍驤が大人しくなった。よいことだ。とても、よいことである。
常識はどこにもないが。
水平線の向こう、三つ先の島までってことは、最低でも直線で60kmぐらいかね。砲の射程は越えたかな。
この現象は熱を奪うとか、そういうんじゃない。悪魔の実の特性を考えたら、これは変化である。
ルフィがゴムになるように、冷えた状態に変化したのだ。基本的には、青キジの肉体が。凍ったのは副次効果で、それがこの規模で一瞬だ。
溶けるのではなく、変化が解除される。または、解除されないので溶けない、なんてことが起こる。
あのひょろ長、実際の大きさは、巨大宇宙戦艦ってことだろうか。ロギアって粘菌か。デカいことは、マジで強い。
具体的になにが起こっているのか、ちっともわからない。
「温かくして行きなさいや」
「ありがとう!! ありがとう!!」
荷造りなんかを手伝って、トンジットさんは旅立った。航海術はないと言っていたが、太陽さえあれば大丈夫だろう。
それが彼らの、歴史と文化なのだから。
一味は、その別れと光景すら楽しんだ。龍驤も頑張った。
青キジはダラケていた。その様子を見ていた。
そして、姿勢を正したのだ。
「俺は、ニコ・ロビンと、お前を見に来たんだ。モンキー・D・ルフィ」
「あ、じゃあ、ウチは船番に戻るわ」
「待てぃ」
止められた。青キジだけじゃない。みんなに。
なんでこの雰囲気で、普通に立ち去ろうとしてんだ、渉外担当。
「お前、誰なんだ?」
「しがない美少女や」
「細かく見ていけば、骨のある一味だ。その所業、成長速度。末恐ろしく思う。だが、それだけだ。お前だけがわからない。なんなんだ、お前?」
「美少女やと言っとるんや。まず、女の扱いから教えて欲しいんか?」
青キジは顔色も変えず、ただ頭をかいた。内心、困った。
まず、未成年の女の子であることを示唆します。ついでに、海賊っぽい賞金稼ぎの皮を被った、観光客でしかない現実を思い出させます。
そうすることで、ニコ・ロビンの加入についても、なんか適当に誤魔化します。
その上で、礼儀を指摘します。指令とかないのに、海兵が尋問とか、なんのつもりかと匂わせます。
そういうことを、いちいち指摘してやろうかと脅します。
ついでに、未成年でありながら、世慣れたところも見せます。実力を過大に申告します。
大将が困ります。
頭がいいと大変です。
龍驤はドヤ顔をする。ウザい。
「センゴクさんとの関係は?」
「孫プレイの相手」
どうしたもんだろう。なんで、否定出来ないんだろう。上司なのに。尊敬だって、信頼だってしているのに。
「なにやってんだ、お前」
仲間からもツッコみが入る。そりゃそうだろう。そうとしか言えない。
寒い。
悪魔の実とか関係なく。
「まあ、今は帰れ。次は、手土産でも持ってな」
龍驤は去って行った。マジで帰った。残された青キジと、一味は顔を見合わせた。
「なんだ、あれ?」
「転生者だ」
「空母」
「メカ」
謎を増やすな。青キジは苦悩した。
おかげで、少しロビンが落ち着いた。
殺せなかった。あの龍驤とか言うのにもやられたし、船長にもしてやられた。
常識なんて知らないふうだったのに、二人の言動で義理やらしがらみやらに、いつの間にか縛られていた。
自由を語るだけあって、不自由には詳しいのかも知れない。良くも悪くも、ガープの孫で間違いがない。
借りがあるのだ。
クロコダイルがなにをしようとしたか。証拠はないが、スモーカーの報告で、わかってはいる。
衝撃だ。ジンベエの裏切りなど、比較にもならない。ニュースになっただけで、公ではないし。
被害者が加盟国だ。レヴェリーの常連であるアラバスタ。とても、排除出来るような小国ではない。
世界を守るはずの七武海が、その立場を利用して、世界である加盟国へ被害をもたらした。
政治の問題になっただろう。公になる。実に厄介だ。
悪として裁けたら、一番よかったと思う。
ただし、海賊の被害は拡大した。治安を守るのは、強さではない。数だ。とにかく、目を配ることだ。
その目が足らない。世界は広い。
ないもの強請りだ。海軍は充分に巨大である。
クロコダイルという、よく目の届く男は貴重だった。楽園は平和になりかけていた。どうすべきか迷い、ついに大将が膝を突き合せた。
クロコダイルは潰す。そう決めた。赤犬が責任を取る形で、出撃した。
憂鬱だった。
アラバスタが堕ちるよりマシとはいえ、また時間が遡る。平和への道のりが遠くなる。
それが防がれた。
クロコダイルの野望を阻止し、七武海の責務へ縛りつけ、逆に政治問題にして、海軍の地位を向上させた。
新聞は盛り上がっているが、あんな噂など実現させない。白ひげ、四皇が楽園へ進出するなど、海軍が許すはずがない。
大海賊時代は、ナワバリ争いなのだ。ワンピースなどおまけに過ぎない。
そして、海軍は一時的にせよ、クロコダイルという脅威と手を組んだ。後背の憂いを払拭した。
そうだ。クロコダイルは白ひげと協力などしない。海軍は新世界へ攻め込む。魚人島を制圧して。
準備は進んでいる。元帥が計画し、大将が整えて、実行する。海軍が、すべてを賭けて行う。
今、世界は白ひげがどう動くかに注目している。だが、それは裏切られる。常識は覆る。
海軍が動く。青キジは、ワクワクしている。時代は変わる。あの、小さな海賊たちに、なにが出来るのか。
