第一村人がちょっと強い
覇気は普通のトレーニングじゃ強くならない。
空島を経て、龍驤は気づいた。
なんたって、レベルアップとかするチート転生者だから。
覇気、ちっとも強くならない。というか、よくわからない。
使えばいい、というものでもない。なんというか、戦いが楽になるからだ。負荷にならない。
どうも、覇気とは技術ではないらしい。覇気を扱う技術はあるのだが、覇気そのものは身体能力の類であるようだ。
そもそも、生まれつき使えたりする時点で、技術なわけがない。
筋肉のようなものと思えばいい。覇気とは信じる力。心意気だ。
具体的には魂。
詰んだ。
龍驤はオカルト由来なので、余計に。
本当に、ぶん投げたかった。なんとか我慢した。
魂がなんなのかなんぞ、一生理解する気はないが、要は精神であろう。
精神修行でお手軽なのは、競争だ。ライバルの存在である。
よって、ちょっとギスギスしてみたが、身が持たない。あんな、毎日殺し合いをするような環境は、ちっとも楽しくない。
なんかこう、やり方が健全にならない。どこぞのネット環境みたいになる。ゾロやサンジはもちろん、フォクシーにも試してみたが、あんまり効果もなかった。
むしろ、意地と誇りをかけた、最後の殴り合いの方がよかった気がする。特にフォクシーは、仲間が奴隷に落とされるかもと、頑張っていた。
一番高額賞金首だから、指名するならフォクシーだけど、部下たちのために必死だった。仲間じゃなくて、なんか敵が強くなった。
どうしよう。ライバルわかんない。始祖で軽空母で、南方のぼっちだから。
あれを状況じゃなくて、環境にするのか。
龍驤は恐ろしい。
常に誇りをかけて、仲間と争う一味が。なんJか。
エースがあんまり鍛えられていなかったので、仲良しこよしじゃダメだなって、問題意識があった。楽しいけど。
クロコダイルやスモーカーを見ても、能力はともかく、覇気はそうでもない印象だ。みんな、平和の中にいた。
青キジを見たあとで思い返せば、そんな気がする。
少なくとも、ドリーさん、ブロギーさんと比べれば。
超殺伐。楽しそうだったけど。
比べていいんだろうか。ルフィと出会った人たちなんだ。基準にしちゃって、いいんだろうか。
普通の海賊は、フルボディにフルボッコされるんだ。
不安は尽きないが、現状はそうする他ない。
異世界転生って、異なる常識の違いを知っていくことが醍醐味の一つだよね。
いつまでも、常識がわかんないんだが。
真似出来ないわ。あの二人の生き方なんぞ。
現状、強くなる手段がない。ヤバい。伝説世代みたいに、ガープに追われてみたらわかるのだろうか。
むしろ、覇気なんか知らない方がよかったのかも知れない。
この世界の強者たちは、恐るべき怪獣ではあるが、人間なのだ。銃や大砲で、死んだり死ななかったりする。
覇気や能力があっても、結局ダメなのだ。
無敵ではない。
弱者は弱者なりに、強者へ抗う手段がある。そういう、当たり前の常識がきちんとある。
となると、超能力みたいなものの存在は、驕りに繋がりかねない。実際、ルフィは能力に頼って、それが通用しないだけで苦戦する。
ゾロやサンジでさえ、ルールを課せられただけで、調子を崩す。
弱くはなかったが、フォクシーなんて、龍驤がちょっと本気を出すだけでビビるような海賊だったじゃないか。
エネルは能力と才能頼みのサイコパスだったが、中将に届くぐらいの実力はあった。それでも一味全員で、コケにすることができた。
覇気を知っていても、ちっとも優位にならない。ならば、考え方が間違っているのだろう。
というわけで、ガープの出番だ。
あのじいさんは、ルフィに覇気を教えなかった。つまり、知らん方がいいというのは、正しい結論だ。
大丈夫だろうか。あんなん、手本にして。あのじいさん、大将候補なんだ。
青キジみたいなのが、三つしかない席に座ってても、ずぅっと待望論がなくならない。
大将職を増やせって話じゃないんだ。ガープを大将にしろって言われているんだ。
あれがいてなお、ガープの方が相応しいって、そう思われてんだ。ただの人間が、霜の巨人と同等以上に。
神話超えんなや。
不安を解消しようとすると、不安が湧き上がってくる。早く、バグを修正して欲しい。現実逃避ぐらいさせろ。
そう言えば、最近、システム側に就任したんだった。
前世には深海棲艦がいたから、妖精さんは戦争というゲームに参加した。しかし、この世界に龍驤以外を持ち込まないと、約束した。