「おっとっと、ごめんよ」
波間にイルカ。その向こうから、魚雷。
青キジは水柱に飲まれた。
「チィっ。仕留められんか」
「おい!! 手伝えよ!!」
「いらん。チョッパーに任せよ」
麦わらは上へ下への大騒ぎだ。船長とロビンが凍らされた。
意味がわからない。サンジが、遠くを見つめる龍驤の肩を掴む。
「なにをやってんだ!? 状況がわからねえのか!?」
「わかっとったことが、一度でもあったいうんか?」
ありません。観測手失格でごめんなさい。
しょうがないじゃない。分析なんて、ほとんどが経験だ。常識が通じないだけならともかく、統計上の例外みたいなのとしか遭遇しないんだもの。
例外はわからない。だって、例外だから。
「悪魔の実の変化は基本、可逆的なもの。物理現象が冷凍でなく、変化である以上、凍るというダメージは副次的や。なら、大したことにはならん。チョッパーに任せよ」
冷やしてやる手術もある。むしろ、ダメージは少ないはずだ。医療としてコントロール出来れば、だが。
チョッパーに任せるしかない。
「なんでわかるんだよ」
「いや、キミの方がわかるで? 魚って、締めてから凍らすやん。でも、ルフィもロビンも締めてへんわけやから」
「新鮮だってか? いや、劣化する余地こそが、生きてる証か!! 解凍の仕方も?」
「それは、チョッパーに聞け」
プロが二人いたら、大丈夫だろう。サンジはやることがはっきりしたせいか、目に力を取り戻して、船内へ走った。
龍驤は見送った。心配などバカらしい。
悪いが、相手は大将だ。しかも、あれほどの規模の技を、軽くやれる人間だ。殺しなら、よっぽど慣れている。軍事行動の名の元に、虐殺レベルのことを繰り返している。
ならば、加減を間違えたりはしない。プロなんだから。
たぶん。
龍驤はよく間違える。
わかっているとは思うのだが、はっきりと口にしたのは、ルフィにだけだから、どうなのだろう。
嫌なことでも我慢して、弱い者から全力で狙う龍驤が、戦略兵器として全力を出したら、この世界で対抗出来る勢力など、存在しないのだ。
個人は別だけどね。逆なんだ、普通は。なんなんだ、この異世界。
本気でケンカを売ってくるとは思えない。それがやりにくい状況を、頑張って作った。知らせるために、海軍上層部と、コネまで作った。ならば、ルフィもロビンも生きている。一味が全力でやれば、なんとかなる。
そうだと思うが、異世界だから。
通じているようで通じていない、なんてこともありそうだ。
魚雷は警告である。ワンチャン、死んで欲しい。あんな化け物。
ゾロが下を向いている。あぐらをかいて、黙っている。
「見たか?」
「うるせぇ」
「海が凍った。能力者の、弱点と呼ばれる海がや。せやけど、気づいたか? 空気は凍らんかった」
あの規模で海水が瞬時に凍るなら、空気だって凍らないとおかしい。固体や液体にならなければ。
ならなかったとしても、近くにいた人間の肺や眼球などが、大ダメージを受けていたはずだ。
だが、ならなかった。温度を下げたのではないからだ。
「なにが言いてえんだ?」
「能力は、空気を伝播せん。少なくとも、媒介が必要や。砂や煙。フォクシーの、ノロノロビームみたいに」
空気には、なにかが混ざっている。だから、常人がビームを撃てるのに、能力者はそういう能力でなければ撃てない。
能力が波形であるように、衝撃だって波形だ。鍛えてビームが撃てるなら、能力だって同じはずだ。
出来ないのなら、それには理由がある。
知らんけど。
「つまり?」
「斬れる。ウチとは違う。間合いには入れるはずや」
龍驤の間合いは、水平線の向こう。しかも、正体は艦船だ。そもそも、この世界の戦力では戦えない。だから、龍驤は戦わない。戦わないから、絶対に負けることがない。そして、勝つ必要もない。
龍驤が諦めるか、死ぬまで、ずっと嫌がらせを続けられる。海上封鎖と空襲で、火炙りに出来る。
それは強さではなく、便利さだ。チートである。
しかし、能力は違う。悪魔の実は、ズルなどではない。あくまでも、一つの才能。または、個性だ。後天的な。
言い訳にしたいなら、したらいい。あいつは天才だと。
「ナミが届けるし、ウソップが援護する。ウチも手伝う。やから、それで勝てんと言うなら、キミのせいやぞ?」
「本音は?」
「無理ですやん、あんなん」
そういうことだ。結局、嫌がらせしか出来ません。勝てません。負けないだけです。逃げ続けます。だから、ゾロにだって勝てる。
それも、空を飛ばれたら崩壊する。
で、走ってくるんだ。異世界人ってやつは。
どんだけだよ。一応、一国を滅ぼす戦略兵器だぞ。
挙げ句、一番のアドバンテージである船の部分を、あんなふうに無効化されたらどうしようもない。
「お願いします。なんとかして下さい」
「おう」
ゾロが顔を上げた。斬れるのなら斬る。剣士ならば当たり前だ。出来ない人間が、剣士を名乗ってはならない。
今、出来ないことなど、なんの問題もない。悪魔の実がそうであるように、生きている間に、身につければいい。
生まれた瞬間に強者ならば、目指す必要などないのだから。
「任せろ。俺たちの邪魔をするんなら、なんだって斬ってやるよ」
「本当に頼んだで?」
「うるせぇな。大船に乗った気でいろ」
「ウチかて、前世じゃ大船やもん!!」
「嘘つけ」
龍驤。
見ていると不安になると言われた船。