となれば、この世界の戦争はどうか。ワンピース探しの、開拓競争ではない。普通の、単なるナワバリ争いだ。
ルフィの目的と、全然違う戦いが始まっちゃう。絶対に参加してはならない。
妖精さんがするべき仕事。つまり遊びやゲームは、龍驤と同じにする。
フォクシーで実験はすんだ。あとはこれをブラッシュアップする。
「それなんだ?」
「書類」
「嘘つけ。光ってるぞ」
「魔法の書類やからな。これ一個で、航海日誌一万冊分はある」
ルフィは逃げ出した。ウソップとチョッパーにチクッている。恐れ慄いている。
これで欲しがることはないだろう。近づかれもしないはずだ。なんたって、妖精さんだからね。
龍驤の世界から、ソシャゲすらダウンロードしかねない。
暇は本当に、航海の敵なのだ。
とにかく、覇気が筋肉と同じなら、鍛え方はなんとなくわかった。なんか、ガープが軍艦をボコボコにしているらしいので、そういうことだろう。
健全な精神は健全な肉体に宿る。つまり、理不尽な覇気は、理不尽な肉体に備わる。
覇気を使わずにボコせるか、ボケ。軍艦代表として、反撃すんぞ。あの世の物理法則を率いて。
エースとスモーカーは、なんかこう、体表に流すみたいなことを言っていたが、違うんだ。それは技術であって、強さではない。
もっとこう、本質的にパンチの威力を上げるのだ。なんかして。
わからん。
バカじゃないの。
そう言えば、似たようなことする艦娘いたわ。長門とか、木曾とか、天龍とか。
生まれながらに大砲とともにあって、なんであいつら近接戦闘を挑むんだろう。しかもそれで姫に勝つな、クソボケが。
単独でやってくれたらまだ諦めもつくのに、ちゃんと艦隊の援護を受けてやるんだよ。
砲煙弾雨の中を、殴り合い。頭痛い。
そんなだから、レ級とか繰り出して来るんだ、深海棲艦も。
もう、脳内が悪態でいっぱいである。
「訓練でもするか」
「修行か。それもいいな」
船長は歓迎しているが、楽しい航海が、泣いたり笑ったり出来なくなっちゃう。
「まあ、メリー壊れるから、新しい船を手に入れてからな」
一応、演習の設定もいじったのだが、どう考えても、なんか宿ってるっぽいメリーで試す気にはなれない。
ナミはバカンス気分で、三馬鹿は釣り。ゾロは寝ていて、サンジはパイユを振る舞っている。龍驤はシステムをいじり、ロビンは休んでいた。
いよいよ、誰も操船せずに進み始めている。妖精さんすらも。
余計に暇。
どうしたもんだろう。
「右手をご覧下さい。カエルがクロールしています」
「なに言ってんだ、お前?」
「ウチが知りたい」
見てみた。してた。ちょっと、間があった。
「しとるー!!」
「追え!! 追うんだ!! あれ、丸焼きにする!!」
「食うのかよ!?」
突然の進路変更。ナミが焦る。
「ちょっと!? なに勝手なことしてんのよ!?」
最初から、勝手に動いてますが。
「ナミ!! 早くしろ!! ゲコ舵いっぱい!!」
「前方二時の、傷だらけ!!」
「意味わからんわ!!」
言いつつ、双眼鏡を取り出す。カエルよりも、気になるものが見えた。
「灯台がある!!」
「よし。船首に行くで」
「いや、俺はカエルを食いてぇんだ!!」
「やめとけ。たぶん、誰かのペットや」
開発、採用以来、クロールを越える泳法は生まれていない。自由の名を冠することを許された、ただ一つの技術である。
カエルが知るわけない。編み出すなど、もってのほか。
「海賊するか?」
「うーん。やめとく!!」
なんでみんな、海賊してくれないの。
フォクシーのことがあったからかも知れない。なんかビビの方が、海賊している。
クルーを引き連れて、船首に並ぶ。カエルが海面に立ち塞がる。
「水面になにかあんのか?」
そのまま追っていたら、座礁していたかも知れない。ナミが気づいていない。みんな、ヒヤッとした。龍驤は平気な顔だ。
だって、灯台があんだもん。波の具合で、隠れた岩礁を読むな。まずは、見ろ。標識を。常識を疑い、人の親切を信じるんだ。
君ら、非常識なんだから。
「左奥。水平線からや」
カエルとは反対だ。後ろ髪を引かれながら、一味は言われるまま、そちらを向いた。カエルより面白いものがあるとは思えなかった。
それは来た。ルフィの顔が強張り、目を見開いていく。ナミが悲鳴のような疑問を投げた。
「あれは、まさか船なの!?」
「なんだ? 蒸気を噴いてんのか!?」
「怪物だぁー!!」
よかった。汽車は知らないんだね。龍驤も知らない。あんな船よりでっかい、巨大列車。
それは凄まじいスピードで、視界へ飛び込んだ。
「あッ、カエル!?」
思わず、といったところか。ルフィが助けに行こうとした。龍驤が襟首を掴んだ。
「よー見い。男の顔や」
カエルだけど。
歯を食いしばったカエルは、相撲取りのような仕切りの体勢から、その怪物に正面から挑んだ。
歯があるカエルはいます。
「ゲロォ!!」
で、あっさり吹っ飛んだ。カエルは波間に沈んだ。怪物はなにもなかったかのように、水平線へ消えていった。
「な、なんだったんだ?」
なんにもわからないが、感動したルフィがカエルを食わない宣言をした。よくわからないが、反対する理由がないので、放っておいた。
なんか理由がありそうだが、チムニーは知らないようだった。
さらっと、灯台にお邪魔した。ココロさんは酔っ払っていた。
物事がなにも解決しない。
「海賊かい? 列車強盗じゃないだろうね」
「微妙」
「俺は海賊王になる男だ」
麦わらの一味も、なんだかわからないんだった。なんにもブレてないルフィが、異様にすら映る。
頭痛い。
「どこからツッコんだらええ?」
「我慢しろ」
「受け入れろ」
「黙ってろ」
「あら? 私は聞きたいわ」
楽しそうにしやがって、このワクワクお姉さん。
「あとにしろ。あとに」
これ以上、なにも畳みかけるな。ゾロの宣言に、みんな賛成した。龍驤はブツブツ言っている。
「想像以上なんやけど。想像以上なんやけども? なんやアレ? オーバーテクノロジーにも、程があるやろが」
龍驤がヤサグレたので、やっとコミュニケーションが円滑になる。
渉外担当。
灯台のあるこの駅。
駅とは名ばかりで、どちらかというと、列車の分岐点であるらしい。ここからでも、四つか五つの目的地へ行けるようだ。
そのうち。
酔っ払って出来るのかとも思うが、寝てた偉人もいる。きっと、チムニーがしっかりしているのだろう。そうだろう。
重要なわりに辺鄙な仕事場だ。危険でもある。そこに酔っ払いばあさんと、子供。なんか、政治の臭いがする。背景がある気がする。
まあ、悪い人ではなさそうだし、長くても数日の縁だ。大丈夫だろう。
大丈夫じゃないかも。
一味は絶対に騒ぎを起こすし、龍驤にも予定がある。だが、迷う暇もない。
早速、親切にコネを使ってくれた。
麦わらの一味は海賊船に乗った、非常に若い観光客である。船なんてものをどうこうするのに、信用の上乗せは必須ですらある。
ありがたいけど。本当にありがたいけども。
「アイスバーグ?」
「おや? 知ってんのかい?」
ヤダもう。この人、引退してるだけで、実は重要人物なんじゃないの。
「いや、まあ、まさかガレーラと話が出来るとは。一応、ドクロを掲げとるわけやし」
「んな、気にしないのら。海賊だろうがなんだろうがね」
表情が変わらないのに、その瞬間だけ凄味が出た。一味がちょっと気圧される。
「裏の方の方にも知り合いが?」
「あんた、政府のまわし者かい?」
「ドクロ掲げて?」
なんか見つめ合う。変な緊張感が漂う。
「まさか、いねえよ。だが、船を新しくすんなら、そうらね。フランキー一家なんかがいいんじゃないかい? 解体屋でね」
「えー!? おばあちゃん、チンピラだよ!?」
なにもなかったように話を続けた。一味は、大人の会話に参加出来ない。
「んがが。そうだね。まあ、裏町では有名だからね」
「なるほど。ありがとうな。島で会ったら、酒でも奢ろう」
「ああ、付き合ってくれら」
ちゃっかり、席に呼ばれた。うん、まあ、縁は大事にしよう。
麦わらの一味は、ココロばあさんの紹介状を手に入れた。
ウォーターセブンに向かった。ナミがキレた。
「わかるかァ!!」
玉ねぎに、矢印してあった。龍驤は戦慄した。
「思うより、とんでもないやけど」
線路に沿って進むと、ちょうど一番ドックに印がある。
なんというか、ウォーターセブンの地理的特性とか考えると、これがベストなのかも。
「どうする? 直接、着けるか?」
「どうしてそうなるのよ?」
「これ、そういう意味やろ?」
なんだ、この紹介状。すげーぞ。
だが、船長たちは嫌がった。
「街とか見てみたいしな」
「まずは食いもん!! 食いもんだ!!」
「さっき、オヤツ食ったろうが」
「肉!!」
「本屋ァ!!」
チョッパーが必死だ。誰かの航海日誌のせいで、一味は活字恐怖症気味。
「ほな、それぞれ別行動やな。お小遣い配っとくか」
「待ってました!!」
久しぶりの、文明国家。ボーナスが出たルフィ、ウソップ、チョッパーは、踊り狂った。
次は、水の都ウォーターセブン。